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「探偵スルース」 [映画]

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〔1972年/イギリス〕


老推理作家、ローレンス・オリヴィエの豪邸に、
マイケル・ケインが訪ねて来る。


ケインは、オリヴィエの呼び出しに応じ、
やってきたのだ。
彼は美容師で、
オリヴィエの妻と出来上がっており、
オリヴィエは、その件でケインと話し合う必要があった。


オリヴィエはケインに、
「贅沢に慣れた私の妻を、生涯養う事ができるのか?」と
ケインに迫り、
一つの提案をする。
それは、オリヴィエの金庫にしまってある、
宝石をケインが盗み、売りさばき、金を得る。
宝石には多額の保険金が掛かっているので、
オリヴィエの懐は痛まない、という計画だった。


ケインは承知し、
外から梯子をかけ、邸宅に侵入し、
部屋を荒し、
泥棒が入ったという状況を作る。
しかし、そんなケインにオリヴィエは銃口を向ける。
「強盗を殺したと言えば、罪にはならない」と。


数日後、初老の刑事が、
オリヴィエ宅へやって来た。
美容師の男が行方不明だと言うのだ。
刑事は家の中から、
血痕や銃痕やケインの服を発見するが・・・。





8月に観た、ジュード・ロウの「スルース」の、
オリジナル版。
その時も書いたけれど、
マイケル・ケインは、
この映画では、若造の美容師の役を、
「スルース」では、老小説家の役を演じている。


あと何十年か経ったら、
今度はジュード・ロウが老小説家の役を演じて、
誰か若い俳優が、美容師の役をしたら面白いのに。
役をシフトさせながら、
ずっと引き継がれる映画、なんて(笑)。


内容は全く同じで、
やはりこちらも、マイケル・ケインの邸宅だけで、
物語が展開される。
けれど、「スルース」が90分の短い映画に対して、
こちらは130分と長い。
同じ内容なのに、
どこがどう長いのか、半年経った今では、
よく分からない(笑)。


映画の長さとは関係ないけど、
決定的に違うのが、
お家の中のインテリア。
「スルース」の、マイケル・ケインの家は、
無機的で、シンプルで、
ヒヤッと冷たい感じがしたものだ。


それに比べてこちらは、
ローレンス・オリヴィエの趣味である、
機械仕掛けの人形が多数飾られていて、
それが突然動き出したり、
なんだか落ち着かない。


どうしても、現代のセンスに慣らされてしまっているので、
ごちゃごちゃと物が置かれた、
この映画の邸宅より、
「スルース」の方がずっと素敵に思えた。
物が豊富にある=裕福
という図式が、現代では当てはまらないのだろう。
時代の流れというものだ。


比較ばかりの内容(笑)。
新しいのより、
古い方が、
世間の評価は高いようだけれど、
私は、新しい方が、
全てにスマートで、スッキリしていて好き。


評価 ★★★☆☆

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「山田長政 王者の剣」 [映画]

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〔1959年/日本・タイ〕


1925年。
武士・山田長政(長谷川一夫)は、
御朱印船でシャムロ(現在のタイ)にやって来る。
当時、シャムロでは多数の日本人が、
新天地を求めて移住し、
日本人街を作っていた。


山田は、そこで、
旧友・大西五郎兵衛(根上淳)や、
宿敵・有村左京(田崎潤)、
町長や、その娘・あや(若尾文子)と会い、
歓迎される。


そんな中、
シャムロが、隣国・ビルマから戦争を仕掛けられる。
大群を出兵させたシャムロだが、
それを見た山田は、「シャムロは負ける」と予言する。


山田の予言通り、シャムロの負けが濃くなると、
国王・ソンタム(千田是也)は、
日本人に協力を要請する。
日本人は快諾し、その長を山田が務める事になる。


山田の機転で戦に勝ったシャムロ。
ソンタム王は、その褒美にと、
豪邸と、自分の娘(中田康子)を山田に差し出す。


その後も、数々の戦を勝ち進めていく山田。
しかし、外国人の分際で、
力を付けてゆく山田を、
快く思っていないシャムロ人も多数おり、
不穏な空気が漂い始める・・・。





日本とタイが、初めて共同制作した映画だそうで、
撮影もバンコクで行われたという、
ちょっと珍しい映画。


とは言え、エキストラ以外の、
セリフのある役の人は、
全員が日本人。
訛ってさえいない(笑)。
タイっぽい服を着て、
タイっぽい仕草(両手を合わせるなど)をするけれど、
日本の時代劇と、
やっている事は、大して変わらない。


一番面白いのは、市川雷蔵。
国王の家来の役なのだけれど、
なぜか、パンチパーマみたいな髪型で、
極太の眉毛をしている。
でも、どんなに装っても、
彼って、基本地味顔で、
どう見ても、南国の人ではないでしょう。
だから、なんだか取って付けたような役柄で、
すんごく浮いてる(笑)。


主役が長谷川一夫と決まっているなら、
せめて、顔の濃い田崎潤と、
役を入れ替えたら良かったのに(笑)。


若尾文子さんが目的でビデオを借りたのだけれど、
ビックリな事に、
彼女は、映画の中盤で日本に帰ってしまう。


というのも、
途中で、日本から鎖国令が出て、
最後の御朱印船に乗らないと、
生涯、日本に帰れないという決断を迫られるのだ。


若尾さんは、山田に惚れているし、
当然、自分を選ぶのもだと確信して、
シャムロに残る気満々なのだけれど、
山田は、王に差し出された娘と結婚してしまう。
若尾さんは大変なショックを受けて、
乗り込んだ船の中では、もう放心状態。
他の若尾映画では、あまり見られないような役だった。


でも、若尾さんはさて置き、
途中で日本が鎖国になるという流れが、
歴史として、興味深かった。
鎖国のお触れが出た時、外国にいた日本人は、
どれだけ逡巡した事だろう。
その国に骨を埋めるか、
もう一度、日本の土を踏むか。
それは、自分の人生の大きな転機となるはずで、
簡単に答えの出る問題ではないだろうし。


戦の場面が面白い。
山田と敵国の兵隊が乗っているのが、
馬ではなくて、象よ、象(笑)。
象の上で剣を振り回して戦っていて、
戦だというのに、緊迫した空気がまるでない。
ちょっと笑った。


評価 ★★★☆☆

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「新 兵隊やくざ 火線」 [映画]

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〔1972年/日本〕


周囲を敵に囲まれてしまった、
大宮(勝新太郎)と有田(田村高廣)だったが、
なんとか逃げ延び、
ある小隊に配属になる。


小隊長・北井(大瀬康一)は、
戦争嫌いの、温厚な人格者であったが、
部下の神永軍曹(宍戸錠)は、
好戦的で、他人を痛めつけるのが趣味のような、
最悪の人物であった。


その日、神永は、
中国人村長の、まだ幼い息子を無理矢理連れてくる。
草むらに隠れていたその子を、スパイだと言うのだ。
村長は戦争前、日本に留学経験があり、
日本人に親切にされた恩を忘れず、
日本軍に便宜を図ってくれていたのだが、
神永はそんな事はお構いなしだ。


神永は大宮に、村長の息子を殺せと命じるが、
子どもは殺せないと断った事から、騒動に。
大宮は神永から目を付けられる事になる。


村長には美しい娘・芳蘭(横山道代)がおり、
神永は、彼女の手籠めにしようとするが、
すんでの所で大宮に助けれられ、
2人は惹かれあう。


しかし神永が、芳蘭がスパイではないかと言い出した事から、
彼女を誘惑し、
その正体を探るという任務に、
大宮が就く事になる・・・。





大好きだった大宮と有田のコンビにまた会えた。
嬉しいなぁ。


シリーズ9作目となる、この映画、
8作目からは4年の間が空いていて、
パッケージを見ると、
それまでの大映から、東宝へ、
そして、クレジットには「勝プロダクション」の名前がある。
映画業界の事はよく分からないけれど、
その4年の間に、
なにか大きな動きがあったのだろうと想像する。
(ウィキペディアによると、五社協定というのが、
1971年に自然消滅したとある)。


なので、この作品はDVDもなっていないし、
「兵隊やくざ」ボックスにも入っていない。
名画座でかからない限り、
観るのは無理かと思っていたのだが、
ビデオが存在する事を知って、ちょっと驚いた。
なんだか自分の頭の中の棚に、
「兵隊やくざ」シリーズが、全巻揃った気がして嬉しい。


とはいえ、
映画会社や、制作プロダクションが変わると、
作品の空気がここまで変わってしまうのだと実感する。


シリーズ初のカラー作品というのは嬉しいけれど、
今までのシリーズにあった、
笑いの中にある哀しみみたいなものが、
感じられないというか。
お肌でいえば、キメが荒い感じ(笑)。


勝新太郎の風貌も、
随分とふてぶてしくなったというか、
今までの大宮に感じられた、
赤ちゃんのような純粋な感じが薄れている。
仕方ないか。
4年も経てば、
そりゃあ、人間、色々あるよね。
顔にも、それが現れるのは当たり前だ。


まぁ、いい。
1年ぶりに2人のお姿が観られただけで満足。
それに、本当に憎たらしい、
悪役の宍戸錠の演技が上手かった。
戦時中に限らず、
いつの時代も、こういう輩っているよね。
できれば、知り合いにもなりたくないような男。


4年ぶりに作られたシリーズだけれど、
その後が続かなかったのは、
最初からそう決まっていたのか、
客が不入りだったからなのか。
いずれにせよ、時代は、
映画からテレビに移行していたのでしょうね。


評価 ★★★☆☆

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「桜桃の味」 [映画]

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〔1997年/イラン〕


一人車を走らせる中年男・バディ(ホマユン・エルシャディ)は、
意味ありげに、道行く男たちを物色している。


彼は、年若い兵士に声を掛け、
「兵舎に送ってやる」と車に乗せるが、
走りながら、ある提案を持ちかける。


「山の斜面に掘ってある穴に、
 今夜、睡眠薬を飲んで横たわるから、
 翌朝、死んでいたら土をかけてくれ。
 もちろん、報酬を出す」と。


兵士はおののき、
「そんな事は絶対に嫌だ」と、
車を飛び出し、転がるように逃げて行った。


次に声を掛けた、若い神学生にも
同じ依頼をしたが、
やはり断られる。


次に車に乗せた老人・バゲリ(アブドルホセイン・バゲリ)は、
子供の病気で金が入用な為、
彼の申し出を受け入れる。
しかし、受け入れはしたが、
彼自身の体験を話し出す。
若い頃、自分も死を考えた事があると・・・。





ずっと以前の事だけれど、
初対面の女性から、
「自殺未遂をした事がある」と打ち明けられた事がある。


その瞬間、私は泣いていた。
別にカッコつけるわけでも、優しいフリをしようと思ったわけでも、
その人を助けたいと思ったわけでもなく、
気が付いたら泣いていて、
「あ、自分、泣いてる」と思ったくらいだ。
そんな泣き方をした事は、今まで記憶にないと思う。
そして、「駄目だよ、そんな事しちゃ」という言葉が、
無意識に口をついて出ていた。


初めて会った人なのに、
全然知らない人なのに、
人間の死を間近で感じると、
人はこんな風になるんだと思った。


私自身、長生き願望は皆無だし、
他人に偉そうに何か言えるような人間では
決してないのだけれど、
今でも、あの時の感情を不思議な気持ちで思い出す。


なんだか自分の事になってしまったけれど、
この映画のように、
見知らぬ他人から、自殺を幇助してくれと頼まれたら、
そのショックは如何ばかりかと想像する。


最初に車に乗せられた、
若い兵士が一番分かりやすい。
彼は困惑し、バディが何を言っても、
テコでも車から降りない。
理屈じゃない、嫌なものは嫌だろう。


次は神学生なので、
一般の人とは多少違い、
宗教の目線でバディに話す。
自殺は、自分を殺す事だと神様も言っている、と。


けれど、一度落ち込んでしまった心を、
元のテンションに戻すのが、
どれだけ大変かというのも、理解できる。
そんな時は、どんな人の言葉も耳に入らない。
私にだって経験がある。


そして、次の老人。
その老人の言葉に、
特別重みはないけれど、
同じような体験をしたというリアリティはある。
ただ、そんな事に人を巻き込んじゃだめだよね。
人を巻き込むのは、まだ余裕があるからじゃないかと思うよ。


アッバス・キアロスタミ監督の作品。
ラストは、ちょっと面白い終わり方。
賛否あるようだけれど。


評価 ★★★☆☆

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「フィリップ、きみを愛してる!」 [映画]

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〔2009年/フランス〕


スティーヴン(ジム・キャリー)は、
幼い頃、実はもらわれっ子だと両親から打ち明けらる。


大人になった彼の職業は警察官。
結婚し、子供にもめぐまれ、幸せに暮らしていたが、
本当の母に会ってみたいという気持ちを抑えきれず、
警官という立場を利用して、母の住所を調べ、訪ねる。
しかし、母はなぜか冷たく、
捨てられたのは3人兄弟の真ん中の自分だけらしい事を知る。


ある日、交通事故で大怪我をした彼は、
本当の自分として生きる事を決意する。
実は彼はゲイなのだ。
妻にそれを打ち明け、
警察を辞め、
詐欺師になる。


詐欺容疑で逮捕されたスティーブンだったが、
刑務所の中で、
一人の男に目が釘付けとなる。
それが彼とフィリップ(ユアン・マクレガー)との出会いだった。


出所した2人は一緒に暮らし始めるが、
フィリップを愛するあまり、
金を稼ごうと、
詐欺行為を繰り返してしまうスティーブンは、
再び刑務所へ。
しかし、フィリップに会いたくてたまらない気持ちが治まらず、
何度も何度も、脱獄するスティーブン・・・。





可愛いです。とっても。
刑務所内で出会い、
愛し合うようになったスティーブンとフィリップ。
まず、フィリップを見つけたスティーブンの場面が素晴らしい。
大勢いる囚人の中から、
フィリップを見た瞬間、
彼から目が離せなくなって、ずっとその姿を追ってしまう、
その様子。
恋って、こうして始まるのねっていう、
テキストみたいな場面。


2人が恋人同士になってから、
娯楽室で古い映画をテレビを見る場面など、
ロマンティックでうっとり。
スティーブンの腕の中で、
フィリップが寄り添って、
本当に恋する2人といった風情。
刑務所が、こんな素敵な場所に見えるなんて(笑)。
恋を語るのに、場所なんて関係ないのね。


刑務所を移される事になったスティーブンを、
フェンス越しに追いかけるフィリップの場面が、またいい。
ユアンってゲイだったっけ?って思うくらい、
彼の演技が上手くて、切なくて。
2人は互いに叫ぶ、
「I Love You!」と。
この時かかる曲が、「ラブ・サムバディ」。
音楽まで美しい。


映画自体は、テンポよく進む。
特に、ジム・キャリーが脱獄を繰り返す場面は、
「え?そんな方法で、刑務所って出られるの?」と思うくらい、
軽妙で、お手軽。
私も刑務所に入ったら、
試してみたいくらい(ウソです(笑))。


フィクションのようだけれど、
主人公のスティーヴン・ラッセルは、
実在の人物で、
現在も懲役167年の刑で服役中だそうだ。


彼の人生を知った人が、
あまりにロマンティックなお話に、
映画化せずにはいられなかったのかと、
勝手に想像している(笑)。


評価 ★★★☆☆

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