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「ふがいない僕は空を見た」 [映画]

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〔2012年/日本〕


高校生の卓巳(永山絢斗)は、
アニメのイベントで、コスプレした主婦・里美(田畑智子)に
逆ナンされ、
以来、里美の夫が留守の日中に、
彼女のマンションで情事に耽っている。


里美はなかなか子供ができない事を
夫の母から激しく責められる毎日で、
卓巳の存在だけが心の拠り所。
しかし、夫が部屋に仕掛けたカメラにより、
昼間の情事が分かってしまい、
土下座して離婚を願い出るも、
受け入れてもらえない。


一方、卓巳の友人・良太(窪田正孝)の生活もまた
八方塞だった。
父はおらず、
母は男のアパートに入り浸り、
ポストの中は、母が作った借金の督促状でいっぱい。
部屋には重度の認知症の祖母がおり、
生活は良太のバイトの稼ぎだけで賄っている極貧生活。


バイト先のコンビニの店長は、
良太の住む団地を、
貧乏人の巣窟のように罵倒するが、何も言い返せない。
そんな彼に、
元塾講師だったという、コンビニの先輩・田岡(三浦貴大)は、
「大学に行け。団地から抜け出す事を考えろ」と進言する。
しかし実は、田岡も心に深い闇を抱えている。


そんなある日、
卓巳と里美の性行為の写真と動画が、
ネットに拡散される。
学校は大騒ぎとなり、
卓巳は引き篭もってしまう・・・。





これはまた、重すぎて、
心が沈みそうな内容。
先日観た、「秘密と嘘」も心にきたけれど、
洋画な分、どこか別世界な感があった。
しかし、こちらは、よりリアル。
観終わっても、心はズンと重いまま。


まずは、コスプレの衣装を着て、
人妻との情事に耽る主人公の卓巳。
どう見ても、卓巳は性欲の解消にしか見えないけれども、
相手の里美の抱えるものは、
そんな簡単なものではない。


彼女の姑の孫に対する執着は異常で、
里美がなかなか妊娠しない事を
気違い沙汰のように責め立てる。
さらには、病院の検査室にまで一緒に入り、
医師の説明を鬼のような形相で聞くに至っては、
どこか頭おかしい、としか言いようのない感じ。


まぁ、だからといって、
里美が高校生と浮気してもいい理由にはならないけど。
彼女がアニメに夢中になる理由は、
現実逃避の為だと言う。
ただ、ギリギリ可愛い30代の今はいいけど、
50代になったらどうする?と思う。
まぁ、その時はきっと、
別の現実逃避を見つけるのだろう。
映画を観るとか(笑)。


この里美の役を、
田畑智子が熱演。
性交のシーンも、ちゃんと全裸になりこなす、
体当たり演技。
童顔な上に、アニメ声なので、
エロさも増すってもんだ(笑)。
よく映画で、ベッドのシーンだというのに、
女優が服を着たままという不自然さに、
イライラさせられる事も多い中、
本当によくやってくれたと、見直した次第。


それから、動画が拡散された後の卓巳。
彼はショックと恥ずかしさのあまり、
自室から出なくなるけれど、
そんな事、気にする事ないって。
高校生が人妻と付き合って、
相手の体をメロメロにするなんて、
むしろ、武勇伝よ、武勇伝!(笑)
胸張って、堂々と学校に行っちゃいなよと
言いたくなったシーン。


卓巳の母・原田美枝子は、助産院を営んでいて、
卓巳は、出産の手助けをする事もある。
だから、日頃から、
生にも、性にも、
他の男の子には考えられないくらい接する機会が多いし、
そんな母だものだから、
息子の動画を見ても、
「全く何やってんのかしらねぇ」と深く取り合わない。
その設定に、
卓巳はすぐ立ち直れるという予感が持てて、
そこまで深刻にはならない。


この助産院に来る、
殊更に、「自然なお産がしたい」とこだわる妊婦の滑稽さ。
その思い込みは、まるで何かに洗脳されているかのようだ。
まるで普通の病院で出産するのが悪のような言い方だけど、
じゃあ、世の中の大半の出産は駄目なのか?
「自然なお産」で生まれた子が、
他の子と違う立派な人間になるというデータでもあるのか。
そして、
妊婦がいない所で、
彼女の事を悪しざまに言う、原田の助手が可笑しい。
結局、全ては商売なのだと分かる場面。


卓巳と良太、
深刻さは、
良太のバージョンの方が上かな。
色々書きたい事がありすぎて、
キリがないから、ここまで(笑)。


評価 ★★★★★

「レンタネコ」 [映画]

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〔2011年/日本〕


市川実日子は、
都会の日本家屋でたくさんの猫たちと暮らしている、
個性的な女性。


彼女は、今日も「レンタネコ」の商売に出掛ける。
それは自分の飼い猫を淋しい人々に貸す、というものだ。


リヤカーに猫数匹を乗せ、
河原を歩いていると、
上品な老女・草村礼子が声を掛けてきた。
夫に先立たれ、
子供たちは独立し、
たった一人で広いマンションで暮らす草村に、
猫は大変な慰めになりそうだ。


その後も、単身赴任中の光石研や、
孤独なレンタカー屋の受付嬢・山田真歩らに
猫を貸す市川。


そんなある日、
市川がいつものようにリヤカーを引いていると、
中学時代の同級生・田中圭とバッタリ会う。
彼と話すうちに、
学校に馴染めなかった過去が次第に思い出されてきて・・・。





これは、まぁ、
ある種のファンタジーと考えて良いと思う。


「レンタネコ」なんて商売が成り立つのか、
なーんて考えていたら、この映画は観られない。
この疑問は、登場人物たちも同じなようで、
出会う人出会う人が皆、
市川実日子に同じ事を聞く。


その度に彼女は、
他の仕事で大金を稼いでいるから大丈夫!と答えて、
とりあえず、観る者に余計な心配をさせないような
作りにはなっている。
(そういった事が気になってくると、
映画に集中できないものね(笑))


市川の毎日は、浮世離れしているけれど、
家の壁には、
「今年こそ結婚するぞ」とか
「焦りは禁物、顔で選ぶな」とか
「新婚旅行はハワイ」とか
なんだか俗人みたいな事が大きく書かれた紙が貼ってある。
願望は結構、現実的なのね(笑)。


市川の住んでいる家が、
平屋の古い日本家屋で、
なかなか雰囲気があって、良い。
持ち家なのか、借家なのかは分からないけど、
庭もとっても広くて、
やっぱり彼女は、
本業で金を稼いでいるのかもしれない。
(結局そこかよ(笑))


この家の隣に住む、
嫌味なおばさん役を、
なぜか女装した小林克也氏が演じている。
俳優でもなく、
それ以前に女性ですらない小林氏が、
なぜキャスティングされたのかは不明。
まぁ、彼女の存在が、
この映画の中で一番面白かったかも(笑)。


評価 ★★★☆☆

「愛するあした」 [映画]

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〔1969年/日本〕


女子大生の伊東ゆかりと松原智恵子は、
男子学生の間で噂の的。
写真部の加瀬邦彦らは、
彼女たちを隠し撮りしては、
それを売りつけ、
金を儲ける始末。


松原にはボーイフレンドの和田浩治がいたが、
顔を合わせれば喧嘩ばかり。
そして彼女は、自分の見聞を広げたいと、
世界各国の若者と文通しては、
母親を心配させている。


伊東は、孤児院で子供たちの世話をする
アルバイトをしているが、
経営難な事に心痛めている。


ある日、松原の文通相手の1人、
ブラジルの日系人・中山仁が松原に会いに来る事になった。
和田の妨害を心配した松原は、
彼の気を逸らすために、
伊東の孤児院でアルバイトをさせるように仕向け・・・。





全体の四分の一が、
伊東ゆかりとワイルドワンズの歌で占められているのではないかと
思うくらい、歌の多い映画。
(いや、実際にはそんなに多くはないだろうが(笑))。


この世代の方なら、
楽しめるのだろうと思うけれど、
彼らを知らない世代にはちょっと辛い。


ただ、伊東ゆかりさんの歌がとても上手くて、
耳にスッと入って来るのが心地いい。
もしかしたら、私の好きな声質なのかもしれない。
観終わって、youtubeで、
伊東さんの「あなたしか見えない」を何度も聞いちゃった。
(映画とは関係ない曲だけど)


孤児院で働きながら、
突然歌い始める伊東さん。
しっかし、その歌が思いっ切りのムード歌謡で、
子供の世話をしながら歌う歌じゃない(笑)。


それから私は、
松原智恵子のワガママな様子が、
気になって気になって。


彼女は、文通相手の男に会うために、
ボーイフレンドの和田浩治を
伊東ゆかりに押し付けたのに、
伊東と和田が親しくなりそうになると、
今度はおもしろくなさそうな顔をする。
なんて勝手なんだ。


こうなったら、
意地でも伊東と和田にくっついてほしいと願ったけど、
そういう流れにもならず。
伊東さんは、和田さんの寝る場所がないからと、
自室に衝立を置いて、
彼をソファーで寝かせたりするのよ。
伊東さんは平然としているけど、
和田さんのほうがドギマギしちゃって、
いい雰囲気だったのに。
残念。


評価 ★★★☆☆

「秘密と嘘」 [映画]

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〔1996年/イギリス〕


ロンドンで暮らす中年女・シンシア(ブレンダ・ブレッシン)は、
結婚歴はないが、一人娘ロクサンヌ(クレア・ラシュブルック)を育てている。
ロクサンヌは反抗的で、子育てに成功したとは言えず、
また、近所に住む弟モーリス(ティモシー・スポール)は、
大きな家を新築したというのに、
招待もしてくれない。


一方、義理の母を亡くした、
黒人女性・ホーテンス(マリアンヌ・ジャン=バティスト)は
産みの母に会うために、
福祉事務所に行き、
自分の出生の関する書類を見る。
すると、実母が白人だという記述があり、驚く。


ホーテンスは、実母に会うべきか逡巡し、
やっとの思いで電話をする。
なんとか会う約束を取り付け、
約束の場所に行くと、
母・シンシアが待っていた。


ホーテンスが黒人である事に驚いたシンシア。
15歳で出産した彼女は、
一度も子供の顔を見ずに、養子に出したと言う。
2人は気が合い、しょっちゅう会うようになる。


モーリスと彼の妻から連絡があり、
ロクサンヌの誕生日パーティを、
新しい自分たちの家でしないかと言われる。
シンシアは、
「私の『友人』のホーテンスも招いていいか」と言い・・・。





素晴らしい映画だ。
142分と長くて、飽きたらどうしようと不安だったけれど、
最後まであっと言う間。


ここにはヒーローもヒロインも出てこない。
毎日の生活に、そう楽しい事もなく、
孤独に苦しみ、
それでも何とか日々を過ごしている、
そんな市井の人々の人生が描かれる。


主人公のシンシアは、
甲高い声で話す中年女で、
娘のロクサンヌの生活に干渉する。
特に、避妊に関して口出しする様は、
無神経で、観ているこちらが辟易する。


しかし、一方で彼女の孤独を強く感じ、
胸が締め付けられる思いがする。
そうやって口を出せば出すほど、
娘は離れてゆくのに、
それに気付かない淋しさ。
誰も自分を必要としてくれない一人な感じに、
誰もが抱える孤独を思い、
胸が詰まる。


そんなシンシアが見つけた、
心の拠り所、
それが、もう一人の娘・ホーテンス。
彼女はロクサンヌよりずっと知的で、
それなりの暮らしをしている。
シンシアが時に発する、とんでもない発言にも耳を傾けてくれる優しさもあり、
シンシアが夢中になるのも仕方ないと思われる。


シンシアがホーテンスを
どんな経緯で妊娠したのかについては描かれていないので分からない。
けれど、娘の肌の色さえ知らなかった事、
そして、ホーテンスに父の事を尋ねられた時の、
取り乱した感じからすると、
相当、辛い目にあったのだと想像される。
ロクサンヌに、
避妊の事を口やかましく言っているのも、
ここで話が繋がる。


そしてクライマックスの、
モーリスの家でのパーティ。
最初は穏やかに過ごしていた人々の
感情が剥き出しになる場面は圧巻。
当然パーティは修羅場と化し、
最後まで目が離せない。


人間の素晴らしさ、
滑稽さ、
哀しさ、
全てが詰まった映画。


評価 ★★★★★

「MONDAY」 [映画]

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〔1999年/日本〕


あるホテルの一室で目覚めた堤真一。
彼はスーツのまま、
そして靴を履いたまま、眠り込んでしまったらしい。
しかも、二日酔いのせいで、昨日の記憶が全くない。
ポケットを探ると、お浄めの塩が出てきた。
次第に記憶を取り戻す堤・・・。


友人の通夜に参列した堤は、
遺体に埋め込まれたままのペースメーカーを外すのを、
半ば強引にさせられるも、失敗、
遺体が爆発する。


その後会った恋人・西田尚美に、
その事を話すが、
呆れられ、フラれてしまう。


傷心のまま、バーに行った堤は、
なぜか経営者のヤクザ・山本亨に気に入られ、
事務所に通される。
ところが、事務所にあった銃を手にした彼は、
誤って、山本と組員の松重豊を射殺してしまう。


外に出た彼は、
偶然居合わせた、オヤジ狩りをしていた若者までも射殺。
それらの記憶が蘇った堤がテレビを点けると、
自分が凶悪犯として指名手配され、
ホテルの周りは完全に包囲されている事を知る・・・。





大変に不謹慎なのは承知なのだけれど、
最初の、お通夜の場面から笑ってしまった。


だって、遺体が爆発するのよ。
人って、本当に有り得ない事に遭遇したら、
理由は分からないけど、
笑いが止まらなくなるって事、あるでしょう。
そんな感じ。
死をネタに、コメディを作るな!と叱られたら、
返す言葉もないのだけれど。


その後の、
堤と西田尚美の会話も可笑しい。
というのも、
西田が相手は相手の話をまるで聞かない女で、
二人の意思の疎通がまるで出来ていない。
上手い脚本だなぁと思う。
あの会話を再現しようとしても、
難しくて、できない。


その後、堤が、
殺人を犯すに至っては、
そんな話だったのかとビックリ。


しかも、最初の二人目までは、
彼に殺意は全くなく、
全くの成り行き。
よくニュースで、殺人犯が、
「殺すつもりはなかった」と言っているのを聞くたびに、
「嘘言うな!」と思ってきたけれども、
もしかしたら、1億件に1件くらいは、
本当に殺意が無い場合があったりして、と、
変な所で納得したりして。


それにしても、
自分が殺人犯として、
テレビで大きくニュースになっていて、
外を見たら、機動隊が建物を包囲していたらと想像すると、
これまた笑ってしまった。
もちろん、現実だったら、
笑ってる場合じゃないんだろうけど。


評価 ★★★☆☆