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「夜を賭けて」 [映画]

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〔2002年/日本・韓国〕


昭和30年前後、大阪城周辺は、
日本軍の兵器製造工場、
いわゆる、大阪造兵廠跡地があり、
35万坪の広大な土地には、莫大な量の鉄が埋もれていた。


川を挟んだ向かい側には、
在日朝鮮人の貧民窟があり、
鉄を掘り起して売れば、かなりの金になる事を知った彼らは、
夜な夜な、船で川を渡っては、
それらを持ち出す作業に精を出す。


若者の一人、金義夫(山本太郎)もその一人。
彼は、逞しく、また実直な青年で、
仲間からの信頼も厚い。


ある日、集落のヤン婆さん(李麗仙)の姪っ子、
新井初子(ユ・ヒョンギョン)がやって来る。
義夫と初子は互いに惹かれ合うが・・・。





とてもエネルギッシュに作られた、悪い映画ではないが、
原作を読んでいると、
どうしても物足りなさが先に立ってしまう。
あのパワフルな内容を映像化するのは、
容易な事ではないのであろう。


例えば、
一番最初に鉄を売って儲けた、ヨドギ婆さん(清川虹子)の所へ、
その場所を教えて貰おうと、
集落の人が訪れる場面。
原作では、次から次と人が来て、婆さんの機嫌を取る。
その、しつこさ、可笑しさに笑えるのだが、
映画では、訪れる者は一人。
どうでもいい場面ながら、やっぱり行間に漂う空気は描き切れない。


肝心の、鉄探しの場面も少ないし、浅い。
なんというか、彼らはもっと激しくて、欲深くて、
そして、滑稽なのだよ。
時間の制約があるから、全てを描けないのは分かるんだけどね。


義夫と初子の場面は、特に納得いかない。
原作で、二人の関係は、完全に初子の片思いであり、
義夫は初子を殆ど相手にせず、口をきく事もない。
二人がきちんと話すのは、義夫が逮捕され、
大村収容所に入れられた後の事だ。


そう、映画で描かれているのは、小説の第一部のみで、
第二部の、大村収容所の場面はカットされている。
義夫が拷問を受けるのも、
収容所ではなく、警察だ。
第二部まで描こうとしたら、それこそ二本の映画が出来そうだし、
やっぱり難しんだろうなと思う。


私は原作が好きすぎて、どうしても不満が出てしまうが、
つまらなくはなかったし、
なにより、あの小説を映像として観られたことが嬉しい。


評価 ★★★☆☆

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「眠狂四郎 炎情剣」 [映画]

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〔1965年/日本〕


野道をゆく眠狂四郎(市川雷蔵)。
向こうから、ぬい(中村玉緒)という女が、
夫の仇と争いながらやって来る。


「助太刀してくれれば、望みの物を与える」というぬいの言葉に、
仇を切った狂四郎に、
その男は、「助太刀するは、お前の恥」という謎の言葉を残して死んでゆく。
ぬいは狂四郎に、お礼として自分の体を差し出す。


翌日、狂四郎が飲み屋で酒を飲んでいると、
役人に追われた男が、命からがら逃げこんでくる。
冷たくあしらう狂四郎に、男は、
「鳴海屋・・・」とつぶやき、捕えられ去ってゆく。


ところが、何日も経たないうちに、
その鳴海屋(西村晃)が狂四郎の元へ一人の女を連れてやって来る。
鳴海屋は、
「この女に、男を教えてやってほしい」と狂四郎に頼み置いてゆくが、
女が生娘でない事を、狂四郎は一目で見抜く。


まるで女を手土産にして、
何か重大な頼み事があるかのような、そのやり方だが、
案の定、狂四郎は大きな陰謀に巻き込まれてゆく・・・。





シリーズ5作目。
市川雷蔵の狂四郎を演じる姿が、
板についてきたというか、
慣れてきたというか、
そのスタイルを確立したというように感じられた。


ただ、物語全体が、
女を物のように扱う、その感じがなんだかなぁと思う。


中村玉緒は、いつものようにとても可愛いのだが、
狂四郎に、「お前の色香なら、男を云々」と言われる場面は、
ちょっと違和感。
彼女に可愛さはあっても、男を惑わす色気はないでしょ。
演じている中村本人も、
その辺、ぎこちなかった。


評価 ★★★☆☆

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「転々」 [映画]

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〔2007年/日本〕


大学8年生のオダギリジョーは、
闇金に80万円の借金があり、
取立て屋の三浦友和から返済を迫られていた。


そんなある日、三浦が、
「借金をチャラにし、さらに100万円をやるから、
 ここ吉祥寺から霞ヶ関まで散歩(?)する自分に付き合え」
と言い出した。
実は三浦は、浮気した妻を殺し、自首するつもりなのだが、
どうせなら、桜田門にある警視庁まで行きたいと言うのだ。


そんな美味しい話にオダギリが乗らないはずもなく、
二人は歩き出す。
途中で、様々な人や出来事に出会いながら・・・。





映画全体に漂う空気感が、なんとも言えずに良い。
奇妙で滑稽で可笑しい。


同じ監督の、「亀は意外と速く泳ぐ」でも、
絶妙のコンビっぷりを見せていた、
ふせえりと岩松了が、
今回は、三浦の妻の勤務先のスーパーの同僚として出てくる。
更に、本作ではここに松重豊が加わり、
独特の空間を作り出すのが、
可笑しくてたまらない。


この3人は、主役2人と絡むシーンは全くなく、
3人だけの世界を作り出しているのだが、
こういう職場ってありそう、とも思えるし、
いや、無いだろ、とも思えるし、
とにかく、3人が醸し出す世界がとても好き。


他にも、畳屋の親父役、笹野高史や、
家庭内暴力をする息子、石原良純や、
変なイラストレーター、広田レオナや、
そのほか、なんとも微妙な面々が次々出てくるのである。


オダギリと三浦の会話も絶妙だ。
幼少時に親に捨てられたオダギリは、
次第に、三浦を父親のように思う自分に気付く。


2人は、三浦の偽装妻、小泉今日子の家に行くのだが、
ここで、小泉の姪の吉高由里子が加わり、
4人はあたかも家族のような空間を作り出す。
それはまるで、オダギリが一度も体験した事のなかった、
暖かい家庭のような雰囲気で、
オダギリは三浦に、
自首はやめろと言おうかとまで思い始める。


別に泣かせるシーンじゃないんだけど、
良いんだよ、三浦がね。
ぶっきらぼうだけど、優しくて、
本当のお父さんみたいで。


岸部一徳が、本人役で出ている。
岸部に街で偶然出会うと、良い事があるという言い伝えがある、
という設定で。
そんな風に自分を描かれた岸部一徳は、
どんな気持ちだったんだろう(笑)。


評価 ★★★★☆

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「ローラ殺人事件」 [映画]

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〔1944年/アメリカ〕


ローラ・ハント(ジーン・ティアニー)は、ニューヨークを拠点に活躍する、
有名デザイナー。
しかし彼女は、自宅マンションの玄関先で、
散弾銃で撃ち殺される。


辣腕刑事、マーク・マクファーソン(ダナ・アンドリュース)は、
ローラと関係の深かった二人の男に注目する。


一人は、ローラの後援者で、
親子ほども年の違う、ウォルド・ライデッカー(クリフトン・ウェッブ)。
彼はローラが無名の頃に知り合って以来、
何かと彼女の面倒を見てきた。
彼女の地位も、ライデッカーの尽力による所が大きい。


もう一人は、ローラの婚約者、
シェルビー・カーペンター(ヴィンセント・プライス)。
長身で男前のカーペンターだが、
浮気者で借金もあるなど、
どこか胡散臭い。


ところが、登場人物全員が卒倒するような事が起こり、
事態は思わぬ方向へ進んでゆく・・・。





ローラ役のジーン・ティアニーが美しい。
劇中でも、刑事のマーク・マクファーソンが、
あまりに美しい彼女の肖像画を見て、
強く心を惹かれるといった場面がある。
亡くなっている人間に惹かれるなど精神異常だと、
ウォルド・ライデッカーに決め付けられる始末である。


そう、このライデッカーという男が、
いけ好かないのだよ。
娘のようなローラに執着し、
彼女に近づく男は全て遠ざけてしまう。


こやつは、後援者というより、
単なる嫉妬に狂ったおっさんだ。
私は決して、年配者が恋愛してはいけないと思ってはいないが、
ただ、それなりに年を重ねているのだから、
年相応の分別を持ってほしいものだよ。


アメリカでは大変に評価が高く、
国立フィルム登録簿に登録されているそうだ。
確かに、途中からの意外な展開と、犯人探しは、
中々緊張感があって面白い。


評価 ★★★☆☆

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「コント55号とミーコの絶対絶命」 [映画]

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〔1971年/日本〕


坂上二郎と萩本欽一は、
市役所の“なんでもやる課”に勤務する兄弟。


坂上は真面目で吝嗇、
萩本はお調子者で、
坂上の努力により、萩本は大学まで出させてもらったおかげで、
頭が上がらない。


ある日萩本は、新宿のゴーゴーバーで、
県会議員の妾腹の娘、太地喜和子と知り合い、
彼女に猛烈に惚れられてしまい、婚約させられる。
しかし、ワガママな太地に、
萩本は今一つ、気が乗らない。


市役所の上司は大喜びで、
萩本に係長の椅子を与え、
萩本は、坂上の上司という事になってしまう。


坂上は、少し前から胃痛に悩んでおり、
病院で診察を受けたが、
勘違いから、末期癌だと思い込む。


さらに二人は、病気の母親を助けながら賢明に働く、
由美かおるに惚れてしまい、
彼女を奪い合う事になる・・・。





今なら、2時間ドラマでもやらないような内容であるが、
きっと、コント55号の人気は凄かったのだろう。
何しろ、監督は野村芳太郎。
野村さんの監督人生の中で、
特に初期の作品という感じでもなくて、
それだけでも、55号の当時の人気が偲ばれる。


俳優陣も、主だった役以外に、
財津一夫、なかにし礼、田中邦衛、和田アキ子、倍賞美津子などが、
ほんのチョイ役で出てくる。


特に倍賞美津子の美しさには驚いた。
田舎から出てきたホステスという役だったが、
見入ってしまうくらい綺麗。
その頃から大女優の片鱗があったのね。


今年3月に亡くなった坂上二郎さん。
だからといって、この映画を選んだというわけではなく、
以前から、DVD化されたコント55号の映画を
何本か観ているのだが、
内容より、当時の日本人の生き方や、
東京の風景が見られて楽しい。


大島渚監督の、「御法度」を観た時、
坂上さんを、上手い俳優さんだなぁと思ったものだ。
惜しい方がまた一人亡くなった。


ところで、タイトルの「ミーコ」とは、
由美かおるを指すのであろうか。


評価 ★★★☆☆

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