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「ヒア アフター」 [映画]

hearafter.jpg
〔2010年/アメリカ〕


こんな事、今さら私が言うまでもないが、
クリント・イーストウッドのここ数年の作品は、
ハズレがない。
ほぼ完璧と言っていいくらいの出来栄えだ。
彼を見る度に、「老いて尚盛ん」という言葉が浮かんでくるのは、
私だけではないだろう。





そして、本作。
今回の映画のテーマは、私の興味から一番遠い所にある、「臨死」。
宗教にも、オカルト的なものにも全く関心のない私が
これを観てどんな風に感じるのか、
自分で自分に興味があって、とても楽しみにしていた。


ストーリーは3つの平行する場面から成り立つ。
フランス人のジャーナリスト、セシル・ドゥ・フランスは、
恋人とバカンスを楽しんでいた南の島で、
大津波の被害に遭う。
彼女は水に沈みながら、不思議な体験をする。
それは忘れようにも忘れられない出来事だった。


そして、アメリカ。
工場勤めのマット・デイモンは、
幼い頃受けた手術後、他人の手を握ると、
その人のごく身近な人の死が見えるという、
所謂、「霊能力者」となってしまう。
しかしそれは、彼にとって決してありがたい能力ではなく、
彼を苛み続けてきた。


彼は、どんなに好ましく思う相手と知り合っても、
その能力の事を知られた途端、
その人から身内の霊を見てほしいとせがまれ、
仕方なく実行すると、
相手が離れてゆくという体験を何度も繰り返してきたのだ。


そして、イギリス。
アルコール依存症の母親に育てられる双子の小学生の男の子。
彼らは、互いを分身のように思い、助け合って生きてきたが、
兄が突然のアクシデントから死んでしまう。
母親は立ち直る事ができず、施設に入り、
弟は、里親に預けられるが、
あまりの孤独感に耐え切れず苦しみ抜く。
それゆえ、数々の霊能力者を訪ね、兄を呼び出してもらうが、
胡散臭く、嘘ばかりの輩に、子ども心に辟易した気分を味わう。





実に上手い作りだと思う。
私のような霊的な物を全く受け付けない人間にも、
すんなり入ってゆける流れがある。


たとえもし、臨死そのものに入ってゆけない人がいたとしても、
この三者が、いつどのように結びつくのかだけでも、
興味が持てるようにもなっている。


そして本当に、三者の出会いが素晴らしく、
有り得ない感がまるでない。
死者に呼び寄せられたとか、そんな事でもなく、
それまでのストーリーの流れから、
ごく自然に、一つの場所に集まる。


この映画は、いたずらに死を礼賛しているわけでもなければ、
かといって無闇に恐れているわけでもない。
死後の世界が絶対に有るとも、無いとも言っていない。
臨死を殊更センセーショナルに扱っているわけでもない。


ただ、今を生きる自分と、
いつか必ずやって来るその日をどう考えるかを、
観る者に問いかけているような気がする。


余談だが、これを観ながら、
「私にはマット・デイモンに懇願してまで
呼び出して欲しい死者がいるだろうか」と考えた。
しかし、今現在、自分にはそのような人がいないことに
あらためて気が付いた。
私にはまだ、心から大切に思う人を失った経験がないのだなぁ、と。


でも、もしこの先、
誰かの死に接した時には、
その人が私とどんな関係であれ、
必ずこの映画の事を思い出すような、そんな気がする。


評価 ★★★★☆

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k_iga

父に会いたいです。
by k_iga (2011-02-26 14:27) 

coco030705

こんにちは。お邪魔します。
 
この作品はことさら死とか霊能力とかを重要視するような
作品ではなかったですね。少しも不気味なところがなく、
不思議な出来事もすんなり受け取れるような、おもしろくて
説得力のある作品だったと思います。
さすが映画を知り尽くしているクリント・イーストウッドだなと
感心しました。
死者の言葉といっても、それは生前のその人を思い出せば
その人柄とともに思い浮かんでくる言葉だと思います。そんなに
突飛な言葉ではないだろうと想像します。
by coco030705 (2011-02-26 18:27) 

青山実花

k_igaさん

お父様にお会いしたいという、そのお気持ちは、
変な言い方ですが、とても大切なものだと思います。
肉親だからと言って、
必ずしも会いたいケースばかりとは限らないからです。
k_igaさんとお父様は、
心の底から信頼し合っていたのではないでしょうか。
素晴らしい事です。

by 青山実花 (2011-02-27 19:26) 

青山実花

coco030705さん

全く同感です。死や霊能力を、
殊更センセーショナルに扱うわけではなく、
ごく自然に映画に入ってゆける作りになっていました。

双子の少年の帽子のシーンなども、
霊的な物は信じない私でも、
「ああいう事ってあるかも」と思ってしまうほど、
上手くできたシーンでした。

>そんなに突飛な言葉ではないだろうと想像します。

確かにそうですね。
あの人だったらこんな事を言いそうだ、というのは、
大体想像できますね。
やはり生きているうちの対話が大事だという事でしょうか。
by 青山実花 (2011-02-27 19:40) 

k_iga

葬儀の時、弟が「俺が一番可愛がってもらったなぁ」と言い出し、
兄が「いや、俺だ」と言い、その時私も同じ事を感じていたので何というか
兄弟でテレパシー?の様なものを感じた不思議な瞬間がありました。
(まあ、そういう場では誰でも同じ感慨を抱くのでしょうが。)

久々に観ている「巨人の星」に心動かされるのは、「父親を超えられるか」
が息子にとって永遠の課題だからなのでしょう。




by k_iga (2011-02-28 00:32) 

青山実花

k_igaさん

素晴らしいお話ですね。
お子様たち全員に、
そんな風に思われるような子育てをしたお父様の、
お人柄が偲ばれるエピソードだと思います。

男性は「父を超えられるか」なんですね。
女性はあまり「母を超える」とは思わないので、
「巨人の星」のようなストーリーは
男の世界だと感じるのでしょう。

by 青山実花 (2011-03-01 11:06) 

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