SSブログ

◆妖談◆ [本]


妖談

妖談

  • 作者: 車谷 長吉
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/09
  • メディア: 単行本



長くても7ページほどの短編がおさめられた小説集。
主人公の名前は違っても、
生まれや育ちや経歴がほぼ同じ事から、
著者と、著者の体験が描かれていると思われる。


毒があるのは間違いないが、
一編が短いので読みやすく、
まさしく大人向けの「妖談」で、
眠る前に少しずつ読むのが楽しみだった。


何と言っても、
関東の者には分からぬ、
関西独特の風土と言おうか、空気と言おうか、
そんなものがとても珍しく感じる。


関西出身の人に、この著者の書いている内容を話した所、
まさしくその通りだと言われた。
日本は狭いようで、
実はとても広いのだと実感する。

nice!(5)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

「ヒア アフター」 [映画]

hearafter.jpg
〔2010年/アメリカ〕


こんな事、今さら私が言うまでもないが、
クリント・イーストウッドのここ数年の作品は、
ハズレがない。
ほぼ完璧と言っていいくらいの出来栄えだ。
彼を見る度に、「老いて尚盛ん」という言葉が浮かんでくるのは、
私だけではないだろう。





そして、本作。
今回の映画のテーマは、私の興味から一番遠い所にある、「臨死」。
宗教にも、オカルト的なものにも全く関心のない私が
これを観てどんな風に感じるのか、
自分で自分に興味があって、とても楽しみにしていた。


ストーリーは3つの平行する場面から成り立つ。
フランス人のジャーナリスト、セシル・ドゥ・フランスは、
恋人とバカンスを楽しんでいた南の島で、
大津波の被害に遭う。
彼女は水に沈みながら、不思議な体験をする。
それは忘れようにも忘れられない出来事だった。


そして、アメリカ。
工場勤めのマット・デイモンは、
幼い頃受けた手術後、他人の手を握ると、
その人のごく身近な人の死が見えるという、
所謂、「霊能力者」となってしまう。
しかしそれは、彼にとって決してありがたい能力ではなく、
彼を苛み続けてきた。


彼は、どんなに好ましく思う相手と知り合っても、
その能力の事を知られた途端、
その人から身内の霊を見てほしいとせがまれ、
仕方なく実行すると、
相手が離れてゆくという体験を何度も繰り返してきたのだ。


そして、イギリス。
アルコール依存症の母親に育てられる双子の小学生の男の子。
彼らは、互いを分身のように思い、助け合って生きてきたが、
兄が突然のアクシデントから死んでしまう。
母親は立ち直る事ができず、施設に入り、
弟は、里親に預けられるが、
あまりの孤独感に耐え切れず苦しみ抜く。
それゆえ、数々の霊能力者を訪ね、兄を呼び出してもらうが、
胡散臭く、嘘ばかりの輩に、子ども心に辟易した気分を味わう。





実に上手い作りだと思う。
私のような霊的な物を全く受け付けない人間にも、
すんなり入ってゆける流れがある。


たとえもし、臨死そのものに入ってゆけない人がいたとしても、
この三者が、いつどのように結びつくのかだけでも、
興味が持てるようにもなっている。


そして本当に、三者の出会いが素晴らしく、
有り得ない感がまるでない。
死者に呼び寄せられたとか、そんな事でもなく、
それまでのストーリーの流れから、
ごく自然に、一つの場所に集まる。


この映画は、いたずらに死を礼賛しているわけでもなければ、
かといって無闇に恐れているわけでもない。
死後の世界が絶対に有るとも、無いとも言っていない。
臨死を殊更センセーショナルに扱っているわけでもない。


ただ、今を生きる自分と、
いつか必ずやって来るその日をどう考えるかを、
観る者に問いかけているような気がする。


余談だが、これを観ながら、
「私にはマット・デイモンに懇願してまで
呼び出して欲しい死者がいるだろうか」と考えた。
しかし、今現在、自分にはそのような人がいないことに
あらためて気が付いた。
私にはまだ、心から大切に思う人を失った経験がないのだなぁ、と。


でも、もしこの先、
誰かの死に接した時には、
その人が私とどんな関係であれ、
必ずこの映画の事を思い出すような、そんな気がする。


評価 ★★★★☆

nice!(6)  コメント(6)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画