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「藤十郎の恋」 [映画]

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〔1955年/日本〕


元禄十一年。
京都の舞台俳優・坂田藤十郎(長谷川一夫)は、
江戸から公演に来た中村七三郎の舞台を密かに観て、
その洗練された芸にショックを受ける。


藤十郎は京都で絶大な人気を誇っていたが、
客は七三郎の方に流れてしまい、
舞台は不入りになってしまう。


焦った藤十郎は、狂言作家・近松門左衛門(小沢栄)を呼び、
新しい物語を書くように依頼、
近松は、それを仕上げてきた。


その内容とは、
不義密通した男女の、
恋愛から処刑までを描いた物語で、
素晴らしい出来栄えであったが、
それをどう演技するか、藤十郎は苦悩し、
稽古を投げ出し、外に出る。


彼は、日頃から利用している料亭に赴き、
女将のお梶(京マチ子)の酌で酒を飲んでいるうちに、
ある事を思い付く・・・。





映画と舞台、どちらが好きかと言われたら、
もう絶対、映画派の私ではあるけれども、
もしも映画の無い時代に生まれていたら、
ミーハーで現実逃避気味な自分の事だから、
この、歌舞伎俳優・坂田藤十郎のような人に
熱を上げていたんだろうなぁというのは
想像に難くない(笑)。


人気商売というのは大変だ。
人の気持ちは移ろい易く、
新しいスターが生まれれば、
昨日までのスターはお払い箱。
藤十郎の焦りも分からなくはない。


長谷川一夫さんの演技が素晴らしかった。
特に、演技に苦悩し、
京マチ子さん相手に酒を飲みながら、
閃いたある「作戦」。
その瞬間、本当に瞳が“キラン”と輝いたように見えたほど、
表情だけで、彼が何か企みを思い付いた事が読み取れる。


その先に彼がした事は、
O・ヘンリーの小説、「ハーグレイブスの一人二役」の主人公と
少し似ている。


ただ、結末は全く違う。
O・ヘンリーがアメリカっぽくドライに話を解決したのと正反対に、
こちらは日本的で、とってもウェット。
どちらがいいとも言えないし、
私はどちらも好き。


近松門左衛門が、
普通のおじさんみたいに
出てきたのが可笑しかった。
凄い才能を持った狂言作家だけど、
藤十郎との会話は、一般人と何ら変わりない。
この人は後世まで残る人だよ、と教えたくなったくらい(笑)。


この映画は、1938年に、
長谷川一夫さんが同じタイトルの同じ役で作られた映画の
リメイクなのだそうだ。
確かに2回作りたくなるくらい、
めっちゃ面白い映画だった。
今度はぜひそちらを観てみたい。


評価 ★★★★☆

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「紙の月」 [映画]

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〔2014年/日本〕


専業主婦から銀行へ働き始めた宮沢りえは、
パートから契約社員に昇格し、
気分が少しだけ盛り上がる。


営業担当の彼女は、顧客・石橋蓮司宅で、
石橋の孫で大学生の池松壮亮と出会い、
その後、偶然、再会した2回目の駅で、
そのままラブホテルに行き、一線を越える。


池松との情事に溺れる宮沢は、
池松にサラ金からの借金150万円がある事を知り、
石橋から預かった定期預金の金を、
書類や証書を操作し、池松に渡してしまう。


歯止めがきかなくなった彼女は、
顧客から預かった金を着服し、
池松との豪遊や、プレゼントに使いまくる。
ついには池松に部屋まで借りてやり、
その総額は、宮沢自身も分からないほどに膨らんでゆく・・・。





角田光代さんの原作を読んだ時、
こんな事が本当に可能なのかどうか、
銀行に勤務している友人に聞いてみた。


彼女曰く、
自分の働いている銀行は、
チェック機能が厳しいから、
ちょっと考えづらいけど、
他の銀行の事はどうなんだろう、との事。


時代設定は1994年。
今から20年前、
銀行は既にオンライン化していたと思うけど、
宮沢りえの横領のやり方は、
実にアナログで、
それが逆に、彼女の罪の発見を遅らせたようにも思える。


彼女は、顧客から預かった金を着服し、
代わりに、偽の証書を作成し、それを渡すのだけれど、
その方法ってのが、
証書の原紙のコピーから、
金額の印字まで、
全て自宅での手作業(笑)。


印章の偽造なんて、
トレースした後、
プリントゴッコみたいな機械で、ポン、って(笑)。
原作では、証書に金額を印字する際、
枠の中にうまく納めるようにするのに、
四苦八苦する様子が描かれていたけれど、
映画では、そこまでのシーンがなくて残念。
それに比べたら、
年賀状の印刷で郵便番号がズレるなんて、
可愛いものだわ(笑)。



なぜ宮沢さんが、池松君と不倫する気になったのかが、
私にはよく分からなかった。
2人が一線を越えるまでに、
会話らしい会話は殆どしていなくて、
それがいきなり、
宮沢さんの方から誘ったような形で描かれる、
その根拠がちょっと希薄。


やっぱり、夫との生活に不満があったのかな。
夫は悪い人間ではないけれど、
どこか無神経で、物事を深く考えないタイプ。
数日前、宮沢さんがペアの腕時計をプレゼントしたってのに、
海外出張のお土産にと、
もっと高価な腕時計を買ってきたりとか。


それじゃまるで、
「お前のセンスが悪いから、買い直してやった」みたいな風に
取られても仕方ない。
現に宮沢さんは、「なぜ腕時計・・・」と、
ポツンとつぶやく。


銀行のお局・小林聡美さんがいい。
彼女は仕事にとっても厳しくて、
上司からも、後輩からも煙たがられているという役を、
安定の演技で見せてくれる。


唯一の不安材料だった大島優子も、
思っていたほど悪くはなかった。
銀行に勤めてて、さらに不倫までしている今時の女の子の役を
それなりにこなしているように見えた。


出だしは、グレーのスーツを着て、
地味だった宮沢りえが、
着服した金と比例して、
どんどん綺麗になってゆくのが見もの。


まぁ、空しいのは、
こんな話だから仕方がない。
彼女のしている事は、
砂上の楼閣ではしゃいでいるようなものだもの。


評価 ★★★☆☆

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「みだれ髪」 [映画]

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〔1961年/日本〕


酔って喧嘩をした板前の勝新太郎は、
自分が投げた一升瓶が、
通りすがりの美しい女・山本富士子に当たってしまい、
大怪我をさせてしまう。


山本を病院に担ぎ込んだ勝は、
彼女に仄かな愛情を感じるようになるが、
山本は、病院の医師・川崎敬三と恋仲になってしまう。


山本は川崎との結婚を夢見て、
ドイツ語を習い始める。
しかし彼には、華族の令嬢・南左斗子 との縁談があり、
南もドイツ語を習いに、同じ塾に来ていた。


その塾で、山本の身に小さな事件があり、
それを知った勝は、
独断で怒鳴り込みに行ってしまう。
塾側は、それを山本が差し向けたものだと誤解し、
彼女は出入り禁止になってしまう・・・。





不思議なバランスで成り立つ三角関係。


山本富士子は川崎敬三と
深く愛し合っているけれど、
話の流れからして、
結ばれるとは思えない。


そして、山本さんに惚れ抜いている勝新太郎。
彼は山本さんから一歩下がって、
彼女を見守る役目。
別に頼まれたわけではないけれど、
一人勝手に、用心棒をしているようだ。


勝さんの献身っぷりは、
私が最近ハマりまくっている、
「春琴抄」の佐助にも通じる所がある。
もちろん、山本さんは、お琴ほどサディスティックではないし、
勝さんとの間に、男女の関係は決してないのだけど。


それにしても、
自分が良かれと思ってした事が、
人の運命を大きく狂わせてしまう事があると思うと怖ろしい。


勝さんは、山本さんを思うあまり、
ドイツ語塾に怒鳴り込みに行ったわけだけれど、
やはりそれは、短絡的で軽率な行動だったと
言わざるを得ない。


感情に任せて怒鳴った本人は、
それで気が済んだとしても、
怒鳴られた相手だって、馬鹿じゃない。
必ず仕返しを考えるだろうし、
この映画では、山本さんの破門がそれに当たろう。
少し冷静になれば、
そうなる事は分かると思うのだけれど。


ラストは、微妙に成り立っていた3人の関係が、
崩れた瞬間を表しているのだと思う。
ここでも勝さんは、短絡的かつ衝動的。
人の性格は、なかなか変えられるものではないのね。


評価 ★★★☆☆

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「わらの犬」 [映画]

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〔1971年/アメリカ〕


アメリカ人の数学者・ダスティン・ホフマンは、
妻・スーザン・ジョージと2人、イギリスの片田舎に居を構える。


屋根の修理の為、
村の男たち数人を雇い、
作業をさせるが、
その中の1人・デル・ヘナーは、スーザンと恋人同士だった過去がある。


ある日、ホフマンは、
ヘナーたちに誘われ、
鳥撃ちに出掛けるが、
その間、ヘナーと、もう一人の男が、
ホフマンの家へ行き、
スーザンは凌辱されてしまう。


数日後、ホフマンは、
あるトラブルからヘナーたちが探す男・ピーター・アーンを匿う。
ホフマンの家へ押し掛けたヘナーたちは、
アーンを差し出せと迫るが、
そうなれば、アーンが殺されるのは必至。
家に、石を投げられ、火を付けられ、
酷い状況の中、
ホフマンが反撃を開始する・・・。





ダスティン・ホフマン演じる主人公が、
争い事を好まない、大人しい男のように描かれているけれど、
私は、彼こそが男の中の男だと思ったなぁ(笑)。


まず彼は、一つの事に没頭すると、
他の事ができない。
研究になると、妻が話しかけるのも嫌がり、
自分の世界に入ってしまう。
そんな夫を妻が物足りなく思っても、
妻の気持ちを慮るだけの余裕もなさそう。


それから、細かい事に気付かない。
妻が凌辱され、顔を腫らしているのに、
妻に接する態度は普段のまま。
よく、女は男の浮気にすぐ気付くけど、
男は女の浮気に中々気付かないって話を聞くけれど、
典型的なそのパターン。


彼は、男が多かれ少なかれ持っている特性を
見事に兼ね備えた、
本当に男の中の男(笑)。


彼の無粋な一面を表す演出も面白い。
彼は、ベッドで妻といざ事に及ぼうって時に、
目覚まし時計をセットしたりする。
妻は明らかにガックリしているし、
観ているこちらにしても、
「それ、今しなくちゃいけない事?」、と、
言いたくなるけど、
こういう人は、一生このままな気がする。


この妻も、問題大ありで。
彼女は、危機意識がないようで、
屋根の修理をする粗野な男たちの前でも、
素肌にそのままセーターを着て歩いたり、
窓越しに、上半身裸になったりする。


女を襲うのは、最低最悪の犯罪だけれど、
世の中いい人ばかりでない事も、
常に考えていないと。


大人しい主人公の怒りが臨界点に達してキレるとこうなる、ってのが、
見所なんだろうけど、
その理由が、私には気に入らない。


軽い予備知識から、
私は、彼がキレるのは、
妻が汚されたせいだと思っていたのよ。


うーん、まさか、
今までほぼ接点もなかった、赤の他人を匿ったせいだとは
思わなんだ(笑)。


しかも、ラストまで彼は、
妻が凌辱された事は知らずじまい。
彼は、妻の為に、
一度だって必死になる事はなく、
映画は終わる。


こんなバイオレンス映画を観ても、
夫と妻の関係にしか目がいかない私は、
視野が狭い女(笑)。


評価 ★★★☆☆

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「ヘアスプレー」 [映画]

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〔1988年/アメリカ〕


太めの女子高生・トレイシー(リッキー・レイク)は、
若者に大人気のロックンロールダンス番組、
「カレンズショー」が大好き。
親友のペニーとテレビの前で踊り狂う毎日。


番組のオーディションを受けたトレイシーは、
夢が叶い、レギュラーの座をゲットする。


太ってはいても、
そんな事は意にも介さないチャーミングな彼女は、
たちまち人気者になり、
素敵なボーイフレンドも出来て、
人生バラ色。


ところが、「カレンズショー」に、
黒人は出演させないという、
暗黙の差別規約がある事を知ったトレイシーは、
抗議行動に出る事になる・・・。





カルト映画の巨匠・ジョン・ウォーターズ監督の
初めてのメジャー映画なのだそうだ。


一見、ポップで可愛いけれど、
太目の女の子や、黒人など、
社会から異端の目で見られがちな人々に光を当てる、
監督の思いが伝わってくるような映画。


本作は、2007年にリメイクされていて、
それは当時、劇場で観た。
カラフルな映像と、
太目だけれどキュートな主人公に釘付けになったものだけれど、
それはオリジナルがあってこそだと思うと感慨深い。


2007年度版を観た時、
ジョン・トラヴォルタが母親役をしている事に、
めちゃくちゃ驚いたものだ。
女優さんは星の数ほどいるのに、
なぜにトラヴォルタ?って。


でも、オリジナルを観て分かった。
母親役は、男性でなくちゃ駄目なんだ。


本作で母親を演じているのは、
ウォーターズ監督作品の常連で、
100キロを超える巨体のドラァグ・クイーンとして有名なディヴァイン。


私がブログを始めて、
5作目に書いた映画「ピンク・フラミンゴ」の主人公でもあって、
勝手に親近感を持っている俳優さんでもある。
そんなディヴァインが、
「女装」ではなく、
本物の女という設定で、
娘の悩みを聞いたり、
一緒にお買い物をしたりするのが、
微笑ましく可愛い。
これもウォーターズ監督の、
マイノリティ側の人に光を当てる目的の一つなのかなと、
考えたりもして。


これを日本でリメイクするなら、
母親役は絶対、マツコ・デラックス氏にしてほしい(笑)。
トレイシーは渡辺直美さんあたり?
ただ、日本には、
黒人さんのように、
見た目で分かり易い人種や国籍の差別がないから、
そこをどうするかが問題だけど。
(って、勝手に話を進めてるけど(笑))。


評価 ★★★☆☆

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