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◆死の枝◆ [本]


死の枝

死の枝

  • 作者: 松本清張
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/05/17
  • メディア: Kindle版


松本清張さんの短編集。


11作品の短編推理小説が収められていて、
全ての作品で、
殺人事件が起こる。


直接、手を下したわけでなくても、
明らかに殺意を持って、
相手が死ぬように仕向けるものもある。


松本清張さんは、
推理小説の大家だけど、
恋愛小説の名手でもある、という
どなたかの書評を読んだことがある。


確かに、
本作でも、
8割の話が、
恋愛絡み。
男と女の痴情のもつれが、
事件に発展するものが多い。





11作、どの小説も、
とても面白いけれど、
その中でも、私は、
「史疑(しぎ)」という作品がとても面白いと思った。


福井県の田舎町に、
「江戸時代の学者・新井白石の著書、”史疑”を所有している」
と話す、
偏屈な老人がいる。


老人の変わり者っぷりは、
それは大変なもので、
先祖から受け継いだ、
おびただしい数の古書を、
自宅に積んではいるが、
それを、
どんなに高名な学者が閲覧を申し込んでも、
決して公開せず、
宝の持ち腐れのようになっている。


特に、「史疑」は、
学者たちが喉から手が出るほど欲しい、
幻の名著で、
その日も、東京から来た、
野心に燃えるある学者が、
「史疑」を見せてほしいと頼むも、
簡単に断られ、
学者は、夜になるのを待って、
老人の家に忍び込み・・・という内容。


で、まぁ、殺人事件はともかくとして、
行き過ぎた偏屈は、
学問の損失にも繋がるのだと、
悔しい思いがした。


というのも、この老人の死後、
彼の息子は、
その蔵書の価値も分からず、
全て焼いてしまったというのだ。


もう、
何をかいわんや。
架空の話とはいえ、
勿体なくて、
地団駄踏みたいような気持ちになった。

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「猛烈社員 スリゴマ忍法」 [映画]

mouretsushain.jpg
〔1969年/日本〕


出口大平(牧伸二)は、
要領が悪く、
定年までに係長にでもなれればいいと思っている
欲のないサラリーマン。


ある日、大平は、
野心家の係長・影山(立川談志)から、
女好きの、
有田部長(藤村有弘)と、
佐野課長(由利徹)に
同じ女性をあてがって衝突させ、
2人とも失脚させようとの悪巧みを持ち掛けられる。


早速、引き受けてくれる女性を探したところ、
バーで会計のバイトをする、
美大生・北見恵子(生田悦子)が
立候補してくる。


ところが、その計画を嗅ぎ付けた、
山口課長(財津一郎)と、
田辺課長補佐(牟田悌三)が、
俺たちも混ぜろと言い出し、
恵子は日替わりで、
男たちの相手をする事に・・・。





まず、観始めた時、
「牧伸二さんって、誰だっけ?」と思い、
Wikipediaで調べてみたら、
そうだ、ウクレレ漫談をされていた方だ、
と思い出した。


なんだか混乱する、と思ったら、
ポール牧さんと混同しているんだ。
「牧」という名前や、亡くなり方で、
自分の中で、こんがらがっていたらしい。


それにしても、
この映画の牧さんは、
俳優業に徹している。
映画の中で、
牧さんは、
ウクレレの「ウ」の字も言わないし、
楽器に触れる事もない。


しかも、この映画、
牧さんの出演する、
「サラリーマン」シリーズの5作目になるという。
想像だけど、ウクレレ漫談だけでなく、
俳優業に進出しようとしていたのかもしれない。


物語も、
えげつないとはいえ、
つまらなくもない。


出世欲の強い立川談志さんの部下の牧さんが、
談志さんに言われるがままに、
上役の妾を探し、あてがうのだけれど、
牧さんは、
上役より、妾候補の生田悦子さんの心配をする。


それは、観ているこちらも同じ。
生田さんは真面目な女子大生で、
本来、そんな事をする女の子ではない。
何もかも、
入院している妹の医療費と、
自分の学費のためなのだ。


でも、生田さんは、
上役たちを適当にあしらって、
関係はしていないと言う。
あぁ、良かった、と思う場面。


で、ラストは、
想像通り、
牧さんの一人勝ち。
無欲な人間の勝利(笑)。


評価 ★★★☆☆

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「いのちの停車場」 [映画]

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〔2021年/日本〕


都内のトンネルで大規模な爆発事故が起こり、
多数の怪我人が、救急救命センターに運ばれてくる。
医師の白石咲和子(吉永小百合)は、
必死に治療に当たるが、
そこへ、別の交通事故に遭った少女が搬送されてくる。
痛がる少女を見るに見かねた、
医師免許を持たない職員・野呂聖二(松坂桃李)は、
少女に治療のための点滴を打ってしまう・・・。


野呂の行為が問題視され、
咲和子は、その責任を取って、
病院を辞め、
故郷・金沢の「まほろば診療所」の在宅医師として、
再出発する。


「まほろば診療所」は、
院長の仙川徹(西田敏行)、
看護師の星野麻世(広瀬すず)、
そして、咲和子の3人態勢で、
主に、咲和子と麻世が、自宅療養している患者の家を、
一軒一軒訪問するのが主な仕事だ。


そこへ、
東京から、咲和子を追いかけてきた、
野呂が加わる。
4人は、様々な患者と接しながら、
命の重さと向き合ってゆく・・・。





試写会で観た。


吉永小百合さん演じる医師・咲和子が、
救急病院勤務から一転、
在宅医師として、
いのちと向き合う物語。


どこかのサイトに書いてあったけれど、
救命医が、「命を救う」仕事であるとするなら、
在宅医は、「命を送る」のが仕事。


というのも、
咲和子が診ている患者さんは全員が、
余命いくばくもない、
自宅で、
死を待つばかりの方たち。


咲和子の仕事は、
治療ではなく、
患者の一人一人の、
体と、そして心に寄り添い、
安らかな最期を迎えてもらえる事なのだ。


それは想像以上に辛い事だ。
患者さんが完治し、
笑顔で退院するという事がなく、
必ず最後は、死で終わるのが決定事項だから。


しかも、咲和子は、
年老いた父(田中泯)と暮らしている。
父は、コントロール不能の体の痛みに苦しみ、
自分を殺してほしいと叫び、
咲和子は悩む・・・。


吉永小百合さんと田中泯さんは、
同じ1945年生まれで、誕生日も3日違い。
そんな二人が親子を演じたわけだけれど、
違和感はなかった。
20歳も下の俳優と、
夫婦や、恋人役をするよりは、
ずっといい。


それから、あ!と思ったのが、
伊勢谷友介氏の出演。
彼が大麻で逮捕されたとき、
たしか、吉永小百合さんの映画に出演していて、
彼の出演場面をカットするか、否かと
ニュースになっていた事を思い出した。


勿体ないな。
高学歴、高身長、高収入、
イケメンで、運動神経抜群、
東京藝大に現役合格するほどの芸術の才能があり、
語学も堪能、
素敵な家に住み、
女にモテモテ。


あぁ、こんなパーフェクトな人生、
一体、何の不満があって、
大麻などに走ったのか。
いやいや、人には人それぞれの悩みがあり、
凡人の私などには分からない苦しみがあったんだろうけど・・・。


この映画の役も、
伊勢谷さんらしいキャラクターだった。


評価 ★★★☆☆

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「アメリカン・ユートピア」 [映画]

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〔2020年/アメリカ〕


試写会で観た。


ロックバンド・トーキングヘッズの、
ボーカルでギタリストのデヴィッド・バーンによる
ライブを、
スパイク・リーが監督した映画。


めちゃくちゃ洗練されたステージパフォーマンスに、
圧倒される。
無駄がまるでない。


デヴィッドも、
バンドのメンバーも、
シンプルなスーツの衣装を身に着け、
靴さえ履いていない。


全ての楽器は、
奏者が手で持てるタイプのもので、
デヴィッドも言っていたけれど、
床にはコードの1本もなく、
ポップで、
無機的で、
洗練されている。


ドキュメンタリー映画には違いないんだろうけど、
一般的に、
頭に思い浮かべるドキュメンタリーではない。


カメラに向かって、
誰かが解説することもなく、
ステージだけを見せる。
それだけ、
パフォーマンに自信があるのだろう。
実際、素晴らしい。


新コロな今、
ライブにも中々行けず、
ストレス溜まっている方も多いと思うけれど、
この映画を観たら、
かなりスッキリできるのではないでしょうか。
それだけのパワーが、
この映画にはあります。


トーキング・ヘッズや、
デヴィッド・バーンを知らない方でも、
十分楽しめると思います。


評価 ★★★★☆

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◆ゴッドファーザー 〈上〉〈下〉◆ [本]


ゴッドファーザー〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ゴッドファーザー〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2005/11/01
  • メディア: 文庫



ゴッドファーザー〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

ゴッドファーザー〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2005/11/01
  • メディア: 文庫


先日、
映画「ゴッドファーザー」を、
シリーズ1~3まで、
一気に観たと書いたけれど、

https://aomikamica.blog.ss-blog.jp/2021-03-08
https://aomikamica.blog.ss-blog.jp/2021-03-09
https://aomikamica.blog.ss-blog.jp/2021-03-10

その内容の、あまりの素晴らしさに、
原作を読んでみた。


面白かった。
理解の難しい場面は、
何度も戻って、
分かるまで読んだ。


原作と映画、どちらがいい、という事ではなく、
映画には映画の良さが、
そして、原作は、
映画では描き切れなかった場面や、
心理描写などが深く掘り下げられている。


マーロン・ブランド演じる、
マフィアのドン、
ヴィトー・コルレオーネは、
映画で観る以上に、
人間的な魅力に溢れている。


ドンは、
確かに、時に、
人を殺すことを躊躇しない人間だけれど、
常に人から信頼され、
ドンなりの正義を持って生きている。


売春と麻薬を嫌い、
そこに、ビジネスの道を見出そうとしない姿勢も、
ドンらしく、
そのストイックさがカッコいい。


売春をビジネスにしなかったという事からも
分かるけれど、
ドンは妻をとても大事にしている。
ニューヨークの5大ファミリーの頂点に立ったからと、
古女房を捨てて、
トロフィーワイフに走るような男とは、
はなから人間性が違うのだ。


この、ドンの妻、
ママ・コルレオーネ(と、みんなから呼ばれている。可愛い♪)は、
ドンがまだ、普通の青年だったころに結婚した、
マフィアのドンの妻然としていない女性で、
三男マイケルの恋人・ケイと久し振りに再会したシーンなど、
気のいいイタリアのおばちゃんといった風情で、
心温まる。


そういえば、マイケルが、
一時、身を隠していた、
シチリア島での出来事が、
私には、ちょっとショックだったけれど、
それも、本を読んで納得。


映画だと、あの出来事は、
なんだか唐突に感じるけれど、
原作では、もう少し時間をかけて描かれているし、
マイケルのケイへの思いも、理解できる。


私が、ドンの描写で、
とっても好きで、可愛い♪と思ったのが、
「ドンは、温室で栽培される、
 季節外れの大きな黄色い桃やオレンジが大好きだった。」
という部分。


泣く子も黙るマフィアのドンが、
フルーツが大好きで、
しかも、それを、
家族や舎弟に買いに行かせるのでなく、
自ら果物店に寄る事を習慣としていたという、
そのミスマッチな感じが、何とも愛おしい。
店の主人は、ドンがお得意様な事を
さぞ誇りに思っていた事だろう。


といっても、
その習慣が仇となり、
ドンは店の前で襲撃されるわけだけど・・・。


こんな本なのだから、
もっとマフィア同士の抗争などの場面に注目すればいいのに、
つい、
家族や日常の、チマチマした場面に関心が行ってしまう、
私は小さい人間だ(笑)。


今度は、この原作を念頭に、
また映画を観直すつもり。

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