◆猿の見る夢◆ [本]
主人公は、メガバンクから、
女性向けファッション業界に出向している、
薄井正明、59歳。
妻、一人。
息子、二人。
愛人、一人。
ある日、薄井が家に帰ると、
リビングでジャージを着て、寛いでいる見知らぬ”おばさん”がいて、
仰天する。
妻曰く、
「彼女は、長峰栄子先生といい、
彼女に悩みを相談すると、たちどころに解決する」と言う。
あんな”おばさん”に一週間も居座られるなんて、
冗談じゃない。
とっとと帰ってもらうよう、
明日きつく言わなくては・・・。
久し振りに読んだ桐野夏生さんだけど、
やっぱり凄いな。
主人公に対する、
突き放した視線。
まるで小馬鹿にでもしているような。
自分の書く小説の主人公を、
あんな風に描けるなんて、
さすが、クールビューティの桐野さん。
それとも、それも、桐野さんの愛情表現か。
世間の基準から言ったら、
それなりの立場の男なんだろうけど、
その中身は、まったく頼りない(笑)。
彼には自分というものがなく、
何かあると、
そっちに流れ、こっちに流れ、
定まった軸がない。
そんな彼が、
妻の連れてきた”おばさん”に
翻弄される。
”おばさん”を冷たく拒絶したかと思えば、
自分に不都合が起こると、
頼ったり、
一貫性もなく。
そんな「おばさん」が、
薄井に、
遺産相続の件で、重大な予見をする。
この辺りの場面が、
私は一番好き。
薄井は、”おばさん”の言う通りに動き、
法律的に言ったら、
犯罪に当たるであろう、
ある行為をする。
面白くて、馬鹿馬鹿しい、
滑稽な男の2~3か月の間に起きた騒動。
一気に読んだ。