「花のれん」 [映画]
〔1959年/日本〕
銀座シネパトスの現在のテーマは、
「巨匠・豊田四郎に見る男と女」。
ところで、シネパトスは、
来年の3月いっぱいで閉館になる事が決まったそうです。
銀座の外れの地下街にある、
怪しげなあの雰囲気(笑)、
いまどき珍しいような、昭和なスクリーンと座席、
映画を観ていると、響いてくる地下鉄の音、
全てが、なんだか好きでしたので、
残念な気持ちでいっぱいです。
大阪・船場の呉服問屋の主・河島吉三郎(森繁久弥)は、
3度の飯より寄席や芸者遊びが大好き。
商売には身が入らず借金だらけ。
借金取りへの応対は、
全てしっかり者の妻・お多加(淡島千景)がしている。
お多加は、ふと、
「そんなに寄席が好きなら、
いっそ好きな事を商売にしたらどうか」と思い立ち、
呉服屋を畳んで、寄席を買い取る。
寄席は軌道に乗り、生活は安定してくる。
ところが、そんな日々も束の間、
吉三郎は愛人の家で腹上死してしまう。
未亡人になったお多加は、
生涯、吉三郎以外の男とまみえる事はすまいと決意、
女手一つで、寄席を経営してゆく事を決める。
お多加には商売の才覚があったようで、
金はそれなりに回ってゆく。
しかし、その為には犠牲になる事もあった。
息子の久雄の世話は、幼い頃から女中のお梅(乙羽信子)に
任せたきりで、淋しい思いをさせてきた。
また、市会議員の伊藤(佐分利信)と、
恋愛の一歩手前まで行くが、
商売が優先だと、
その心を打ち消してしまう・・・。
山崎豊子の同名小説の映画化。
現在のよしもと興行の、
創成期の物語だそうだ。
お多加の商売の才覚は素晴らしいものがあり、
見入ってしまう。
女だてらに寄席を経営し、
流行りのものがあると、
すぐにそれを取り入れる。
頭を下げる必要があれば、すぐに実行し、
強く出なければならない場面では、
絶対に引かない。
そんな女を淡島千景が好演。
ただ、母親としては、ちょっと違和感を感じるんだな。
お多加は、幼い久雄の世話を、
完全にお梅に任せている。
いや、私は別に、それをとやかく言いたいのではない。
仕事をする、
まして、才覚のある女なら、
子育てに手が回らないのは当たり前だ。
外注に任せる人もいよう。
それは構わない。
しかし、その後の言い草が嫌い。
色々と、自分の意見を言うようになった久雄に
腹を立てたお多加は、
「こんな風に育ったのは、お梅のせいだ」みたいな事を言う。
自分は幼い久雄と食事をする事からも逃げてきたのに、
今になって、どの口でそんな事を言うか。
久雄は、大学に行く事を懇願するが、
お多加はそれも認めない。
勝手に試験を受けに行った久雄を、
「呼び戻してこい」とまで言う。
傍から見ても、久雄は立派な青年に成長している。
勉強したいという気持ちも素晴らしい。
お梅が良い躾をしてくれたのが、
明らかに分かる。
もっとお梅に感謝しなければ駄目なんじゃ・・・
と思うのは私だけか。
なーんて、この映画のテーマは、
子育てじゃないんだけどね(笑)。
何だか久雄とお梅が可哀想になったものだから。
評価 ★★★☆☆