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「夜の河」 [映画]

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〔1956年/日本〕

新文芸坐で観た。

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京都在住の山本富士子は、
父親・東野英治郎の営む染物屋を手伝いながら、
自身も着物や、和風のバッグ・ネクタイなどのデザインをして、
暮らしている。


山本は商才もあり、
自分の作品を京都の目抜き通りに展示する為に、
呉服屋・小沢栄太郎と渡りをつけ、
その準備に忙しい。


そんなある日、
寺を散策していた山本は、
お参りに来ていた阪大の教授・上原謙と知り合う。
上原は偶然にも、山本のデザインしたネクタイをしており、
山本も同じ柄のバッグを持っていた事から、
意気投合する。


その後、何度か上原と会ううちに、
山本は彼に引かれてゆき、
ある夜、雨宿りの為に入った旅館で、
2人は結ばれる。


しかし上原には、2年も寝たきりの妻がいる。
不倫の関係に苦しむ山本。
しかも、上原の、妻の死に関する発言を聞いた山本は、
一瞬、我に返る。


自分は上原のような事を考えた事は一度もない。
そう思った山本は、
自分の意思で、結論を出す・・・。





先日書いた、「夜の素顔」と併せて観たせいか、
どうしても、あちらと比べる気持ちになってしまう。


世間的には、この「夜の河」の方が、
評価はずっと高い。
(この年のキネマ旬報ベストテンで第2位だったそうだ)。
でも、私は、毒気の強い京マチ子や若尾文子の方に、
刺激を感じてしまい、
山本富士子を物足りなく思ってしまった。


山本富士子はとても好きだし、
演技も悪くないけれど、
なんというか、
彼女は、私生活でもとても“真っ当”な人なんじゃないかと、
そんな風に想像できて、
演じていても、それが滲み出ている気がする。


私は、普段の生活では真っ当な人が大好きだし、
隣家には真っ当な人が住んでいてほしいけれど(笑)、
映画の中で求めるものは、
ちょっと違う。
(別に京さんや若尾さんが“真っ当”じゃないと言っているのではなく、
 あくまでもイメージです)


でも、山本の真っ当さが生きてくる場面もある。
彼女を助けるフリをしながら、
実は彼女の美しさに惹かれて、
体を求める気満々の小沢栄太郎。


しかし、彼女は小沢を撥ね退ける。
だって変な理屈だ。
男同士の商談だったら、
そんな事にならずに話が進められるのに、
相手が女だと、
それが必要なんておかしいじゃないか。


小沢はそれを根に持って、
別の日、宴席で暴れ出し、
人々の冷笑を買う。
みっともないったらありゃしない。


山本は無名の画家・ 川崎敬三からも、
激しく片思いされているが、
それも上手くあしらい、
利用するような事はない。
(関係ないけど、川崎の役名が岡本五郎で、
 描く絵も、岡本太郎の作品にソックリなのが笑えた)


結局、上手くいかないのは、
上原謙との関係だけで、ちょっと可哀想。
仕方ないんだけど。


評価 ★★★☆☆

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「遊星よりの物体X」 [映画]

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〔1951年/アメリカ〕


北極に、何らかの飛行物体が墜落したと、
アラスカ・アンカレッジの米軍の観測所に連絡が入る。


隊員たちは、ロシアの飛行機が落ちたのだろうと推測し、
すぐに現場に向かうが、
そこには、本体が雪に埋もれ、
垂直尾翼のだけが地上から見える形で、
大きな丸い円盤型の物体があった。


それに乗っていたと思われる生物が、
氷漬けになっており、
隊員たちは、氷ごとその生物を観測所に持ち帰り、
交代で見張る。


しかし1人の隊員が、
誤って電気毛布を氷に掛けた事から、
それが溶け出し、
まだ生きていた、身長2メートル以上はあるかと思われる、
大きな宇宙人が暴れだす。


犬を殺し、
人間にも襲い掛かる宇宙人。
隊員たちは、果敢に立ち向かうが・・・。





カート・ラッセル主演の1982年の映画、
「遊星からの物体X」のオリジナル作品という事だ。


しかし、ラッセル版が、
大変な緊迫感に包まれていたのに対して、
こちらはなんだか呑気な印象。


ラッセル版の方は、
エイリアンの怖ろしさよりも、
隊員たちが互いに疑心暗鬼になってゆく様が
大変に怖く、
心理的にジワジワくるものがあった。


なので、こちらは敵が見えるだけ、まだマシな感じ。
とりあえず、どんな方法でも、
相手を倒せばいいわけだから。


人間関係の多少のいざこざはある。
観測所にいるのは、軍の人間が殆どだが、
そこに、新聞記者と科学者が加わっている。


新聞記者は特ダネを物にしようと、
躍起になっているだけだが、
科学者の方は一筋縄ではいかない。


彼は宇宙人を殺す事には猛反対で、
それどころか、
宇宙人が残した体の一部を培養(栽培?)して、
数を増やそうとまでする。
(宇宙人の体の組織は、植物と昆虫のようなものらしい)。


そりゃあ、相手が友好的ならそれも結構だけれど、
明らかに人間を狙っているのだから、
そんな事している場合じゃないでしょ、と、
私はどちらかというと、軍の方に肩入れしながら観ていた。


こういった作品が、
今のエイリアン物の原点になったと思うと、
それはそれで感慨深い。


評価 ★★★☆☆

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「夜の素顔」 [映画]

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〔1958年/日本〕


新文芸坐の現在のテーマは、
「映画監督『匠の技』Vol. 2 大映東京編」。
ポスターの左下は川口浩様♪
この映画には出てないけど(笑)。

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終戦直後の混乱期。
日本舞踊の大家・細川ちか子の家に、
見知らぬ女・京マチ子が尋ねてくる。
こんな時代に弟子は取らないと言う細川だったが、
京はしつこく粘り、無理に弟子入りする。


数年後、細川の弟子は50人を越え、栄えていたが、
これは京の力に因る所が大きかった。
彼女は細川の家を盛り立てる為なら、
男に体を許す事も厭わず、
細川の一番弟子として君臨していた。


ところが、京が細川のパトロンを寝取った事から、
細川が激怒、京は破門となる。
京はパトロンに金を出してもらい、
新しく日本舞踊の家を立ち上げ、
金持ち令嬢を多数集める。


家が軌道に乗り始めた頃、
京は、戦時中、慰問に行っていた際出会った、
根上淳とヨリが戻り、
パトロンと別れ結婚。
しかし根上淳が、日本舞踊などという古臭いものでなく、
これからは自分のプロデュースで、
もっと新しいものをと言い出した事から、
運命に翳りが見え始める。


さらに、一番信頼していた弟子・若尾文子と根上淳が
出来上がってしまい・・・。





若尾文子さんが好きで、
彼女の未見の映画が劇場に掛かった時は、
なるべく観たいと思っているのだが、
この映画は、京マチ子の独壇場であった。


とにかく、彼女から発せられる妖気に当てられる。
そう見えるように、撮影されているという事もあろうが、
自分がのし上がってゆく為なら、
嘘でも、泣き真似でも、仮病でも、
何でも使う、その強かさが凄い。


しかし、その強さの原因が、
次第に分かってくる。
彼女は過去を隠しているが、
ある日、大阪弁を話す崩れた女が、
金をせびりにやって来て、
大変な口喧嘩となる。
その時の京の言葉遣いが、
今まで聞いた事もないような汚いもので、
その内容からも、彼女の育ちが想像でき、
聞いていた者たちは驚く。


いいなぁ、こういう映画大好き。
自分は平凡に生きたいけれど、
映画の中くらい、
自分が体験できない世界を見てみたい。


それに、人間関係はドロドロでも、
みんな大人だし、
1人が集中的にいじめられたりしているわけじゃない。
それぞれが自分の損得勘定と責任において行動している。
嫌な気持ちにならない一番の理由は
そこにあると思う。


それにしても、
結婚した夫が、
芸の事など何も知らないくせに出しゃばってきた事から、
周囲と上手くいかなくなるって、
今話題になっている、
演歌歌手とちょっとイメージが重なって、
なんだか可笑しかった。


評価 ★★★★☆

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「闇を横切れ」 [映画]

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〔1959年/日本〕


地方都市・玄海市では、一週間後に市長選を控え、
選挙運動が白熱していた。


そんな最中、連れ込みホテルで殺人事件が起こる。
殺されたのは、20歳くらいのストリッパー。
そして容疑者として逮捕されたのは、
なんと、市長選の候補者で、当選確実と言われている、
松本克平だった事から、世間は大騒ぎとなる。


しかし、松本は容疑を否認。
そして、この殺人に疑問を持ったのが、
駆け出し新聞記者の川口浩。


現場近くにいた、老巡査から、
顔に傷のある、怪しい風体の男を見たと聞いた川口は、
支局長の山村聡に相談。
山村は、川口が最も尊敬する人物で、
山村も川口を自分の後継者だと、可愛がっており、
やりたいように取材しろと、川口を励ます。


ところが川口の見つけてきた証人が、
なぜか次々殺されてしまう。


新聞社内にスパイがいると気付く浩様。
それは誰なのか。
そして、市長候補はなぜ、殺人犯に仕立てられたのか・・・。





久し振りに観た、川口浩様主演の映画。
映画のソフトを買う事は殆どないのだが、
この作品は買ってしまった。
レンタルにはなっていないようだし、
でも、一本でも多く浩様の映画を観ておきたい私としては、
もう、買う以外に手立てがなかったものだから(笑)。


でも、ジャケットがちょっと不満。
なんでこんなに真っ黒で、
浩様の写真が小さいんだ?
真っ黒なのは“闇”だから仕方ないとしても、
あの可愛い顔は、もっと大写しにしてほしいものだ(笑)。


浩様が熱血新聞記者を演じているのが可愛い。
山村聡をめっちゃ尊敬している様子も可愛い。
浩様は、山村の行き付けのバーで、
初対面の熟女マダムから、
「あら、可愛い坊やね」と言われ、
照れる様子もなく、その言葉を受け入れる。
山村のようになるにはまだまだ青い若輩者の自分は、
坊やと呼ばれても仕方ないのだと、ちゃんと自覚しているように。


事件は、汚職から賄賂から裏取引きから殺し屋まで出てきて、
ちょっと面倒くさい。
それから殺されたストリッパーと同居している、
これまたストリッパーの叶順子と浩様は、
いい仲になってしまう。
羨ましいような話だわ(笑)。


劇中、沢山の人が殺される。
市長選に絡んで、こんなに人が殺されたら、
日本中、大騒ぎになるだろうね(笑)。


評価 ★★★☆☆

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◆曾根崎心中◆ [本]


曾根崎心中

曾根崎心中

  • 作者: 角田 光代
  • 出版社/メーカー: リトル・モア
  • 発売日: 2011/12/22
  • メディア: 単行本


初。
二十一歳。
この本の主人公の遊女。
なんてなんて可愛い女。


初の心は、生まれて初めての恋に、
打ち震えている。
相手は徳兵衛。
客としてやって来た男。


物語の出だし、
初の恋心は、初の心の中で描かれる。


「あの人に会えますように」
「あの人が来てくれますように」
「あの人と一緒になれますように」


女が男を、心で「あの人」と呼ぶって、
物凄く意味深だって、初めて気付いた。
あの人。あの人。あの人。


男は沢山知っているはずなのに、
徳兵衛に初めて会った時の衝撃を、
初は「長い爪で背中をすっと引っ掻かれたような」と表現する。


徳兵衛は初に初めて会った時の気持ちを、
「氷をひとかけ、背中に入れられたような」と、
後に初に告白する。


運命の2人が出会った瞬間。
もう離れられない。
愛しても愛しても、愛し足りない。





近松門左衛門の原作を、
角田光代氏が翻案したもので、
ラストまで引き込まれる。


原作が良く出来ているせいもあるだろうし、
角田氏の筆力のせいもあろうだろう。


1978年の映画も傑作。
初を梶芽衣子が、
徳兵衛を宇崎竜童が、
それぞれ演じていた。


近松門左衛門が書いたものも読んでみたいけど、
どうなんだろう、
古い本だから、やっぱり難しいのか。
現代語訳があるようなので、
そちらを読んでみようかと思う。

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