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◆猿の見る夢◆ [本]


猿の見る夢

猿の見る夢

  • 作者: 桐野 夏生
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/08/09
  • メディア: 単行本


主人公は、メガバンクから、
女性向けファッション業界に出向している、
薄井正明、59歳。


妻、一人。
息子、二人。
愛人、一人。


ある日、薄井が家に帰ると、
リビングでジャージを着て、寛いでいる見知らぬ”おばさん”がいて、
仰天する。
妻曰く、
「彼女は、長峰栄子先生といい、
 彼女に悩みを相談すると、たちどころに解決する」と言う。


あんな”おばさん”に一週間も居座られるなんて、
冗談じゃない。
とっとと帰ってもらうよう、
明日きつく言わなくては・・・。





久し振りに読んだ桐野夏生さんだけど、
やっぱり凄いな。


主人公に対する、
突き放した視線。
まるで小馬鹿にでもしているような。
自分の書く小説の主人公を、
あんな風に描けるなんて、
さすが、クールビューティの桐野さん。
それとも、それも、桐野さんの愛情表現か。


世間の基準から言ったら、
それなりの立場の男なんだろうけど、
その中身は、まったく頼りない(笑)。


彼には自分というものがなく、
何かあると、
そっちに流れ、こっちに流れ、
定まった軸がない。


そんな彼が、
妻の連れてきた”おばさん”に
翻弄される。


”おばさん”を冷たく拒絶したかと思えば、
自分に不都合が起こると、
頼ったり、
一貫性もなく。


そんな「おばさん」が、
薄井に、
遺産相続の件で、重大な予見をする。


この辺りの場面が、
私は一番好き。


薄井は、”おばさん”の言う通りに動き、
法律的に言ったら、
犯罪に当たるであろう、
ある行為をする。


面白くて、馬鹿馬鹿しい、
滑稽な男の2~3か月の間に起きた騒動。
一気に読んだ。

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「ビバリウム」 [映画]

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〔2019年/アイルランド・デンマーク・ベルギー〕


庭師のトム(ジェシー・アイゼンバーグ)と、
小学校教師のジェマ(イモージェン・プーツ)の
カップルは、
2人で暮らせる戸建てを探していた。


街の不動産屋を訪ねた2人は、
店主のマーティンから、
最近開発された住宅地「ヨンダー」の
物件を勧められる。


案内された「ヨンダー」には、
全く同じ形の家が何千軒も建ち並び、
その中の「9」の内覧をしていると、
いつの間にか、マーティンは帰ってしまったようだ。


2人もとっとと帰ろうと、
車に乗り込むが、
どこをどう回っても、
「9」の家の前に戻ってしまう。
翌日から、あらゆる手段を使って、
脱出を試みるも、全て失敗。


怒ったトムは、
「9」に火を放つが、翌日には元通り。
そして、家の前に段ボールが置かれ、
中を見ると、
生まれたばかりの赤ちゃんが・・・。





ものすごい閉塞感。
落ち込んでいる方、
今、人生が八方塞の方、
袋小路に入り込んで悩んでいる方などは、
観ない方がいいかも(笑)。


なにせ、主人公のトムとジェマが連れていかれた
住宅地「ヨンダー」を見ただけで、
ゾッとするような思いがする。


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寸分違わぬ家が建ち並ぶ様子が、
あれほど不気味とは。
散歩をしていると、
建売された家が並んでいるのを見る事があるけど、
家同士の外観が、
似て見えても、
少しずつ作りを変えてあるのは、
そういった人間の心理を考えての事なのね、と納得する。


さらに、この「ヨンダー」、
あれだけ広大な住宅街だというのに、
人っ子一人いない。
通りを歩く人もいなければ、
走る車もない。
とにかく、この世から隔絶された場所、
そう表現する以外にない。


そんな場所で暮らすしかなくなった、
トムとジェマだけど、
せめて、
本とか、テレビとか、ラジオとか、CDとか、PCとか、
そういった類いのものでもあれば、
少しは気が紛れるだろうなぁと思いながら観るけど、
それも無し。
いや、テレビはあるにはあるけど・・・。


さらに、段ボールに入っていた赤ちゃんは、
90日ほどで、
7~8歳(?)になるのだけれど、
この子がまた不気味で(笑)。


これを書くにあたって映画サイトを見てみたら、
この映画、
ベルギー・デンマーク・アイルランドの
作品なのだと知った。
いかにもなアメリカ人・ジェシー・アイゼンバーグが主演だし、
英語だったから、
てっきりアメリカの映画だと思い込んでいたけど、
ちょっと納得。
よく観るアメリカやイギリスの映画とは、
どこか違う(ような気がするだけか?(笑))。


好き嫌いが分かれると思うけど、
私は好き。


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評価 ★★★★☆

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「若い狼」 [映画]

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〔1961年/日本〕


少年院から出てきた川本信夫(夏木陽介)は、
故郷に帰るも、
炭鉱は廃坑となり、
父は出稼ぎに出たきり、音信不通。
母が身を粉にして幼い弟妹を養っている。


信夫は、
幼馴染で恋人の道子(星由里子)を頼って上京するが、
純朴だった道子はすっかり変り果て、
ズベ公グループに属しながら、
売春をして日銭を稼いでいた。


もう一人の幼馴染で不良大学生の福井は、
信夫に、やくざの組・白狼会に入れとしきりに勧めてくるが、
信夫はやくざになるのは絶対に嫌で、
仕事を探して、歩き回る。


しかし、少年院出に就職は難しく、
意気消沈した信夫は、
結局、福井が出入りしている白狼会に行ってしまう・・・。





「人生は何度でもやり直せる」とか、
「過去を振り返らず、前だけ見て」とか、
言うのは簡単だけれど、
やっぱり、
前科のある人に、
社会が冷たいのは現実なんだと、
この映画を観ていると、よく分かる。


夏木陽介さん演じる、主人公の信夫は、
少年院から出てきて、
これからの人生は、
真っ当に生きていきたいと願っている。


けれど、世の中は甘くなかった。
一番ショックだったのは、
信夫に、
口当たりのいい、
優しい言葉をかけてくれていた恩師が、
就職を頼んだところ、
急に口ごもり、
言葉を濁した事。


そして、それを隣で聞いていた、
何も事情を知らない人が、
「私が世話しましょうか」と言ってくれたけど、
信夫が少年院出だと知ると、
やっぱり、黙り込んでしまった事。


もちろん、世の中には、
前科があっても立ち直って、
立派に暮らしている人も沢山いる。


それは努力もとても大事だけど、
やっぱり運に依るところも大きいのかなぁと思う。


それに、もし、
自分の血縁者や、親しい友人が、
前科のある人と結婚すると言ったら、
全く1ミリも心配しないという自信は、
私にはないし、
不安に思わない人なんているんだろうか、とも思う。
難しいところだ。


堅気になりたいと、
心から願っても、
それが叶えられない青年の役を
夏木陽介さんが好演。


それから、
星由里子さんのイメージがいつもと違っていたのも、
ちょっと驚き。
私の中で星さんは、
女子大生のイメージが大きかったから。


評価 ★★★☆☆

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多摩川の真上に。 [できごと]

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4月2日。
この日は朝から、小田急線のダイヤが大幅に乱れていて、
私はそれを、新宿駅に着いてから知りました。


それでも、電車は、
止まっているわけではなかったので、
ちょうど来た目的地行きの車両に
乗り込んだのですが、

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動き始めた電車は、
進んでは、時々停まる、を繰り返していました。


そういった時は、焦っても仕方ないので、
本を読んだり、ぼんやりしたりしていたのですが、
もうすぐ登戸駅、という所で、
また電車が停まり、
外を見て、
「自分は今、多摩川の真上にいるんだ」と気が付きました。

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それは別に、なんて事のない出来事でしたが、
川の真上に電車が停まり、
川景色をゆっくり見られる事が、
なんだか嬉しいような楽しいような気持ちがしたので、
お客さんが、そう多くなかった事もあって、
左右、両方の窓から写真を撮りました。


ちょっと得したような気持ちになった、
春の日の朝でした。

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「私をスキーに連れてって」 [映画]

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〔1987年/日本〕


サラリーマンの矢野文男(三上博史)は、
普段は冴えない男だが、
スキーに関してはプロ級の腕前。


あるクリスマスの週末、
文男は、ゲレンデで、
OL・池上優(原田知世)に一目惚れする。


優も文男に好意を持つが、
彼に恋人がいると勘違いし、
聞かれた電話番号に、
でたらめを教えてしまう。


東京に帰り、
優に電話した文男だが、
当然、通じない。
しかし、なんと優が、
同じ会社の秘書課に勤務していることを知り、
誤解も解け、
二人は付き合う事に。


ある週末、
文男と優は、友人たちと志賀高原に
スキーに行くが、
会社から連絡があり、
2人が来ているスキーウェアが、
どうしても必要になり・・・。





観てみたいとずっと思いながら、
中々機会がなく、今まで来てしまったこの映画、
やっと観ることができた。


バブル真っ只中の作品で、
バブルを象徴するようなシーン満載かと思っていたけど、
登場人物たちは、
特に贅沢したり、
散財したりする様子もなく、
意外と普通。
そこに結構、
好感が持てる。


それに、彼らは、
バブルだからと、
浮かれているだけでなく、
仕事はきっちりやっている。
責任感も強いし。


それにしても、
いいなぁ、
ケータイがない頃の恋愛。
もしかして、すれ違っちゃうの?
と思わせておいて、
彼に会えた時の、
あの喜び。
いい年して、めちゃくちゃときめく(笑)。


それは、劇中にかかる、
ユーミンの曲の効果も大きい。
「サーフ天国、スキー天国」
「恋人はサンタクロース」
「ロッヂで待つクリスマス」など、
名曲揃いで、
劇場でなかったら、
大声で歌っていたところだ(笑)。


とはいえ、
私は、スキーを一度もしたことがない。
まぁ、鈍くさい私の事だから、
1度行ったとしても、
2度は行かないかもしれない(笑)。
映画のように、
雪の斜面を颯爽と滑ったら、
気持ちいいんだろうなと想像はするんだけど。
運動神経のいい人が羨ましい。


評価 ★★★☆☆

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