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「あれが港の灯だ」 [映画]

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〔1961年/日本〕


日本の漁船「第一日の丸」と「第二日の丸」が、
韓国の怪船に銃撃される。
「第一」の漁師が一人殺されるが何とか逃げ延び、
港に戻ってくるが、
「第二」は拿捕されてしまう。


「第一」の漁師の一人、
木村(江原真二郎)は、実は在日朝鮮人だが、
その事は、周囲の者にひた隠しにして働いていた。


幼い頃、朝鮮人という理由でひどく苛められた事が、
頭から離れず、
それが彼の現在の性格を形成しているといっても良かった。


村の娘、安田千永子は木村に惚れていて、
何かとちょっかいを出してくる、可愛い娘であったが、
自分の立場上、それに応えられるはずはなく、
適当にかわしていた。


ある日、木村は、戯れに買った娼婦(岸田今日子)から、
朝鮮人である事を見抜かれる。
彼女は、「在日の自分は、他の在日もすぐ見抜ける」と話す。


さらに、ある日、木村の故郷から、
同級生の石田(高津住男)がやって来て、
同じ漁船の乗組員になる。
自分の出自をバラされるのではないかと怯える木村。


木村は思い切って、船長(山村聡)に、
自分の事を打ち明ける。
しかし船長は、木村の母から手紙を受け取っており、
「知っていたよ」と言ってくれる。


また漁に出る日が来た。
船長は、乗組員たちに木村が在日である事を周知する。
沖で操業中、
また韓国の怪船に追われ、
銃撃される第一日の丸。
船の運命は。
そして、木村は・・・。





タイトルから、
なにか海を舞台にした青春ものかと思ったが、
シリアスで重い内容であった。


主人公・木村の、在日朝鮮人でありながら、
それを公に出来ない苦しみ。
自分が何者なのか分からず、
どちらの国の人間にもなり切れない苦悩が、
画面から痛いくらい伝わってくる。


梁石日さんなどの小説を読むと、
同じ在日でも、特にそれを隠さない人、
ひた隠しにする人など、
人によって、様々なようだ。


その人や、その家族がそうしようと決める理由って、
どこにあるのだろう。
やはり幼い頃の体験が、
その後の人生を大きく左右すると言っていいのだろうか。


石田はとても気持ちのいい奴で、
木村の事を他人に話すような事はしない。
それどころか、テレビでボクシングを観戦中、
日本人ボクサーを力一杯応援する木村に、
「お前は自分を朝鮮人だと言うけれど、
 それなら何故あんなに日本の選手を応援するんだ、
 お前は日本が好きなんじゃないか」と言ってくれる。


木村の母が船長に宛てた手紙も心を打つ。
たどたどしい日本語で書かれた手紙には、
息子を愛する気持ちと、
韓国の船が日本の船を攻撃した事を謝る気持ちが、
綴られている。


だからこそ。
私は、ラストが、
どうしても、どうしても、どうしても納得いかない。
なんであんな最後にしてしまったのか。
あれじゃ悲しすぎる。
というか、あんな終わりじゃ、
人間同士が分かり合えるわけがない。
たとえ現実がそうであったとしても、
せめて映画の中だけでも、
他人が他人の為に涙を流す、
そんな場面が観たかった。


評価 ★★★☆☆

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「戦火の馬」 [映画]

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〔2011年/アメリカ〕


1910年代。
イギリスの農村で、1頭の美しい馬が誕生する。


貧しい農場の小作人、ピーター・ミュランは、
農耕馬を買いに競りに出掛けるが、
その馬の美しさに魅せられ、
周囲の者が止めるのも聞かず、
無理して競り落とす。


以前から、その馬に憧憬を抱いていた、
ミュランの息子・ジェレミー・アーヴァインは喜び、
“ジョーイ”と名付け、信頼関係を築いてゆく。


ところが、第一次世界大戦が勃発。
ジョーイは軍馬として、売られてしまう。
イギリス軍の将校・トム・ヒドルストンは、
ジョーイを絶対に大切にするとアーヴァインに約束し、
前線へ赴くが、戦死。


その後ジョーイは、
脱走したドイツ軍の兄弟、
祖父と暮らす、フランス人の少女などの手に渡りながら、
数奇な運命に翻弄される。


そして、その頃、
アーヴァインも兵士として戦場に赴いていた。
アーヴァインとジョーイは再会できるのか・・・。





イギリスの児童文学を、
スピルバーグ監督が映画化したのだそうだ。


一頭の馬を通して、
戦争の愚かさを描いている。
多少大味な気もするが、
「映画を観た!」という満足感が得られる。


戦地での馬の扱いで、
とても酷い場面があって、
観ていられない箇所があった。
言葉の話せないもの(動物や幼い子供)が、
辛い目に遭うって、
やり切れない思いがする。
本当に嫌だ。


それでもジョーイは、
仲間の馬を思い遣る演技をする。
あれが実写なのか、CGなのか、
私にはよく分からないけれど、
人間のようなその優しい心がまた、
いじらしくて泣けてくる。


ジェレミー・アーヴァインが戦地で、
体のある箇所を負傷する。
私はその傷が無事に治癒するのかが、
気になって気になって。
馬も勿論大事だけれど、
人間が戦争で致命的な傷を一生背負ってゆくのは、
辛すぎる。


ピーター・ミュランの行動で、
一つ解せない点があった。
彼はジョーイが畑を上手く耕せない事に怒り、
ライフルで殺そうとするのだよ。
でも、それっておかしい。
周りの人があれほどジョーイを買う事に反対したのに、
それを押し切ったのはあんたじゃん、って。
農耕馬でない事は、最初から分かっていたのに。
なんだかとても、納得のいかない場面であった。


評価 ★★★☆☆

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「ジュノーと孔雀」 [映画]

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〔1929年/イギリス〕


アイルランド、ダブリン。
中年女・ジュノー(サラ・オールグッド)は、
年中、「足が痛い、体調が悪い」と言い訳し、
働かないぐうたら夫を抱え、
貧しい日々。


夫婦には、美しい娘と、
紛争で片腕を失った息子がいる。
この息子は何か曰くがありそうだ。


ある日、一家の親類が亡くなり、
多額の遺産が転がり込んでくるという話を、
公証人のチャーリー・ベンサムが持ってくる。
舞い上がる夫婦。
彼らは、洋服をあつらえたり、
蓄音機を買ったりと、
遺産を当てにして、買い物三昧。


ところが、遺産は入らないとの噂が流れ始める。
さらに、娘はベンサムに妊娠させられた挙句に捨てられ、
息子は、拳銃を持った男たちに連れ去られたのち、
殺されてしまう。
何もかも失い、ガランとした家の中で、
神様に祈るジュノー・・・。





ヒッチコックの初期の作品だが、
何が言いたいのかさっぱり分からない。


元々、舞台劇だったようで、
登場人物たちは、
家の中と、
その近所くらいが行動範囲。
広がりもなく、退屈。


本当はもっと、政治的な話が絡んでいて、
長男がそれに関係しているようなのだが、
遺産の話とは関係がなく、
なんだかどうでもいい感じ。


劇中、ジュノーの家で、
家族や友人たちが歌を歌う場面があるのだが、
その歌詞が可笑しい。
「女房が浮気した」とか「亭主が殺された」とか、
そんな歌を、みんなが嬉しそうに、
年頃の娘まで一緒に、
普通に盛り上がって歌う(笑)。
アイルランドの民謡か何かなのだろうか。


この映画で得た教訓は、
「金をくれると言われても、完全に手にするまでは、
 その気になってはいけない」という事くらいかな(笑)。


評価 ★★☆☆☆

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「板尾創路の脱獄王」 [映画]

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〔2009年/日本〕


昭和初期。
信州の刑務所に収監された鈴木雅之(板尾創路)は、
過去に、2度の脱獄暦があり、
看守たちも、彼の行動には特に注意していた。


案の定、鈴木はその刑務所でも、
その日のうちに脱獄する。
しかし、脱獄後は看守の予想に反して、
当然行くであろう経路は選ばず、
すぐに捕まり、特に抵抗もしない。


そんな彼の行動を不思議に思った看守長・金村(國村隼)は、
何か理由があるはずだと気付くが、
鈴木は理由を話そうとはしなかった。


その後も、彼は、
何度も何度も脱獄を繰り返す。
最初に逮捕されたのは無銭飲食の軽犯罪だったが、
脱獄の度に刑期が累積され、
ついには無期懲役にまで膨らんでしまう。


最終的に鈴木は、
“監獄島”と呼ばれる、
脱出不可能な、孤島の刑務所に送られる
金村は鈴木が気になり、
島まで視察に出掛けるが・・・。





板尾創路の、お笑い芸人としての評価はよく知らないけれど、
彼の、「空中庭園」と「空気人形」での演技がとても好きなので、
なんとなく気になる俳優さんの一人。
本作は、彼の初監督作品だそうだ。


主人公の鈴木雅之は、脱獄を繰り返すけれど、
その方法は、大して重要ではない。
あんな頑丈な手錠をどうやって外したんだ、とか、
あんな高い所にある鉄格子から、
どうやって抜け出したんだ、とか、
そんな事はあまり問題ではない。


それより、観ている者は、
彼がなぜそこまで執拗に脱獄を繰り返すのか、
それが知りたくて見入ってしまう。


板尾は全編、ほぼセリフ無しだが、
回想シーンから察するに、
その理由は、それこそ彼が生まれた時にまで遡る。


荒れる海に囲まれた、脱出不可能な“監獄島”というと、
イーストウッドの「アルカトラズからの脱出」を思い出すが、
板尾はそこでも、脱出を試みる。
その方法は、「アルカトラズ~」とは違って、コメディっぽいが。


脱獄の理由はちょっと弱い気がするけれど、
オチの馬鹿馬鹿しさに軽く笑える。


評価 ★★★☆☆

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「潜水服は蝶の夢を見る」 [映画]

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〔2007年/フランス〕


47歳、ファッション雑誌ELLEの編集者、
ジャン=ドミニク・ボビー(マチュー・アマルリック)は、
眠りから目を覚ます。
ここは病院らしい。
医師や看護師から、名前を尋ねられ答えるが、
なぜか相手には聞こえていないようだ。


医師らの話を総合すると、自分は脳溢血で倒れ、
一命は取り留めたが、
全身に麻痺が残る“ロックト・インシンドローム”をいう状態で、
かろうじて動かせるのは、左目の瞼だけらしい。


言語療法士のアンリエット・デュラン(マリー・ジョゼ・クローズ)は、
ジャンとコミュニケーションを取るための、
ある方法を思い付く。


それは、ジャンが何かを伝えたい時、
アンリエットがアルファベットを読み上げ、
ジャンの話したい頭文字まできたら、
瞬きをしてそれを伝えるという方法だった。


日本語で言うなら、
「わたし」という言葉を伝えるのに、
「あいうえおかきくけこさしすせそ・・・」と読み上げ、
「わ」まできたら、瞬きをして合図し、
次の「た」もまた、「あいうえお・・・」から繰り返すという、
気の遠くなるような方法。
(アルファベットは、使う頻度の多い順に並べてはあるが)


ジャンは倒れる前に、本の執筆契約を結んでいる事を思い出し、
その方法で、本を出版する事を思い付く。


生きる気力を取り戻した彼は、
本を作りながら、
様々な過去の出来事を思い出したり、
見舞いに来てくれた人々と交流する。


ある日、彼はほんの少し、頭を動かせる事に気付く。
それは希望の光だったが、
また別の症状が彼を襲う・・・。





これは、実話だそうで、
ジャンが闘病中に執筆した本も、
出版されているそうだ。


最初からショックな展開。
最初、彼の目は両方とも開いているのだが、
何らかの理由(医学的な事はよく分からなかった)で、
右の目は使わないようにした方がいいとの判断から、
なんと、瞼を縫い付けるという処方をされる。


ジャンは「瞼を縫うだって!? や、やめてくれ!」と、
心で叫ぶが、その思いは誰にも通じず、
カメラはジャンの右目の視点で、
縫われてゆく様子を映し出す。


しかし、その後の展開は、難病物だからといって、
不思議と悲壮感はない。


本の出版を決めたジャンは、
病室に電話を取り付ける。
セッティングに来た電話局の職員2人は、
ジャンが話せない事に気付き、
「じゃあ、何で電話が必要なんだ?」
「無言電話する為じゃないのか?」と、
ブラックなジョークを言い、笑い合う。


それを聞いたアンリエット・デュランは怒るが、
ジャンは心で大爆笑。


ああ、そこなのよ。
意外とそんなものなのかもしれないな、と思う。
病気や障害はもちろん悲しいし、
周囲の人たちが気を使う事も大切だけれど、
案外本人は、時に、その事を自体を笑い飛ばしてしまいたいと
思っているのかもしれないなぁ、と。


ELLEの編集者をしていただけあって、
倒れる前のジャンは、
オシャレで女遊びも激しかったようで、
妻がいる病室に、愛人から電話がかかってくる。
愛人は、数分でいいから、
部屋から出て欲しいと妻に頼み、
スピーカーで「愛している」と伝える。


その切羽詰った気持ちは分からなくはないけれど、
妻にしたら、それってどうなのって感じなんだけどね。


評価 ★★★☆☆

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