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「五人の兄妹」 [映画]

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〔1939年/日本〕


北川家の父親が、選挙違反で逮捕寸前に、
列車から飛び降り、自殺する。


残された妻と子供たちは、東京に出、
苦しい生活が始まる。


数年後、
長男・健一郎(笠智衆)は、強い責任感から、
弟妹たちの父親的存在として、
面倒をみていた。


特に学力優秀な四男・四郎(磯野明雄)の
大学の学費を捻出する為、
工場で懸命に働く日々。


三男・良三(伊東光一)は軍人になる夢を実現させ、
末っ子のすえ子(大塚君代)の嫁入りも決まる。


ところが、すえ子の婚礼の日に、
次男・要二(日守新一)が、
選挙違反で、警察に連行されたとの知らせが入り・・・。





古い時代の長男って、
本当に大変だなぁというのが最初の感想。


笠智衆さん演じる、その長男・健一郎は、
弟妹の為に、何もかもを犠牲にする。
実は彼には、婚約者がいたのだけれど、
父に死なれ、家族を養うという理由で、
彼女とも別れる。


もちろん、何かを我慢しているのは、
健一郎だけではないけれど。
特に、たった一人の女の子、すえ子は、
仄かに思いを寄せる男性がいたのだけれど、
家族の為にと、
別の男の所へ嫁いでゆく。
「仕方ない」といった、
すえ子の表情が切なくてたまらない。


もしかしたら、五人の中で、
一番苦しいのは四郎かもしれない。
彼は兄のおかげで大学に通えているけれども、
その事をとても申し訳なく、辛く思い、
自分の存在さえ否定するような気持ちに駆られる。
それって、少し分かるな。
自分のせいで、人に負担をかけたり、迷惑をかけたりするのには
耐えられないといった、
どこか日本人的なその感情。
四郎に限らず、多くの日本人にはそのような感情があるからこそ、
平和に暮らせるんじゃないかとも思ったりして。


ただ、だからといって、
大学を辞めるのは絶対に駄目!と
思いながら観ていた。
四郎は卒業まであと数か月。
そこまで頑張ったんだから、
あと少し、甘えちゃいなさいよ、って。


問題有りの次男が、
父親とまるで同じ罪で逮捕される皮肉。
父が死んだあとの、
兄の苦労を、
彼は何も分かっていなかったのかしら。


ラストは、希望の光が見える。
人生、悪い事ばかりではない。


評価 ★★★☆☆

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「まらそん侍」 [映画]

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〔1956年/日本〕


安政年間。
安中藩では、武士たちが毎年十四里の道を走る、
「遠足(とおあし)の儀」が行われていた。
今年は上位5人が城に招かれ、
その褒美にと、
家宝の金のキセルで煙を吸う事を許されるが、
海保数馬(勝新太郎)と秋庭幾之助(夏目俊二)は、
むせてしまう。


その時、キセルを渡すお役目をしたのが、
家老の娘・千鶴(嵯峨三智子)。
千鶴は、男勝りのじゃじゃ馬であったが、
その美しさに、数馬も幾之助も一目惚れ。


数馬と幾之助は、
千鶴への思いを互いに打ち明け、
正々堂々と戦おうと誓いあう。
ところが、次席家老の息子・市之丞(大泉滉)までもが
千鶴に惚れており、
先に結婚の申し込みをされてしまう。


千鶴はナヨナヨした市之丞を嫌い、
プロポーズは断ったとの噂だが、
しかし、ウカウカしてはいられない。
数馬と幾之助のどちらが、
千鶴と結婚するのか、
殿は、次の遠足の儀で決めろと言う。


一方、泥棒の丹九郎(トニー谷)とその一味は、
金のキセルを盗み出そうと、
策を練っており・・・。





武士たちが、年に一回、
マラソン大会でその順位を競うという、
現実にそのような事があったのか、なかったのか、
よく分からないけど、楽しいコメディ時代劇。


勝新太郎と夏目俊二の親友同士が、
家老の娘を巡ってライバル関係になる様子が微笑ましく、
また、抜け駆けはよそうと話し合う若者らしい潔癖さが
とても良い。


千鶴は、気の荒い牡馬を手なずけてしまうような、
男の子のような姫で、
特に、数馬と幾之助を家に招いて
お茶をたてる場面には笑ってしまった。


なんというか、彼女のお茶は、
とっても荒っぽくて、
お湯を入れる時も、
茶筅でチャチャチャとする時も、
可笑しなくらい雑で(笑)。
演出とはいえ、
お茶の素養のない私でも分かるその表現が、
とても上手いな、と感心したりして。


クライマックスのマラソンの場面は、
いつの間にか、
モニターににじり寄って、
真剣に観てしまった。


数馬と幾之助のどちらが勝つのか。
そして、そこへ、
金のキセルを盗んだ泥棒が絡んできて、
結果どうなるのか、気になって気になって(笑)。


途中で挟まれる、
大泉滉の走りが笑える。
この物語に、
すんごく楽しいアクセントになっている。


普段、テレビで放映されるマラソン中継を、
積極的に観る事はあまりないけれど、
何かの拍子に観始めてしまうと、
なぜか最後まで観てしまうという、
あの感じって何なのだろう。


選手たちが少しずつ脱落し、
最後に誰が残るのか、
それを観るのが面白いのだろうか。
説明はつかないけど、
マラソンを観るの、嫌いじゃないかも。


評価 ★★★☆☆

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「流転の王妃」 [映画]

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〔1960年/日本〕

明治時代。
侯爵令嬢・竜子(京マチ子)は、
日本の軍部の思惑により、
満州の皇帝の弟・溥哲(船越英二)と
半ば強引に結婚させられる。


誰も知る人のいない中国での生活は、
不安そのものであったが、
溥哲はとても優しく、
竜子はこの地で幸せを見出してゆく。


長女・英生も生まれ、
何も問題のない生活が続いたが、
第二次世界大戦が始まり、
日本が負けると、
溥哲は、竜子たちを残して、
先に日本へ行くことになってしまう。


大混乱の中、残された竜子たちは、
日本へ帰る為、中国大陸をひたすら歩き続けるが、
ついに刑務所に入れられ・・・。





中国の「ラストエンペラー」の弟に嫁ぎ、
数奇な運命を辿った
日本人女性の物語。


そう遠くない昔に、
日本と中国は、このような密接な関係があったのだなぁと、
今の中国との関係を思うと、
その違いを考えずにはいられない。


国が、軍事の為に、
他国の皇帝の弟と日本人を結婚させる事自体、
今は考えられない事だけれど、
時代が時代だったのだろう。


言葉もまるでできない他国へいきなり嫁ぐなど、
どれだけ心つぶれるような思いであったか、
竜子の想像すると涙が出そうな話だけれど、
溥哲の優しさにホッとする。
これで彼が暴君だったら、
気がおかしくなる所だっただろう。
溥哲は日本語も話せるので、
それも竜子には慰めになったに違いない。


そして、終戦直後の大混乱期。
この時、中国や朝鮮にいた日本人が、
どれほどの思いをして日本に引き揚げてきたかは、
様々な映像や本で知る事ができるけれど、
特に竜子は、皇帝の弟の妻。
一般人とはまた違う苦労がある。


しかも彼女は、皇帝の妻・婉容を連れているのよ。
婉容は病気で、他の者のように行動するのは難しく、
けれど責任感から、彼女を支える竜子の強さったら。
これぞ日本の女。


この婉容の人生も、
ちょっと検索しただけで、本当に色々あった事が分かる。
映画では病気とされているけれど、
実際は重度の阿片中毒であったらしいし、
中毒者になった理由も哀しいものがある。
もう一度、「ラストエンペラー」を観たくなる。


監督は田中絹代さん。
田中さんが京マチ子さんを主演に据えて、
このような映画を撮るとは、
その組み合わせだけでワクワクしてしまう。


評価 ★★★☆☆


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「繕い裁つ人」 [映画]

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〔2015年/日本〕


神戸にある「南洋裁店」は、
店主の南市江(中谷美紀)が、
祖母から引き継いだお店。


彼女のモットーは、
一生着たいと思える服作りで、
その為、仕事は全て手作業。


彼女の人気に目を付けた、
デパートの営業マン・藤井(三浦貴大)は、
店の拡大と、服の量産を提案し日参するも、
市江に全くその気がないため、
空振りに終わる日々。


しかし藤井は、
市江が祖母のデザインの踏襲ではなく、
自分のオリジナルのデザインで服を作りたいはずだと考え、
それを市江に伝える。
市江は彼の言葉に心動かされ・・・。





ブランド化には興味を示さず、
量産する事などまるで考えもせず、
一点物の服を丁寧に作り続ける、
中谷美紀さん演じる女性の仕立て屋さん・市江の物語。


彼女はその店を祖母から譲り受け、
祖母の意志をとても大切に思っている。
なぜか、母(祖母にとっては娘)には、
その気持ちは引き継がれず、
一つ飛び越えているのが面白い。


市江の使うミシンがまた、
古めかしい足踏みのもので、
すんごくいい雰囲気。
あんな風に、布を縫うペース全てを
自分で決められる足踏みミシンって、
実はとっても優れものなんじゃないかと思ったりして。


片桐はいりさんが、
市江の服を売る、雑貨屋さんを経営しているのだけれど、
ここで売られている雑貨も、
なんだか可愛いものばかりなうえに、
雰囲気があって、素敵。
本当にこんな店があったら行ってみたいな、と思う反面、
家にあまり物を置かない私は、
きっと商品を見て楽しむだけで、
買う事はないだろうなぁと、
店にとって、一番迷惑なお客になるのが分かっているので、
行かない方がいいんだろうとも思ったりして。


美味しそうな食べ物が、
二種類、何度も出てくる。


一つは、
市江が喫茶店で食べる、チーズケーキ。
彼女はそれを、
カットした物ではなく、
ホールのまま食べる。
小さいホールとはいえ、
全部食べれば結構な量だと思うのだけれど、
何度もそんな場面がある。


それから、市江の母が、
藤井にお茶菓子として出す、串団子。
実は藤井は団子はあまり好きではないようだけれど、
母はそれに気づかず、何度も出す(笑)。


雑貨と違って、
こちらは食べたい(笑)。
両方とも、とっても美味しそうで。
やっぱり私は食い気一筋かも(笑)。


評価 ★★★☆☆

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「旅するジーンズと19歳の旅立ち」 [映画]

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〔2008年/アメリカ〕


前作から3年。
ティビー(アンバー・タンブリン)、
リーナ(アレクシス・ブレデル)、
カーメン(アメリカ・フェレーラ)、
ブリジット(ブレイク・ライブリー)の4人の親友同士は、
全員大学に合格し、
それぞれの道を歩み始める。


ティビーは、ボーイフレンドのブライアン(レオナルド・ナム)と
ついに結ばれるが、避妊に失敗し、
不安な数日間を過ごす事になる。
この出来事により、ブライアンとの仲も微妙にこじれてしまい、
破局の危機に陥ってしまう。


リーナは、
恋人のコスタスから、いきなりの結婚宣言。
相手の女は妊娠していて、
それ以外に道はないと言われてしまう。


カーメンは、再婚した母が臨月を迎え、
自分の居場所がどこにもないと感じている。
大学の友人に誘われ、
演劇の合宿に行き、裏方として働くが、
あるきっかけで舞台の主役に抜擢されてしまう。


ブリジットは、遺跡発掘のため、トルコに出掛ける。
その後、帰国した彼女は、
祖母の家に寄り、
自殺した母が本当は自分を愛してくれていたのだと知る・・・。





先日観た、「旅するジーンズと16歳の夏」の続編。
設定も3年後なら、
公開も3年後で、
4人の少女たちの成長が、
きちんと3年分見られて楽しい。


今の私の3年なんて、
昨日みたいなものだけど(笑)、
16歳から19歳までの差は大きい。
大学生になって、
人生の体験も増えてきた分、深みも増して、
私は前作より、こちらの方が好き。


特にカーメンのバージョンはいい。
大きな目的もなく、
友人に誘われるがままに行った、
演劇の合宿で、いきなり主役に選ばれるという、
その展開が面白い。


彼女の、嬉しいながらも、戸惑う気持ちも理解できたし、
友人の微妙な気持ちも理解できる。
この友人は、ちょっと悪役的な立場になってしまうけど、
私には、そんなに悪い子とは思えなかった。


どんな良い人間だって、
必ず心のどこかに黒い物を抱えているはず。
なんとなく誘ったカーメンが、
自分を差し置いて主役に選ばれたら、
面白くないという気持ちを抱いたとしても、それは仕方あるまい。
友人は、ちょっとしたウソをついて、
そのせいでカーメンは落ち込むんだけど、
別に台本を燃やしたり、衣装を破いたりしたわけでもなし、
あれくらいの嫉妬なら、可愛いもんよ(笑)。


それより、舞台の事以外考えられなくなって、
せっかく遊びにきてくれたティビーに、
酷い態度で接したカーメンの方が、
問題ありだと思ったな。
しかもカーメンは、その後、
ティビーに大変に世話になる。
人生何があるか分からない。
友達は大事にしないとね。


ティビーのボーイフレンドのブライアン役の男の子・レオナルド・ナムが
どう見ても東洋系で、
日本人だったらいいなと思ったけれど、
どうやら韓国系らしい。
若い日系人の俳優さんがもっと活躍すればいいなと思うけど、
中々良い人材がいないんだろうか。


前作同様、
ジーンズは4人の間を行ったり来たりするけど、
その存在はあまり重要ではなくなってしまった。
でも、これからも、
続編が出来ればいいのにな。
主婦になったり、母になったり、キャリアを積んだりの
4人の姿が見てみたい。


評価 ★★★☆☆

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