◆私生子◆ [本]
先日、映画「94歳のゲイ」について書いたのですが、
↓
https://aomikamica.blog.ss-blog.jp/2024-07-22
主人公の長谷忠さんが、
長谷康雄というペンネームで、
2000年に出版された本が、
この「私生子」です。
図書館にあったので
読んでみました。
本の紹介文は、
【あたしはほんとは女に生まれた方がよかった。
こどもの頃のあたしがどんなだったか。文章にしにくいけれど…。
戦争・私生児・性同一性障害。70年を詩的に生きた「あたし」の真実。】
主人公の一人称が「あたし」で、
「あたし」の名前は忠。
つまり、架空の話ではなく、
長谷さんご自身の人生について書かれた
私小説のように思います。
「あたし」は四国のある村で、
タイトル通り、
正式な夫婦でない両親の間に生まれた。
父は村の有力な医者で、
地主でもあり、
しかし、本妻がいたので、
「あたし」とは一緒に暮らしていなかった。
そんな生い立ちから、
19歳までの「あたし」の人生が、
描かれる。
「あたし」が、自身の性別について、
ひどく思い悩むという場面はないけれど、
その行間から、
思いが伝わってくるし、
初恋だった、学校の先生への気持ちも描かれる。
一箇所、サラッと書かれているけれど、
興味深い場面があった。
村の子供たちがみんなで、
飼い葉切りで遊んでいた所、
一人の男の子が、
一人の女の子の小指を切り落としてしまう。
今なら大騒ぎになりそうな事件だけど、
男の子と女の子の親が話し合い、
2人を許嫁にする事で話がついたという。
90年ほど前の話だろうけど、
これだけのエピソードで、
当時の結婚観が伝わってくる。
その時、「あたし」は、
もし、その男の子が自分だったらと、
思ったそうだ。
女の子を好きになれない自分だったら、
さぞ困惑しただろうと。
昔は、当人の意思など関係なく、
親が連れてきた相手と、
否も応もなく結婚したという話をよく聞くけれど、
同性愛に限らず、
様々な理由で辛かったかたも多かっただろうなぁ、と
想像する。
そういう時代に比べたら、
多少でも自由に生きられる今の方が、
まだマシと言えるのだろうか。
◆雨滴は続く◆ [本]
これは・・・
大どんでん返し・・・。
それも、小説本体ではなく、
「特別寄稿」での。
軽くショックを受けて、
電車の中で読んでいたのに、
涙出た。
2022年に急死した、
西村賢太の遺作で、未完。
本作の、
文藝春秋社のキャッチコピーは、
【芥川賞受賞”前夜”の知られざる姿を描いた最後の長編】。
相変わらずの西村賢太節が
延々と続くこの本は、
賢太自身だと思われる、
主人公・北町貫多の、
芥川賞受賞前の、
しょーもない日常が描かれる。
同人誌に、細々と小説を発表していた、
北町貫多は、
自身の作品が商業誌に載せられる事が決まるという、
喜びに加えて、
タダで性交できる女がほしいと渇望する彼は、
おゆうという源氏名のデリヘル嬢と懇意になり、
プライベートで会うようになる。
ところが、おゆうもその気になりかけた頃、
ある新聞社の新入社員・葛山久子に一目惚れした貫多は、
おゆうの事など、
もうどーでもよくなり、
彼女からのメールや電話を無視。
しかし、当然の事ながら、
久子から相手にされるはずもなく、
それが分かると、
またおゆうに連絡をする。
2人の女の間を、
その時の自己都合で行ったり来たりするという、
その浅ましい心理が、
実に巧みに描かれていて、
時折、声を上げて笑ってしまう。
そんなこんなの話が、
546ページに渡って描かれる。
そして、
なんと、
この小説のヒロインともいえる、葛山久子が、
巻末に、
「特別寄稿」している。
その内容が、冒頭に書いた、大どんでん返しというわけで。
「特別寄稿」を読み始めてすぐ、
え・・・嘘でしょ・・・、と思い、
読み終えて、
自分の読み違えかと、もう一度読んだ。
素晴らしい「特別寄稿」。
私が今まで思い描いてきた、
西村賢太像は、
完全に覆された。
この「特別寄稿」を以て、
この未完の長編は、
完成したと思う。
賢太の小説、
もっともっと読みたかったよ。
作品は、ほぼ全部読んでいるから、
https://aomikamica.blog.ss-blog.jp/2011-12-27
https://aomikamica.blog.ss-blog.jp/2012-04-02
https://aomikamica.blog.ss-blog.jp/2012-04-09
https://aomikamica.blog.ss-blog.jp/2012-04-26
https://aomikamica.blog.ss-blog.jp/2012-05-08
https://aomikamica.blog.ss-blog.jp/2013-10-02
勝手に、
他人とは思っていないの、私。
◆光GENJIへ―元フォーリーブス北公次の禁断の半生記◆ [本]
まだ私がとても若かった頃、
ある本屋さんに、なんとなく立ち寄ったところ、
北公次さん著作の、
「光GENJIへ―元フォーリーブス北公次の禁断の半生記」
というタイトルの書籍が、
平積みになっていました。
光GENJIといえば、
当時、飛ぶ鳥を落とす勢いのアイドルグループで、
私自身は、特にファンという事もなかったのですが、
それでも、そんなタイトルを見れば、
ミーハーの端くれとしては、気になります。
何か光GENJIについて書かれた本なのだろうか、
と、何気ない気持ちで手に取り、
立ち読みし始めました。
すると、その内容は、
私が想像していたものとは全く違っていました。
その頃の私は、
まだジャニーズ事務所の秘密を全く知らない、
真っ新な状態でしたので、
その衝撃といったら、
後頭部をバットで殴られたようでした。
その後、私は、
周囲の友人たちに、
「光GENJIへ」に書かれていた事を話しました。
しかし、多くの友人たちは、
「ミーハーの青山が、また何か言ってるよ」くらいの反応で、
本気で取り合ってはくれません。
いえ、別に、その事を怒っているわけではないのです。
そういった類いの話は、
よくある芸能ゴシップ、
週刊誌にあるような、
捏造記事と同等だと思われたのも仕方がない事です。
しかし、私はその本の内容について、
北公次さんが、
嘘を書いている、とか、
話しを盛っている、という風にはとても思えない、
何かを感じていました。
ただ、北公次さんの身に起ったような事は、
まさか、今はないだろう、
ジャニー喜多川だって、
もういい年だし、
それは過去の話と、
自分に言い聞かせました。
そう信じたかったんだと思います。
「光GENJIへ」の出版から35年。
闇に葬られたようなこの本が、
まさかこんなに話題になる日が来るとは、
想像もしていませんでした。
今、ジャニーズ事務所は、
ジャニー喜多川の性加害を公式に認め、
被害者の補償に当たろうとしています。
ジャニー喜多川が、
死ぬ直前まで性加害をしていた事も、
明らかになりました。
今回、こんな事を書いたからと、
私に、何か主張があるわけではなく、
ただ、あの時の衝撃と、
人に話しても信じてもらえないもどかしい気持ちを
残しておこうと思い、
書いてみました。
1つだけ思うのは、
被害に遭ったのが、
例えば、私の弟だったとして、
その弟が、
その事を誰にも言えずに、
家で、一人になった時、
声を殺して泣いている、なんて姿を想像すると、
胸が潰れる思いがする、という事です。
男性から男性への性加害というとピンとこなくても、
例えば、それをいじめやパワハラに置き換え、
被害者が、弟や、息子や、孫だと考えると、
その辛い気持ちが、
分かり易い気がするのですが。
◆ゆりあ先生の赤い糸◆ [本]
先日、
「第27回 手塚治虫文化賞」授賞式を
観覧させていただきましたが、
↓
https://aomikamica.blog.ss-blog.jp/2023-06-09
大賞を受賞されたのが、
この、
入江喜和さんの、
「ゆりあ先生の赤い糸」(全11巻)です。
前回も書いたのですが、
この漫画は、
全巻持っているくらい大好きで、
何度も読んでいます。
主人公の伊沢ゆりあさんは、
大柄で、殆どお化粧もしない、
どちらかといえば、男っぽい印象の女性。
それでも手先がとても器用で、
現在は、自宅で刺繍の先生をしている。
ある日、彼女の夫が、
くも膜下出血で意識不明となってしまうのだが、
それがきっかけとなり、
夫の不倫が発覚。
その相手というのが、
えー--!? という人で、
ゆりあさんも、そして読者も、目を白黒(笑)。
さらに、2人目の愛人?らしき人まで現れて、
またまたショック。
短期間の間に、
ゆりあさんの人生は、大きく変わってゆく。
こんな風に書くと、
ゆりあさんの夫は、
とんでもなくチャラけた男のイメージだけど、
そうではなく、
飄々として、
細かい事に捉われない、
とってもいい人で、怒る気にもなれず(笑)。
すごいのは、
ゆりあさんが、
全てを引き受け、
気が付くと、
彼女の周囲には人がいっぱいになっている事。
すごく頑張ってるんだけど、
でも、がむしゃらというわけではなく、
自然で、
パワフルで、
そんなゆりあさんは、
私にとって、憧れであり、
理想の女性。
架空の人物とはいえ、
とても呼び捨てになんかできないくらい、素敵。
ゆりあさん自身にも、
色々な出来事が勃発し、
その事で、喜んだり悩んだり。
強そうに見えても、
一人になると泣いちゃったり、
弱い部分もちゃんと持ってて、
意外と色っぽい面もあるし(笑)。
時にシリアス、時にコメディ。
そんな内容が面白くて、
電車の中で読んでいて、
吹き出しそうになって、
下を向いて堪えた事もありました(笑)。
ラストは涙です。
人の心は、
善悪だけでは決められない。
白と黒にきっちり分けられるわけでもない。
こんな人生があってもいいと思う、
気持ちのいい、終わりです。
◆死 宮崎学写真集◆ [本]
生きとし生けるもの、
全てに、死は必ずやってくる。
この本は、
森の中で死んだ3頭の動物たち、
ニホンカモシカ
ニホンジカ
タヌキ
が、死んだあと、
土に還るまで、
どのような経過を辿るのかを
時間を追って撮影した写真集です。
初めてこの本を見たのは、
20年ほど前。
そして、今でも時々、見ています。
怖くも、気持ち悪くもありません。
むしろ、崇高で美しささえ感じます。
子供さんに見せても、
勉強になると思います。
動物が一頭死ぬと、
すぐに蠅が卵を産み付け、
そして、様々な動物が、
その死骸を食べにやってきます。
特に、タヌキの食欲と好奇心が可愛く、
数日をかけて、
ご馳走を堪能した体は、
明らかに毛並みが良くなっているのが分かります。
「これで元気に冬越しができるだろう」と
書かれています。
テンやネズミ、カラスも死骸を食べ、
モモンガや小鳥は、
巣作りのため、
体毛を持ち帰ります。
1~2カ月後には、
そこに死骸があった事など嘘のように、
また静けさがやってくるのです。
「宴のあと」
という言葉が、
見る度に、
頭に浮かびます。