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「白痴」 [映画]

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〔1951年/日本〕


亀田欽司(森雅之)は、
戦犯として死刑判決を受けていたが、
執行直前に人違いと分かり、釈放される。
しかし、その時のショックが原因で、
「白痴」になってしまったのだと人に話す。


北海道に向かう汽車の中で、
欽司と知り合った赤間伝吉(三船敏郎)は、
欽司の純粋な気持ちに惹かれ、
自分の事を話す。


伝吉は、大金持ちの息子だったが、
ある男の囲い者になっている女・那須妙子(原節子)に激しく恋し、
ダイヤモンドを贈った事を父に知れ、感動されていた。
しかし、父が亡くなったため、実家に帰るのだと言う。


札幌の写真館の前を通った欽司と伝吉は、
そこに飾られていた妙子の写真を見つめた。
彼女のあまりの美しさに、息を呑むように・・・。





今年の9月に、亡くなられていたという、
原節子さんのニュースを読んだ時、
自然にすっと涙が出た。


私は、特別な原さんのファンというわけではなかったけれど、
古い邦画が大好きな人間として、
原さんの映画は何本も観てきたし、
たくさんいる女優さんの中でも、
やっぱり特別な存在だった。


日本の女優さんとしては、
背が高く、
目鼻立ちがハッキリしていて、
大輪の花のようだった。
演技については、
あまり上手くないと評されることもあったようだけれど、
きっとそれは、上手くないのではなく、
他の女優さんより、
全てが大きいので、
「大味」な感じがしてしまうのではないか、と、
そんな風に感じる。


原さんといえば、小津安二郎監督というくらい、
小津作品に沢山出られていた女優さんだけど、
小津監督は、
「原節子は大根ではない。
 最高の映画女優だ」と語っていたそうだ。


私が原さんの出演映画で一番好きなのはなんだろうと、
出演作のリストを見てみた。
色々あるけど、
私のベストワンは、小津監督の「小早川家の秋」。
まぁ、これは原さんが主役という感じではないけれど。
「お嬢さん乾杯」も、コミカルな感じで好きだな。


やっぱり代表作は「東京物語」という事になるのだろうか。
ただ、私は「東京物語」より、
救いようのない、
「東京暮色」の方が心に残っている。


で、この「白痴」。
これは黒澤明監督が、
敬愛するドストエフスキー原作の小説を映画化したのだそうで、
原さんの訃報を知り、
何か1本と思い、借りてきた。


正直、こんな原さん見たことない、という映画だった。
私が見たことのある原さんは、
いつも誰かの娘だったり、妻だったりして、
たおやかな笑顔でいる役が多い気がするのだけれど、
これは全然違う。


金持ちの男の囲い者として、
気位の高さと、引け目が、内面で渦を巻いているような、
激しい女。
もしかしたら、本当の原さんって
こういう人なんじゃないかと思うくらい。


そして本当に美しい。
ロシア文学を日本に置き換えるのは、
無理がある気がしたけれど、
原さん一人だけ、
ロシアにいても不思議じゃない女って感じで、
その存在感に圧倒された。
こんな言い方はとても失礼だけど、
「こんな役もできるんだ」というのが一番の感想。
原さんの意外な一面を見られた事が、
この映画の一番の収穫。


評価 ★★★☆☆