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「鑓の権三」 [映画]

yarinogonza.jpg
〔1986年/日本〕


松江藩の小姓・笹野権三(郷ひろみ)は、
美丈夫な上に、槍の名手、
さらに茶の道にも通じるパーフェクトな男。
女たちは彼に憧れ、
彼を讃える流行り歌までできる始末。


笹野には、将来を誓い合った娘・雪(田中美佐子)がいたが、
雪の強い思いに対して、権三の気持ちはどこか冷めている。
また雪の兄・伴之丞(火野正平)は、
同じ茶の道を志す権三をライバル視し、
激しい憎しみを抱いていた。


その伴之丞、
彼は、
参勤交代により、夫が1年間の江戸詰めとなり、
その留守を守っているおさい(岩下志麻)に、
ストーカーのように付き纏い、
なんとか自分のものにしたいと狙っている。
貞女で知られたおさいは、
伴之丞を毛嫌いしているが、
それでも彼は諦めない。


おさいの家には、
茶道の極意を記した密書、「真の台子」がある。
権三は、それを見せてほしいとおさいに願い出る。
しかし、「真の台子」を他人に見せる事は厳禁。
おさいは、その条件として、
長女・菊と権三の結婚を申し渡す。
権三は雪を捨て、その縁談に乗る事を承諾する。


その日の深夜、
おさいの家で、「真の台子」を見せてもらっていた権三は、
おさいを手籠めにしようと忍び込んだ伴之丞にその姿を見られ、
不義密通だと勘違いされてしまう・・・。





郷ひろみが主演だからと、
アイドル映画だと馬鹿にしてはいけない。
さすがに近松門左衛門の原作とあって、
中々面白い。


郷は劇中、大変な美丈夫として描かれているが、
(私はそうでもないと思うが(笑))
実は人間として、
かなり小ずるい面があり、
そんな役を引き受けた郷に、
この映画に賭ける本気度が見える気がする。


彼は、自分を激しく愛してくれている娘・雪と、
既にベッド(布団か(笑))を共にしていながら、
その態度は煮え切らない。
観ているこちらにしたら、
雪を性欲の捌け口にしか考えいないように見受けられる。


さらに彼は、自分の顔を頭巾のような物で隠し、
(このジャケット写真)
色町に女を買いに行く。
別に誰が女を買おうが、
好きにさせてやりなよとは思うけれど、
なんというか、
性欲に負けてしまう、槍や茶の名手らしからぬ行動は、
彼の人間性を表す場面として秀逸だと思う。


そして、「真の台子」を見せてもらう代わりに、
娘と結婚してやってほしいと乞われた時の
彼の態度ったら。
雪と、自分の出世とを天秤にかけ、
瞬時に出世を取ってしまう、その判断、
彼が、世間で言われるような
聖人君子で無い事が、ここでハッキリとする。


雪が権三に贈った、
手刺繍を施した帯の使い方なども面白く、
なるほど、と思わされる。


映画はとても楽しめたけれど、
一つ気になる事が。
これって、近松門左衛門の、
ちゃんとした原作通りなんだろうか。
五社英雄監督の「女殺油地獄」でえらい目に遭ってるからな(笑)。


同じ話を、
「おさい権三 燃ゆる恋草」というタイトルで、
瑳峨三智子さん主演で映画化されているようだけれど、
ソフト化されていないようだ。
いつか、どこかの名画座でかかったら、
絶対観に行くんだけど。


評価 ★★★★☆

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「マイ・インターン」 [映画]

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〔2015年/日本〕


ファッションサイトを立ち上げ、
その手腕で会社を急成長させたアン・ハサウェイ。


ある日、会社の福祉事業の一環として、
シニアインターンの募集をし、
何人かの応募者の中から、
70歳のロバート・デ・ニーロが採用される。


ハサウェイは自分の下で働く事になったデ・ニーロを、
最初は問題にしていなかったが、
彼のきめ細やかな仕事ぶりに、
次第に心を通わせるようになる。


ハサウェイは仕事上のある悩みに、
大きな決断を迫られている。
それを見守り、
時に、的確な助言をしてくれるデ・ニーロは、
彼女にとって、なくてはならない存在となる。


さらに、主夫である夫と、
幼い娘を抱えるハサウェイは、
家庭と仕事の両立にも悩み・・・。





アン・ハサウェイとロバート・デ・ニーロ共演の
ヒューマンドラマ。


もしこの映画が、
ハサウェイとデ・ニーロがラストに結ばれる、
なーんて内容だったら、
本気でうんざりしてしまう所だったけれど、
全くそのような事がないので、
楽しめる。


ロバート・デ・ニーロの仕事ぶりが素晴らしい。
まさに、「痒い所に手が届く」という言葉がピッタリの、
有能さ。
勿論それは、長年の会社生活で培った
経験からくるものなんだけど、


彼には、そういった高齢の人にありがちな、
「自分の方が知っている」
「若い者のやり方では駄目だ」
「年上の自分に敬意を払え」
などという態度は、1ミリもない。


なんて素敵なんだろう。
キレる老人が社会問題になっている今、
皆が彼のようだったら、
世の中、どれほど円滑に進むだろう。


むしろこの映画では、
ハサウェイの娘の幼稚園での母親たちの
厭ったらしさが際立っている。


懸命に働くハサウェイを、
まるで仇のように陰口を叩き、
イジメに近い嫌味を言う、ママ友たち。
それは、仕事のできるハサウェイへの
嫉妬以外の何物でもなく、
そんなに悔しいの?と聞きたくなるような
気分の悪さ。
さらに彼女たちの一人は、
とんでもない事をしでかしてくれる。


まぁ、それは映画のほんの一部。


全体的に、コミカルで、
アン・ハサウェイの魅力いっぱいで、
元気になれそうな内容。
友情に男も女も、
そして年齢も関係なんだなぁと思わせてくれる、
素敵な映画。


評価 ★★★★☆

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「先生と迷い猫」 [映画]

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〔2015年/日本〕


校長を定年退職した、森衣恭一(イッセー尾形)は、
偏屈な老人。
妻に先立たれ、孤独な彼は、
毎日やって来る野良猫・ミイを邪険に追い払う。
妻は生前、
この猫に餌をやっており、
この猫の顔を見ると、
妻を思い出すため、辛くてたまらないのだ。


美容院を経営する容子(岸本加代子)は、
毎日やって来るミイをタマコと呼び、
店の中に、昼寝の場所を提供している。


森衣の教え子だった真由美(北乃きい)は、
ミイをソラと呼び、
餌付けをして、いずれ飼い猫にしようと思っている。


女子高生のさぎりは、
ミイをチヒロと呼び、
いじめに遭う辛さを紛らわしている。


そんなある日、
ミイが姿を見せなくなった。
ミイ・タマコ・ソラ・チヒロ。
呼び方は違うが、心配する気持ちは皆同じ。
森衣たちは手分けして、
猫探しに奔走するが・・・。





定年退職した校長先生が猫探しをするというこの映画、
観始めた時、
「枯れた映画だなー。こんなの面白いのかなぁ」と思ったのだけれど、
話が進むにつれ、
味が出てくるようになった。


イッセー尾形演じる、
主人公が、最初はなんだか好きになれず、
「いるいる、こういう老人」と思ったのだけれど、
彼の抱える孤独が分かってくるにつれ、
私の心が寄り添うようになる。


この映画が一番言いたいのは、
「優しくしようとした時、もう相手はいない」
つまり、今、目の前にいる人を大切に、
後悔しない生き方をしよう、って事なんだと思う。


町の人々から可愛がられる猫が、
それはもう、びっくりするくらい可愛い上に、
お利口。
脚本を読んで、
理解してるんじゃないかってくらい。


校長先生が、
北乃きい演じる元教え子に、
色紙に書いて贈った言葉。


「愛感同一」


北乃は、意味を聞くのだけれど、
先生の答えは、なんだか要領を得ない。


でも、ラスト近くでその意味が分かった時、
涙が出た。
私も最近、ちょっとした出来事があって、
この「愛感同一」を、めっちゃ実感している所だったから。


この四文字熟語の意味は、
映画を観ていただければ分かると思います。


評価 ★★★☆☆

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懐かしい友達を探して・2 [できごと]

これから書く事を、
おそらく多くの方は信じて下さらない気がする。
今、これを書いている私自身も、
まだ信じられないのだもの・・・。


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先月12日、
私はこのブログで、
「懐かしい友達を探して」というレビューを書いた。
小学校時代のお友達・H美ちゃんに
もう一度会いたい、という内容だった。
http://aomikamica.blog.so-net.ne.jp/2015-09-12


レビューを書いたあと、
私は、なんとかH美ちゃんの消息を知る方法はないかと考え、
ネットの尋ね人の掲示板で呼びかけてみる事を思い付いた。
ただ、いくつかあるそのようなサイトは、
どれも怪しげな上に、
H美ちゃんと自分の実名を晒さなくてはならない。
とても迷ったけれど、
「一度だけ載せてみよう。3ヶ月載せて、駄目だったら削除しよう」と思い、
それを実行した。


すぐに何通かメールが来たけれど、
どれも、H美ちゃんの名前を騙った偽者であったり、
「あなたに代わって、ご友人をお探しします」という、
興信所からだったりして、
それも、3日もすると来なくなった。
まぁ、当然だ。
H美ちゃんご本人、もしくはH美ちゃんを知る人が、
このような怪しげな掲示板を見る事など、
ほぼ0%言っていいくらい、有り得ない確率だ。


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そして、1週間ほど前、
久し振りに、「情報提供があります」と題するメールが来た。
どうせまた、騙りか興信所だろうと思い、
メールを開封した途端、私の手が震え出した。


差出人の名前は、H美ちゃんご本人だった。
短いメッセージの中に、
私たち2人しか知り得ない、
ある事が書いてあった。
「まさか・・・本人?・・・いや、巧妙な騙りでは・・・」
私の頭は混乱し、
パニックに近い感じになっていたと思う。


震える手で、メールを返信し、
そこに、2人しか知り得ない質問を書いてみた。
しかし、相手を警戒する気持ちは、
当然の事だが、私より先方の方が強いようで、
もう1度送られてきたメールに、
逆に、私への質問がいくつか書かれてあった。


その質問を読んだだけで、
私は、メールの主がH美ちゃんだと確信した。
トンチンカンな質問は1つもなく、
私を知らなければ、聞けないような事ばかりだったから。


私は、質問に答え、
何かの勧誘や、借金の申し込みなどでは絶対にない事を
書き添えた。
そして、
どうしたら、私が本物の私だと信じてもらえるかを考えた末、
お手紙を並べて写真に撮って、送る事にした。
お手紙を大切に取っておいて本当に良かった。
まさか、こんな事で役に立つなんて。


その写真が決め手になった。
H美ちゃんは、少女時代に自分が出した手紙が
写真に写っているのを見て、衝撃を受けたと言う。
なんと彼女は、
たまたま検索していて、私の呼びかけを見たのだそうだ。


嘘みたいだ。
信じられない。
そんな偶然ってあるんだろうか。


もしも、私がこの出来事と同じ内容の映画を観たら、
「有り得ないー」と一笑に付してしまうと思う。
「星の数ほどあるサイトの中から、一つを偶然見つけるなんて、
そんな事、あるわけないじゃん」、と。


ただ、
私は普段、神様など信じない人間だけれど、
友人夫妻が、H美ちゃんが住んでいた家の近くに引っ越した事から始まった、
この一連の出来事は、
何かに導かれているとしか思えない。


奇跡ってあるのね。
本当にあるのね。


今はメールで、
小学校時代の思い出や、
お互いの、これまで生きてきた道のりを、
語り合っています。
きっと近いうちに、
実際に会う事になるでしょう。
H美ちゃんは、どんな大人になったんだろう。
そして、H美ちゃんの目には、
大人になった私はどう映るんだろう。
その日の事を考えると、
ワクワクと緊張で、今から胸が高鳴っています。

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「音楽」 [映画]

ongaku.jpg
〔1972年/日本〕


精神分析医・細川俊之の診察室に、
女性患者・黒沢のり子がやって来る。
彼女は、細川に「音楽が聞こえない」と訴える。


細川は、黒沢を横たわらせ、
何でもいいから、自分の事を語れと指示。
そこから、彼女の問題点を探ろうとする。


黒沢は恋人・森次晃嗣と、
既にベッドを共にしているが、
どうしても快感を得られない事、
森次は彼女にとって、初めての相手ではなく、
田舎の旧家で、
親が決めた婚約者・三谷昇に凌辱された過去がある事などを語る。


また、実の兄・高橋長英に
性的ないたずらをされた事や、
その兄が、叔母と関係している所を見てしまい、
激しいショックを受けた事もあるという。


そんなある日、
三谷が癌で余命いくばくもないと知った黒沢は、
病院に泊まり込み、献身的な看病をする。
何故か黒沢は、
死にかかっている男や、
自殺願望のある男とだと、
快感が得られるらしい・・・。





トンデモ映画だわ、これは(笑)。


三島由紀夫が原作だとの事だけれど、
「んな馬鹿な」の連続(笑)。
おそらく、原作はもっと真面目なんだろうけど、
演出のせいで、
なんだか荒唐無稽な話になってしまったのではないかと思う。


とにかく、登場人物全員の
セリフ回しが大仰で、
どうでもいい場面でも、
すんごく大ごとに感じる。


これは、増村保造監督の、
後期の映画に共通しているような気がする。
私は増村監督が大好きなので、
分かっているけれど、
いきなりこれを観たかたがいたとしたら、
ビックリするんじゃないかしら(笑)。


特に、精神分析医の細川俊之さん。
とにかく怖い。
あんな医者じゃ、
患者は悩みなんか話せないっつーの(笑)。


それに負けず、黒沢のり子さんも凄いけど。
細川さんと黒沢さんの会話を聞いていると、
仇同士みたいだ(笑)。


黒沢さんと、実兄・高橋長英さんとの
関係も凄い。
途中で、目を背けたくなるようなシーンがある。


全体的に、不気味な印象の映画。
でも見入ってしまう。
増村監督って、凄い。


評価 ★★★☆☆

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