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「張込み」 [映画]

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〔1958年/日本〕


都内の質屋で店主が殺され、犯人の1人が逮捕される。
警察は、逃亡中の共犯者・石井(田村高廣)が、
佐賀で暮らす昔の恋人・さだ子(高峰秀子)の所に行くのでは、と考え、
2人の刑事・下岡(宮口精二)と柚木(大木実)が現地に行く。


さだ子の家の向かいの宿に部屋を取った下岡と柚木は、
ひたすら見張りを開始する。
さだ子は現在、銀行員の後妻になっており、
かいがいしく夫と夫の3人の連れ子の面倒をみていた。


さだ子は地味な老けた女で、
とても、逃亡中の殺人犯の昔の恋人という風情ではない。
旅館の女将や女中の噂では、
吝嗇で口やかましい夫からは、
生活費もその日の分しか貰えないらしい、との事だ。


そんな女の所に、
石井は来るのであろうか。
数日経っても、何も変わらないさだ子の様子に、
この張込みに、次第に懐疑的になる2人の刑事だったが、
1週間ほど経ったある日、
さだ子に変化が現れる・・・。





松本清張の原作は何度も読んでいる。


今、手元にある新潮社の文庫本で、たった24ページの短編小説を、
2時間の映画にするって、どんな風なんだろうと、
以前から興味があったけれど、
なかなか機会がなくて、
昨日、やっと観る事ができた。


とてもよくまとまっている。
評価が高いのも理解できた。
あの地味な短編小説を適度に膨らまし、
けれど、付け加えられたエピソードは
決して邪魔になっていない。


銀行員の後妻となり、
夫と継子の為に、
懸命に家事をこなす女。
毎日が判で押したように、
決まった時間に、決まった事をし、
そうやって人生を過ごす女。


旅館の2階から彼女を見ているうちに、
彼女に対して、
同情のような、親しみのような感情を抱くようになる
刑事たち、特に若い柚木の心の動きが、
観ているこちらにも、強く伝わってくる。


原作には無い、
2人の刑事の私生活の映像が時折はさまれるのがいい。
当たり前の事だけれど、
彼らも、家に帰れば自分の生活があり、
様々な事情を抱えている。
そして、さだ子の張込みを続けるうちに、
自分の事情と、彼女の人生を重ね合わせる。


松本清張は、
推理小説作家として認識されているけれど、
じつは、恋愛の表現者としても、
大変な名手だと、どなたかが書いた文章を読んだことがある。
本当にそうだと思う。
微妙な女心の描き方がめっちゃ上手い。
彼の本がいまだに多くの方に読まれているのは、
そういった面もあるからなのだろうなと、
一人で納得している。


評価 ★★★★☆

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