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「球形の荒野」 [映画]

kyukeinokouya.jpg
〔1975年/日本〕


昭和36年。
野上久美子(島田陽子)は、
旅行をした奈良のある寺で、
芳名帳に、父・顕一郎の筆跡とそっくりな文字を見つける。


久美子の父は戦時中に、
ヨーロッパの、ある中立国で亡くなっており、
全くの別人だと理屈では分かっているが、
気になって仕方がない。


彼女の婚約者で新聞記者の添田(竹脇無我)と、
もう一度、その寺に行くと、
目的のページが破られている事を知る。


以来、久美子の周辺で不可思議な事が起こる。
無言電話が何度もかかってきたり、
父の知人から、歌舞伎の切符が届いたり、
何者かに後を付けられているような気配を感じたり。


顕一郎は、亡くなった当時、
一等書記官を務めており、
戦争を終わらせるために尽力した末に亡くなったと聞かされている。
しかし、久美子も、そして添田も、
顕一郎が生きていて、
現在、日本にいるのではないかとの確信を深めてゆく・・・。





松本清張さん原作小説の映画化。


小説は読んでいるけれども、
文庫本にして、上下巻の長い物語を、
98分の映画にまとめたというのが、
ちょっと無理がある気がする(笑)。


原作には、もっともっと沢山のエピソードが盛り込まれていて、
結構読み応えがあったと記憶しているけれども、
この映画は、さらりとしていて、
しかも、「え!これで終わり!?」というような、
唐突なラスト(笑)。


第二次世界大戦末期に、
自分の国籍も、家族をも捨て、
日本の為に尽力した男の物語であるから、
そこら辺のエピソードに重きを置くかたには、
物足りないかもしれないな。


ただ、私は、
そういった政治的な部分より、
父と娘の再会が叶うのか、
やっぱりそちらに重きを置いてしまう。


うろ覚えなので、
間違っていたら申し訳ないのだけれど、
たしか原作では、
顕一郎と久美子は再会しない。


私にはそれが大いに不満で、
消化不良気味だったことを思い出す。


こういった話は、
父と娘は、感動の再会をしてくれないと、
やっぱり面白くないよなーって。


でも、そんなモヤモヤを、
この映画は晴らしてくれる。


顕一郎と久美子は、
海の岩場で再会し、
会話をし、
最後には、
童謡「七つの子」を一緒に歌う。


原作通りでなくてもいい。
映画はやっぱりこうでなくっちゃね(笑)。


評価 ★★★☆☆

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「私の愛したゴースト」 [映画]

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〔1990年/アメリカ〕


ロサンゼルスの刑事・ムーニー(ボブ・ホスキンス)は、
自分の元同棲相手で娼婦のクリスタルが、
弁護士・ストーン(デンゼル・ワシントン)に
車に押し込まれる様子を見てカッとなり、
銃を撃ってしまう。


ところがその後、
ムーニーは、心臓発作で倒れ、
気が付くと病院のベッドの上。
彼は、ほぼ同じ時刻に交通事故で死亡した男の
心臓を移植されて、一命を取り留めたのだと聞かされる。


しかし、心臓の提供者の名前を知って驚く。
なんとそれは、ストーンだったのだ。


しかも、ストーンは、
幽霊になってムーニーの前に現れ、
しつこく彼に付き纏う。
自分が死んだのは殺されたからで、
犯人を捜せと言うのだ・・・。





ボブ・ホスキンスとデンゼル・ワシントンの
刑事物コメディ。
デンゼルも初期の頃は、
こういった軽い役をしていたのだと、
ちょっと楽しい気持ちで観る。


彼は幽霊で、
その姿はホスキンスにしか見えないという、
まぁ、コメディはありがちな設定ではあるけれど、
2人のコンビがとってもキュートで、
観ていて飽きない。


ホスキンスは演技をするのが大変そうだ。
ハンバーガーを食べようとして、
デンゼルに取り上げられそうになり、
引っ張り合う様子などを、
一人で演じなければならない。


しかも、彼は、
人種差別主義の傾向があり、
黒人の心臓が自分に移植された事に
嫌悪感を覚えている。


最初は、その設定はどうなのよって感じだったけど、
幽霊とはいえ、
嫌いだった黒人と仲良くなってゆく過程は、
悪くなかった。


一箇所、
「え、そんな事が!」という場面があり、
グッとくる。
あの場面を見せられたら、
もう何も言えないわ。
詳しくは書けないけれども。


評価 ★★★☆☆

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「妻の日の愛のかたみに」 [映画]

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〔1965年/日本〕


福岡県の柳川で暮らす、北原正之(船越英二)は、
幸せいっぱいであった。
見合いで知り合い、結婚した妻・千枝子(若尾文子)が
大変に美しい上に、
気立てもよく、働き者で、
そんな彼女が、愛おしくてたまらないのだ。


中学校の教師をする正之と、
小学校の教師をする千枝子は、
一緒に通勤し、
生徒たちまで、彼らをからかう始末。


1年ほど経ったある日、
千枝子は関節の痛みを覚え、
チョークが持てない状態となる。
日が経つにつれ、痛みは酷くなり、
医者からは、リウマチだと診断される。


入院し、治療に励むも、
回復しない病状。
家に戻った千枝子は寝たきりとなり、
姑は、そんな千枝子と別れてはどうかと、
正之に進言する。


しかし、千絵子を深く愛する正之は、
周囲の意見に耳を貸さず、
献身的な看病を続ける。
けれど、千枝子は、
自分のせいで周囲が大変な思いをしていると、
悩み続け・・・。





「若尾文子祭」で上映された、
未見だった1本。


花嫁姿の若尾さんが、
船頭さんの漕ぐ船に乗って、
ゆっくりと川面をすべってゆくという、
美しい出だし。


そして、その船を自転車で追いかけ、
おにぎりやお茶を渡す、お婿さんの船越さん。
彼が若尾さんを好きでたまらない様子が、
大変に上手く撮られていて、
心和む場面。


しかし、タイトルから、
難病物だろうとの察しがついているので、
この先訪れるであろう、
悲劇が想像できて、
心は重くもある。


案の定、若尾さんは発病する。


若尾さんにとって一番辛いのは、
自身の病より、
周囲に迷惑を掛ける事。
そして、船越さんの優しさ。


優しさって何だろう、
愛ってなんだろうと考えさせられる。
もしも船越さんが冷酷で、
病気になった妻をなじるような男だったら、
むしろ若尾さんは、
そこまで悩む事はなく、実家に帰ったであろう。


舅も、若尾さんを大変に庇ってくれるし、
意地悪かと思われた姑も、
若尾さんが実家に帰る日には泣いてくれた。
悪い人なんて誰もいない。
病気が全て悪いんだ。


難病が劇的に治るはずもなく、
この物語にも救いはないけれど、
お涙頂戴映画というわけではなく、
夫婦愛や、親子の愛、
友情について考えさせられる映画だった。


評価 ★★★☆☆


角川シネマ新宿での「若尾文子祭」が終わりました。
未見の作品は全て観るぞ!と意気込んでいたのですが、
諸事情で観られなかったのが2本。


この2本を観ていれば、
若尾作品のうち、160本中100本を観た事になって、
キリがいいのに、と、
とても残念な気持ちだけれど、仕方ない。


それに、まだ、残念がるのは早いです。
この企画のあまりの盛況に、
角川シネマさんは、
「祭」を一週間延長した上に、
冬には、アンコールまで決定したそうです。


冬のアンコールで、
また、未見の作品が何本か入っている事を期待しています。
楽しみです。


前に一度、
備忘録として、
若尾さんの全作品を載せた事があったのですが、
今日も書いてみます。
(出演作160本。★は観た作品98本)


★春の雪 (2005)
 竹取物語 (1987)
 ある映画監督の生涯 溝口健二の記録 (1975)
 幻の殺意 (1971)
★男はつらいよ 純情篇 (1971)
★スパルタ教育 くたばれ親父 (1970)
 座頭市と用心棒 (1970)
★天狗党 (1969)
★千羽鶴 (1969)
★濡れた二人 (1968)
★積木の箱 (1968)
★不信のとき (1968)
 鉄砲伝来記 (1968)
★華岡青洲の妻 (1967)
★砂糖菓子が壊れるとき (1967)
★妻二人 (1967)
★夜の罠 (1967)
★雪の喪章 (1967)
 処女受胎 (1966)
★赤い天使 (1966)
★雁 (1966)
★氷点 (1966)
★処女が見た (1966)
★刺青 (1966)
★妻の日の愛のかたみに (1965)
★不倫 (1965)
★清作の妻 (1965)
★帯をとく夏子 (1965)
 女めくら物語 (1965)
★波影 (1965)
★花実のない森 (1965)
 幸せなら手をたたこう (1964)
 悶え (1964)
★卍(まんじ) (1964)
★獣の戯れ (1964)
★傷だらけの山河 (1964)
★「女の小箱」より 夫が見た (1964)
★温泉女医 (1964)
★新・忍びの者 (1963)
★越前竹人形 (1963)
 女が愛して憎むとき (1963)
★わたしを深く埋めて (1963)
★女系家族 (1963)
 八月生れの女 (1963)
★雪之丞変化 (1963)
★しとやかな獣 (1962)
★秦・始皇帝 (1962)
★瘋癲老人日記 (1962)
★その夜は忘れない (1962)
★やっちゃ場の女 (1962)
★仲よし音頭 日本一だよ (1962)
 閉店時間 (1962)
★爛(ただれ) (1962)
★雁の寺 (1962)
★家庭の事情 (1962)
★妻は告白する (1961)
★新源氏物語 (1961)
★銀座のぼんぼん (1961)
★女は二度生まれる (1961)
★女の勲章 (1961)
 東京おにぎり娘 (1961)
★好色一代男 (1961)
★お嬢さん (1961)
★婚期 (1961)
★花くらべ狸道中 (1961)
★銀座っ子物語 (1961)
 素敵な野郎(1961)
 鎮花祭 (1960)
★偽大学生 (1960)
★安珍と清姫 (1960)
★勝利と敗北 (1960)
★ぼんち (1960)
★からっ風野郎 (1960)
★女は抵抗する (1960)
★女経(じょきょう) (1960)
★初春狸御殿 (1959)
★浮草 (1959)
 実は熟したり (1959)
★美貌に罪あり (1959)
 花の大障碍 (1959)
 次郎長富士 (1959)
★氾濫 (1959)
★山田長政 王者の剣 (1959)
★薔薇の木にバラの花咲く (1959)
★最高殊勲夫人 (1959)
★あなたと私の合言葉 さようなら、今日は (1959)
 新婚七つの楽しみ(1959)
 母(1958)
★娘の冒険 (1958)
★夜の素顔 (1958)
 嵐の講道館(1958)
★一粒の麦 (1958)
★息子の結婚 (1958)
★口笛を吹く渡り鳥 (1958)
 愛河 (1958)
★忠臣蔵 (1958)
 螢火 (1958)
 東京の瞳 (1958)
 妻こそわが命(1958)
★青空娘 (1957)
★夕凪 (1957)
★誘惑からの脱出 (1957)
★永すぎた春 (1957)
★朱雀門 (1957)
 慕情の河 (1957)
 続銀河の都 (1957)
★スタジオはてんやわんや (1957)
 銀河の都 (1957)
 君を愛す (1956)
 四十八歳の抵抗 (1956)
★日本橋 (1956)
★涙 (1956)
 スタジオは大騒ぎ (1956)
 あさ潮ゆう潮 (1956)
★滝の白糸 (1956)
★処刑の部屋 (1956)
 新婚日記 恥ずかしい夢(1956)
 新婚日記 嬉しい朝(1956)
★赤線地帯 (1956)
 虹いくたび (1956)
 新妻の寝ごと (1956)
 花嫁のため息 (1956)
 薔薇の絋道館 (1956)
★弾痕街 (1955)
 七人の兄いもうと (1955)
★珠はくだけず (1955)
★長崎の夜 (1955)
★幻の馬 (1955)
 娘の縁談 (1955)
★薔薇いくたびか (1955)
 月に飛ぶ雁 (1955)
 幸福を配達する娘 (1955)
★螢の光 (1955)
 勝敗(1954)
 荒城の月 (1954)
★月よりの使者 (1954)
 緑の仲間 (1954)
 浅草の夜 (1954)
 慕情 (1954)
★舞妓物語 (1954)
★酔いどれ二刀流 (1954)
 或る女 (1954)
★心の日月 (1954)
 十代の誘惑 (1953)
 無法者 (1953)
 続続十代の性典 (1953)
 春雪の門 (1953)
★祇園囃子 (1953)
 続十代の性典 (1953)
 チャタレー夫人は日本にもいた (1953)
 怒れ三平 (1953)
★十代の性典 (1953)
 彼女の特ダネ (1952)
 街の小天狗 (1952)
 秘密 (1952)
 明日は日曜日 (1952)
 花嫁花婿チャンバラ節(1952)
 母子鶴 (1952)
 猛獣使いの少女 (1952)
★死の街を脱れて (1952)


(他に3本、
「長崎の歌は忘れじ」
「月形半平太」
「娘初恋ヤットン節」が、
出演作として載せられているサイトあり)

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「転校生」 [映画]

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〔1982年/日本〕


広島県尾道市で暮らす斉藤一夫(尾美としのり)のクラスに、
転校生・斉藤一美(小林聡美)がやって来る。
一美は、一夫を見た途端、
「幼稚園で一緒だった一夫ちゃん!」と再会を喜ぶが、
クラスメイトの手前もあり、一夫は素直に喜べない。


帰り道、一夫はうるさく付き纏う一美から逃げようとするが、
彼女に向かって蹴った空き缶が原因で、
一美は長い石段の上でよろけ、
助けようとした一夫と抱き合うようにして、
一番下まで転げ落ちてしまう。


怪我もなく、
そのまま家に帰った2人は、
自分たちの身に、大変な事が起こっている事に気付く。
なんと、互いの体が入れ替わってしまったのだ。


どうする事もできずに、
互いの家で暮らすしかない2人だったが、
さらに大変な事態が持ち上がる。
一夫の父が出世し、
夏休み中に横浜に引っ越すというのだ・・・。





小林聡美と尾美としのりの演技が瑞々しい傑作。


まずは小林聡美。
彼女以上に、この役を上手く演じられる女優さんって
いるんだろうか、と思うくらい上手い。


演技の中に、ちょっとでも「女」が見えてしまったら、
興醒めになってしまう所であろうが、
全くそのような事はなく、
体が入れ替わった時から、
彼女は間違いなく「男」だ、「男」にしか見えない。


私は、彼女は、
この役を楽しんで演じていたのだろうと、
ずっと思っていた。
サバサバした性格(そう見える)から、
裸を見せるシーンも、特に気にせずこなしたのかな、なんて。


しかし、調べてみるとそうではなかった事が分かる。
考えてみれば当たり前。
17歳の女の子が、
カメラの前で自分の体を晒すなど、
恥ずかしくないわけがなく、
相当な覚悟と葛藤が必要だったのだろう。
「平気そう」だなんて思った私は、
自分の考えを申し訳なく、恥ずかしく思った。


それから、尾美としのり。
彼の演技は、
ある意味、小林聡美より難しいかもしれない。
女の子が「うるせーよ」などと男言葉で話すのは、
日常でもよくある事だけれど、
中学生の男の子が女言葉で話すというは、
あまり聞いた事がない。


それだけに、外見は男の子で、
内面が女の子の役は、
尾美としのりにとって、
小林聡美の裸と同じくらい、
抵抗があったのではないかと想像する。
でも、きっちり女の子になりきっていた。
素晴らしかった。


もしも異性と体が入れ替わってしまったら・・・
と想像すると楽しい。
けれど、女の私は、
多くの男性が書かれているような感想、
「うひゃひゃ」な気持ちにはならないかなぁ(笑)。
「ふーん」って感じで。
まぁ、色々試してはみたいけれども(笑)。


ラストも素晴らしい。


一夫と一美の物語に続きがあるとしたら、
2人はどんな大人になるのだろう。


評価 ★★★★☆

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「帯をとく夏子」 [映画]

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〔1965年/日本〕


元温泉芸者の夏子(若尾文子)は、
今は会社社長・佐久間(船越英二)の
妾になって暮らしている。


しかし、佐久間に再婚話が持ち上がり、
夏子は、不安定な自分の立場を思い、
佐久間と別れるか、
再婚をやめるか、と迫る。


そんなある日、
佐久間が病気で倒れてしまう。
見舞いにも行けない夏子は苛立つが、
回復した佐久間は、
病院を抜け出し、
夏子のもとへ。


結局、佐久間は再婚する。
夏子も、学校時代の恩師・久保(平幹次郎)と
偶然再会し、
彼との今後を夢見るようになる。


佐久間は、今度は、
若い女・須賀子(江波杏子)と
知り合い、
彼女の為に部屋まで借りてやり、
のめり込むのだが・・・。





「若尾文子映画祭」で未見だった1本。


船越英二の絶倫っぷりが笑える。
なにせ彼は、
あの色っぽい若尾さんを愛人にして、
入院している時も、抜け出してまで、
彼女の家にやって来る。


そして、当然、若尾さんに迫る(笑)。
健康な若尾さんより、
病気の船越さんのほうが元気ってんだから、
そのパワーは推して知るべし。


相手が若尾さんだけなら、
まだ分かるけど、
なんと彼は、
再婚相手を妊娠させる。
妻とは何もないのかと考えていた
私が甘かったわ(笑)。


そして、極めつけが江波杏子さん。
孫みたいに若い江波さんは、
小悪魔みたいな、自由奔放な娘で、
最初、彼女は、
船越サンの会社の窓ふきのアルバイトをしているのだけれど、


次の場面で、もう、
2人はタクシーに乗っている。
なんという手の早さ。
いつ、どうやって口説いたんだろう(笑)。


そんなこんなで、
ストーリーなんて、
どうでもいい風になっちゃってる(笑)。
とりあえず、未見だった作品を観られて満足。


評価 ★★★☆☆

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