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「孤独のススメ」 [映画]

kodokunosusume.jpg
〔2013年/オランダ〕


オランダの小さな村で暮らすフレッド(トン・カス)は、
孤独に生きる中年男。
愛する妻は亡くなり、
息子は勘当している。
日々は判を押したように正確に過ぎてゆく。


そんなある日、
ひょんな事がきっかけで、
奇妙な男・テオ(ルネ・ファント・ホフ)が、
フレッドの家に住み付いてしまう。


言葉を上手く話せないテオは、
多少、頭がゆっくりに思え、
最初はフレッドもイラついていた。


しかし、時が経つにつれ、
2人の間に、
静かな友情が芽生え、
フレッドの単調な生活が変化してゆく。


ところが、そんな2人を、
保守的な村の人々は受け入れられず、
テオに対する嫌がらせが始まり・・・。





淡々とした、
静かな映画で、
殆ど最後まで、盛り上がりはない。


邦題も変だ。
孤独を薦めている人など誰もいない。
ちなみに原題は、「マッターホルン」。
なぜマッターホルンなのか、
それは書かないけど、
ちゃんと理由がある。


で、淡々としていて、邦題も変だけど、
不思議な味わいがある。
2人の中年のおっさんの同居は、
奇妙で、可笑しくて、
そして悲哀が滲み出ている。


テオは殆ど言葉が話せないのだけれど、
フレッドがつぶやいた「結婚」という言葉に反応し、
誰に会っても、「結婚する」と言う。
それを聞いた人は、
フレッドとテオが結婚するものだと思い込んで仰天し、
観ているこちらは笑ってしまう、という流れ。


実はテオの頭がゆっくりに感じられるのには
理由がある事が、
物語が進むにつれて分かってくる。
それを知った時は、
なんだかホッとした。
元々の彼は、
とても幸せそうで、
彼を支えてくれる人がちゃんといるんだもの。


フレッドと、
勘当した息子の関係もいい。
良い息子じゃないか。
無問題だよ。
こういう再会のシーン、大好き。
涙が出そうになった。


ラストがとってもいい。
歌でいうと、
静かに静かに歌われていた曲が、
終盤ぐわーんと盛り上がる感じ。


評価 ★★★★☆

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「ルーム」 [映画]

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〔2015年/アメリカ〕


今日、ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)は
5歳の誕生日を迎え、
ママのジョイ(ブリー・ラーソン)と一緒にケーキを作る。


そこへ「あいつ」がやって来る。
「あいつ」が来ると、
ママはジャックを狭いクローゼットに入れる。
「あいつ」は現実。
テレビの中の出来事はニセモノ。
ジャックにとっての本物は、
ママと、「あいつ」と、この狭い部屋にある物だけ。


ママは、17歳の時、
「あいつ」に、無理矢理ここに連れてこられた。
以来、7年もここにいる。
ジャックはその間に生まれた。
一度も外に出た事はないけど、
ママは「世界は広い」と言う。


ある日、ママが言った。
「あなたが死んだと言って、絨毯にくるむ。
 あいつは死体を捨てに行くはず。
 トラックがスピードを落したらすぐ飛び降りなさい」と。


怖い。
そんな事できない。
ジャックはベソをかくが、
ママはそれしか、ここから逃げる方法はないのだと言う・・・。





もしも自宅で観ていたら、
声をあげて泣いていたと思う。
劇場だから我慢したけど、
なんともショッキングで、
考えさせられる映画。
沢山の賞を取ったのも分かる気がする。


予告を観た時は、
狭い「部屋」から逃げ出す事がメインの、
サスペンスかと思っていたけれど、
そちらは割と早くに解決する。
そう、これは、
誘拐・監禁された被害者が、
解放されたあと、
どのような時間を経て、
社会に適合するのかに重きがおかれている。


最初は、生まれてから一度も、
土さえ踏んだことのない5歳の少年が
いきなり外に出てどうなるのかが気になったけど、
考えてみれば、
生まれてからの5年間なんて、
大人になれば、殆ど断片的にしか記憶はなく、
子供の適応能力を思えば、
「焦らないで。大丈夫」と声を掛けたくなった。


それより、少女の方の傷は深い。
17歳で、
親切心が仇になって誘拐され、
7年間の悪夢のような日々。
同級生たちから取り残された、空白の時間。
助かって嬉しいはずなのに、
苛立ち、感情のコントロールができない・・・。


現実にも似たような事件があるけど、
それは人を殺すのと同じか、それ以上に
おぞましく、気持ちの悪い、最悪の出来事だ。
この映画の少女に非は1%もない。
非はないのに、
苦しんで、
最愛の両親にまで当たってしまう辛さ。
やりきれない。


テレビのインタビュアーの女の、
無神経な発言に、
観ているこちらがキレそうになる。
あんたは女だろう、
大人の女だろう、
少女の言っている意味が分からないのか、
それとも、テレビ受けするために、
わざと挑発しているのか、と。


ラストは書かないけど、
「そうか、そうだよね」と思える終わり。
スクリーンの向こうに映画の世界があるなら、
一生、この親子を応援していきたいような気持ち。


評価 ★★★★★

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◆「二重生活」と「いちど尾行をしてみたかった」◆ [本]


二重生活 (角川文庫)

二重生活 (角川文庫)

  • 作者: 小池 真理子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/11/25
  • メディア: 文庫


6月25日に公開される映画、「二重生活」。
観に行くかどうかは分からないけど、
いい機会なので、小池真理子さんの原作小説を読んでみようと
借りてきた。


-------


主人公の大学院生・白石珠は、
大学で、「他者のあとを付け、自分と他者を置き換える」という文章を読み、
強い興奮を覚える。
それは、「文学的・哲学的尾行」というもので、
対象者は誰でもいいという


ある日、珠は、
自宅マンションの向かいの一軒家に住む、
一点の曇りもなさそうな幸せそうな家庭の若い主人・石坂が、
駅に妻の運転する車で送られてきた場面に遭遇する。
「石坂を尾行してみよう」
咄嗟に思い付いた珠が彼のあとをつけてゆくと、
表参道駅で下車した石坂は、あるカフェに入る。
すると、やって来たのは、彼の恋人らしき女。
2人は人の目をさして気にする風でもなくイチャイチャし、
クリスマスに泊まるホテルの相談をし始める・・・。


-------


小説としての深みはないけれど、
映像にしたら、なんとも面白そう。
登場人物たちの絵が頭の中に浮かぶ。


珠はその後、
2度ほど、石坂のあとを付けるのだけれど、
彼に気付かれて、
詰め寄られ、
仕方なく、
「文学的・哲学的尾行」の事を
石坂に説明する。


しかし、どうやら彼は、
他人を尾行する、という行為から得られる興奮を
1%も理解できないらしく、
読んでいる私は、軽く失望してしまった(笑)。


いや、石坂の感覚が普通なのは分かっている。
誰だって、自分を尾行する人間がいたら、
不気味で、そして怖く思うのは当然だ。


私が珠に共感を覚えるのは、
過去に、
「いちど尾行をしてみたかった」というルポ本を読んでいる事が
とても大きいと思う。

いちど尾行をしてみたかった (講談社文庫)

いちど尾行をしてみたかった (講談社文庫)

  • 作者: 桝田 武宗
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1997/02
  • メディア: 文庫


ずいぶん前に読んだので、
細部は忘れてしまったけれど、
著者は、街で出会った見知らぬ一人をターゲットに定め、
その人間のあとを付いてゆく。
目的はない。
興味を引かれた人物がこれからどこへ行くのか、
どんな生活をしているのか、
それを見届けるだけ。


これを読んだ時は、
「面白そう、やってみたい」と思ったものだ。
もちろん思っただけで、実行した事はないけれど、
世の中は、
こういう事に興味を覚える人間と、
全く理解できない人間の2種類に分かれるのだという気がする。
どちらが正しいというのは決してなく、
それはもう感覚の違いとしか言いようがない。


こんな事を書くと、
私がとても危ない人間に思われそうな気もするけど、
決してそんな事はないです(と思います(笑))。
ただ、今後もしも、
本当に尾行を実行したとしても、
それをここには書けないかなぁ。
本物の危ない人と認定されてしまう(笑)。

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「雲の上団五郎一座」 [映画]

kumonouedangoroichiza.jpg
〔1962年/日本〕


大衆演劇の、
「雲の上団五郎」は、
座長の団五郎(榎本健一)以下、
座員たちが、
一人で複数の役をこなす、
極小一座。


ある町で興行をしたところ、
町を牛耳るヤクザの親分の妾が、
座員の一人に熱を上げたせいで、
大騒動。
一座は町を追い出される。


仕方なく四国に向かった一行は、
途中の船の上で、
演劇論を熱弁する酒井(フランキー堺)と出会う。


酒井は四国で、
「東京大歌舞伎・雲の上団五郎一座」と、
ハッタリをきかせ、
西部劇を書き下ろし、興行。


するとこれが大当たり。
人々は連日、長蛇の列。
さらに、大阪の大きな興行社の社長が
見物に訪れ・・・。





詳しい事は全く分からないのだけれど、
この映画と同名のテレビドラマがあるらしい。
ドラマが先なのかと思っていたら、
映画が先で、
その後、ドラマ化されたようだ。


とにかく出演者たちが凄い。
古い時代のコメディアンさんたちが
大挙出演。
リアルタイムで観ていたら、
豪華だったんだろうなぁ。


そんな皆さんが、
まぁ、とにかく、
ドタバタドタバタ、
今ではちょっと無いような、
コントみたいなお芝居をして、
爆笑とはいかないけれど、
ニコニコしながら観てしまう。


フランキー堺が登場した時、
私は、
「こやつ、詐欺師かも」と思ってしまったよ。
なにせ、フランキー堺だもん(笑)。


しかし、疑って悪かった。
彼は一座の為に、
売り込みをかけ、
脚本を書き、
それを大ヒットさせてくれるという救世主だったんだから、
最後まで観てみなければ分からない。


考えてみれば、
私は、いわゆる大衆演劇って
観た事ない気がする。


・・・と、ここまで書いて検索してみたら、
「大衆演劇 公式総合情報サイト」というのが
あるじゃないの。
本気で行く気なら、
すぐにでも観に行けそうだ。
一度観てみるのも面白いかもしれないな。


評価 ★★★☆☆

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「旅情」 [映画]

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〔1959年/日本〕


華道の家元で、その美貌でも知られる山本富士子は、
恋人・川崎敬三から求婚されるも、
仕事を捨てる事ができず、
川崎は一人ハワイに転勤してゆく。


ニューヨークの展覧会で大成功を収めた山本は、
帰路、ハワイに立ち寄る。
ハワイで盛大に迎えられた彼女だが、
心は、この地に住む川崎の事だけ。


山本のガイド兼通訳を、
日系3世の野添ひとみがする事になる。
野添は明るく、闊達な女の子で、
山本とすぐ気が合った。
野添は、現在はハワイ大学の学生だが、
来年、フィアンセと結婚すると言う。


川崎が山本のホテルにやって来た。
彼との再会を熱望していた山本は、
彼の胸に飛び込み、
ついに2人は結ばれる。


翌日、野添の家に招待された山本は、
彼女の家族から大変な歓迎を受ける。
そして、野添がフィアンセの写真をもってきた。
その写真を見た山本は、
ガーーーーーン!・・・。





現在のラピュタ阿佐ヶ谷のテーマは、
「芸に生きる」。
映画の主人公が、
何らかの芸で身を立てているという作品の特集で、
この「旅情」の山本富士子さんも、
華道の家元という設定。


しかし、そんなことはさして重要ではなく、
恋愛だけが全ての、
コテコテのメロドラマ(笑)。


山本さんも、川崎敬三さんも、
自分たちの悲恋に酔いすぎ(笑)。
僕たち、私たちって不幸ね、と言わんばかりに、
メソメソした場面が多い。


せっかくのハワイなんだから、
もっと明るく、パーっといこうよ、と、
観ているこちらは言いたくなるけど、
そういうわけにはいかないらしい。


ネタばれしちゃうけど、
ラストは、障害が一つも無くなる。
2人が結婚したって、
誰に咎められる事もない。


なのに、
「私たちは結ばれない運命なのよ」と、ヨヨヨと泣き崩れる山本さん。
意味がわからん。
そんなに好きだったら、
私だったら絶対彼と一緒になるわ(笑)。


野添ひとみさんが、
めちゃくちゃキュート。
本当にハワイで育った女の子みたいに、
手足がスラーっとしていて、
のびのびしている。


川崎さんの役を、川口浩様が演じたらどうだろうとも思ったけど、
やっぱり駄目かな。
前にも書いたけど、
童顔の浩様と、
山本富士子さんの組み合わせだと、
なんだか姉と弟という風情になってしまって、
しっくりこない。
ここは川崎さんで良かったんでしょうな。


評価 ★★★☆☆

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