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「楢山節考」 [映画]

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〔1958年/日本〕


山奥の寒村。
その村では、70歳になると、
息子に背負われて楢山に行くというのが慣例になっていた。
日々の暮らしにも欠く生活、
人口はそうやってバランスを取るしかないのだ。


69歳のおりん(田中絹代)は、
すぐにでも山に行く事を望んでいたが、
母思いの息子・辰平(高橋貞二)は、
その気になれずにいた。
辰平は妻に死なれ、
家事や子育てはおりんに任せていた。
そんな折、辰平に新しい嫁をどうかとの話が来る。


相手は、三日前に亭主を亡くした、隣村の玉やん(望月優子)。
やって来た玉やんに会い、
その性格の良さを確認したおりんは、
これで心置きなく山に行けると安堵し、
石臼に自分の歯をぶつけて折る。
歯が丈夫な老人は、
食い意地が張っていると見なされ、
村では何よりの恥だった。


玉やんが妊娠し、
ますます山への思いを強くしたおりんは、
辰平に「明日行く」と言った。
驚いて止める辰平だったが、
おりんの決意は固く、
その夜、村の長6人を集めて、
楢山参りの作法を聞く。


翌日、辰平に背負われて、
おりんは山に向かった・・・。





「楢山節考」といえば、
カンヌ映画祭でグランプリを取った、
今村昌平監督作品の方を思い出す方が多いかもしれないけれど、
こちらは、その25年前に作られた、
木下恵介監督の作品。


深沢七郎の原作も、
そして今村昌平監督の方も素晴らしい作品であるが、
これも本当に良かった。
今村作品より30分短いぶん、
より原作の短編に近く、無駄がない。


ちょっと変わっているのは、舞台劇のようなその作り。
自然の中の村の暮らしの物語なのに、
すべてはセットの中で描かれる。
でも、基本の物語が良いので違和感がない。


姥捨てという悲惨な風習を題材にしているのに、
そこまで悲壮感がないのは、
何より、おりんの性格に因る所が大きいと思う。
彼女は名前の通りの凛と老婆で、
全てに達観した、見習いたくなるような女だ。
私もあんな風に年を取りたいと思わされるような。


おりんと玉やんの関係も素晴らしい。
「気持ちがいい」という言葉が一番ピッタリくる。
玉やんはおりんに会ったすぐから彼女を慕い、
またおりんも、玉やんを気に入り、
誰にも教えていない、山女魚が大量に捕れる場所を
玉やんに案内する。


おりんが「山に行きたい」と言う度に、
玉やんは「まだいいですよ」と言う。
出立の朝には、本気で涙する。
なんていい女なんだろう。
ちなみに、今村作品の方では、
あき竹城がその役を演じていた。
彼女も玉やんのイメージにピッタリだった。


村では泥棒が一番の罪というような描かれ方も、
あの貧しさを見ていると納得する。
食べ物が少ない中、
他人の物に手を出すのは御法度。
苦しいのは皆同じなのだ。
それをした者は、本人だけでなく家族にまで、
厳しい制裁が加えられる。


山に登る道すがら、
辰平は何度も母に話し掛ける。
しかし口をきいてはならぬとの掟から、
母は物を言わない。
辰平は何度も何度も、
「かあちゃん、かあちゃん、喋ってくれよ」と泣く。
まるで幼い子供のように。
観ているこちらも、泣かずにはいられない。


これらの習わしが、
昔の日本に本当にあったのかどうか、
それともフィクションなのかは私には分からない。
けれど、大人の昔話として秀作だと思う。


評価 ★★★★★

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