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「桜桃の味」 [映画]

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〔1997年/イラン〕


一人車を走らせる中年男・バディ(ホマユン・エルシャディ)は、
意味ありげに、道行く男たちを物色している。


彼は、年若い兵士に声を掛け、
「兵舎に送ってやる」と車に乗せるが、
走りながら、ある提案を持ちかける。


「山の斜面に掘ってある穴に、
 今夜、睡眠薬を飲んで横たわるから、
 翌朝、死んでいたら土をかけてくれ。
 もちろん、報酬を出す」と。


兵士はおののき、
「そんな事は絶対に嫌だ」と、
車を飛び出し、転がるように逃げて行った。


次に声を掛けた、若い神学生にも
同じ依頼をしたが、
やはり断られる。


次に車に乗せた老人・バゲリ(アブドルホセイン・バゲリ)は、
子供の病気で金が入用な為、
彼の申し出を受け入れる。
しかし、受け入れはしたが、
彼自身の体験を話し出す。
若い頃、自分も死を考えた事があると・・・。





ずっと以前の事だけれど、
初対面の女性から、
「自殺未遂をした事がある」と打ち明けられた事がある。


その瞬間、私は泣いていた。
別にカッコつけるわけでも、優しいフリをしようと思ったわけでも、
その人を助けたいと思ったわけでもなく、
気が付いたら泣いていて、
「あ、自分、泣いてる」と思ったくらいだ。
そんな泣き方をした事は、今まで記憶にないと思う。
そして、「駄目だよ、そんな事しちゃ」という言葉が、
無意識に口をついて出ていた。


初めて会った人なのに、
全然知らない人なのに、
人間の死を間近で感じると、
人はこんな風になるんだと思った。


私自身、長生き願望は皆無だし、
他人に偉そうに何か言えるような人間では
決してないのだけれど、
今でも、あの時の感情を不思議な気持ちで思い出す。


なんだか自分の事になってしまったけれど、
この映画のように、
見知らぬ他人から、自殺を幇助してくれと頼まれたら、
そのショックは如何ばかりかと想像する。


最初に車に乗せられた、
若い兵士が一番分かりやすい。
彼は困惑し、バディが何を言っても、
テコでも車から降りない。
理屈じゃない、嫌なものは嫌だろう。


次は神学生なので、
一般の人とは多少違い、
宗教の目線でバディに話す。
自殺は、自分を殺す事だと神様も言っている、と。


けれど、一度落ち込んでしまった心を、
元のテンションに戻すのが、
どれだけ大変かというのも、理解できる。
そんな時は、どんな人の言葉も耳に入らない。
私にだって経験がある。


そして、次の老人。
その老人の言葉に、
特別重みはないけれど、
同じような体験をしたというリアリティはある。
ただ、そんな事に人を巻き込んじゃだめだよね。
人を巻き込むのは、まだ余裕があるからじゃないかと思うよ。


アッバス・キアロスタミ監督の作品。
ラストは、ちょっと面白い終わり方。
賛否あるようだけれど。


評価 ★★★☆☆

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