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「ぼくらの家路」 [映画]

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〔2013年/ドイツ〕


10歳の少年・ジャックは、
母と、6歳の弟・マヌエルの3人家族。


母は、ジャックとマヌエルを
決して愛していないわけではないのだけれど、
まだ若く、どうしても遊びの方に気が行ってしまう。


ジャックは、母の代わりにマヌエルの面倒をみているが、
ある日、マヌエルが火傷をしたのをきっかけに、
ジャックは施設に、
マヌエルは母の友人に、それぞれ預けられる。


夏休みになるが、母は迎えに来てくれず、
ジャックは施設を飛び出し、
マヌエルを連れ出し、
一緒にアパートに帰る。


ところが、アパートには鍵がかかっており、
中に入れない。
母のケータイに電話をしても、
留守電になるばかり。
母のいそうな、あらゆる場所を訪ね、
ベルリン中を歩き回る兄弟だったが・・・。





この静かで、しかし衝撃的なラストな何なんだ。
10歳の少年が選択した道に、
観ているこちらは、言葉を発する事もできず、
呆然とするしかなかった。


映画の間中もずっと、
深く息をしないと観ていられないような、
息苦しさが続く。


10歳とはいえ、
上の子というだけで、
弟の面倒をみているジャック。
その責任感は、下手な大人よりずっと強く、
懸命すぎて痛々しいほどだ。


ただ、如何せん、子供は子供。
家の鍵がなかったら、
どうにかする方法もあるだろうに、
その知恵がまだ働かない。
ただひたすら、
母を探して彷徨うだけ。


この子たちがこんな目に遭うのも、
全て母のせいと言えるわけなんだけれど、


この母は、決して子供を怒鳴ったり、
殴ったりするわけではない。
一緒にいる時は、
抱きしめたり、キスしたり、
それなりの愛情を示す。


なので観ているこちらも、
彼女を憎み切れない。
だから困る。
彼女が絵に描いたような嫌な女だったら、
心で彼女を罵りながら観る事ができるのに。


この無自覚な母と、
大人すぎる少年に、
私は、かける言葉も見つからない。


評価 ★★★★☆

「にんじん」 [映画]

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〔1932年/日本〕


寄宿学校に入っている少年・フランソアは、
長期休みで家に帰れるというのに、
心は晴れない。


彼はなぜか、両親、兄、姉から疎まれ、
名前さえ呼んでもらえず、
その赤毛とそばかすから、「にんじん」とあだ名されていた。


特に母親は「にんじん」を嫌い、
虐待を繰り返す。
父親は、積極的な虐待はないが、
「にんじん」に全く関心のない、冷淡な男だった。


そんな中、新しい女中・アネットが住み込みで働くようになった。
彼女は一家の、
「にんじん」に対する不当な扱いに気付き、
何かと彼を庇うようになった。
そしてついに、
父親に、母親の「にんじん」に対する仕打ちを訴えた。


その訴えは、
わずかだが、父親の心に響き、
以来彼は、なんとなく「にんじん」を気にかけるようになった。
しかし、母親の虐待に耐えかねた「にんじん」は、
納屋のロープを自分の首にかけ・・・。





子供の頃、
気に入った本は、何度も繰り返し読んでいたけれど、
この「にんじん」は一度しか読んでいないのか、
途中でやめてしまったのか、
読み始めたのは確かに記憶にあるけれど、
ラストまでは覚えていない。


子供心にも、
悲惨すぎると思ったのだろうか。
本来、子供が一番頼りにするであろう家族から、
名前さえ呼んでもらえない少年。


さらに、「にんじん」自身の両親の呼び方にも驚く。
彼は父親を「ルピックさん」、母親を「奥さん」と呼び、
私はてっきり「にんじん」は、継子なのだと思ったくらい。


「にんじん」は、おそらく10歳くらいかと思われるけれど、
そんな年端もいかない子供の中に、
もう1人の自分がいて、
「死んじゃえよ、お前なんか必要のない人間だ、死んじゃえよ」と
繰り返し、囁きかける。
あんな幼い子供が自死を考える事自体が異常だが、
彼をそこまで追い詰める家族(特に母親)はもっと異常だ。


映画の最初、
「にんじん」はそれほど暗い少年ではない。
むしろ、剽軽な印象さえ受けるのだけれど、
そうでもしないと、
自分を守っていけないようにも見て取れて、
余計に辛くなる。


そんな彼が、
突然キレたように、
馬車を暴走させるシーンがある。
鬱屈したものが一気に溢れ出たかのような場面で、
どうにもやりきれない。


原作は120年も前に書かれた小説だけれど、
そんな頃から、いや、それ以前からずっと、
虐待という問題はあって、
そして、この先の未来もずっと続いていくのかと思うと、
気が滅入る。


しかしこの映画のラストは、
「にんじん」と父親の心のふれあいが描かれているのが救い。


評価 ★★★★☆

「わたしに会うための1600キロ」 [映画]

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〔2014年/アメリカ〕


最愛の母を亡くし、
男とドラッグに溺れるシェリル(リース・ウィザースプーン)は、
一念発起する。


アメリカ西海岸を縦断する砂漠の中の自然歩道、
「PCT(パシフィック・クレスト・トレイル)」に
挑戦しようと決めたのだ。


その道のりは1600キロ。
何の経験もなく、
何の知識もない、
ど素人のシェリルは、
リュックに、詰め込めるだけの物を詰め、
歩き出す。


しかし、
火を起こすための燃料を間違え、
テントの設営にてこずり、
野性動物の声に怯え、
ついには、足の爪まで剥がれてしまう。


しかし、何度も挫折しそうになる気持ちを奮い立たせる。
母が自慢にしていた自分を取り戻すために・・・。





あまり期待していなかったけれど、
良い映画だった。


この邦題が良くない。
これではまるで、
一時流行った、「自分探しの旅」みたいな印象を与えてしまう。
ジュリア・ロバーツの、
「食べて、祈って、恋をして」じゃないんだからさ(笑)。
原題は「WILD」よ。
全然違うじゃないか。


それにしても、
アメリカの広い事ったら、
観ているこちらの方が、この先大丈夫なのかと、
不安になってしまう。
「TPC」は自然歩道と訳されているけれど、
ピクニック気分の歩道とは全然違う。
周囲には、砂漠や草原が続くだけ。


それでも、旅慣れている人なら、
どうって事もないんだろうけれど、
シェリルのど素人っぷりは、
歩き旅などした事のない私と変わらない(笑)。
もしも私が、同じ事をしようとしたら、
シェリルと同じか、
それ以上に鈍臭い事だろうと想像する。


シェリルはこの旅を完遂したいと思ってはいるけれど、
だからと言って、
「意地」のようなものは感じられない、
そこがいい。
途中で止めたとしても、
別にどうって事ないし、
誰に咎められるわけでもない。
止める事は簡単だけど、
続けられるなら続けよう、くらいの気持ちが、
私のような者には心地いい。


生活を大きく変える前に
旅行をするのは、
人の心の切り替えの為に、
とても良い作用があると聞いた事がある。
例えば、新婚旅行などにも、
そういった意味合いがあるという。


これは想像だけど、
この旅行のあとシェリルは、
自暴自棄になっていた生活とは縁が切れて、
母が生きていた頃のような彼女に戻れるのではないか、と、
そんな気がする。


評価 ★★★★☆

「ハッピーボイス・キラー」 [映画]

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〔2015年/アメリカ〕


バスタブ製造工場で働くジェリー(ライアン・レイノルズ)は、
どこか変わった青年。
彼は、同じ会社で経理課のフィオナ(ジェマ・アータートン)に
片思いしている。


ジェリーには悲しい過去があり、
今は、精神科医にかかりながら暮らしている。
薬を飲まないと、
ペットの犬と猫は、常に自分に話しかけ、
また、どこからか別の声も聞こえてくる。


ある日、ジェリーは、
フィオナとデートの約束を取り付けるが、
すっぽかされ、ガッカリ。
しかし、帰り道で偶然彼女に会い、
そのまま、ドライブへ。


ところがジェリーは、
森の中でパニックになり、
フィオナを刺し殺してしまう。
翌日、遺体を持ち帰った彼は、
それを切り刻み、
頭部だけ、冷蔵庫に入れる。


フィオナの同僚のリサ(アナ・ケンドリック)は、
フィオナが失踪した事を不審に思いながらも、
ジェリーと付き合うようになる。
そしてある日、ジェリーの家をアポなしで訪問したリサは・・・。





この映画は、


・気持ちが落ち込んでいる人
・体調の悪い人
・死体が苦手な人(得意な人はいないだろうが(笑))


にはお奨めしない。
ポップで可愛いポスターや、
ちゃらけたような邦題(原題は「THE VOICE」だ)に惹かれて観ると、
大変な事になる。


といっても、実は私もその一人(笑)。
待ち合わせの前に、
映画を観ようと思って、
ちょうどいい時間の作品を探していたら、
本作に行き当たり、
「なんか可愛いっぽいし、面白そう」と思って、
観にいったのだ。


あぁ、でもでも、
途中から吐き気がする。
その日の約束は、中華を食べに行くという事だったのに、
なんて事だ、やばい・・・って(笑)。


主人公のジェリーが人を殺す。
まぁ、それはいい。
問題は、その後、バラバラにした遺体の
保存方法。
詳しくは書かないけど。


ジェリーが、一見、
気の弱そうな、普通の青年だから、
余計に気持ち悪いのかも。
これが強面で屈強な男だったら、
最初から覚悟して観られるのに。


ただ、気持ちは悪いけれど、
面白いとは思ったな。
映画は、どれくらい観る者に影響を与えるかが重要だと思うから、
人に吐き気を催させてまで、
見入る事ができた本作は凄いと思う。


某サイトでの評価は最低だけどね(笑)。
まぁ、分からなくもないけど、
ただ逆に、
そういった評価だけで判断しないように気を付けようとも思う。
悪趣味な映画だけれど、
私は「観て良かった」と思ったわけだし。


そうそう、
エンドロールが終わって、
ドアを開けたら、
「Tシャツプレゼントの当選者の座席番号」、というのが貼り出されていた。
「そんなのあるんだ」と思いながら、確認してみたら、
なんと、当選していましたよ(笑)。
こんな軽ーい気持ちで観た映画で、
景品までもらって、なんだか申し訳ない気分。


評価 ★★★★☆

「欲望」と「三島由紀夫の家」 [できごと]

小池真理子さんの「欲望」は、
三島由紀夫の邸宅を模した家で繰り広げられる
男女の物語で、
読んだのは9年前。


欲望

欲望

  • 作者: 小池 真理子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1997/07
  • メディア: 単行本



この小説をとても面白く思った私は、
篠山紀信氏の写真集、
「三島由紀夫の家」を、
図書館から借りてきた。


三島由紀夫の家 普及版

三島由紀夫の家 普及版

  • 作者: 篠田 達美
  • 出版社/メーカー: 美術出版社
  • 発売日: 2000/11/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)




現代の感覚からすると、
そのインテリアは装飾過多と言えなくもないけれど、
大変にお金がかかっているのは分かるし、
当時としては、おそらくとてもモダンだったのだろうとも想像できる。


この「三島由紀夫の家」が、
現存している事を知り、
ずっと行ってみたいと思っていたのだけれど、
先日、それがやっと叶った。


現在もどなたかが住まわれているとの事で、
大声で話したり、
写真を撮りまくるなどをしては
迷惑を掛けてしまう。


同行者と小声で話ながら、
表札の写真を撮らせていただいた。
ずいぶん高い位置にあって、
ちびっ子の私にはこれが精一杯。

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本当に、ただ「行った」というだけで、
だから何という事もないのだけれど、
それでも、
したかった事の一つが実現できた事が嬉しかった。


あとはまた、
写真集をじっくり眺めて、
内覧させてもらった気分に浸ればよし、っと(笑)。