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「その夜は忘れない」 [映画]

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〔1962年/日本〕


現在の新文芸坐のテーマは、
「『女優 若尾文子』刊行記念 日本映画のヒロインVol. 11 若尾文子」。

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週刊誌の記者・田宮二郎は、
戦後17年経った広島に、
被爆者たちの取材にやって来る。


しかし、彼が考えていたような広島はもう存在せず、
若い被爆者たちは、
自分たちの運命を受け入れ、
人生を楽しんでいるように見えるし、
「生まれる前の出来事だから」と、
答える若者もいる。


夜、あるバーに入った田宮は、
店のマダム・若尾文子の美しさに惹かれる。
翌日、取材先の病院で若尾と再会した田宮だが、
なぜ若尾が病院にいるのかは、
言葉を濁される。


田宮は、被爆者たちのその後について、
取材をした先で、
またも若尾と再会。
2人は急速に親しくなってゆくが、
どこか、完全には心を開かない若尾。


何度目かの逢瀬で、旅館に入った2人だったが、
そこで若尾は、
田宮に重大な秘密を打ち明ける・・・。





若尾さんと田宮二郎の共演、
さらにタイトルのイメージから、
例によって、男女の愛憎劇だと思っていたら、
全然違っていた。
原爆をテーマにした、結構シリアスなドラマ。


原爆を落とされ、
地獄絵図のような体験をした広島だけれど、
17年も経ってしまうと、
人々は割とドライで、
例えば、顔の火傷の痕なども、
「気にしても仕方がない」と笑う。


「原爆で商売してるってアメリカに叩かれてるよ」と、
原爆ドーム前で、店をしている男性が笑う場面もある。
商売だなんて、そんな風に取る人もいるんだと思う。
どんな形にせよ、
後世に戦争の恐ろしさを伝えるのは、
悪い事じゃない。
大変に辛い思いをしたのだもの、
商売くらいさせてあげなよ、って。


そんな風に、前半は割と明るい。
田宮は、そんな広島に拍子抜けする感じだ。
会社に電話して、
「この企画は失敗だ」と言ったくらい。


けれど、若尾さんに出会って、
彼女の孤独な様子や、
どこか心を開かないその態度に接していくうちに、
話は重くなってゆく。


若尾さんが田宮に、
河原の石を持たせる場面はとてもショック。


一見、何でもない石なのだけれど、
「握ってみて」と言われ、田宮がその通りにすると、
それはボロボロと砂のように崩れてしまう。
被爆するとはそういう事だと、
暗に若尾さんは伝えている。


そして、彼女が打ち明けた秘密。
若尾さんを愛し始めた田宮は、
それでも彼女にプロポーズする。
「神様、どうかどうか、若尾さんの幸せにしてあげて」と
本気で思った場面。


たとえ普通に暮らしているように見えても、
戦争の傷跡は、何十年経っても消える事はない。


評価 ★★★☆☆

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「マックス・ペイン」 [映画]

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〔2008年/アメリカ〕


妻子を惨殺された刑事・マックス・ペイン(マーク・ウォールバーグ)は、
閑職に回されながらも、
まだ捕まらぬ犯人を追い求める日々。


捜査を続けるうちに、
ナターシャ(オルガ・キュリレンコ)と知り合ったペインは、
何かを知っているらしい彼女を、
自室に連れてゆく。
しかし、誘惑に乗らないペインに怒ったナターシャは、
部屋から出て行った直後、
路地裏で何者かに殺されてしまう。


ペインは、ナターシャが彼の財布を持っていた事から、
殺人容疑を掛けられてしまう。
さらに、ナターシャの姉・モナ(ミラ・クニス)からも、
復讐のため狙われ、窮地に陥る。


これらの事件に関わった人間が皆、
同じタトゥーを入れている事に気付いた、
ペインの同僚アレックスは、
それをペインに報せようとするが、
彼もまた殺される。


ペインは妻殺しの犯人を捕まえる事ができるのか・・・。





この間観た「テッド」で、
絶妙のカップル演技を見せてくれた、
マーク・ウォールバーグとミラ・クニス。


この2人が「テッド」以前にも共演したのが、
この映画。
未見なので、この機会に観てみた。


ゲームを映画化したそうで、
そのせいというわけではないだろうが、
とにかく、どこかで観たような場面ばかり。
ちょっとオカルトちっくな感じが、
他の映画と違うかなとは思うけど、
それも、ドラッグによる幻覚で、
本物のモンスターが出てくるわけじゃない。


期待した、
ウォールバーグとクニスの絡みも、
別に何事もなく終わってしまう。
ウォールバーグは殺された妻の事で頭がいっぱいで、
他の女が入り込む余地が無いし。


オルガ・キュリレンコの扱いが軽くて、
そんなものかなと思った。
同じ年に、「007 慰めの報酬」で、
ボンドガールを演じているのに。


キャリアからいったら、
クニスも似たようなものなのに。
主役と脇役って、どうやって決まるんだろう。


クニスが姉で、キュリレンコが妹という設定も、
なんだか違和感。
キュリレンコはクニスより4歳も年上で、
パッと見も、クニスの方が年下に見える。
キュリレンコが美人タイプに対して、
クニスは可愛いタイプだしね。
2人の共通点はウクライナ出身という事くらい。


特定のドラッグを使用した人間が、
必ず見る幻覚というのが、
人ひとりくらい、簡単につかめそうな、
巨大な鳥。
その鳥はちょっと迫力があった。
もっと、ずっと見ていたかったな。


評価 ★★★☆☆

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「禁猟区」 [映画]

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〔1961年/日本〕


ラピュタ阿佐ヶ谷で観た。

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化粧品会社の課長・田村高廣は、
妻に実家に帰られてしまった。
田村には結婚前から付き合っている愛人・高千穂ひづるがおり、
貞淑な妻は、そんな田村に愛想が尽きたのだ。


高千穂は製薬会社の社長・東野英治郎に囲われている蓮っ葉な女で、
田村と通じている事は、東野には秘密だったが、
愛人生活に疲れ、
田村との結婚を夢見ていた。


東野が急死し、
晴れて田村と結婚した高千穂だったが、
派手好きな性格は変わらず、
田村を悩ませる。


その後、高千穂は出産するが、
母としての自覚はまるで無く、
子供の世話は田村の母に任せ、
馴染みのバーでホステスとして働き、
大学生と愛人関係になってしまう。


さらに、芦屋に住む資産家の御曹司・三橋達也と親しくなり、
結婚の約束まで取り付けるが、
三橋は父の勧める令嬢と婚約。
ショックを受けた高千穂は海に向かい・・・。





どいつもこいつも、自業自得なやつばかり(笑)。
田村高廣は冷静なイメージが強いけれど、
この映画では、ずいぶん女に振り回されてる。
それも、自分が悪いんだけど。


高千穂ひづるの生き方が、
危なっかしくて見ていられない。
社長の愛人として、贅沢三昧していた彼女は、
サラリーマンの薄給が分かっていないようで、
田村との新居である、狭いアパートに、
デパートで買い物した品が山積みになっている。
なんとも恐ろしい光景(笑)。


大学生と出来上がって、
いい気になっていたのはいいけれど、
相手の若い情熱までは想像していなかったのか、
別れ話を持ちかけて、激昂される。


劇中のセリフにあるけれど、
彼女は、今日の事しか考えられないようだ。
先行きの事を考えて金を貯めようとか、
子供を立派に育てようなんて発想は無い。
元々、そういう気質なのか、
不幸な生い立ちからそうなってしまったのかは分からないけれど。


田村の部下役を倍賞千恵子が演じている。
彼女は田村に惚れていて、
「どうなってもいい、私を自由にしていい」
みたいな事を言う。


「だめだよ~、さくら~、そんな事言っちゃ~」と
言いたくなったよ(笑)。
やっぱり倍賞さんは、
真面目で貞操観念の強い女の役の方が似合う。
田村がやんわりと突き放したのが救いだった。
ここで彼女にまで手を出したら、
それこそ彼は最低な男になってしまう。


最後は大団円。
結局、一番可哀相なのは実家に帰った、
田村の元妻って事ね。


評価 ★★★☆☆

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「アルバート氏の人生」 [映画]

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〔2011年/アイルランド〕


19世紀のアイルランド。
ダブリンのホテルで、長年住み込みでウェイターとして働く
アルバート・ノッブス氏(グレン・クローズ)には、
重大な秘密があった。


実はアルバートは、男装した女性なのだ。
悲しい過去を抱えたアルバートは、
独り孤独に生きてゆく道を選んだが、
この時代、女が身を立てる事は考えられず、
男として生きるほかなかった。
彼女は自分の為に、
コツコツと金を貯め、
それを床下に隠す事が楽しみだった。


ある日、ホテルのマダムは、改装工事にやってきた、
塗装職人ヒューバートを、
一晩アルバートの部屋に泊めるよう、
アルバートに命じる。
断り切れず受け入れたアルバートだが、
ヒューバートに女だという事を見破られてしまう。


何としても周囲に秘密を知られてはならない。
アルバートはヒューバートに、
絶対、この事を漏らしてくれるなと懇願。
するとヒューバートも、
ある秘密を打ち明けてきて、
2人は親しくなってゆく。


一方、アルバートの同僚でウェイトレスのヘレン(ミア・ワシコウスカ)は、
最近、ボイラーマンとしてホテルに雇われたジョー・マッキンス(アーロン・ジョンソン)と
恋に落ちる。
ジョーは野卑な男だったが、
恋に夢中のヘレンは、それには気付かない。


ヒューバートの生き方に触発されたアルバートは、
以前から好意を抱いていたヘレンをデートに誘うが、
それを知ったジョーは、
「アルバートをその気にさせて、金品を貢がせろ」と
ヘレンに命令。
ヘレンは彼の言いなりになり、
アルバートとの逢瀬を重ね・・・。





時間的にちょうど合うのがこの映画しかなく、
なんとなく観たのだけれど、
(ごめんなさい)
とても良かった。
本当に映画って、観てみないと分からない。


元々は舞台劇だったものを、
映画化した作品らしい。
今まで、グレン・クローズは、
好きでも嫌いでもなかったけれど、
なんだか見直した気分。
この役で、去年のアカデミー賞主演女優賞に
ノミネートされている。
なぜか今頃になって、日本に入ってきたようだけれど、
たとえ遅くても、公開されて良かった。


貧困と辛い過去から、
男として生きる道を選んだアルバートの、
孤独な人生が心に染みる。
何の楽しみもなく、
唯一の生き甲斐は、小金を貯める事だけ。


仕事を終え、一人で部屋に戻ってから、
もらったチップを丁寧に床下にしまい、
ノートに合計額を記す彼女。
私が彼女の立場だったら、と想像すると、
分かる、とっても。
一人ぼっちで、頼る人もなく、
性別まで嘘を吐いて仕事をしているのだもの、
最後はお金だけが頼りなのでしょうね。
そういった細かさは、
さすが、外見は男性だけど、女性っぽさ溢れる場面。


スクリーンを眺めながら、
「神様、どうか彼女のお金が何者かに盗まれたり、
 騙し取られたり、
 ホテルが火事になったりしませんように」と、
祈るような気持ちでいたよ。


アルバートの孤独な感じに対して、
ヒューバートの潔い、男前な感じがまたいい。
彼は自分のしたいように生きている。
アルバートがそんな彼に影響されるのは当然だ。
彼も秘密を抱えているけれど、
でも、とても幸せそうなのだ。


ヘレンを演じたミア・ワシコウスカの、
可憐な、そして若さゆえの我儘な感じがいい。
彼女は、大人から見ると絶対付き合ってはいけない
タイプの男と恋に落ちる。


でも、たとえ、ジョーと知り合っていなくても、
アルバートの気持ちを受け入れたかは疑問。
アルバートを女だと思ってはいなくても、
あまりにも年が違いすぎる。
アルバートが彼女に付き纏いすぎると、
若い娘がお爺さんからストーカーされているという
図になりそうだ。


そんなこんなで、彼女のラストはとても悲しかった。
アルバート、可哀相だよ・・・。


評価 ★★★★☆

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「息子の結婚」 [映画]

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〔1958年/日本〕


ラピュタ阿佐ヶ谷の現在のテーマは、
「現代文学栄華館 昭和の流行作家たち PART2」

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大学生の川口浩は、
ロクに学校にも行かず、不良とつるむ日々。
今日も仲間とキャンプ場で、
他のグループと一悶着起こす。


さらに、警察から誘拐事件の参考人として連行され、
取り調べを受ける事になる。
疑いは晴れるが、
そんな彼の行状に、実業家の父親は怒るばかり。
川口は、ある理由から父を憎んでおり、
父もまた、「川口が怖い」と言う。
父の再婚相手は川口の理解者で、
何かと庇ってくれるのが救い。


キャンプ場で知り合った若尾文子から、
ジャズ喫茶での仕事を紹介され、
働き始める川口。
ある日、出演を拒んだ歌手の代わりにステージで歌うと、
拍手喝采を浴びてしまう。


一方、川口の同級生で、
真面目な川崎敬三は、
恋人・叶順子との結婚で困っていた。
叶の父親は医者で、
“生殖年齢”なる変な持論を展開するばかりなのだ。


川口と若尾、
そして、川崎と叶の恋はどうなるのか・・・。





シリアスなのかと思えば、
コメディのようでもある、
いろんな要素が詰め込まれた映画。
詰め込まれすぎて、あらすじを書くのも難しいわ(笑)。


浩様が反抗的で、
ずっと拗ねている。
実母の事で父親を恨んでいて、
それを引きずっているのだけれど、
その拗ねた顔も可愛くて、
見とれてしまう(笑)。


浩様がジャズ喫茶で2回も歌を披露するのが可笑しい。
劇中では、一応、「上手い」という設定になっているが、
お世辞にも上手いとは思えず(笑)、
本人も困っただろうと想像する。
そんな彼をうっとり見ているのは、
今、この劇場で私だけだろうなぁと思うと、
一人、笑ってしまう。


叶順子の父が唱える、
“生殖年齢”というのが、
男は女より、10年生殖機能が長いから、
娘は10歳年上の男と結婚しなければいけないという、
わけの分からない持論。
この父が、現代の熟女ブーム・年下男ブームを知ったら、
卒倒するだろう(笑)。


観客の爆笑を誘っていたのが、
北林谷栄さんの演技。
80歳のおばあさんの役なんだけど、
彼女の一言一言が可笑しくてたまらない。
私も80歳になったら、
あんなおばあさんになりたいな。


評価 ★★★☆☆

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