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「舟を編む」 [映画]

funewoamu.jpg
〔2013/日本〕


出版社・玄武書房は、
今、新しい辞書「大渡海(だいとかい)」の編纂に取り掛かろうとしていた。
けれど、重要なスタッフの一人・荒木(小林薫)の定年退職が
目前に迫っており、
新しい人材を入れなければならない。


そこで白羽の矢が立てられたのが、
営業課の馬締光也(松田龍平)。
彼は名前通りの、
マジメで融通のきかない、変人扱いされている男で、
どう見ても営業には向いていなかったが、
辞書の編集のような仕事は合っているようだ。


仕事が軌道に乗り始めた頃、
彼の下宿のおばさんの孫・香具矢(宮崎あおい)が、
同じ下宿屋に住むようになる。
女だてらに板前をする、きびきびとした彼女に、
馬締はすっかり恋してしまい、
仕事中も、心ここにあらずといった風情になる。


そんな彼の恋は、
編集部の松本先生(加藤剛)や、
西岡正志(オダギリジョー)や、
佐々木薫(伊佐山ひろ子)の応援もあって、
成就する事になる。


そんな中、
「大渡海」の編纂は、
会社の都合で、頓挫するかもしれないとの
噂が流れ始め・・・。





映画を観ていて、
「面白かった」とか、「感動した」というのは、
よくある事だけれど、
「深い達成感があった」というのが、
この映画の凄いところ。
いい作品だった。


原作既読。
映画館でかなりの回数、
予告が上映されていたので、
「これじゃ、本編を観なくても内容が分かっちゃう」と、
ちょっと食傷気味だったのだけれど、
やはりきちんとした映画は、
予告は予告でしかないのだと分かる。
(予告の方が凄いという映画も沢山あるので(笑))。


あらためて、辞書作りってこんなに手間がかかっているのかと
驚かされる。
無数の言葉を選び、
その意味や、用例を考えてゆく、
気の遠くなるような、地道な作業。
一冊作るのに20年近くかかるというのも、
これを観ていると納得する。


紙質やデザインにも拘る。
「紙が手に吸い付き、サラッと捲れるように」と、
紙屋さんが持ってきた見本品に、
ダメ出しする馬締。
辞書を引く時、
そんな事、考えもしなかったけど、
これからはすんごく気になりそう。
今持っている辞書を、
今後ぞんざいに扱う事など、とても出来ないとも思う。


松田龍平って凄いなぁ。
おそらく、私生活では颯爽と生きているのであろうが、
この映画では完全に馬締光也そのもの。
背中を丸めて、
ちょっと変わってて、
でも誠実な、
名前通りのマジメな男になりきっていた。


それから、辞書編集部の雰囲気がとっても良い。
馬締が恋した事を皆に打ち明けると、
(そもそも、そんな事を仕事仲間全員が同時に知るってのが凄い(笑))
彼らは連れ立って、
香具矢が板前をする店にお食事に行く。
すんごくいい場面だった。


馬締と西岡の関係もいいんだな。
チャラ男の西岡は、最初は馬締を、
「友達にはなれそうにもない奴」と言う。
でも、一緒に仕事をしていくうちに、
深い信頼関係で結ばれて、
互いを尊重してゆくのだ。


もし、「大渡海」が本当にあるなら、
本気で欲しくなる。
無意識に、
「帰りに買っていこう」と思っちゃったくらい(笑)。


評価 ★★★★☆

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「さよならモンペール」 [映画]

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〔1991年/フランス〕


両親の離婚により、
母親と暮らしている14歳の少女・マリー・ジランは、
冬休みに父・ジェラール・ドパルデューと2人で、
モーリシャスにバカンス出掛ける。


寒いパリと違って、ここは楽園。
ジランがセクシーな水着で
ビーチに繰り出すせいで、
ドパルデューは心配でたまらない。
事実、男たちはジランの美しさに目を奪われ、
声を掛けてくる者も多い。


そんな中、ジランは、
高校生のパトリック・ミルと知り合う。
ミルに子供扱いされた彼女は、
「私とドパルデューは恋人同士、
 家出した自分は彼に拾われた」と
嘘をついてしまう。


嘘を信じ込んだミルは、
なんとかジランとドパルデューを引き離そうとするが、
上手くはいかない。
そんなこんなのうちに、
バカンス客たちの間では、
ドパルデューとジランが愛人関係だとの噂が広まり、
皆から白い目で見られるようになってしまう。


ジランが嘘をついた事を知ったドパルデューは、
最初は怒るが、
そこは可愛い娘、
彼女の恋が上手くいくよう、
嘘に付き合う事になる・・・。





フランス人の父娘が、
避寒で行った南の島で起こす騒動を描いた、
可愛い物語。
所々で、笑える場面があって、
邦題の印象とは全然違う、コミカルな内容。


マリー・ジランは、ジェラール・ドパルデューの事を、
「彼は冒険家で、密輸入業者で、
 そして007のような秘密諜報員でもある」と説明する。
そんな凄い男がどこにいるのかと思うが(笑)、
ミルはそれを信じる。


けれど、3人で、
水上スキーやウィンドサーフィンや乗馬をする際、
ドパルデューがめっちゃドン臭くて、
ジランの嘘とのギャップに笑ってしまう。
こんな運動神経の無い冒険家はいないよ、って。


フランスの父親がみんなこうなのかは分からないけど、
ジランの恋心を知ったドパルデューが、
その恋を応援する場面が興味深い。


彼は、ジランと一緒にミルの窓の下に行って、
愛のセリフを教えたり、
手紙の内容まで考えてやったりする。
夜の待ち合わせには付いて行って、
「少女を連れた、中年のおっさん」として、
警察に捕まったりもして、笑える。
応援半分、心配半分といった親心が可笑しい。


ジランがとにかく可愛いうえに、
スタイル抜群で、
その水着姿には、
女の私でも見惚れてしまう。
あれじゃ、父ちゃんも心配だろうよ(笑)。


評価 ★★★☆☆

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「最後の忠臣蔵」 [映画]

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〔2010年/日本〕


赤穂浪士の一人・寺坂吉右衛門(佐藤浩市)は、
討ち入り後、大石内蔵助(片岡仁左衛門)より、
「真実を後世に伝えよ。浪士の遺族に金子を渡せ」との
命を受け、
切腹せずに、全国に遺族探しの行脚に出る。


ようやく最後の遺族に会い、
全ての務めが終わった時、16年の歳月が経っていた。


浪士の17回忌の法要の為、
京に上った寺坂は、
そこで、瀬尾孫左衛門(役所広司)らしき男を見かけ、驚く。
瀬尾は、寺坂の親友であったが、
討ち入りの前日、
なぜか姿を消しており、
「命が惜しくなって逐電した」というのが、
もっぱらの評判だった。


現在の瀬尾は、16歳の可音(桜庭ななみ)という美しい少女と、
一緒に暮らしていた。
元遊女のゆう(安田成美)の手を借りながら、
瀬尾は16年間、可音を大切に育ててきた。


ある日、可音は、
大きな呉服屋の嫡男・茶屋修一郎(山本耕史)に
見初められる。
可音を嫁にほしいとの申し出に、
瀬尾は、ある感慨をもってそれを受ける。


可音が嫁ぐ日がやって来た。
瀬尾はある決心を胸に、
可音の姿を見守り・・・。





切腹を果たせなかった、
赤穂浪士2人の物語。


2人が切腹しなかった理由は全く違うが、
どちらも、大石内蔵助から重要な責務を仰せつかったという点は
同じだ。


ただ、寺坂の任務が世間の誰にでも、
説明できるものだったのに対して、
瀬尾の方は、
絶対口外できないのが辛い。


瀬尾は、討ち入り前に逃げ出した裏切り者として、
世間から隠れるようにして暮らしている。
彼が浪士の墓参りをしている際、
赤穂の侍に見つかって、
酷い暴力を振るわれる場面があるが、それでも忍の一字。


「この先の展開、ずっと誤解されたままだったら嫌だな」と
思っていたのだけれど、
案外すんなり誤解が解けるので観易い。
それどころか、
暴力を振るった者たちが、
非礼を詫びる場面があるので、
ホッとできる。


可音が籠に乗って嫁ぐ時、
次から次へと、
赤穂関係の武士たちが、
名乗りを上げながら列に加わり、
最後は、大行列になるのが、
とてもいい場面と同時に、なんだか笑えた。
大石内蔵助って、よほど人望が厚かったのね(笑)。


あまり好きになれない場面が2箇所。
一つは、
可音が瀬尾に恋心を抱く場面。
そんな設定って必要なのかな。
いくら他人とはいえ、
赤ちゃんの頃から自分を育ててくれた人には、
親子のような情愛しか湧かないんじゃないのかなぁ。


せっかくの美しい父娘関係なのに、
近親相姦的(すみません、あえて書きます)で気持ち悪い。


もう一つは、
可音を嫁がせたあと、
ゆうに誘われた瀬尾が、
その誘いを断った場面。


「据え膳食わぬは男の恥」だよ、瀬尾さん(笑)。
なぜ女に恥をかかせる?
私が男なら食うけどなぁ(笑)。
それが武士ってものなのか。
そんなにストイックな人生じゃつまらないと思うんだけど、
私のような人間には理解できないという事ね。


評価 ★★★☆☆

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「アンナ・カレーニナ」 [映画]

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〔1997年/イギリス〕


都会の生活を嫌って、
農業をしているリョービン(アルフレッド・モリーナ)は、
荒涼とした原野で、何頭ものオオカミに追われていた。
彼は叫んだ。
「本当の愛を知らずに死ぬのは嫌だ」と。


それはリョービンの夢だった。
彼はその後、
貴族の娘・キティ(ミ ア・カーシュナー)に一目惚れし、求婚。
しかしキティは、将校ヴロンスキー(ショーン・ビーン)に恋しており、
彼の気持ちは受け入れられなかった。


そして、そのヴロンスキーは、
知り合ったばかりの人妻・アンナに夢中になっていた。
彼女の夫は高級官僚で、
美しいアンナは社交界でも花形だった。


人妻らしく、
ヴロンスキーの気持ちをやんわりと拒絶していたアンナだが、
夫にはない激しい情熱を持った彼に、
次第に惹かれてゆく。


2人の仲は夫にも知られる事となるが、
「神の前で誓った結婚を破綻させる事はできない」と、
離婚には応じてもらえない。


人妻という立場のまま家を出たアンナは、
再婚する事もできず、
最愛の息子にも会う事ができず、
苦悩する事になる・・・。





またまた、「アンナ・カレーニナ」。
しつこいね、私も(笑)。
この物語が特別好きというわけじゃないけど、
キーラ・ナイトレイ版を観た直後に、
上手くグレタ・ガルボ版が借りられたものだから、
勢いに乗って、
観られるものは全部観ちゃえって(笑)。


このソフィー・マルソー版は、
今まで観たのとは出だしが違っていて、
ちょっと戸惑った。
オオカミの追われているのは誰なのか、
なぜ追われているのか。
これが映画上の演出なのか、
小説により近いのかは分からないけれど。


今まで観た3つの「アンナ~」は、
ヴロンスキーが口ひげを生やしていて、
どこか軽薄な感じがしたけれど、
この映画の彼は口元スッキリで、
誠実そうなイメージ。


彼がアンナに恋する様子は、
他の映画より激しくて、
彼女を見つめる時は、
息も絶え絶え、
興奮で胸が上下しちゃってる。
「何もそこまで」って言いたくなるくらい(笑)。


終盤、
離婚が成立せず、
中途半端な立場の自分にイライラを募らせたアンナは、
ヴロンスキーの行動に疑心暗鬼になって、
ヒステリー気味になる。
ソフィー・マルソーの演技のせいもあるけれど、
不思議と彼女の気持ちに共感しちゃって。
そんな風に荒れたら、
男は余計に離れていくんだろうけど、
どうしようもないんだろうなぁって。


本作は、「アンナ~」の7回目の映画化だそうだ。
そんなに何度も作られるって、
やはり基本となる原作が凄いからなんでしょうね。
こんな風に制作順に観ていくと、
一周回って(笑)、もう一度キーラ・ナイトレイ版のを
観たくなってくる。


評価 ★★★☆☆

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「地上(ここ)より何処かで」 [映画]

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〔1999年/アメリカ〕


14歳のナタリー・ポートマンは、
破天荒な母・スーザン・サランドンが苦手だった。
エジプト系の父と結婚し、
ポートマンを産んだが離婚。
別の相手と再婚するが、
結婚生活とウィスコンシンの田舎町の退屈さに我慢できず、
ポートマンを連れてロスにやって来たのだ。


ウィスコンシンが好きだったポートマンは、
本当は引っ越したくなかったが、
母に付いてゆくしかない。
夢ばかり見ている母は、
仕事も決まっていないのに、
いつも、「なんとかなる」がモットーのようで、
ポートマンの心は不安でいっぱいだ。


夢のビバリーヒルズの安アパートを見つけ、
そこに落ち着いた2人。
母は教師の仕事を見つけ、働き出す。
そしてポートマンには、
女優になる事を薦めてくる。


ある日、ビーチで知り合った男と関係する母。
「彼は私に夢中なの」と言うが、
母の方が夢中なのは明らかで、
でも、その後、電話が鳴る事はなかった。
どう見ても、母は遊ばれたのだ。


そんな日々の中で、
ポートマンの大学進学の時期が近付いてきた。
彼女は母と離れて、
東部で暮らす事を考えていた。
そんな娘の気持ちを知ったサランドンはショックを受け、
2人は言い争いになる・・・。





「ここではない、どこかへ行けば、もっと素晴らしい人生があるはず」
いつもそれしか考えていない母と、
振り回される娘の物語。


私も、「どこか、誰も知った人のいない所へ」と
思う事がないわけじゃないけど、
それはせいぜい旅行止まりで、
引っ越しまでとなると、なかなか難しい。


そう思うと、
スーザン・サランドンのパワーと行動力は凄いけど、
でも、どこへ行ったって、
結局は同じだよと思うし、
夢見た場所が理想と違っていたら、
もっと落ち込みそうだ。
(映画とは関係ないけど、そんな事を考える時は必ず、
 宇多田ヒカルの「Wait & See -リスク-」が
 頭の中でグルグル回る(笑))


ポートマンが、
ロスの学校でもいい友達に恵まれるのが救い。
これで学校でまで嫌な目に遭っていたら、
悲しすぎる。
母を反面教師にしている彼女は、
選ぶ友人もみんな結構地味な子たちで(笑)。


彼女は友人たちに強くすすめられて、
実の父に電話する。
ただ話がしたいというだけで、他意はなかったのだが、
父は、
「金の無心か、サランドンの差し金か」と、
邪推してくる。
親なのに、そんな風にしか取ってもらえない
ポートマンが可哀相でならなかった。


ポートマンの手紙を勝手に開封したりするサランドンが、
ラスト近くまで、なんか好きになれなかったけど、
最後はグッとくる。


評価 ★★★☆☆

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