「裸の重役」 [映画]
〔1964年/日本〕
日高孝四郎(森繁久彌)は、一流商社で営業部長をするサラリーマン。
仕事一筋の彼は、
自分の思う通りに動けない部下・浜中(宮口精二)や奥田(児玉清)が大嫌いで、
なにかと辛く当たり、クズ呼ばわりしている。
孝四郎は娘・啓子(星由里子)の結婚相手に、
自分が見込んだ部下3人の中の誰かを選ぼうと考えている。
ところが、啓子が奥田と交際している事を知り、激怒。
けれど、啓子の結婚への意志は固い。
すったもんだの挙句、
奥田と啓子は結婚する。
しかし、理想の婿を得られなかった孝四郎は、
ガッカリする気持ちと、淋しさから、
今までのように仕事に燃える事ができず、
ミスを連発する。
最後のチャンスとして、
大きな取引を任せられた孝四郎だが、
それも苦戦する。
そんな彼を慰めたのは、
街角に立つ、娼婦の咲子(団令子)だった。
取引は、絶対絶命と思われたが、
孝四郎を救ってくれたのは、
普段彼が軽んじていた、
奥田や、浜中や、中小企業の社長だった。
彼らのおかげで取引に追い風が吹き始め・・・。
名画座で、
昨日感想を書いた、「美しき母」の次に上映されていて、
連続して観ようかどうしようか迷ったのだけれど、
本当に観て良かった。
面白かった。
凄いなぁ、森繁久彌さん。
今まで森繁さんの事を、
特別好きとは思った事はなかったけれど、
この映画の彼は素晴らしい。
私が知らなかっただけで、
凄い俳優さんだと言われるのにはちゃんと理由があるんだ。
森繁さん演じる孝四郎は、
出世の事しか頭になく、
いずれは社長に、と思っている。
そのためには、無能な部下をあからさまに傷つけても、
全く平気。
会社にこんな上司がいたら、ものすごく嫌な奴だ。
しかも、娘まで、出世の道具にしようとしている。
そんな最低男を演じる森繁さんがめっちゃ上手くて、
スクリーンに見入ってしまう。
前半は、娘の結婚までの顛末を描いていて、
とても面白かったけれど、
後半はさらに面白いと思った。
娘の結婚がショックで、
なんとなくテンションが上がらなくなった孝四郎は、
仕事にも力が入らなくなる。
夜も全く眠れず、
そうかと思えば、
些細な事が気になり、深夜に会社に行ったりもする。
それは、どう見ても、
ある種の心の病を発症しているようにしか見えない。
本人にもその自覚はあるのだけれど、
今まで自分がしてきた事を思えば、
部下には絶対に知られてはならない。
仕事一筋のサラリーマンの辛さが観る者の心にくる。
彼は嫌な奴だけれど、
嫌いにはなれない。
落ち込んだ時の、あの辛さは、
多くのかたも経験がある事だろうし、
きっと「わかる」と思う方も多い気がする。
そんな時、道端で声を掛けてきた娼婦とホテルに行く場面が
秀逸。
本来なら、娼婦というだけで眉をひそめそうだけれど、
2人の醸し出す雰囲気が、何とも言えずいいんだな。
娼婦であろうと、なんであろうと、
たった一人の人間が、誰かを救う事もある。
私の文章力では伝えきれないけれど、
観客の方の殆どはあの場面を、
好ましい気持ちで観ていたという気がする。
1964年は、高度成長期と言っていいのだろうか。
孝四郎の部下たちは、
正月になると、孝四郎の家に
新年の挨拶という名目で、
ご機嫌伺いに行ったりする。
「なんで貴重な正月休みまで、上司に会わねばならんの?」と、
現代のサラリーマンならきっと言うだろう。
私だってそう思う。
そういう時代だったのか、
景気が上向いている時期というのは、
そういうものなのか。
森繁さんを見る目が、
すっかり変わってしまった。
これから森繁さんの映画を観る時は、
「私は今、森繁さんを見ているんだ」と、
しっかり心に留めながら、観たいと思う。
評価 ★★★★☆
私もイマイチ森繁さんのすごさがわからないクチなので
見てみたいなぁ。
児玉清さんの若い頃、しかも出来ない社員役も気になるし。
「ちいさいおうち」でもお正月に社員が上司宅に集まって
いましたね。向田邦子ドラマでも。接待用のおせちを準備する
奥さんが大変そう~
by su-nya (2015-12-11 05:24)
昔の会社にいた頃は、お正月に上司の家に行くのが
当たり前だと思っていました^^;
自分の家にも父の会社の人が来ていましたよ。
その人たちが今、一緒にゴルフをしているオジ達です(=^・^=)
by Rchoose19 (2015-12-11 07:37)
su-nyaさん
コメントありがとうございます
やはりそうですよね。
私も森繁さんを知った時は、
すでにお爺ちゃんという風情でしたし、
別段ハンサムというわけでもなかったので(ごめんなさい^^;)
気に留めた事もなかったです。
私たちの知っている児玉清さんって、
知的なイメージが強いですものね。
この映画のようなぼんやりした役にはビックリでした。
あ、そうでしたね。
「ちいさいおうち」でも、お正月に集まってましたね。
向田邦子さんの随筆も、
お父さんがしょっちゅう、部下を家に連れてきていたような・・・。
私だったらご免こうむりたいです~(笑)。
by 青山実花 (2015-12-14 22:43)
Rchoose19さん
コメントありがとうございます
なるほど、昔は、
上司の家に行くのも、それほど気にならなかったのですね。
それが当たり前だと思えば、
そんなものかと、疑問も持たないですものね。
Rchoose19さんのゴルフのお友達は、
お父様のお友達、もしくは部下の方という事でしょうか。
そんな風にお付き合いが続いているなんて、
素晴らしい事ですね。
by 青山実花 (2015-12-14 22:48)
はじめまして。この裸の重役は秀作でした、森繁さんは7人の孫を子供時代に見てました、近年警察日記をみて森繁さんの若い時代を知りました、この裸の重役は 監督が千葉泰樹さんだったので見ました、正解でした、それにしても星由里子さんの美しいこと、いったいどのくらいの男性たちから申し込みがあったのか 女の歴史の中の星由里子さんと違い希望が叶う配役でよかった、やはり千葉泰樹はすごいや。
by 晩夏も暑くて (2018-09-01 18:52)
晩夏も暑くてさん
コメントありがとうございます。
私も、この「裸の重役」はとてもいい映画でしたね。
森繁さんはもちろんのころ、
星由里子さん、団令子さんなどの、
女性陣も良かった。
千葉泰樹監督の映画は、それほど観ていませんが、
「がめつい奴」は、手に汗をかくほど面白かった事を
覚えています。
by 青山実花 (2018-09-02 08:25)