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「共喰い」 [映画]

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〔2013年/日本〕


昭和63年、夏の下関。
17歳の遠馬(菅田将暉)は、
父・円(光石研)と、父の愛人・琴子(篠原友希子)と
3人で暮らしている。
実母・仁子(田中裕子)は近所で魚屋を営んでいる。


父は性交の際、
女を殴りつけるという性癖があり、
母はそれを嫌って家を出たのだ。
父と琴子の性行為を盗み見ている遠馬は、
そんな父の嗜虐的な面を毛嫌いし、
自分は違う、と思っている。


しかし、同級生の千種(木下美咲)と
繰り返し性交するうちに、
自分にも父と同じ血が流れている事に気付き、
愕然とする。


琴子も母と同じように、
父の暴力に耐え切れず、家を出ていった。
琴子を探し回っていた父は、
神社で遠馬を待っていた千種を見つけ・・・。





原作者・田中慎弥さんが第146回芥川賞を取った時の
記者会見の模様は、
もう数えきれないくらい繰り返し、
録画されたものを見た。
(というか、今も時々見る(笑))


不機嫌を隠さない表情と物言いの、
面白さと、ハラハラさせる感じが、
なんだろう、私の心の何かを掴んでしまったようだ。


生まれてから一度も仕事をした事がないという田中さんの生き方も、
私にはとても面白く、
この人の事をもっと知りたい、
どんな小説を書くのか読んでみたいという気持ちになるのも、
自然の流れ。


ただ、そうなると、
どうしても比べてしまうのが、
田中さんの1年前に芥川賞を取った、西村賢太。
(あまりに好きすぎて、他人のような気がしないので敬称は略(笑))。
変わり者っぷりでは、
どちらも負けていない両者ではあるけれども、
(馬鹿にしているわけではないです。最大級の褒め言葉)
やっぱり私は圧倒的にケンタの書く物が好きかなぁ。


そんな田中さんとケンタが会話したら、
どんな感じなのかと思っていたら、
2人が対談して、
それが収められた本が出て、
当然、読んだ。
意外と普通だった(笑)。
どちらかが怒り出したり、不機嫌になったりしたら怖いなと思っていたけれど、
お二人共、やっぱり本当はちゃんとした大人なんだ。
当たり前なんだけど、そんな当たり前がちょっと嬉しい。


で、映画の感想は、といえば、


問題の主人公の父親の運命は、
ああなるしかないんだろうなぁって。


性交の最中、暴力を振るうってのは、
女も承知の上なら別にいいんじゃない?と思っていたけど、
やっぱり彼は最低だった。
病的な感じさえする。


主人公の母役の田中裕子さんは、
化粧っ気のない役を演じる事が多いけれど、
この映画でも、
元夫と愛人が住む家の近所で暮らすという、
複雑な役を、
迫力ある演技で魅せていた。
変な若作りする女優さんより、ずっと素敵。


評価 ★★★☆☆

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「さあ帰ろう、ペダルをこいで」 [映画]

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〔2008年/ブルガリア〕


1980年代。
まだ共産政権下にあったブルガリアの小さな町で、
男の子が誕生する。
彼はアレックスと名付けられ、
両親と祖父母に愛されながらスクスクと成長する。


祖父のバイ・ダン(ミキ・マノイロヴィッチ)は、
ボードゲーム「バックギャモン」の名人で、
アレックスにも、それを教える。
アレックスはバイ・ダンが大好きで、
「バックギャモン」の血筋もしっかり受け継いでいるようだ。


しかし、不安定な政権下、
父・ヴァスコと母・ヤナは、ある理由から、
アレックスを連れて亡命せざるを得なくなってしまう。
大好きな祖父母との別れ。
それはとても辛いものだった。


それから25年。
バイ・ダンの所へ連絡が入った。
ヴァスコの運転する車が事故を起こし、
ヴァスコとヤナは死亡したと。


アレックスは奇跡的に助かったが、
しかし、記憶を失い、
駆け付けたバイ・ダンの顔を見ても、
何も思い出せない・・・。





祖父と孫が、
二人乗りの自転車を漕いで、
孫の生まれ故郷に向かうという物語。
いい映画だった。
親子の情愛を描いた映画もいいけど、
祖父と孫というのも、なかなか良いものだなぁと感じる。


その祖父・バイ・ダンがとてもいい。
彼は「バックギャモン」が大好きで、
町内の老人には誰にも負けない実力を誇っているけれど、
ゲームで金を賭ける事は絶対しない。


最初はてっきりギャンブル的に楽しんでいるのかと思っていたので、
その姿勢に、めっちゃ好感が持てる。
日本で言えば、囲碁や将棋を楽しむお爺さんみたいなもの?と
思ったりもして。


バイ・ダンが、アレックスを迎えにいって、
故郷に向かって自転車で漕ぎ出すわけだけれど、
ただのロードムービーではなく、
合間に、過去の様々な出来事が、
回想シーンのように挟まれる。


アレックスの両親がなぜ亡命しなければならなかったのか、
その理由も泣かせる。
アレックスの家族は全員、
愛情深い、いい人ばかりなんだ。


亡命者を収容する施設で、
幼いアレックスが、
建物の隙間に、あるオモチャを隠し、
それを、帰郷の途中で発見する場面には涙が出た。
それって、校庭にタイムカプセルを埋めて、
数年後に取り出す時の感激と同じ心理なのか、
人間は本能的に、そういった事にロマンを感じるのかも、と、
自分の気持ちの有り方を面白くも感じた。


ラスト、
「んな馬鹿な」と捉えられそうな事が起こるけれども、
でも、ギリギリで荒唐無稽にはならず、
納得できる作りになっていて、
それも素晴らしかった。
人生、何が起こるか分からない。


評価 ★★★★☆

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◆春琴抄◆ [本]


春琴抄 (新潮文庫)

春琴抄 (新潮文庫)

  • 作者: 谷崎 潤一郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1951/02/02
  • メディア: 文庫


11月に斎藤工くんの「春琴抄」を観て、
その世界観に圧倒され、
5日連続5本の映画化作品を
観たわけだけれど、


やはり原作を読まなければ、
完全に理解したとは言えない、と、
図書館で借りた。


映画もいいけど、
やっぱり本はいい。
映画では理解しきれなかった、
春琴と佐助の気持ちが、
より深く心に沁みこんでゆく。


映画ではあまり描かれる事のなかった、
春琴の両親の気持ちも、
小説では丁寧に描かれ、
盲目となった娘に対する哀しみと、
しかし、次第に驕慢になってゆくその性格への憂慮などが、
細やかな文章で綴られる。


春琴のお腹の子の父親問題だけれど、
小説では、
生まれた子は佐助にソックリであったと書かれていて、
断定的な表現ではないけれども、
暗に答えが分かるようになっている。
(ラストでは、もっとハッキリ描かれているけれど)


気位が高く、
格下の丁稚と関係を持ったなどと、
他人に知られるのは、
春琴にとって耐えがたい屈辱らしいのだけれど、
それも悲しいなぁ。


まぁ、元々、嗜虐的な傾向があって、
そんな状況をどこかで楽しんでいたのなら、
それも有りかなと思ったりもするけれど。


斎藤工くんの映画を一番最初に観たせいもあるけど、
5本観た映画の中で、
一番春琴のイメージに近かったのは、
長澤奈央さんだったように思う。
(次点は渡辺督子さん)


そして、前にも書いたけれど、
一番観たい京マチ子さん版だけが、
未ソフト化のようで、本当に残念。
名画座では何度かかかっているようなので、
今後に期待。

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「ゴーン・ガール」 [映画]

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〔2014年/アメリカ〕


ミズーリ州の田舎町。
今日は、ニック(ベン・アフレック)と
エイミー(ロザムンド・パイク)夫妻の
5回目の結婚記念日。


ところが、ニックが外出先から帰ると、
エイミーの姿が見えない。
部屋には争ったような形跡があり、
床には大量の血痕が拭き取られた跡が残っていた。


美しい人妻の失踪事件は、
すぐ全米に知られる事となり、
ニックは一躍有名人に。


さらに、あるテレビ番組の内容が、
あたかもニックが犯人のような報道をした事、
そして、ニックの愛人がテレビに出た事などから、
彼は窮地に追い込まれてゆく・・・。





妻の失踪事件と、
マスコミの誘導で、
犯人にさせられそうになった夫の苦悩が
並行して描かれるドラマ。
2時間半の長い映画だけれど、
全く飽きる事はない。


なにしろ、ベン・アフレック演じる夫・ニックがダメダメで(笑)。
なんだか優柔不断な上に、
容疑者に近い扱いを受けてるってのに、
自宅で愛人と関係したりしている。
まぁ、そんなダメっぷりが、
逆に映画を盛り上げてて面白いんだけど。


それから、
世論の怖さを痛烈に感じる。
ある事件が起こった時、
被害者に近い人(家族など)が、
なぜか犯人と疑われて、
ネットの掲示板は大騒ぎ、なんて事が、
日本でもたまにあるけど、
当事者にとっては悪夢のような出来事だろうと感じる。


この映画の場合、
そんな大衆を巧みに誘導しているのが
あるテレビ番組で、
あんな風に報道されたら、
内容を鵜呑みにしてしまう人だって出てくるだろう。
いや、鵜呑みにはしなくとも、
面白がって、
ネットに書き込んだりする人だっているはずだ。


細かい部分は突っ込みどころ満載。
「それは無理だろ」とか、
「警察が調べれば、すぐ分かるでしょ」とか、
「あの人物は、その後出てこないわけ?」とか。


まぁ、そんな事はどうでもいいくらい、
スクリーンに釘づけになるから、いいとしよう。
とにかく、
もしかして病んでる?という登場人物が多く、
目が離せない。


評価 ★★★★☆

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「若親分兇状旅」 [映画]

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〔1967年/日本〕


軍港に近い町で、
海軍の高木少佐が割腹自殺を遂げる。


高木少佐の親友・南条武(市川雷蔵)は、
自殺の理由を探るべく、
町を牛耳るボスや、
土建屋を調べ始める。


どうやら、かつての部下・金杉が、
事件に絡んでいると睨んだ南条は、
金杉の身辺を調べ始める。


また、高木の下宿先の娘・早苗(葉山葉子)から、
高木の死の直前の話を聞くが、
早苗は南条の名前を聞いた途端、
顔色を変える。
「海軍時代、あなたは私の兄を殺した」と・・・。





シリーズ7作目。


若親分・南条武を演じる雷蔵さんは、
相変わらずカッコいいけれど、
ここまで引っ張ると、さすがにネタ切れかなぁとも思う。


本作には都はるみさんが、
料理屋の主人の妹役で出ているのだけれど、
なぜか、歌を2曲も披露し、
まるで歌謡ショー(笑)。


しかも、途中で突然町を逃げ出し、
ストーリーとは殆ど絡む事なく、
映画は終った(笑)。
そんな風に都さんをゲスト出演させる、
芸能事務所同士の、何らかのやり取りがあったんだろうと、
勝手に想像したけれど。


海軍時代の南条の様子が、
回想シーンで挟まれるんだけど、
昔から南条は、男気を発揮していたらしい。


彼は上官のミスを、
咄嗟の機転で
自分から率先して被り、上官が叱られないようにする。
あんな事をされたんじゃ、
その後、その上官は、
絶対に南条に一目置かざるを得なくなるじゃないか。
もし現代の職場に彼がいたら、
ちょっと怖い存在だろうという気がする。


それから、早苗の兄を殺したというエピソードも、
実は南条は全く悪くない。
男気を発揮しすぎて、
失敗しちゃったって感じで。


土建屋を仕切る女親分を、
江波杏子さんが演じているのだけれど、
ガテンなお仕事をしている時の姿と、
艶やかなお着物の姿とのギャップが凄くて、
超カッコいい。
最初は南条の敵だと思われた彼女も、
結局、南条の側に付くというのも、お約束(笑)。


評価 ★★★☆☆

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