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「帰郷」 [映画]

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〔1964年/日本〕


守屋恭吾(森雅之)は、
外交官であったが、
今はキューバで革命の協力をしている。
彼はキューバ在住の高野左衛子(渡辺美佐子)と
一夜を共にするが、
彼女の裏切りにあい、銃撃される。


守屋の妻・節子(高峰三枝子)は、
娘・伴子(吉永小百合)を連れ、
大学教授の隠岐達三(芦田伸介)と再婚する。


隠岐のおかげで生活の苦労はないが、
小心で、世間体が何より大事な隠岐に、
節子と伴子は、多少窮屈な感情を抱いているのも事実。


そんな中、
守屋が死んでおらず、
日本に帰ってきたとの連絡が入る。
伴子は実の父に会いたい気持ちを抑えきれず、
隠岐と節子に内緒で、
奈良に滞在するという父に会いに行く・・・。





外国で死んだとされていた外交官の父が
生きて日本に帰って来た、と聞くと、
松本清張の小説、「球形の荒野」を思い出すけれど、
あちらが、娘とは決して会わなかったのに対して、
こちらは、娘の方から父を訪ねるという内容。


若い頃の吉永小百合さんの映画というと、
ちょっとコメディがかった青春物が多い気がしていたけれど、
これはシリアスで面白いし、
父と娘の、束の間の逢瀬の場面が
大変に心に沁みる。
良い映画だった。
ご本人が選んだ作品ベスト20にも入っているようだ。


森雅之さん演じる父は、
予期していなかった娘・伴子の出現に、
大変に慌て、動揺する。
伴子の突飛な行動に、少し怒った素振りさえ見せる。


しかし、そこは父。
美しく成長した娘に感動し、
娘をそんな風に育ててくれた、
元妻への感謝の気持ちを口にする。
名優・森雅之さんの魅力に見入ってしまう。


ただ、そうなると、
どうしても比べてしまうのが、
伴子の継父である隠岐なんだな。
こう言ってはなんだけど、
隠岐って男が、また、ちっせえ奴で(笑)。
節子は、どう見ても、
生活の為に彼との生活にしがみついている感じで、
今でも本当に愛しているのは守屋だと、
伴子に泣きながら話したりする。
まぁ、そりゃそうだろうよ(笑)。


ラスト、伴子は大変な決断を迫られるのだけれど、
やっぱり、あれしかなかったのだろうと、
そんな気持ち。
詳しくは書かないけれども。


それから、個人的にめっちゃウケた場面があった。


隠岐がキッチンテーブルで新聞を読み始めるシーンで、
なんと、その紙面に載っていたのが、
若尾文子さんの映画、「卍」と、
田宮二郎さんの映画、「黒の切り札」の宣伝広告。
それも、紙面の下半分を占めるくらい、デカデカと(笑)。


それって、日活の映画で、
ライバルの大映の宣伝をしてあげてるようなものじゃない?(笑)
撮影していて、誰も気付かなかったんだろうか。
大映を、そして若尾文子さんをこよなく愛する私は嬉しくて、
観終わってから、
巻き戻して、そこだけもう一度観ちゃった。


今、確認してみたら、
上記の2作の公開日が、
どちらも、1964年7月25日。
そして、この「帰郷」が8月14日。
昔は映画が、信じられないペースで量産されていたと聞くけれど、
この日にちを見ただけでも、
それが事実だったというのが分かったと、
変な所で感心してしまった(笑)。


評価 ★★★★☆





今年も今日で終わりとは、
本当に時間が経つのは早く、
一年があっと言う間でした。


私がこんな風に、
のんきに映画を観たり、
ブログを更新できたりするのも、
私を支えて下さる、
全ての皆さまのおかげだと、
心から感謝しております。


今年は、
1月に、ブログで仲良しになった女性と、
初めて一緒に映画に行ったり、
10月に、ぼんぼちぼちぼちさんが開催してくださったオフ会に
生れて初めて参加させていただいたり、と、
今までお付き合いした事のなかったジャンルの皆さまとお話した事で、
目の前にパーッと別世界が開いたような感動を覚えた年でもありました。
本当に皆さま、ありがとうございます。


「我以外、皆、師なり」
常にこの言葉を心に置き、
来年も穏やかに過ごせればと思っております。
皆さま、良いお年をお迎えください。

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「HIT&RUN」 [映画]

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〔2012年/アメリカ〕


アメリカの田舎町で暮らすダックス・シェパードは、
実は証人保護プログラムによって、
守られている男。


ところが、恋人・クリステン・ベルが、
仕事で昇進し、ロスへの転勤が決まる。
証人保護の下では、町を出る事はできず、
しかし、ベルと別れ別れになってしまうのは絶対イヤだと、
シェパードは危険を冒して、
彼女を車でロスまで送り届ける事にする。


そんな2人に嫉妬したベルの元彼が、
シェパードのかつてのギャング仲間・ブラッドリー・クーパーに連絡。
元彼自身も車で2人を追跡する。


さらに、シェパードの身柄を確保せねば、と、
保安官も2人を追いかけ、
事態は収拾のつかない方向へ・・・。





ブラッドリー・クーパーが出ていなかったら、
観なかったと思う(笑)。


以前にも何度か書いているけれども、
私の友人が、とにかくクーパー命の女で、
しょっちゅう彼の話を聞かされている。
この映画も、彼女が「面白い」と言ったので、
観る気になった。
まぁ、彼女にしてみたら、
クーパーが出ていれば、何でもいいらしいが(笑)。


まぁ、そういう私も、
イケメンは嫌いではないし、
以前、レッドカーペットで彼を見た時は、
そのカッコ良さに、倒れそうになったくらいだから、

http://aomikamica.blog.so-net.ne.jp/2011-02-08
やっぱり気になる存在ではある。


この映画の彼は、
変なドレッドヘアーで、
変な黄色いサングラスをかけ、
変な赤いジャージのズボンを履いているという、
すんごい役作り(笑)。
もしかして、この役の為にわざわざ太った?というくらい、
モッサリしていたのも凄い。


お話自体も、ドタバタのコメディで、
逃げる、追いかける、の繰り返し。
めちゃくちゃ面白い、というわけではないけれど、
それなりに楽しめる。


登場人物が全員、お馬鹿さんなわけだけれど、
私は、その中でも、
クリステン・ベルが一番だと思ったわ。


なぜなら、
ベルが元彼に、
「シェパードとロスに行く」なんて余計な一言を言わなければ、
一連の大騒動は起こらなかったわけで、
全ての発端は彼女なわけじゃないか。


しかも彼女は、
途中でシェパードと喧嘩すると、
元彼に、ロスまで送ってほしいとお願いしたりもする。
あんなストーカーみたいな男に頼るなんて、
「そ、その選択は正しいの?」と言いたくなった私(笑)。


この配役、
シェパードとクーパーを取り換えたらどうだったんだろう。
もう少しうっとり観られた気がするんだけど。
(一番の馬鹿は私だ(笑))。


評価 ★★★☆☆

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「めくら狼」 [映画]

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〔1963年/日本〕


父親の博打の借金のかたに、
ヤクザの組・遠州屋の親分の愛人にさせられそうになったお志乃(富司純子)は、
盲目の侠客・捨五郎(東千代之介)に助けられる。


捨五郎は、名前の通り、幼い頃親に捨てられた男で、
三味線の名人・野沢六兵衛門に育てられるも、
道を踏み外し、極道の世界に入ったのだ。


お志乃の境遇に自分を重ね合わせた捨五郎は、
母を探しに大阪に行くという彼女に同行する。
またお志乃も、捨五郎の男気溢れた性格に、
淡い思慕の念を抱くようになる。


しかし、お志乃に逃げられた遠州屋が
そのまま黙っているわけはなく、
追跡の手が近づいてきていた・・・。





盲目の侠客・捨五郎を演じる東千代之介さんが、
とにかくめちゃくちゃカッコよくて、
惚れてしまいそうになる(笑)。


東さんの映画って、
今までにも何本か観ているはずなのに、
一度もその名前を意識した事はなかったなぁ。
ノーチェックだったのが悔やまれる(笑)。


富司純子さん演じるお志乃への態度が、
とにかく優しくて、紳士で、
まるで父か兄のような感じ。
お志乃は、捨五郎と離れるのが辛くて、
大阪に行く列車も見送ってしまうほど。


その気持ちは、
恋愛とか、そんなんじゃなくて、
幼い子供が、
父の着物をギュッと掴んで、
離さない感じと似ている。
どうか自分を置いていかないで、って。


捨五郎がまた、
優しいだけじゃなく、
まぁ、強いのなんのって。
目が見えない分、
他の感覚が冴えていて、
バッタバッタと相手を斬りまくる。


そういった所は、
勝新太郎さんの「座頭市」にも似ている。
「座頭市」の1作目は、1962年だから、
この「めくら狼」の方が1年あと。


そうなると、
「座頭市」のヒットに便乗した?とも思ってしまうけど、
こちらも面白いから、
まぁ、あまり深く考えるのはやめよう(笑)。


富司純子さんのデビュー三作目の映画のようで、
まだ18歳。
初々しくて、すんごく可愛い。
その後、沢山の映画に出るようになったのも
分かる気がする。


評価 ★★★☆☆

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「夜の牙」 [映画]

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〔1958年/日本〕


ガード下で診療所を開いている杉浦健吉(石原裕次郎)は、
必要があり、自分の戸籍を取りに役所へ行く。


ところが驚いた事に、
自分は死亡届けが出され、
既に死んでいる事になっていると言われる。
届けを出したのは、
空襲の混乱の最中に生き別れた弟・忠夫で、
法的に何ら問題ないとの事。


死亡診断書を書いた医師を訪ねた所、
健吉はトラックにはねられて死んだと言われ、
その遺体は損傷がひどく、
顔の判別もできなかったと聞かされる。


墓が伊豆のにあると知った健吉は、
舎弟の三太(岡田真澄)を連れてその寺を訪れ、
和尚から、埋葬時の様子を聞く。
和尚は、健吉と忠夫の叔父が莫大な遺産を残して死亡し、
その後、健吉が死亡したと聞かされた、と言う・・・。





いつの間にか自分が死んだことにされていた医者が、
真相を究明するサスペンス。


石原裕次郎さんが若い。
そして可愛い(笑)。
私が石原さんを知った時は
すでに彼はおじさんといっていい年になっていて、
どれほど「昔はカッコ良かった」と聞かされても、
今一つピンとこなかったけれど、
今になって、
彼の古い映画を観る度に、
大人たちが言っていた意味が分かる。


特にこの映画は、
デビューしてまだ2年の石原さんだから、
そりゃあ若いのも当たり前。
その分、演技はそう上手くないけれど、
それはご愛嬌。


自分の死亡届けを出したという弟を探す石原さん。
どこへ行っても、弟ソックリだと言われ、
観ているこちらも、
誰が弟役をしているのか、
それとも一人二役なのか、と、
嫌でも期待が高まるってもんだ(笑)。


女の扱いも、とっても上手い石原さん。
謎の女の役を演じる月丘夢路さんを抱き寄せるシーンなんか、
若いのに手慣れたもんだ(笑)。
私生活でもそんななのかと、
ちょっとドキドキしたわ。


ただ、解せない事がある。
彼は、自分の診療所の看護師さんと、
どうやら一線を越えた仲らしい。
なのに、そのエピソードがお話に全く絡んでこず、
月丘さんの部屋から朝帰りしたりする。


ガード下でチンピラ相手に、
ボランティアのような診療をしている先生が、
看護師に手を出しておいて知らんぷりなんて、
キャラが変じゃない?(笑)


サスペンス映画なのに、
それについては全く触れてないけど、
莫大な遺産が入って、
死んでもいない兄が死んだ事にされていて、と聞けば、
話は大体想像がつくってもんで、
私が書くまでもなかろう(笑)。
ただ、意外な展開にはなってゆくけれども。


評価 ★★★☆☆

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「M」 [映画]

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〔1931年/ドイツ〕


ドイツのある町で、
幼い少女ばかりが狙われる誘拐殺人事件が
連続して起こり、
人々を震撼させる。


警察は、手を尽くして犯人捜査にあたるが、
ついに8人目の犠牲者が出てしまった。


そんな中、盲目の風船売りが、
最後に殺された少女が誘拐された時、
ある口笛が聞こえていた事を思い出した。
そして、今まさに、その口笛を吹いている男が近くにいる。


風船売りは、近くにいた仲間に、
口笛を吹く男を追いかけろと言った。
仲間は男の後を付け、
ぶつかったフリをして、
男の肩に「M」の文字の目印を付ける・・・。





猟奇殺人の犯人については、
日頃から強い興味を持っていて、
時々、検索したり、本を読んだりしている。


殺人そのものに興味あるわけではなく、
一番知りたいのは、
犯人の生い立ち。
どんな環境で、どんな風に育てられのか、
それが知りたくて調べる。


例えば、ヘンリー・リー・ルーカスなどは、
私が知る中でも、最悪の成育歴の一人で、
子供時代の彼を思うと、
殺人犯とはいえ、可哀相な気さえしてしまう。


遺体に様々な手を加えた事で有名なエド・ゲインも、
ルーカスとは種類は違うけれど、
やはり特殊な成育歴の持ち主で、
彼が異常者として育っていったのも仕方ないと言える。


全米を震撼させた殺人者・ジェフリー・ダーマーの父は、
著書「息子ジェフリー・ダーマーとの日々」で、
幼い頃の様子について綴っている。
そんな風に本を出せる事自体、
ルーカスやゲインの親とは、明らかに違う、
それなりに知的な父親なのだけれど、
それでも事件が起こる時は起こる。


で、この映画、「M」は、
ドイツの異常殺人者・ペーター・キュルテンが起こした事件を
モチーフにしていると言われているそうだ。


キュルテンに関しては、
手塚治虫さんが、「ペーター・キュルテンの記録」という漫画で、
その人生を描いているので、
ご存知の方も多いのではないだろうか。
やはり彼も異常な家庭環境で育ち、
その後、おぞましい事件を多数起こしている。


映画は、
キュルテン自身を深く掘り下げているのではなく、
犯人が追い詰められてゆく様子を
大変な緊張感で描く秀作。


その後、捕まった犯人の叫びの場面にも
見入ってしまう。
自分は自分から逃げたい、でも逃げられない、
という風なセリフ。


タイトルの「M」とは、
マーダー=殺人者の頭文字なのだそうだ。


評価 ★★★★☆

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