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「母のおもかげ」 [映画]

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〔1959年/日本〕


小学校5年生の道夫(毛利充宏)は、
半年前に母を亡くし、
水上バスの運転手をする父(根上淳)と2人で暮らしている。
彼の慰めは、
亡くなった母の形見の伝書鳩・デデだ。


そんなある日、
父に縁談が持ち上がり、
ほどなくして新しい母・園子(淡島千景)と幼い娘・エミ子を連れて
やって来る。


園子はとても優しく、
道夫も決して彼女を嫌いではなかったが、
どうしても、どうしても、
「お母さん」と呼ぶことができない。


ある日、学校から帰ると、
デデがいない。
エミ子が鳩舎の扉を開けてしまい、
飛んでいったという。
半狂乱になった道夫は、
エミ子に激しい暴力を振るい、怪我をさせてしまう。


「この結婚には無理があった・・・」
園子は苦しみ、
エミ子を連れて、家を出ようとするが・・・。





少年映画・家族映画の傑作。


道夫を演じる毛利充宏が素晴らし過ぎる。
彼のセリフや、動きは、
もちろん演出によって付けられたものなんだろうけど、
とにかく心を打つ。
凄い。


同じセリフでも、
言い方によって雰囲気がまるで違ってくるのは、
当たり前なんだけれど、
ラストの一言など、
「そうきたか」と、こちらが唸ってしまうような上手さ。
あぁ、私の文章力では伝わらないのがもどかしい。


亡くなった母と、
新しい母との間で、
激しく揺れる道夫の心。
彼は、一人の部屋で、
園子に甘える練習までして、
今日こそは「お母さん」と呼ぼう、と、
健気な様子を見せる。


しかし、実際に園子の前に出ると、
どうしても素直になれない。
道夫の心の内を知らない大人たちは、
「なぜお母さんと呼ばないんだ」と
彼を責めるけれど、
彼の心の内を知っているこちらは、
「やめてあげて」と叫びたくなってくる。


道夫は、亡き母の写真を机にしまっていて、
家に帰るとまず、「ただいま」と写真に向かって言う。
涙涙。
5年生の男の子が、
亡くなった母を慕ったって、
誰が責められよう。


道夫の本当の気持ちを、
大人たちは、彼が学校で書いた作文で知る事になる。
それは、ナレーションの形で、
道夫が朗読するという演出なのだけれど、
その読み方が、
私が想定するより、とてもゆっくりで、
その分、じわじわと心に沁み入ってくる。
なんなんだ、この凄い演出は。


新しい母親を演じる淡島千景さんも、
とてもいい。
これからはもっと、
淡島さんの映画にも注目していこうと思う。


1950年代の、
人々の様子を知る事ができるのもいい。


子供たちの服はみんな、ズボンとセーターという
同じような出で立ち。
「お前、新しいお母さんにいじめられるぞ」などと、
からかうような、心配するような口調で言う、道夫のクラスメイトたち。
それは陰湿ないじめなどとはまた違う、
なんだか牧歌的で、少し笑ってしまうような場面。


隣近所との付き合いも、密接。
向かいの豆腐屋の夫婦は、
親戚同様に道夫たち家族と付き合い、
なにかと世話を焼いてくれる。
私も普段は、人から干渉されるのは嫌いな方だけれど、
こんな関係も悪くはないな、とふと思ったりしてしまう。


このような傑作映画が埋もれているのは、
本当に勿体無い。


評価 ★★★★★

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「杏っ子」 [映画]

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〔1958年/日本〕


高名な作家・平山平四郎(山村聡)は、
妻と、
娘・杏子(香川京子)と
息子・平之助(太刀川洋一)の家族4人で、
ある高原に疎開している。


年頃の杏子に、
縁談が次々舞い込んでくるが、
杏子はどの話にも、今一つ食指が動かず、
そんな時、近所に住む漆山亮吉(木村功)が、
杏子と結婚させてほしいと、平山に申し出る。


亮吉と杏子は結婚し、
本郷に新居を設けるが、
亮吉は売れない小説を書き、
生活は苦しい。


そんな娘夫婦を見兼ねて、
平山と妻は、自分の家の離れを提供するが、
荒んでしまった亮吉は、
朝から酒を飲み、
杏子に当たり散らし、
その声は、平山の母屋にまで聞こえてくる。


結局、また別のアパートを借りた杏子たちだが、
貧しい生活は変わらず・・・。





室生犀星原作小説の映画化で、
タイトルだけは知っていたけれど、
こんな話だったんだ。


出だしは、高原で暮らす、
作家一家ののんきな話という風情で、
これがずっと続くのかと思ったいたけれど、
とんでもない間違いだった。


杏子の根性には頭が下がる。
私だったら、こんな夫、
とっくに見限って出てゆく。


それほど、木村功演じる夫は酷い。
生活力がなく、
毎日毎日小説を書いては、
出版社に持ち込むも、まるで相手にされない。


それでも夫が優しく、穏やかだったら、
まだ救われる。
彼はそんな自分を恥ずかしく思うのか、
杏子に当たり散らすその様は、
観ているこちらが、
辛いというより、呆れ果てると言うしかない。


彼がなぜそこまで依怙地になって、
小説家を目指すのか、
それは、偉大すぎる舅・平山への
プレッシャーに他ならない。


平山は一度も亮吉を責めた事などないのだけれど、
亮吉が勝手に一人で、
舅を意識し、
時に、負け惜しみを口にする。


平山の家に間借りしているときの場面が
一番辛かった。
平山とその妻にしたら、
毎日毎日、娘が婿から酷い仕打ちをされるのを見続ける事になる。
私だったら、娘が可哀想で気が狂いそうになるだろう。
そして、その苦しさから逃れたい一心で、
「別れたら?」と口に出してしまいそうだ。
それでも平山は、
「夫婦の事だ」と、口出しはしない。


どうやら原作では、
離婚するようだけれど、
映画の杏子は、
絶対に別れるとは言わないし、
ものすごく強い。
あの強さはどこから来るんだ。


親は大金持ちだし、
離婚したって生活の心配は全くないのに・・・
と思う私は、
相当に甘えている女なのでしょうね(笑)。


これは絶対、原作を読まなければと
強く思った1本。


評価 ★★★★☆

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「沈丁花」 [映画]

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〔1966年/日本〕


上野家の、
長女・菊子(京マチ子)、
次女・梅子(司葉子)、
三女・あやめ(星由里子)、
四女・さくら(団令子)の四姉妹のうち、
あやめとさくらは結婚したのだが、
菊子と梅子は、なかなか相手が見つからない。


というのも、
菊子はバリバリの歯科医、
梅子はその助手で、
菊子曰く、
「どんないい男でも、大口開けた姿はカバに見える」との事。


2人の結婚を心配する母・あき(杉村春子)は、
親戚に縁談を頼み、
外国帰りのサラリーマン・工藤(宝田明)が
患者として送り込まれるも、
そう簡単には事は運ばない。


そんな中、近所に新しい歯科医院ができ、
そこの医師・大岡(小林桂樹)が、
患者のフリをして偵察にやって来る。


他にも様々な男性が出たり入ったり。
最後に彼女たちが選んだ相手は・・・。





タイトルや、美しい四姉妹の写真から、
しっとりとしたシリアスドラマかと思ったら、
とんでもない(笑)。
笑いの絶えないコメディだった。


なんといっても、京マチ子さんが
歯科医という設定が、
今まであまり見た事がない気がして、
面白い。


白衣を来た彼女は、
妹で助手の司葉子さんと、
弾むようなセリフで、
男の品定めをしたり、喧嘩をしたり、
テンポよく話が進む。


京さんは患者さんに対しても手厳しい。
機嫌が悪いと治療も荒くなり、
男たちは、「痛い痛い」って(笑)。
あんまり行きたくない歯医者さんかも。


京さんの結婚相手の候補が豪華すぎて、
誰を選ぶのか、さっぱり分からない。


仲代達矢、高島忠夫、佐藤允、小泉博、
小林桂樹、夏木陽介、宝田明などなど。


この手の映画って、大抵、
主人公と結ばれる俳優さんは大物だけど、
他はそうでもなくて、
「あ、この人と結婚するのね」と、
分かるものだけれど、
これだけ主役級に並ばれると、
見当がつきやしない(笑)。


四姉妹も豪華なら、
男優陣も豪華な、
なかなかシャレた1本。


評価 ★★★☆☆

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「わが恋わが歌」 [映画]

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〔1969年/日本〕


歌人・吉野秀雄(中村勘三郎)は、
次男・健次(竹脇無我)が、
スウェーデン人の恋人・リーナを連れてきたことに腹を立て、
追い返す。
元々、吉野に反発心を抱いていた健次は、
これを機会に家を出、リーナと暮らし始める。


長男・浩一(中村嘉葎雄)は病気で、
長期療養中、
長女・泰子(北林早苗)は、家に寄りつかない。
吉野は内心、淋しくて仕方がなかったが、
それを認められずにいる。


そんな彼を献身的に支える、
後妻のとみ子(岩下志麻)。
とみ子は、
吉野が先妻・はつ子(八千草薫)を亡くし、
自暴自棄になっている時にやってきた家政婦で、
そのまま吉野と結婚した。
バラバラな家族をなんとかまとめる、
利口な女だ。


長男の浩一が病院から戻ってきた。
平穏な日々が訪れるかと思われたが、
浩一の恋人が自殺し、
彼自身も、心の病を発症、
また吉野も、倒れてしまい・・・。





先妻が八千草薫で、
今妻が岩下志麻って、
この主人公、どんだけ果報者なの(笑)。


私がこの主人公だったら、
それだけで大満足しちゃいそう(笑)。
もちろん、人生、妻が美人なら、
それでいいってものではないだろうけど。


この主人公は、
子供が自分の思い通りにならない事を
嘆いているようだけれど、
私から見ると、
それは自業自得なのでは、と。


彼は子供が歩み寄ろうとしても、
全て自分からぶち壊す傾向があるらしく、
子供が開いてくれた誕生会に来ずに
旅に出てしまったり、
病気見舞いに来てくれたのに追い返したり、と、
あまりにも酷い。


こんな事が繰り返されれば、
いくら実の親でも、
いい加減、嫌になってしまうよ。
これで、「子供が冷たい」と言われたって、
子供の方が困るわ。


この吉野秀雄という歌人は
実在の人物だけれど、
私は名前くらいしか知らないし、
本当にこのような人生だったのかも分からない。
ただ、映画の中の、場面場面で、
たくさんの歌が出てくる。


評価 ★★★☆☆

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「家内安全」 [映画]

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〔1958年/日本〕


伊吹家には、
主人の洋介(佐野周二)と、再婚した妻の恭子(三宅邦子)、
長男・洋太郎(平田昭彦)
次男・洋二郎(江原達怡)
長女・雅子(峯今日子)
恭子の連れ子・弘、
そして、おばあちゃんの徳子(飯田蝶子)がいる。


この徳子、
洋介が、浮気相手と熱海に泊まると知り、
洋二郎と旅行に行くフリをして、旅館に乗り込む。
偶然を装い、洋介の部屋に入り、
しっかり釘を刺し、二人を別れさせる事に成功する。


同じ旅館に、洋二郎が片思いしている娘・佐伯忍(家田佳子)が
泊まっていた。
洋二郎は、幼い頃の病気が原因で、
多少頭はゆっくりではあるが、
優しい好青年。
徳子はなんとか二人を結ばせてやりたいと考える。


ところが、忍の美しに目を付けた洋太郎は、
洋二郎の気持ちを知りながら、
忍を自分のものにしようと画策する。
実は洋太郎には、
弄んだ挙句、妊娠させたバーの女給・比呂子(青山京子)がいるというのに。


比呂子のアパートを訪ねた徳子は、
彼女の出生の秘密を知る。
また、同じアパートに、
洋二郎に惚れているOLが住んでおり・・・。





これはもう、飯田蝶子さんに尽きる。


小津安二郎監督の映画には欠かせない飯田さんだけれど、
小津映画によく出ていたのは、
1930年代から40年代が多く、
その頃から、おばさん役ではあったけれど、
1958年のこの映画では、見た目もすっかりおばあさん。


このおばあさんの飯田さんの
大活躍が面白くて。


息子が熱海に浮気旅行に行くと知るや、
すぐに乗り込んで行くのだけれど、
決してモーレツ婆さんという感じではなく、
あくまでも、平凡なおばあさんといった体で、
しかし、決めるところはピシッと決める。


おばあちゃんは、
頭は少しゆっくりだけれど、
心の優しい洋二郎が可愛くて、
なんとか彼の恋を成就させてやりたいと願う。


その行動力には
目を見張るばかりなんだけど、
見た目がおばあさんだからでしょうね、
行く先々で会う相手は油断する。


それは相手の人柄を見るチャンス。
おばあさんの自分に接する態度で、
ある程度の人柄は見極められる。


しかも、おばあちゃんは、
自分のしている事のほとんどは、
誰にも相談せずに、
自分だけで決めて実行している。
周囲を巻き込まないのがいい。


洋二郎の優しさが心に沁みる。
彼は恋していながらも、
自分より優れている兄・洋太郎に、
彼女を譲る事を当然と考える。
計算高く、打算的な洋太郎より、
ずっと魅力的。


評価 ★★★★☆

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