◆細雪◆ [本]
今更、私なんかが言うまでもない事だが、
谷崎潤一郎先生は、本当に凄いと痛感した、
「細雪」。
上中下巻の、
長い物語だけど、
飽きることなく、一気に読んだ。
登場人物たちが、
まるで実在するかのように、
リアルに描かれている、
大傑作だと思う。
大阪・船場の旧家の四姉妹、
鶴子
幸子
雪子
妙子。
物語は主に、幸子の主観で描かれるのだけれど、
話しの流れで、
その時その時の主人公が変わっていく。
その描き方が、本当に自然で、
気が付くと、登場人物の誰かが
クローズアップされる。
こんな転調の仕方をする小説、読んだ事がないってくらいだ。
その場の状況説明が、
くどくどしいのも、いい(笑)。
そのおかげで、
登場人物たちの心情が、
とても良く分かる。
一見、矛盾しているかのように見える行動も、
説明が丁寧なので、理解しやすい。
「細雪」は、今まで3度映画化されていて、
3本とも観ているけれど、
今、作るとしたら、
女優は誰がいいだろう、と考える。
どちらかというと地味で、
和風な顔つきだという雪子役は、黒木華さん、
自由奔放で、男出入りの絶えない、
妙子役は、長澤まさみさん、
というのはどうだろう。
ただ、幸子役は、
私の中では、京マチ子さんしか考えられないんだよなぁ。
鶴子役は、小暮実千代さんとか?
・・・って、それじゃ、
女優さんたちの世代が違いすぎてて、映画化できないじゃん(笑)。
私は、この物語の映画化は、
何も殊更に美しく描く必要はないと思う。
文芸大作だからと気負う事なく、
俗っぽくていい。
時々書いているけれど、
「戦争映画だからと、しゃっちょこばる必要はない」
というのと同じ。
だって、ラストの2行には脱力よ。
この長い物語が、
どんな風に終わるのかなぁ、と楽しみにしていたら、
『下痢はとうとうこの日も止まらず、
汽車に乗ってからもまだ続いていた』
だと(笑)。
え!?こんな終わり!?
と思ったけど、
これこそが、
気乗りのしない結婚をするために
大阪から東京に向かう雪子の心情を描いた、
谷崎先生の最大限の表現方法なんだろうと、
納得したりもして。
〓
「花いちもんめ。」 [映画]
〔1985年/日本〕
元大学教授で、現在は、松江の歴史資料館で働く、
鷹野冬吉(千秋実)は、
ある日、大切な縄文土器を床に落とし、
粉々に割ってしまう。
それが全ての始まりだった。
資料館で、「勇退」を勧められた冬吉は、
それが体のいい「クビ」だと悟り、
ショックを受ける。
ある日、孫と出掛けた彼は、
洞窟の中で、動けなくなってしまう。
長男・治雄(西郷輝彦)の妻・桂子(十朱幸代)の付き添いで、
診察を受けた冬吉は、
アルツハイマーだと診断される。
冬吉の面倒は、妻の菊代(加藤治子)が看るつもりでいたが、
菊代は心臓病で入院してしまい、
冬吉は治雄の家に引き取る事になる。
その日から、
桂子の壮絶な介護が始まる・・・。
私が図書館内でしている、
映画上映ボランティアにかけた作品。
老人介護という内容のせいか、
満席。
上映後も、お客様数名から、
「良かった」
「考えさせられる」などのご意見をいただく。
私は、この映画について、
何か言える立場ではない。
同じ経験をしていない者が何を言っても
机上の空論なだけで、
何ら説得力がない。
ただ、一つだけ。
痴呆の進んだ千秋実が、
妻や、息子や娘がいる場で、
息子の嫁の十朱幸代とキスをしたと言い出す。
皆が仰天していると、
十朱幸代が、
「本当に、ちょっと軽くなんですぅ」と言う。
実際、それはとても軽く、
いやらしい場面ではなかったけれど、
でも、
そんな事を馬鹿正直に話す必要があるのだろうか。
そのせいで、
姑・加藤治子はショックを受けて、再び倒れ、その後死ぬ。
夫・西郷輝彦は、それ以上の事があったのではないかと疑う。
ボランティアのお友達とも、
その部分について話し合ったけど、
「していない」で押し通す、という意見でまとまる。
人は咄嗟の時に、
機転を利かせる能力も必要だなと
考えさせられた場面。
評価 ★★★☆☆
「ゴーストランドの惨劇」 [映画]
〔2018年/カナダ〕
シングルマザーのポリーンは、
双子の娘・ヴェラとベスを連れて、
相続した叔母の家に住む事になった。
ところが、
新居に着いた彼女たちは、
荷物の片づけも終わらないうちに、
巨漢の男と、その母親らしき女に襲われる。
ポリーンは、
娘たちを守るため、
2人をメッタ刺しにして殺した。
16年後。
ベスは、都会に出て、ホラー作家として大成功したが、
ヴェラは、事件がきっかけで精神を病み、
地下室から出る事もままならない生活を送っていた・・・。
試写会で観た。
90分の映画だけど、
それが限界。
激しく落ち込む。
もし、もっと長かったら、
途中に席を立ちたいくらいの衝撃。
精神に来るし、
そのせいで、胃まで痛くなってきた。
早く終わってほしいと、
本気で思った。
映画が人に与える影響って、
時に、凄いものがある。
やっぱり、
本当に怖いのは、
悪魔でも、幽霊でも、ゾンビでもなく、
人間。
この映画のような事件は、
実際に起こり得るし、
似たような事件を
ニュースで見る事もある。
だから、余計に胸に来る。
オカルト的怖さではない。
内臓も出てこない。
でも、
気持ちが弱っている人にはおすすめしない。
トラウマになる事、必至。
私の映画の評価は、
自分の心にどれだけ「ズシン」と来るものがあったかが、
一つの目安だけど、
これだけ心身に影響を与えてくれたのだから、
この点数。
評価 ★★★★☆
7月23日のシャンシャン。 [できごと]
7月23日。
1ヶ月ぶりにシャンシャンに会いに行ってきました。
この日、一緒に行ったのは妹。
私は、初めてシャンシャンに会うという妹に、
ぜひ、うちの子(じゃないけど(笑))の可愛さを見てもらいたくて、
寝ていなければいいな、と思っていたのですが、
良かった。
起きていました。
起きて、いつものように、
可愛いお顔で竹を食べていました。
それにしても、
よくもこんなにお腹の上に、
食い散らかして、
美味しそうにお食事するものです。
人間も、
みんながこんな風に、幸せそうな表情で、
お食事できたらいいのに。
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「北の果ての小さな村で」 [映画]
〔2017年/フランス〕
デンマークで暮らす28歳の教師・アンダースは、
グリーンランドの東部の村、チニツキラークの小学校に
赴任する。
軽い気持ちで、かの地に行ったアンダースだが、
考えが甘かったことに、
すぐ気付かされる。
酷寒の慣れない生活、
よそ者を受け入れない人々、
言う事を聞かない生徒・・・。
アンダースは、この土地にすぐ嫌気が差す。
そんな中、
生徒の一人・アサーが、
一週間も学校を欠席し・・・。
試写会で観た。
フィクションとノンフィクションが混ざったような、
ドキュメンタリーにも近い映画。
教育ってなんだろうと、
考えずにはいられない。
教師として赴任したアンダースが、
学校に来ない生徒・アサーの家を訪ねると、
祖母が言う。
「アサーは、祖父に付いて、
一週間、猟に出ている。
人生で必要な事は、全て祖父から教わる。
それは学校に行くより重要な事だ」と。
確かに、グリーンランドの猟師になるには、
読み書きや計算より、
犬ぞりの走らせ方、
アザラシの捕らえ方や捌き方のを学ぶ方が
ずっと大事だ。
それが生きる事に直結する。
それから、
グリーンランドの人々が、
事あるごとに、
「これだからデンマーク人は」とか、
「ここはデンマークじゃない」などと言うのも、
なんだか他人事とは思えずに観ていた。
隣り合ったり、近かったりする国同士って、
なぜか揉めやすい。
そして、そこに、
昔、植民地にしてたとか、されたとか、
そんな理由が加えられると、
さらに拗れる。
日本も、某隣国と、
今、最悪の状況にあるらしいけど、
きっと、地球規模で見たら、
「よくある事」の一つなだけなんだろうなぁ、と。
映画も楽しみだったけど、
上映後のトークショーがめっちゃ楽しみだった。
ゲストに、エッセイストの能町みね子さんが登壇されたのです。
能町さんの本は何冊か読んでいます。
特に、「お家賃ですけど」は最近読んだばかりで、
なんだかタイムリーな感じで嬉しい。
生で見る能町さんは、
テレビやお写真で見る印象より、
さらにお綺麗で、
思わず「うわぁ、素敵」と
ひとりごと言っちゃいました。
能町さんは、
「逃北〜つかれたときは北へ逃げます」という本を書かれているくらい、
何かあると、北の方に逃げたくなるという方で、
その理由について、
南に住まわれているかたは、
どこかで、
南を誇りに思っているようなところがあるのだけれど、
北に行くと、
「なんでこんな所に来たの?」と、住んでいる当人たちが言うくらい、
どこか卑下したところがある。
そこがいい、と。
そっかぁ、
そんな風に考えた事はなかったけど、
言われてみると、確かにそんな気もする。
で、そんな能町さんは、
雪深いグリーンランドが大好きで、
長期間旅した事があるそうだ。
お話しを聞いているうちに、私も、
「北、いいかも・・・」と思ったりして、
まったく、すぐ影響される女(笑)。
評価 ★★★☆☆