「明日吹く風」 [映画]
〔2018年/ドイツ〕
43歳のパウルは、
出勤の途中で、
ふと、自転車を乗り捨て、
そのまま失踪してしまう。
その後、パウルは、
様々な方法で食いつなぎ、
様々な方法で移動し、
各地を放浪する。
そんな旅の途中で、
風変りな若い女・ネレと出会い、
2人は次第に親しくなってゆく。
一方、パウルの妻は、
急にいなくなった夫を、
興信所を使って、必死に探すが・・・。
試写会で観た。
ドイツ映画祭2019での1本。
最初から、何度も笑わせられる。
主人公のパウルさん、
スーパーの駐車場で、
鍵のかかっていない車の助手席に乗り込んで、
車の持ち主を待っている。
持ち主が戻ってきて、仰天し、
「あ、あんた、誰?」と聞いても、
彼は動じる事なく、
「さあ、行こう」と。
その態度は、めっちゃ自然。
どこかへ乗せていってもらうのが、当たり前のように。
見知らぬ人の、葬式後の会食にも、
勝手に入り込む。
まるで故人と知り合いだったみたいに。
本来、そんな事がバレたら、
通報ものだろうけど、
このパウルさん、
とってもチャーミングなおじさんで、
なぜか憎めない。
その笑顔に、全て許してしまう。
笑えるといえば、
会食の席で、
隣に座ったお婆さんにも、大笑い。
彼女は、大切な秘密を打ち明けるように、
小声でパウルさんに話し掛ける。
「私、エイズなの」と。
ビックリして、パウルさんがお婆さんを見ると、
「日本人にうつされたのよ」だと(笑)。
そんな事で、日本人の名前を出さないでー!と思いながらも、
笑いが止まらない。
他のお客さんたちも笑っている。
それを言ったのが、若い女性じゃなくて、
そんな事とは無縁そうなお婆さんだったのが、
笑いを誘う要因だったのかもしれない。
人が、ある日、突然、
今まで築き上げたものを捨てて蒸発する。
その気持ち、ちょっと分からなくもないな。
もう何もかも、
どーでもよくなって、
プイといなくなれたらいいだろうなと思う事がある。
この映画とは全然関係ないけど、
山本文緒さんの小説、「落花流水」の中にも、
そんなシーンがあって、
その部分を読んだ時は、
後頭部を殴られたような衝撃を覚えたものだ。
それを実行しないのは、
勇気がないだけで、
だから、できる人が羨ましいのかもしれない。
で、私は蒸発はできないけど、
映画を観たり、
旅行に行ったりするのが、
きっとささやかな、
非日常への逃避なんだと、
そんな気がしている。
評価 ★★★☆☆