◆邂逅の森◆ [本]
秋田の貧しい小作農の次男・松橋富治は、
同じ村に生まれた男が殆どそうであるように、
気が付いたら、マタギになっていた。
それ以外の職業は選びようがない環境だった。
しかし彼は、地主の娘・文枝と激しい恋に落ちた事で、
文枝の父を怒らせ、
鉱山へと追いやられてしまう。
鉱山での仕事もそれなりにこなし、
リーダー格にまでなった富治だが、
あるきっかけから、山に入り、
血が騒ぐ。
マタギに戻りたい。
自分の天職はマタギしかない、と・・・。
昨年、立て続けに、
マタギを主人公にした映画を観ておりましたら、
ブログのお友達、NO14Ruggermanさんから、
この「邂逅の森」をお薦めいただき、
図書館で借りてきました。
何という力強い小説。
圧倒され、心揺さぶられる。
お薦めいただいたから、という事ではなく、
本当に素晴らしい内容に、感動を覚えた。
自然への畏怖。
獣を殺す事を生業とする中で、
山の神の存在を信じ、
厳しい掟を守っているマタギたち。
ラストの、富治と大熊との対峙の場面は、圧巻。
そこには勝ちも負けもない、
マタギ対山の「ヌシ」との壮絶な闘いが描かれる。
富治。
なんて男らしい男。
彼の男らしさは、
マタギをしている時でなく、
むしろ、鉱山で働いている時や、里にいる時にこそ発揮されていると、
私には感じられた。
彼は、女や、自分の部下に、
決して尊大な態度を取ったりはしない。
この時代に、それはとても珍しい事だったのではないか、と思う。
ふんぞり返る事が強さではないと、
意識はしていないだろうが、
彼はそれを体現している。
それから、忘れてはならないのは、
彼の人生に深く関わる、
二人の女、文枝とイクの存在。
読んだかたは分かると思うけれど、
富治が軽い気持ちで、文枝にある提案をした時、
文枝の、
「あなたとイクさんの近くにいると、嫉妬で気が狂ってしまう」という一言は、
溜息とともに、大きく肯いてしまった。
富治。
男らしいことにかけては、
天下一品だけど、
女の気持ちはまるで分っていない。