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「ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」 [映画]

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〔2018年/フィンランド〕


年老いた美術商・オラヴィは、
ある日、音信不通だった娘から、
孫のオットーに職業訓練体験をさせてやってほしいと頼まれ、
気が進まぬものの、数日、預かる事になる。


そんな中、オラヴィは、
絵画のオークションハウスで、
一枚の肖像画に目を奪われる。
それは、ロシアの国宝級の画家・イリヤ・レーピンの
作品ではないかと思われたが、
署名がなく、絶対的な確信が持てない。


オラヴィは、オットーと共に、
山のような資料を調べ、
肖像画が、間違いなくレーピンのものだと確証を得る。


なんとしても、あの肖像画を手に入れたい。
オークションに臨んだオラヴィは・・・。





試写会で観た。


小作品ながら、
大変に見応えのある一作。


美術の知識もセンスも全くない私だけど、
「署名はない」が、
「どうやら、大変に価値がある」と思われる絵画を
老古美術商が見つけた、なんて、
とってもロマンを感じる。


その絵画が、
本当に巨匠・イリヤ・レーピン作であるとの
確証を得るために、
美術商と、彼の孫が、
一緒に、資料を調べる場面にもワクワクする。
あぁ、その作品が本物でありますように、と、
祈るような気持ちになる。


もし映画の中に入れるなら、
「私にも、その作業、手伝わせてほしい」なんて思ったり(笑)。


そんな、絵画にまつわる物語の
サイドストーリーとして、
この老美術商の、人生が描かれる。


彼は、一生を美術に捧げたと言っても過言ではないようで、
そのせいで、
家族の事はほったらかし、
娘とは、長い間、
絶縁状態。


久し振りに会った娘は、
経済的にも苦しいらしく、
そして、孫のオットーは、
少し不良がかっている。


このオットーの危なっかしさに、
何かやらかすのではないかと、
ハラハラするような思いで観ていたけれど、
彼には意外と、商売の才覚があるようで、
オラヴィより上手に、
絵画を客に売りつけたりする(笑)。
なまじ余計な知識など無い方がいいのかもしれない。
若さゆえの大胆さも羨ましい。


オークション後の展開も、
一筋縄ではいかないけど、
「オットー、ナイス!」と思われるシーンがあったして、
この孫の存在は、最後まで重要。


あまり耳慣れないフィンランド語の響きも面白く、
世界には良い映画が沢山あると、
あらためて知った思い。


評価 ★★★★☆

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「白い粉の恐怖」 [映画]

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〔1960年/日本〕


麻薬取締官たちを乗せたトラックが、
密売現場を襲い、
売人の宮本と、売春婦のユリ子(中原ひとみ)を逮捕した。


ユリ子は、妊娠しており、
取締官の須川(三國連太郎)に、
釈放を懇願、
須川は、捜査に協力する事を条件に、
願いに応じた。


けれど、ユリ子が組織に狙われるようになったため、
須川はこれを機会に、
ユリ子を更生施設に入れ、
薬物から脱却させる。


施設から出てきたユリ子は、
少しの間、須川の家に逗留する事になるが・・・。






この映画は正しい映画、
な気がする。


薬物を扱った映画は、
決してハッピーエンドにしてはいけないという
暗黙の決まりがあると、
何かで聞いたことがあるけれど、
それでも、たまに、
薬物から完全に抜け出した、という映画を観る事がある。


そういう意味では、
この映画は、
まるでお手本のようなラストだ。


オチを書いてしまうと、
最後に、中原ひとみは死ぬ。
そして、火葬されると、
彼女の骨は、
箸で挟む事ができないほど、
ボロボロになっていて、
薬物中毒の恐ろしさを思い知る。


それにしても、
世の中これだけ、色々なものやことが発達しているのに、
薬物だけは、
何年経っても変わらない。


最初の数回は、
タダでもらって、
何となく使っているけれど、
中毒になってくると、
今度は、大金で売り付けられて、
お金が無い女は、
売春してでも、薬代を稼ぐようになる。


この流れは、
今の薬物に関するニュースを見聞きしていても、
何も変わっていない。


捜査官の、三國連太郎さんが、
「スーさん」と呼ばれている事が可笑しい。


そうよね、
三國さんといえば、「スーさん」よね(笑)。
「釣りバカ日誌」より、30年も前から、
彼は「スーさん」だったわけね。


で、「スーさん」は、
中原ひとみさんを、
自分の家に連れてきて、
妻に、
「しばらく置いてやってくれ」って。


妻は、渋い顔をして、納得いかない感じなんだけど、
その気持ちも分からなくはない。


仕事とはいえ、
夫が女性を匿うなんて、
え!?なんで!?
という気持ちだろう。


しかも中原さん、
薬物は断ったと言いながら、
実は、「スーさん」の家で、隠れて打っている。


同じ屋根の下に、
違法薬物をやっている人がいるって、
想像すると、かなり怖い事なんだけど。


評価 ★★★☆☆

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「初恋」 [映画]

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〔2020年/日本〕


プロボクサーの葛城レオ(窪田正孝)は、
KOされて気を失い、
病院に運び込まれると、
脳に腫瘍ができていて、
余命いくばくもないと告げられる。


一方、父親の借金のカタに売られ、
覚醒剤を打たれながら、
売春をさせられているモニカ(小西桜子)は、
その日、
悪徳刑事・大伴(大森南朋)に連れ出されるも、
父親の幻覚に、パニックになり逃げ出す。


大伴に追いかけられるモニカと遭遇したレオは、
咄嗟に大伴を殴り、
モニカを助ける。


実は大伴は、
日頃から押収した覚醒剤を横流ししており、
その日、
ヤクザの加瀬(染谷将太)と組んで、
大量のブツをいただく計画だったのだ・・・。





試写会で観た。


「初恋」なんてタイトルだから、
何か可愛らしい恋物語かと想像しそうだけど、
とんでもない。


激しいバイオレンスの連続で、
目が離せないし、
ストーリーも、
様々な人間関係が入り乱れて、
めちゃくちゃだ(笑)。


主人公は、ボクサーの窪田正孝と、
シャブ中にさせられ、
監禁されながら客を取らされる小西桜子だけど、
この2人は、ワルではないし、
ルックスも可愛いので、
気の毒だけど、あまりインパクトがない。


それより、ビックリなのが、
ベッキーよ。
いやはや、本当に凄い。
「怪演」と言い切れるくらい、
激しい演技で、
観ていて気持ちいい。


過去に、騒動があって、
優等生のイメージが薄れてしまった彼女だけど、
この映画を観ると、
むしろ良かったんじゃないかと思えるくらい。


もしもあの騒動がなかったら、
彼女は今でも、
優等生のままだっただろう。
人間、本物の優等生なんていやしない。
誰にだって、
黒い部分や、ズルをしてしまう心があるはずで、
それを隠すが上手いか下手かってだけ。
こんな役ができるようになって良かったねと
声を掛けたいような気持ち。


それから、染谷将太も面白かった。
彼も大人しそうな顔して、
結構なワルで
人を、とんでもない方法で殺しても、
顔色一つ変えない。
それどころか、
「やんなっちゃうなー、今日、何人目だよー」と
どこ吹く風。


私は激しいバイオレンスのシーンで
笑ってしまったんだけど、
隣の席の若い女の子が、
目を覆ったり、
ビクビクしているのを
面白く感じていた。


この子がこの映画の感想を書くとしたら、
どんな内容になるんだろう。


そして、笑っている私の事を、
「こんな大人になりたくない」と思っているんだろうなぁ、とも(笑)。
女もいい年になると、
大抵の事は笑い飛ばせるようになるものよ。
なりたくなくてもさ(笑)。


評価 ★★★☆☆

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「積木くずし」 [映画]

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〔1983年/日本〕


穂波由布子(渡辺典子)は、
幼少期の病気が原因で、
髪が赤く、
そのせいで、中学に入った途端、
不良グループに目を付けられてしまう。


心も体も傷ついた由布子は、
不登校となり、
転落が始まった。


派手な化粧をし、
家に帰って来ず、
怪しげな友人たちと
遊び回る由布子。


両親(藤田まこと・いしだあゆみ)は、
もう自分たちの手には負えないと、
藁にもすがる気持ちで、
警視庁の少年係に相談に行く。


そこで出会った指導員・竹田(林隆三)は、
様々なルールを
両親に課すのだが・・・。





原作もテレビドラマも、
大ヒットしたという本作。


私は、
ドラマは見ていないのだけれど、
原作は読んでいる。
最初の大ヒット作だけでなく、
その後、出版された続編は、
全て読んでいると思う。


それらの出版物には
第一作目の「積木くずし」には書かれていなかった、
壮絶な事実が多数書かれており、
「そういう事だったのか」と、
実在した、
穂積由香里という、
一人の女性の人生に、
思いを馳せずにはいられなかった。


穂積隆信さんは、
不良になった由香里さんが、
更生途中の段階で、
「積木くずし」を出版、
それが大ヒットとなった。


本の内容は、
子供がグレてしまった、
世の親御さんたちに希望の光を与えたであろうが、
そのせいで一般人だった由香里さんは、
世間の注目を浴びる事になり、
また、元の道に戻ってしまう。
本や映画は大団円でも、
人生は、その後も続くのだ。


由香里さんがグレてしまったきっかけにしても、
1冊目の本や、映画では描けない、
悲しい出来事があったようだ。


何でそんなにヒットしたのかな、
この作品は。
これをヒントに、
青少年の犯罪が減ったとは、
とても実感できないし、
結局は、有名俳優家族の
内幕を覗いた満足感しか残らなかったのかもしれないな。


評価 ★★★☆☆

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「電話は夕方に鳴る」 [映画]

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〔1959年/日本〕


瀬戸内海のある平和な街の
市長・立花卓造(千田是也)の家に、
脅迫状が届き、
50万円を要求される。


犯人は、卓造の娘・咲子(二木多鶴子)に50万円を持たせて、
喫茶店「家路」に寄こせと言う。
しかし、多数の私服刑事がいる事を見破られ、
計画は中止になってしまう。


その後も脅迫は続き、
警察署長、僧侶、極道の親分など、
街の有力者を巻き込んで、
大騒ぎとなるも、
犯人の尻尾は全くつかめない・・・。





のどかで牧歌的な、小さな街で起こった、
市長への脅迫事件。


犯人は皆目見当がつかず、
街の有力者たちは
右往左往。


それどころか、
犯人の捜査をしていくうちに、
有力者たちの様々な秘密が明らかになる。
愛人がいたり、
息子が政治活動していたり、
美術館に飾ってあったゴッホの絵が贋作だったり、
学生たちが秘密結社を作っていたり。


この映画、
川崎敬三さんが出ているので観にいったのだけれど、
ポスターに一番最初に名前が載っているにも関わらず、
川崎さんは中々出てこない。


やっと出てきたのは、
始まって45分くらい経ってから。
咲子の兄の役で、
さして重要な役ではなかった(笑)。


タイトルはシリアスなミステリーっぽく、
でも、内容はコメディっぽく、
でもでも、
犯人が分かると、
とても哀しく、切ないような気持ちになる。


その犯人を、
登場人物の一人が突き止めるんだけど、
犯行理由が哀しくて、
誰にもその事を話さず、
だから、
事件は迷宮入りで終わる。


観ている者は、
そこにホッとする。
私は、どちらかというと、
白黒ハッキリした物語が好きだけれど、
この映画に限っては、このラストでいい。


それから、この映画、
映像としても、とても貴重。


この映画、
廣岡市という架空の街で起こった事件として
描かれているけれど、
撮影は倉敷市で行われたそうで、
1950年代当時の倉敷市の街が、
これでもかと映し出される。


倉敷市に住んでいる方、
倉敷市が故郷の方、
倉敷市がお好きな方は、
見入ってしまうんじゃないだろうか。


評価 ★★★☆☆

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