「偽大学生」 [映画]
〔1960年/日本〕
新文芸坐で観た。
今日は国立T大(もちろん東大であろう)の合格発表の日。
4浪のジェリー藤尾は、自分の名前を探していたが、
今年も駄目だった。
しかし、田舎に住む母親や下宿先の夫婦にその事を言えず、
合格したと嘘をついてしまう。
学生服にT大のボタンをつけ、
T大近くの喫茶店にいたジェリーは、
学生運動のリーダー格の男、伊丹十三が逮捕される場に居合わせる。
ジェリーをT大の新入生と思い込んだ伊丹は、
連行される寸前に、大学の歴史研究会へのメッセージを
ジェリーに託す。
伊丹からのメッセージを携えて、
研究会へ出掛けたジェリーは、
若尾文子や藤巻潤など、本物のT大生から疑われる事無く、
いつの間にか研究会の一員となる。
伊丹の釈放を要求する学生たちは、
警察の前で暴れるが、そこでジェリーは大活躍。
彼はすっかり自分がT大生になったような気になり、
学生たちと打ち解けてゆく。
ところが、ジェリーを授業で見掛けない事を不審に思った学生が、
名簿を調べたところ、彼の名前が無く、
彼はスパイ嫌疑を掛けられてしまう。
研究会の部屋の隅で、椅子に縛り付けられ、
追及を受けるジェリー。
どんなに違うと言っても開放してもらえない。
しかし、学生たちもジェリーの処遇に困り始めていた。
様子からすると、どうも彼はスパイではないらしい。
しかし、このまま開放し、警察にでも駆け込まれたら、
監禁の嫌疑で逮捕され、退学は必至であろう。
ジェリーの糞尿のにおいが充満する部屋で、
順番に見張りを続けなくてはならない辛さにも耐えられない。
ジェリーはどうなるのか。
そして学生たちは・・・。
T大に憧れるあまり、
軽い気持ちでした行動が、
大変な事になってゆく、ちょっと怖い話。
原作は大江健三郎。
学生運動の事はよく分からぬが、
警察に対抗する学生たちが、
疑わしいというだけで、
一人の人間を監禁するあたり、
やっている事は警察と変わりないという矛盾。
「あいつを縛っている俺たちが、
本当はあいつに縛られているじゃないか」と言う、
学生のセリフは面白かった。
この話にかぎらず、
そういう事って、普段の日常でありそうだ。
今回はクールな若尾さん。
男子学生たちがジェリーに詰め寄っているのを、
冷めた目で見つめ、
自分は逮捕されても構わないと言う。
冷静な若尾さんもいい。
何が正常で、何が異常なんだか、
分からなくなるラスト。
評価 ★★★★☆
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