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「トットチャンネル」 [映画]

tottochannel.jpg
〔1987年/日本〕


昭和28年。
仕事を探していた柴柳徹子・通称トット(斉藤由貴)は、
NHKで日本初めてのテレビ放送の開始を前に、
専属俳優を募集している事を知る。


試験を受けたトットだが、
あまりの世間知らずに、
ペーパーテストは殆ど間違い、
歌、パントマイムも上出来とは言えなかったが、
そのまっさらな様子が逆に良いと、合格する。


合格といっても、養成期間があり、
トットはそこで、
新しい友人たち、
西里涼子(渡辺典子)
中村かおる(村上里佳子)
横井美保(網浜直子)
黒沢圭一郎(高嶋政宏)
今泉光二(堀広道)らと共に、
テレビ俳優としてのノウハウを学んでゆく。


実際のラジオドラマに、
その他大勢のガヤガヤとして出演したトットだが、
声が大きすぎる上に、
どこか他の人とは違うらしく、
一人外されてしまう事も少なくない。


それでも何とか、
テレビに出演する事になったが、
そこでも失敗ばかり・・・。





黒柳徹子さんの同名エッセイの映画化なのだけれど、


大変に面白く、
場内は爆笑に次ぐ爆笑、
私も可笑しくて何度もケラケラ笑っちゃった。


内容は基本的に、
原作通りに描かれていて、
主人公のトットは、
別に人を笑かせようとしているわけでは決してないのに、
彼女の失敗の一つ一つが、
なぜか笑いを誘うという、
徹子ワールド全開(笑)。


ただ、失敗続きのトットが、
少しずつ放送に慣れ、
成長してゆく姿も大変にいい。
青春物としても秀作。
演じる斉藤由貴も、トットそのもので可愛い。


日本で初めてのテレビ放送のエピソードも満載で、
大変に興味深い。
例えば、刑事ドラマで、
刑事役の俳優さんが、犯人役の俳優さんの手と自分の手を
手錠で繋げたはいいけれど、
手錠の鍵が見つからなくて、
刑事が家に帰ってくつろぐ場面でも、
カメラに映らないように、
犯人がずっとそこにいる、とか。


素人の子供が特技を披露する番組で、
出演者の男の子2人が、
本気で取っ組み合いの喧嘩を始めちゃって、
トットは笑っちゃって大失敗、なんてのもある。
私だって、そんな場に居合わせたら、
笑いが止まらなくなるだろうよ(笑)。


今ならコントに使われそうなネタが、
実際にあったわけで、
何事も、始まったばかりの頃は、
混乱が付き物なんだなぁと思う。


当時はドラマもバラエティも、
全てが生放送で、
だからこそ、起こったアクシデントだけれど、
もしそんな映像が残っていたら、
きっと今、大爆笑しながら観られたのにと思うと、
本当に残念。


観終わってすぐ、
久し振りに原作を読み始めた。
映画では描き切れなかった、
細かい描写がいっぱいで、
大変に面白い。
テレビ創世記の記録としても貴重だと思うし、
こういった物を残してくださった黒柳さんにも
感謝したい気持ちでいっぱいです。


評価 ★★★★☆

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「変身」 [映画]

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〔2005年/日本〕


ある日、ベッドで目覚めた玉木宏は、
ここが病院で、長い間昏睡状態だった事を聞かされる。
しかし、なぜそのような事態になったのかは思い出せない。


医師・北村和夫の説明によると、
彼はある事件で脳の一部が損傷するも、
偶然、ほぼ同時刻に、
彼の体に適合した人間が死んだ為、
損傷した部分を補う移植手術が行われたという。


会いたくてたまらなかった恋人・蒼井優の面会がやっと許され、
彼女が病室にやって来た。
絵を描くのが趣味の玉木は、
早速、蒼井をスケッチするが、
事件前の穏やかな作風と比べて、
鋭いタッチになっている事に気付く。


退院した玉木は、元の職場である工場に復帰するが、
工員たちの怠惰な仕事ぶりに心底呆れる。
自分は今まで、よくこんな職場で働いていたものだ、と。


蒼井の言動のくだらなさにも苛立つ。
あれほど好きだったのに、
彼女の長所も、今は欠点にしか見えない。
日に日に、絵に対する興味も薄れてゆく。
その代わり、なぜか音楽に対して異様な反応が起こる。


以前は物静かで、他人と争った事などない玉木が、
今は攻撃的で、全てが神経に障る。
これは、移植された脳のドナーの性格が
反映されているとしか思えない・・・。





東野圭吾の同名小説の映画化。
これを観るにあたり、
慌てて原作を読んだ(笑)。


読了した日に、映画を観たものだから、
上記の粗筋も、
映画のそれなんだか、
映画で描き切れなかった本の内容なんだかが、
混乱しているくらい(笑)。


脳の移植という、
描き方によってはホラーになりそうなテーマを、
真面目に扱っている作品。


私は、最初はてっきり、
主人公の脳の全部を、誰かの体に移植するのかと思っていた。
主人公が、他人の外見で生きていくのかと。


でもそうではなく、
脳の、損傷した部分だけを補ったのだという。
これは本からの引用だけど、
「脳だからと特別に思うのが間違いなのであって、 
 普通に臓器移植だと思えばいい」とある。


うーん、確かに医者からすればそうなのかもしれないけど、
素人の私からすると、
やっぱり脳って、
他の臓器と比べれば、特別な部位だと感じてしまう。
そう簡単には割り切れない。


この物語のように、
他人の脳を移植した事で、
ドナーの性格や嗜好が色濃く出てしまう事があるのかどうか、
それは私には分からない。
ただ、頭の中で自分と他人が共存しているって、
考えてみれば怖ろしい。
一体自分って何なのだろう。


映画としての出来はどうかと言えば、
やはり原作の丁寧な説明が端折られていて、
映画だけ観た方には、
雑な作りに感じられるんじゃないかという気がする。
案の定、ネットでの評価もかなり低い。


原作では、主人公がドナーを探す過程が面白いのだけれど、
その部分が完全に削られているので、
ドナーを知る場面が唐突すぎて、
わけ分かんない(笑)。


原作で、ショックと笑い感じた場面があった。
蒼井優が玉木宏に、
読んだ本の話をするのだけれど、
事件前は楽しく聞いていた蒼井の話も今は、


「幼稚な論理 退屈で浅薄」


これってそのまんま私じゃん(笑)。
「すみません」と謝りたくなった場面。


評価 ★★★☆☆

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「アジョシ」 [映画]

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〔2010年/韓国〕


街の片隅で、ひっそりと質屋を営むウォンビン。
彼の瞳は暗く、孤独で、客以外訪ねてくる者もいない。


たった一人、隣家に住む少女・キム・セロンだけが、
彼を慕い度々遊びにやって来る。
セロンの母・キム・ヒョソはクラブダンサーで、
セロンの世話を殆どしておらず、
そんな彼女を不憫に思うウォンビンは、
突き放す事ができない。


ある日、ヒョソは、
犯罪組織の鞄に覚醒剤が隠されている事を知りながら、
それを盗み、ウォンビンの質屋に預ける。
組織は血眼になって鞄を探し、
ヒョソの仕業だとバレ、
母子は拉致されてしまう。


さらに鞄を取り返そうと、
質屋にやって来るが、
驚異的な戦闘能力で反撃するウォンビン。


ウォンビンは何者なのか。
そして、覚醒剤だけでなく、
臓器売買をしている組織に捕まった
母子はどうなるのか・・・。





やっぱり韓国のバイオレンス映画は凄い。
本当に容赦ない。
目を背けたくなるシーン多数。


ウォンビンが、過去ある男を演じていて、
相変わらずのイケメンぶり。
タイトル通り、彼はキム・セロンから「アジョシ(おじさん)」と
呼ばれているが、
おじさんはないんじゃない?と思う(笑)。
まだお兄さんよね。


彼がなぜセロンを突き放せないのか、
セロンが可哀相な子だからとも言えるけれど、
それだけでなく、
ある過去から、幼い子供を放っておけないのよね。


韓国映画を観ていると、
日本語の発音ととても似ている言葉がある事に、
驚かされる時がある。
例えばこの映画では、
「約束」は韓国語でも「ヤクソク」とハッキリ聞き取れる。


こんなに言葉が似ているのだから、
もっと仲良くできればいいのにと思うのだけれど、
あちらがこちらを嫌いと言うのだからどうする事もできない。


ただ、今回の
旅客船の事故は、大変に痛ましく、
お気の毒に感じる。
自分の家族が冷たい海水の中で、
助けを待っている事を想像すると、
胸が締め付けられる思いがする。


早くなんとかならないのだろうか。
ここはもう、色んな事は置いておいて、
日本に応援の要請をしてほしい。
助けてと請われたら、日本はすぐにでも出掛けてゆく。


とにかく、少しでも早く事態を収拾させる事が第一でしょう。
四の五の言ってる場合じゃないと思うのですが。


評価 ★★★☆☆

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「フルートベール駅で」 [映画]

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〔2013年/アメリカ〕


2008年の大晦日。
22歳の黒人青年・オスカー・グラント(マイケル・B・ジョーダン)は、
恋人・ソフィーナ(メロニー・ディアス)と、
彼女との間に生まれた娘・タチアナを、
職場と保育園へ送っていった。


そういえば、今日は母・ワンダ(オクタヴィア・スペンサー)の
誕生日だ。
「おめでとう」の電話を入れる。


クビになったばかりのスーパーに行き、
なんとかもう一度雇ってもらえるよう、
マネージャーに懇願するが、
断られてしまった。
どうしよう。
ソフィーナとタチアナのためにも、
もう絶対、麻薬の売人には戻りたくない。


刑務所に入っていた時、
面会に来たワンダは厳しく、
オスカーを甘やかせてはくれなかった。
でも、あの母のおかげで今がある。


ニューイヤーの花火を見る為、
タチアナを預けて、ソフィーナや仲間たちと出掛けたオスカーは、
楽しい時を過ごし、
帰りの電車に乗った。


すると、電車内で喧嘩を売られ、
鉄道警察が即座に飛んできた。
「自分は何もしていない」
どんなに説明しても、騒ぎは大きくなるばかりで、
床にうつ伏せに寝かせられたオスカーと仲間たちは・・・。





2009年の元旦に実際にあった、
警察官による黒人青年射殺事件を
映画化した作品。


観終わって、溜息しか出てこない。
世の中は怒りで渦巻いている。
先日書いた、「あなたを抱きしめる日まで」もそうだけれど、
これらが実話だというのだから、
人がどれほど理不尽な世の中で生きているかを
映画を通して痛感する。


この映画のクライマックスは、
オスカーが白人警官から電車から引き摺り下ろされ、
うつ伏せにさせられ、
銃で撃たれてしまう、
ほんの短い時間で、
残りの場面は、
いわば「蛇足」と言っていい。


社会派映画にしようと思えば、
事件を映画の最初に持ってきて、
その後の裁判や、
抗議デモなどに焦点を当てる事もできたであろうが、
それは最後にテロップと写真で流れただけ。


どこにでもいるであろう、
アメリカの黒人青年・オスカーの、
射殺されるまでの1日を描いた事で、
映画を観る者の心が、
オスカーに寄り添うような効果をあげていると感じる。


もし、オスカーが白人だったら、
どうだったんだろう。
想像でしかないけれど、
軽く諌められて、
終わっていた気がする。


それから、もし、駆け付けた警官の中に、
黒人が一人でもいたらどうなっていたんだろう。


もちろん、警官の方にも言い分はあろう。
もしかしたら、日頃から、
無軌道な黒人の集団に脅威を抱いていたのかもしれないし、
相手が銃を持っている可能性も大いにある。
問答無用で押さえつけるしか、
手段がなかったのかもしれない。
だからと言って、射殺していいわけでは絶対にないけれど。


この事件は、
満員の電車の乗客全員が目撃者であり、
その中の数人が、動画で撮影していた事が、
オスカーが全く無抵抗のまま殺されたという証拠になったという。
手軽に動画撮影できるようになったのも、
悪い事ばかりではない。


私は本当の意味での人種差別を理解できてはいないと思うけれど、
とにかく悲しかった、それだけ。


評価 ★★★★☆

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「8月の家族たち」 [映画]

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〔2013年/アメリカ〕


ジュリア・ロバーツ、ジュリアンヌ・ニコルソン、ジュリエット・ルイスの
3姉妹は、
父・サム・シェパードが行方不明との連絡を受け、
実家があるオクラホマの田舎町に駆け付ける。


ロバーツは夫・ユアン・マクレガーの浮気と、
娘・アビゲイル・ブレスリンの非行化に悩み、
ルイスは、伴って来た婚約者・ダーモット・マローニーを自慢するも、
彼の様子はどこか胡散臭い。
ニコルソンは、自分の恋愛話を皆に披露するのを
ある理由から躊躇っている。


母・メリル・ストリープは、
癌を患っているが、
年を取っても毒舌は全開、
思った事は全て口に出す。
父が失踪直前に雇った、
ネイティブアメリカンの家政婦・ミスティ・アッパムにまで、
人種差別的な発言を繰り返す。


結局、父は亡くなり、
葬儀を済ませ、
その後、食卓テーブルに親戚全員が揃うが、
ストリープの相変わらずの毒舌にロバーツが切れ、
母に殴りかかってゆく・・・。





元々はピューリッツァー賞を獲った戯曲の映画化という事で、
見応えがあってとても面白かった。


私の予備知識は一つだけ、
ジュリア・ロバーツがメリル・ストリープと
取っ組み合いの大喧嘩をするシーンが見所という事だったけれど、
そんな場面はほんの一部分にしかすぎず、
それ以降、家族1人1人が抱えた秘密の大きさに、
ビックリしてしまう。


それはもう、表面化したら、
一族の在り方がひっくり返ってしまうであろう事まであって、
映画を観ているこちらも、
最初は字幕読み違えた?と混乱したくらい(笑)。


それから、胡散臭いと思っていたダーモット・マローニーが
案の定、最低の男で、
私としては、こやつが一番許せない。
そして、こやつに対するミスティ・アッパムの行動が、
めっちゃナイス!で胸がスッとする(笑)。


言いたい事を言えるのが家族、だとも思うけど、
近すぎて、他人以上に傷つけ合ってしまうのも家族。
家族だからと気を許して、
言いたい放題していると、
あとで辛い思いをする場合もある事を、
いつも心のどこかで思っていた方がいいのではないかと、私は思う。


ネットの感想を読んでみても、
好き嫌いがとても分かれているようだ。
本国アメリカでも、
評価はそれほど高くない割に、
ストリープとロバーツが、
アカデミー賞を始め、数々の賞にノミネートされるなど、
やっぱり好みが分かれる映画なのだろう。


映画に夢を求めたり、
楽しい時間にしたいと思う方には、
この内容は重いだろうと感じる。
それは人それぞれ。


私自身は、とても楽しめた。
家族を考え直す事ができたし、
ドロドロぐちゃぐちゃも人生さ、と開き直ってみたり(笑)。


それにしてもメリル・ストリープの、
洞察力の鋭さったら。
彼女は何でもお見通し。
さすがに一家の母で妻だわ(笑)。


評価 ★★★★☆

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