「日本一のショック男」 [映画]
〔1971年/日本〕
過疎化する一方の、東北のある村で、
巡査の日本一作(植木等)は、
自殺をしに東京からやって来た山上春子(酒井和歌子)を助ける。
失恋したという春子のために、
一緒に上京した一作は、
村を捨てて出て行った茶助(加藤茶)が働くキャバレーに行く。
しかし、茶助はいないうえに、
法外な料金を請求された一作は、
その店で働くことになる。
一作の才覚で、
店はたちまち売り上げを伸ばし、
彼は支配人に昇格。
さらに、ひょんな事から、
大企業・金丸化学の社長を助け、
それがきっかけとなり、
社長秘書に抜擢され・・・。
本当にワンパターンとも言えるような、
植木等さんの出世物語。
寒村の巡査だった植木さんが、
東京のキャバレーで、
まず出世する。
その方法というのが、お世辞にも清潔とは言えないもので(笑)。
というのも、彼は、
客の飲み残したビールを
瓶に詰めなおして、
屋台のおでん屋に安く卸す。
その、詰め直し作業をするのが、
なんと、お手洗い。
しかも、一度バケツに集めたビールを、
栓をした洗面台にあけ、
さらに、何に使っているのか分からない柄杓で瓶に。
私も相当のケチで、
勿体ながりだけど、
さすがにこれはない(笑)。
「うげー、汚いよー」と思いながら観る。
1971年当時の衛生観念って、
こんなものだったんだろうか。
興味深いセリフがあった。
「最近は昭和二桁生まれのチンピラが、幅をきかせてやがる」みたいな。
(その中には加藤茶も含まれる)
なるほど。
加藤茶は、当時28歳。
2017年の今、
平成元年生まれの人は、同じ28歳。
今なら、
「最近は平成生まれのチンピラが、幅をきかせてやがる」と
言うのと同じ事なわけね。
いつの時代も、
若者を表す時、
そんな風に、どこか分かりやすい時代で区切って言うのは、
変わらないという事だ。
植木さんの、
真っ赤なスーツ姿が最高。
細身の体にピッタリ合ってて、
しかも、嫌みでない着こなし。
やっぱり素敵な人だったのね。
評価 ★★★☆☆
「しあわせな人生の選択」 [映画]
〔2015年/スペイン〕
カナダで暮らすスペイン人・トマス(ハビエル・カマラ)は、
家族に見送られ、
スペインの友人・フリアン(リカルド・ダリン)を訪ねる。
フリアンは、末期の肺癌で、
もう治療するのは止めたと宣言。
トマスの説得をフリアンは嫌がる。
それはもう、決めた事なのだから、と。
フリアンの一番の気懸りは、
愛犬・トルーマンの事。
自分の死後、トルーマンを飼ってくれる人を
探していると言う。
それから、フリアンとトマスは、
アムステルダムに留学している、
フリアンの息子に会いに出掛ける。
4日間の滞在中、
トマスは、
フリアンの美しいいとこ・パウラ(ドロレス・フォンシ)と
親しくなり・・・。
試写会で観た。
人生の終わりが見えた中年男性が、
4日間を親友と過ごす物語。
スペインのアカデミー賞と言われるゴヤ賞で、
5冠を獲得した作品だそうだ。
自分の生や死をどのように扱うか、考えるかは、
それこそ、100人いたら100通り、
肯定はしても、否定はしないという
スタンスでいたいと思うけど、
フリアンの気持ち、分かるな。
フリアンが決めた事を、
トマスが覆そうとするのだけれど、
フリアンは、
「君は今、この瞬間考えた事を言っているだけだ。
僕は1年間考えて結論を出したんだ」と言う。
もちろん、トマスの気持ちだって十分解かる。
何十年も友達だった人が、
余命宣告され、
治療は止めたと言われたら、
ショックで、
つい、何か言いたくなってしまうだろう。
自分が死ぬは、
もう覚悟ができたとして、
気にかかるのは、残された命あるもの。
それは身内であり、ペットであり。
息子に会いに行ったフリアンは、
自分の余命を、息子に告げようとするが、
結局、言えない。
それはそれでいい。
息子の恋人を紹介され、
和やかにお食事できたことに、
観ているこちらも、ホッとする。
ただ、その後、
実は息子の方がフリアンよりずっと大人なことが分かる。
若造だからと、
侮ってはいけないね。
余談だけど、
フリアンとトマスは、
マドリードからアムステルダムに行くのに、
なんと日帰り。
ランチしに行っただけって感じ。
今、YAHOO地図で、
マドリードからアムステルダムの距離を測ったら、
約1500キロ。
ちなみに、東京から約1500キロだと那覇くらい。
那覇まで日帰りランチかぁ(笑)。
すごく贅沢で、もったいない旅な気がするけど、
国同士が、陸続きでひしめき合うヨーロッパは、
日本とはまた感覚が違うのかも。
気軽に外国気分が味わえていいな、とも思うけど、
いやいや、日本は島国だからこそ平和なのだと
思い直したり。
それから、トマスはたった4日間のスペイン滞在中、
最後の夜に、
パウラと一夜を共にする。
さすがラテン系。
情熱の国スペイン。
面倒くさい事は一切なし。
2人は何事もなかったかのように、
空港でバイバイしてたし。
評価 ★★★☆☆
「リベンジ・リスト」 [映画]
〔2016年/アメリカ〕
中年男・スタンリー・ヒル(ジョン・トラヴォルタ)が、
妻・ビビアンと、
空港で車に乗ろうとした、その時、
3人の強盗に襲われ、
スタンリーは助かるが、
ビビアンは死ぬ。
警察は、
犯人の一人を逮捕するが、
証拠不十分で釈放してしまう。
実は、スタンリーは、元工作員であり、
殺人はお手の物。
警察が当てにならないなら、
自分でやるしかないぜ、ってんで、
昔の仲間・デニスと組んで、
復讐開始。
すると、この事件、
単なる強盗ではなく、
知事が仕組んだ、
政治的な理由がある事が分かってくる・・・。
まったく、手垢の付いたような、
平凡で、よくある復讐物なんだけど、
それはそれで、面白く観た。
ジョン・トラヴォルタって、
いい俳優だ。
銃を持たせても、めっちゃハマるし、
コメディもいける。
カッコいいんだか、悪いんだかも
イマイチ判断できず(笑)、
どこか隙があって、
愛嬌があって、憎めない。
この映画も、
そんなトラヴォルタが大活躍・・・なんだけど、
「それって、映画として反則なんじゃ?」という
場面があった(笑)。
トラヴォルタが、ラスボスの知事に復讐するため、
知事の大邸宅に行く。
すると、庭には、
何十人という用心棒が、ウロウロしている。
あんなに沢山の用心棒、どうやって倒すのさ、
と思って観ていると、
なんと、次の場面で、
用心棒たちは全員、死んでいる。
どうやって倒したのか、
その場面は一切無し。
いくらなんでも、省きすぎだろうよ(笑)。
63歳のトラヴォルタに、
激しいアクションはきつかったのか?
まぁ、いいけど。
トラヴォルタだから(笑)。
それにしても、
アメリカも、日本も変わらんね。
どんな酷い事件があっても、
政治家の圧力一つで、
それが揉み消され、
犯人は野放しのやりたい放題。
警察は政治家の犬に成り下がり、
裏社会と癒着しまくり。
さらに、政治家は、
「環境のために、身を粉にして働いてます」って体でいながら、
実は、自分に入ってくる莫大な利益が何よりの目的で、
データを全て改ざんした資料を、
国民に発表。
映画だからトラヴォルタがやっつけてくれるけど、
現実は、
そういった人たちに、
特に天罰など下る事なく、
殆どはお幸せなまま、人生が終わるのだろう。
それならこっちも、自由に生きなきゃ損だ、
好きにやってやる、ってな気持ちになるよ。
評価 ★★★☆☆
「光をくれた人」 [映画]
〔2016年/アメリカ・オーストラリア〕
1918年。
第一次世界大戦から帰還したトム(マイケル・ファスベンダー)は、
戦争に疲れ果て、
街から160キロ離れた灯台で、
たった一人、働く事を決める。
灯台に行く直前のトムと知り合い、
文通を始めたイザベル(アリシア・ヴィキャンデル)は、
次第に彼に心惹かれ、
結婚を決め、
灯台に移り住む。
幸せな生活だったが、
イザベルは2度流産。
悲しみのどん底に突き落とされる。
すると、そんな中、
浜辺にボートが流れ着く。
何とそこには、男性の遺体と、
元気な女の赤ちゃんが乗っているではないか。
トムとイザベルは、
赤ちゃんにルーシーと名付け、
自分たちの娘として育てる事を決意する。
「可愛い可愛いルーシー。
お前は私たちの子よ」。
ところが、イザベルの実家に帰った際、
トムは、偶然の事から、
ルーシーの本当の母親を知ってしまう・・・。
観ていて、
一体誰に感情移入していいのか、
本当に複雑な気持ちになる。
この映画の予備知識は、
「流れ着いたボートに乗っていた赤ちゃんを育てる、
灯台守夫婦の話」
くらいしかなかったのだけれど、
トムとイザベルの出会いから、結婚までが、
とても丁寧に描かれていて、
2人に好感が持てたし、
さらに、イザベルの、2度の流産というのが、
流れ着いた赤ちゃんを、自分の子として育てるという、
本来なら、してはいけない事を、
「仕方ないのでは」と、
観客に思わせる事に成功している。
女が流産をして、
悲しみに打ちひしがれている時に、
身元不明の、可愛い赤ちゃんが流れ着いたら、
その子を、神様からのプレゼントのように感じてしまっても、
それは仕方ない気がする。
私はイザベルを責める事なんてできない。
赤ちゃんが、意図的に捨てられたとか、
父親も、母親も、亡くなっていたのだったら、
どんなに良かっただろう。
けれど、赤ちゃんの母は母で、
ボートで流された夫と子供を探している。
彼女たち夫婦にも、
結婚に行き着くまでの、
美しく、哀しい物語があり、
子供は、その愛の結晶だ。
あぁ、もう、どうすりゃいいんだ。
ラスト、
号泣というほどではなかったけど、
やはり、少し泣いてしまった。
それから、本筋とは全然関係ないけど、
街から160キロも離れた灯台での、
トムとイザベルの新婚時代の、
「2人きり感」が凄い(笑)。
恋人同士が、
2人で部屋にいる時などに、
「今、私たちは、この世界に2人だけね」なーんて、
甘い言葉を囁いたりするのはよくある事だけど、
当然、外に出れば、
通行人もいるし、車も走ってる。
でも、この映画の場合、
外に出ても、誰もいないのよ。
本当に2人しかいないのよ(笑)。
羨ましいんだか、
羨ましくないんだか、
よく分からない環境だった(笑)。
評価 ★★★★☆
「日本一のワルノリ男」 [映画]
〔1970年/日本〕
東北の高校教師・日本兵介(植木等)は、
東京の会社「世界陶器」に就職した教え子・白坂八郎(加藤茶)が
起こした不祥事を詫びに、上京する。
八郎が会社を飛び出したため、
その穴埋めに、
八郎が見つかるまで、
「世界陶器」の社員として働くことになった兵介は、
知り合ったソープ嬢と、その仲間を、
「世界陶器」の女工にと、紹介する。
その実績が認められ、
係長になった兵介。
今度は、無名のモデルを使って、
商品の売り込みを大成功させる。
またまた、実績が認められ、
課長になった兵介は、
今度は、新しく作られる予定の大型ホテルの、
バスルームやトイレを、
全て「世界陶器」の品を採用させる事に成功。
部長になった兵介は、
常務が企てる、
会社乗っ取りの陰謀を阻止し、
ついに社長に就任するが・・・。
まるで出世魚のように、
調子の良さだけで
出世してゆく男という、
植木等さんお得意のストーリー。
植木さんの、
「気が付くと出世している男」の映画を観ると、
いつも、
「えーっと、彼は何でこんなに偉くなってるんだっけ?」と、
振り返らずにはいられない。
それくらい、とんとん拍子に事が進む。
そして、それがとっても羨ましい。
そんな風におちゃらけながら人生の荒波を越えてゆけたら、
どんなにいいだろうって(笑)。
しかも、この映画の植木さんは、
サラリーマンですらない。
高校教師が、生徒の不祥事を謝りに行っただけなのに、
気が付いたら社長なのよ、社長にまで昇りつめるのよ(笑)。
もちろん、彼は調子がいいばかりではなく、
努力もしている。
まず、先見性があって、
相手の行動を読んで、
先回りするのがとっても上手い。
それから、咄嗟の機転が利く。
危機に強い。
運もいい。
植木さんのこの手の映画は、
夢物語だ。
でも、これくらいなら自分だって
何とかなれるかも、と思えてしまう。
実際には無理なんだけど、もしかしたら、と。
だから楽しい。
だから大好き。
評価 ★★★★☆