「雄呂血」 [映画]
〔1925年/日本〕
若侍・久利富平三郎(阪東妻三郎)は、
師である松澄永山の誕生祝の席で、
家老の息子・浪岡の無礼な振る舞いに怒り、
喧嘩になってしまう。
平三郎は、また別の日には、
三人の侍が、師の娘・奈美江を貶めるような噂話を
しているのを聞き、怒って暴力をふるってしまう。
理由を知らない師から破門にされた平三郎は、
奈美江だけには本当の事を知ってもらいたいと、
彼女の部屋に忍び込むが、
それがまた仇となり、
ついに故郷を出なくてはならない事態になる。
旅先の地で、平三郎の暮らしは荒れ、
また、些細な事で誤解されては牢に入れられ、
ますます荒んでゆく日々。
そんな彼の慰めは、
料亭で働く千代という女給であり、
彼女会いたさに脱獄するも、
彼女は既に人の妻となっており・・・。
1925年の映画というから、
なんと90年前。
そんな昔に、
このようなきちんとしたストーリーのある映画が
日本にもあった事が凄いし、
今、私たちを楽しませてくれる映画の基礎だと思うと、
ありがたくて手を合わせたくなる。
私が観たソフトは、
映像に、弁士さんの声が入っているというもので、
大変に分かりやすく、面白かった。
冒頭に弁士さんが
「世の中、悪人と思われている人が実はいい人で、
善人と言われている人が、実は悪人という事も多々ある」
みたいな解説をするのだけれど、
本当にこの映画の主人公・平三郎ときたら、
誤解が誤解を呼んで、
坂道を転げ落ちるように悪者呼ばわりされるようになってしまう。
笑ったのは、
平三郎が道を歩くと、
通りすがりの人みんなが、
「あ、ならず者だ」「ならず者だ」と、
彼を指さして叫ぶ場面。
人に向かって、「ならず者」と直接呼ぶ事ってあんまりないよね(笑)。
それにしても、
21世紀になっても、
人間って何も変わってないんだなぁと思う。
毎日のニュースの中で、
社会的に、人の手本にならなければならないような御仁や、
周囲から、高潔な人物だと尊敬されていた御仁が、
実はとんでもない悪事を働いていたという事件が、
どれだけある事か。
平三郎もそんな人間から、
酷い目に遭わされる一人。
一本気ないい人なのに、
立ち回り方が下手なだけで、
こんな風になってしまうんだと、
少し悲しくなるような内容。
評価 ★★★★☆
すごい作品をご覧になりましたね。私も録画で持っていますが、日本映画草創期の傑作です。弁士は松田春翠さんで昔からの生粋の活弁士として最後の人です。(その跡を継いだのが女性の沢登翠さん〉。私はこの作品を松田春翠さんの活弁で観ましたよ。この作品は後半の捕り物の大立ち回りが圧巻で、有名なシーンです。あんな機敏な撮影が行われていたこと自体が驚きですよね。当時は大型で重いカメラで手回し撮影し、手回し上映。活弁と演奏はライブで行われたわけです。
ビデオは無声映画に後で活弁の声と演奏を付け加えてトーキー化したものです。
by sig (2015-03-31 16:28)
sigさん
コメントありがとうございます。
この映画の噂は以前から知っていたのですが、
観たのは初めてです。
sigさんはやはりお詳しいですね。
松田春翠さんご本人の活弁で観られたなんて、
本当に凄いですし、羨ましいです。
大立ち回りの場面が、今までの映画にはないものだという
話も聞いていました。
私は映画を観る時、どうしてもストーリー重視になりがちで、
俳優さんの動きは後回しになってしまうのですが、
この映画の映像には大変に惹き付けられましたし、
当時は相当な技術だったのだろうと思いました。
なるほど、当時は重いカメラで手回しですか。
今では考えられないくらい、大変な作業だったのでしょうね。
これからも、こういった古い映画を沢山見ていきたいです。
by 青山実花 (2015-04-03 20:22)