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「スリー・ビルボード」 [映画]

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〔2017年/イギリス・アメリカ〕


ミズーリ州の田舎町。
ある日、道路脇の
3枚のビルボード(広告看板)に、
「レイプされて殺された」
「逮捕はまだ?」
「どうして?ウィロビー署長」
という広告が載せられ、
町の人々は仰天する。


有り金はたいて
これらの広告を載せたのは、
7ヶ月前に娘を殺された
ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)。


彼女は手ぬるい捜査しかしない、
町の警察に業を煮やして、
そのような暴挙に出たのだ。


以来、ミルドレッドの周辺で、
様々な事が起こる。
しかし彼女は決してひるむ事なく、
現実に立ち向かってゆき・・・。





試写会で観た。


「ビルボード」とは、
私は、
全米の音楽チャートの事だと思っていたのだけれど、
元々は、
野外にある、広告用の看板や掲示板の事をいうらしい。
(このポスターの右下に載っているような)


で、そのビルボードに、
警察への挑発ともとれるような、
過激な広告を載せた女・ミルドレッド。


といっても、これは、
犯人探しのサスペンスやミステリーではなく、
この3枚の広告によって、
人が、そして町が、
どのように変わっていくのかを描いたドラマ。


さらに、ブラックなコメディの味付けがされており、
不謹慎ながら、
笑ってしまう場面まである。
人は、様々な場面において、
一つの感情だけで物事を捉えてわけではないものね。
悲しみの中に笑いの要素があったり、
激しい怒りの中に愛があったり。


フランシス・マクドーマンドが
まるで化粧っけ無く、
ほぼ笑わない女の役をリアルに演じている。


娘を失い、
警察からは怒られ、
町の人からは嫌われ、
さらには、夫を19歳の女に寝取られても、
彼女は決して怯まない。
彼女の辞書に「メソメソ」なんて言葉はない。
とにかく突き進むだけ。
その強さ、見習いたいくらいだ。


それから、
もう一人の重要人物。
この人がめちゃくちゃいい。


この人物の人生が転調を繰り返すせいで、
物語が面白くなってゆく。


最初は、めっちゃ嫌な奴で、
その後、
自業自得な展開になり、
でも、
結構いい奴かも、
と、
印象が変わって、
ある意味、この人物が物語の肝と言っていいような存在。


物語が扱う事件はレイプ殺人だけだけど、
中身は、
現代社会が抱える問題がてんこ盛り。


暴力、
人種差別、
障害者差別、
家族の問題、
病気の問題、
自殺の問題・・・


これらすべては、
アメリカだけでなく、日本も同様に抱える闇だろう。


凄い映画だった。


評価 ★★★★☆

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「夜の手配師 すけ千人斬り」 [映画]

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〔1971年/日本〕


足立卓也(梅宮辰夫)は、
コールガールを斡旋する、
「夜の手配師」。


「これ」と思った、高級クラブのホステスの
私生活を調べ、
弱みを握り、
コールガールになるように
仕向けてゆく。


そんなある日、
卓也は、昔のダチ公・江口(川口浩)と再会する。
江口も今や、ヤクザの組・東友会の幹部にして、
レジャーセンターの社長という立場。
江口は卓也を組に誘うが、
卓也はそれを断る。


江口と対立する形になってしまい、
ホステスの引き抜きが出来なくなった卓也は、
素人をコールガールにしようと思い立つ。


そんな中、
美しい人妻・大村加津江(榊ひろみ)を
街で見かけ、
彼女なら一流になれると調査を開始するが・・・。





何ともすごいタイトルだけど、
なかなか面白かった。


梅宮辰夫が演じる足立卓也は、
「すけ千人斬り」のタイトル通り、
女をモノにする事にかけては、
天才的能力があり、
映画の最初は、
そんな場面ばかり。


でも、意外と純情な面があって、
人妻の加津江と出会ってから、
話がどんどん面白くなる。


加津江は、
どこからどう見ても、
貞淑な人妻。
非の打ち所がないような。


でも、卓也の勘が働く。
「彼女には何かある。あの色気はただ者ではない」と。


彼は興信所に大金を払って、
加津江の日常を調べ、
データを収集。


集めたデータを元に、
彼女と同じ英会話学校に通ったり、
彼女の同級生に近づき、
探りを入れたり、
その行動力はハンパない。


観ているこちらは、
加津江にどんな秘密があるのか、
「早く知りたいわぁ。梅宮さんだけが頼りでっせ。
 ちゃんと調べて教えてくれや~」てな心境になる(笑)。


私の愛する川口浩様が、
いつ出てくるのか、
ワクワクしながら観ていた。
登場したときは、嬉しくて、
「あ!」と声が出てしまう(笑)。


これが浩様の出演した最後の映画のようで、
もう、学ランが似合うような風情ではなく、
ちょっとおじさんが入っていた。
もちろん、おじさんでも浩様は浩様。
それに、51歳で亡くなった浩様は、
おじさんにはなれたけど、
お爺さんにはなれなかった。
このような映像は貴重。


浩様が梅宮辰夫さんより、
2歳年上というのも、私には驚き。


だって、浩様は、
私の中で永遠に男の子で、
現在、お爺さんとして生きている梅宮さんと、
年が変わらないなんて、
信じられない気がするから。


浩様、生きていたら、
どんなお爺さんになっていたんだろう。


評価 ★★★☆☆

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「嘘八百」 [映画]

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〔2017年/日本〕


大阪・堺。
古物商の小池(中井貴一)は、
ある家の敷地内にある、
蔵に目を付ける。


その家の主人・野田(佐々木蔵之介)に、
蔵の中を調べさせてほしいと申し出、
許可をもらい、
何か目ぼしい骨董品はないかと、
調べる。


しかし、実は、
野田は主人でもないんでもない、
ただの留守番。
本業は落ちぶれた陶芸家。


偶然にも2人には、
古美術商の樋渡と、
大御所鑑定士の棚橋に
酷い目に遭わされたという、
共通の過去がある事が分かる。


樋渡と棚橋に、
贋作を掴ませてやろうと意気込んだ2人。
野田は早速、
茶碗作りに精を出すが・・・。





中井貴一と佐々木蔵之介という、
スッとした、インテリ中年俳優2人が、
タッグを組んで
詐欺を働く物語という事で、
ちょっと期待していたのだけれど、


思ったほどは笑えなかった。
劇場内からも、
それほどの笑い声も聞こえず。


うーん、何がいけないのかなぁ。
まぁ、笑えない理由なんて、
探そうとしたって、
探せるものじゃないんだろうけど。
そういった事は、
あくまでも感覚の問題なので。


ちょっと面白く思ったのは、
主演の2人より、
佐々木蔵之介の3人の仲間たち。


木下ほうか ⇒ 書道
坂田利夫 ⇒ 古紙作り
宇野祥平 ⇒ 箱作り


といった具合に、
役割分担が決まっていて、
息もピッタリ。


なるほど、
贋作の茶器で人を騙すときは、
茶器だけが、それらしく見えるのでは駄目で、


製作者(この映画の場合、利休)直筆の譲り状の筆跡や、
その紙質や、
茶器を入れてある箱も、
本物ソックリでなければ、
バレてしまうという事で。


それから、
骨董品の鑑定士は、
大変な知識が必要とされるんだなぁ、とも。
どんな歴史上の出来事を
相手が持ち出してきても、
即答できなければ、
信用もされない。
思っている以上に、
大変な職業のようだ。


映画は、普通だったけど、
骨董品の世界の裏側を、
少し覗けた気がして、
楽しかった。


評価 ★★★☆☆

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「祈りの幕が下りる時」 [映画]

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〔2018年/日本〕


葛飾区のアパートで、
絞殺された女・押谷道子の腐乱死体が発見される。
捜査の結果、
道子は滋賀県在住なことが分かる。


部屋の住人・越川睦夫が
行方不明になっており、
犯人と思われたが、
女との接点が見つからず、捜査は難航。


しかし、少しずつ、
細かい事が分かってくる。
道子は、
同級生で、今は舞台の演出をしている浅居博美(松嶋菜々子)に、
ある事を伝えに上京したらしい。


そんな中、
日本橋署の加賀恭一郎(阿部寛)は、
越川の部屋のカレンダーの、
各月に書き込まれた、
12の言葉を知り、
激しい衝撃を受ける・・・。





試写会で観た。


泣けた。
これは推理ものではあるけれど、
基本にあるのは、
親子の物語だ。


父と娘。
そして、
母と息子。


特に、父と娘の間には、
ある理由から、
鋼の絆がある。
誰も入る事のできない、
強い強い結びつきが。


そして、
そんな親子の情愛が、
究極の形で描かれる。
これこそが、親を思う気持ちなのか、
でも、もっと、
なんとかならなかったのか、と、
泣きながらスクリーンを見つめながらも、
考えずにはいられない。


幼い息子と離れ離れにならざるを得なかった母が、
あるきっかけで、
息子の現在の姿を知った場面も号泣。
大変に立派になった息子。
母は息子の成長過程に関わる事はできなかったけれど、
そんな風に育ってくれた事を、
どれほど誇らしく思っただろう。


事情を知らない人は、
この母を、
息子を捨てた、酷い女だと噂するだろう。
でも、本当は違う。
人にはそれぞれ、事情がある。
何も知らないのに、
表っつらの事象だけを見て、
人を批判してはいけないのだなぁと、
すぐにそれをしてしまいがちな自分も気を付けなければ、と
思わされる内容。


東野圭吾さんの原作は読んでいる。
とても面白い本だった。
原作も凄いけど、
あの内容を、
ここまできちんと映像化したのも凄い。
想像以上だった。


次から次へと新作を発表する東野さん。
東野さんの頭の中には、
どんだけ凄いアイデアが詰まっているのか。


そして、その新作をすぐに読みたくて、
図書館に予約を入れると、
世間は私なんかより、
ずっと情報キャッチが早いようで、
200人~300人待ちは当たり前。


じゃあ買えよ、って話だけど、
家になるべく物を置きたくないので、
極力物は買わないようにしている。
別に早さを競っているわけではないので、
いつも気長に順番を待っているのだけれど。


評価 ★★★★☆

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「山猫令嬢」 [映画]

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〔1948年/日本〕


女学生の敏子(三條美紀)は、
子供の頃、自分を親戚に預けて、
満州に働きに出ていた母・アヤ子(三益愛子)が
帰国するとの報せを受けて、
心浮き立つ。


しかし、駅で出迎えた母は、
敏子が想像していたような、
品格のある女ではなかった事から、
幻滅し、落胆する。


京都で働くという母と共に
引っ越しをした敏子が住む家は、
芸者の置屋。


それでも、新しい学校で、
素晴らしい学友を得、
また、担任教師も、大変な人格者だったことから、
京都での暮らしも
悪くはないと思い始めた敏子。


しかし、学友らと、
嵐山にハイキングに行った敏子は、
帰りの電車の中で、
泥酔して騒ぐ母と同じ車両に乗り合わせてしまう。


自分の母がこんな女だと、
友人に知られたくない。
敏子は悩み、苦しむが・・・。





先日から観ては感想を書いている、
三益愛子さんの映画。
タイトルに「母」の文字が入っていないけれど、
これも、「母もの」シリーズの
1本と数えていいのだろうか。


そもそも、このタイトルでは、
どんな内容なんだか、
想像が付かなくて。
「山猫」と「令嬢」という、
この2つの単語って、
普段あまり、くっつかないよね(笑)。


実は、観終わった今でも、
私は「山猫令嬢」の意味が分からない(笑)。
そんな単語、劇中に出てきたっけ?
私が聞き逃したか、鈍いだけなのか?


でも、タイトルの理由は分からなかったけど、
映画は良かった。


自分の駄目さ加減が
娘に迷惑をかけてしまうと気付いた母の物語は、
先日書いた、「母の旅路」と
似ていなくもないけど、

http://aomikamica.blog.so-net.ne.jp/2017-12-30


「母の旅路」の母が、
サーカス出身で、
ちょっと物悲しい雰囲気があったのに対して、
こちらの母は、
もっと強烈で分かりやすい。


娘に「学校に着ていくように」と
買い与えた服が、
まるで水商売の女風だったり、
電車の中でもどこでも構わず、
泥酔して騒ぐなど、
これは母として、
ちょっとよろしくないかも、と思うような
女で。


途中、
「え!そうだったの!?」と驚くような事実が分かる。
私が見落としたのでない限り、
伏線も何もなく、
唐突に。


でも、私はそれがとても嬉しかったんだな。
だって、
何だかホッとしたというか・・・。


って、意味分かりませんよね。
まぁ、こんな古い映画、
ネタバレしたってどうって事ないんだろうけど、
でも、やっぱり書かないでおきます。


ここまで書いて、
少し調べていたら、
どうやら本作は、
「母もの」の第一作目らしい。


どおりで、三益さんが若いと思った。
私の知ってる、
割烹着が似合うようなお母さんじゃないものね。
1948年。
浩様が12歳の頃か。


評価 ★★★★☆

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