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「歌行燈」 [映画]

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〔1960年/日本〕


明治時代。
東京から来た観世流家元・恩地源三郎は、
伊勢で奉納能を演じるが、
地元の謡の名手・宗山は、
「東京者など、大した事はない」と噂を流す。


そんな中、宗山の家に旅の者がやって来て、
ぜひ、宗山の謡を聞かせてほしいとせがんだ。
宗山は、得意になって芸を見せるが、
旅の者が途中から打ち出した鼓の素晴らしさに、
己の芸の未熟さを思い知らされる。


この旅の者こそ、
恩地源三郎の息子・喜多八(市川雷蔵)であり、
父の芸について、あらぬ噂を流された仕返しに、
宗山を懲らしめたのだ。
ところがその後、
宗山はショックのあまり井戸に飛び込み、自死、
源三郎は喜多八を破門・勘当する事で、
宗山の家族に詫びの代わりとした。


父・宗山を失い、
行き場を無くした娘のお袖(山本富士子)は、
生きるために、芸者になるしかなかったが、
父を思うと、三味線や踊りなどを
覚える気になれずにいた。


数年後、
変わり果てた喜多八と偶然再会したお袖は・・・。





良かった良かった、ホッとした。
オチを書いてしまって申し訳ないけれど、
ハッピーエンドですよ、この映画(笑)。


今までにも、泉鏡花原作の映画は
何本か観てきたけれど、
なんだかアンハッピーエンドが多くて、
泉鏡花って、なんて意地悪なんだろう、
どうせこれもそうなのだろうと、
勝手に決めてかかっていたから。


この映画だって、
最後の3分まで気を抜けなかった(笑)。
幸せに流れかけてはいるけれど、
ラストまで油断しちゃいけないって。


山本富士子さんが、
雷蔵さんから、
舞を教わる場面の美しさ。
場所も時間もない2人は、
早朝、野外で稽古をするのだけれど、
その様子には見惚れてしまうし、
時間の経過とともに、
山本さんの芸が上達してゆく様も良い。


それにしても、
冒頭の、
東京vs関西みたいな争いは、
やめてほしいなぁ。
(伊勢が関西なのかどうかはちょっと微妙だけど)
最近は少なくなった気がするけれど、
それでも、たまに聞くものね。
「これだから東京者は」とか、
「どうせ関西なんか」とか。
そんな事を言うのは一部の人なんだろうけれど、
同じ日本人同士、仲良くしようよ♪


この映画、
近々、名画座に観に行こうと思っている、
成瀬巳喜男監督版、「歌行燈」のリメイク。
明日に備えて、
こちらの方が公開年は後だけれど、
観てしまおうと思って。


観よう観ようと思っていながら、
後回しになっていたので、
ちょうど良かった。
成瀬版が楽しみ。


評価 ★★★★☆

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「古都憂愁 姉いもうと」 [映画]

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〔1967年/日本〕


京都で暮らすきよ子(藤村志保)は、
婚家から、家風に合わないと実家に帰され、
今は妹のひさ子(若柳菊)と2人で、
小料理屋「とと喜」を経営している。


ひさ子は、許婚の明男(田村明男)から、
体を求められているが、
結婚までは絶対許すまいと決めている。


ある日、きよ子は明男から、
「自分が本当に好きなのはあなた」と言われ驚き、
家に逃げ帰るが、
その後、明男に迫られ、
一線を越えてしまう。


それを知ったひさ子は、
きよ子を激しく責め、
絶対に許さないと言う。
ひさ子の怒りが解けないと感じたきよ子は、
明男と東京へ駆け落ちしてしまう。


姉妹の仲違いを心配した、
「とと喜」の常連客の結城(船越英二)と、
旅館の女将・志麻(八千草薫)は、
喧嘩の仲裁に乗り出すが・・・。





先日書いた、「踊子」と同様、
こちらも、姉妹が一人の男を取り合う。
「踊子」は、妹が姉の夫を寝取ったけれど、
こちらは、姉が妹の恋人を奪ってしまう。


「踊子」では、
取り合われる男の役を、
船越英二さんが演じていたけれど、
今回は仲裁に入る役。


ただ、彼は途中で、
姉役の藤村志保さんから、
迫られる場面がある。


藤村さんは、妹の許婚から言い寄られ、
混乱して、
船越さんと懇ろになる事で、
その混乱を収めようと、
船越さんのお布団に入っていくのだけれど、


「踊子」の時と違って、
船越さんはとっても冷静。
据え膳食わずに(笑)、
藤村さんを諭す。


なぜに映画の中の船越さんは、
そんなにモテるのか(笑)。
八千草薫さんも、
彼の事を、とっても好きみたいだし
バーのマダム役の、
河内桃子さんからも、
憎からず思われているらしい。
うーん、美人ばかりじゃないか(笑)。


まぁ、この映画は、タイトルの通り
姉妹の問題がテーマなわけで、
船越さんモテ問題を
論じる映画ではないのだけれど(笑)。


評価 ★★★☆☆

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「踊子」 [映画]

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〔1957年/日本〕


淡島千景と船越英二は、
浅草のショー劇場で働く夫婦。
淡島はダンサー、
船越はバイオリンを弾いている。


そんなある日、
淡島の妹・京マチ子が、
2人のアパートに転がり込んでくる。
ただでさえ狭いその部屋。
3人はカーテンで仕切っただけで暮していたが、
いつしか、船越と京は一線を越えてしまう。


京は、淡島と一緒にダンサーとして働き出す。
そんな中、船越は、
振付師の田中春男から、
京には盗癖があるようだから注意してやってくれ、と言われる。


船越が京にその事を告げると、
京は、
「そんな事より、自分は妊娠している」と言い、船越は仰天。
さらに、その事が淡島に分かってしまい、
彼女は涙を流すが、
さりとて、船越と別れる気にもなれない。


その後、京は女の子を出産。
淡島は雪子と名付けられた赤ん坊を、
自分の子供の様に可愛がるが、
京は芸者になると家を飛び出し・・・。





途中までは面白かったので、
中盤からラスト、失速したのが惜しい。


突然、夫婦のアパートに転がり込んできた、
妻の妹。
この妹の演じる京マチ子さんの、
小悪魔っぷりが、それはそれは凄い。


彼女には、貞操観念、道徳観念といったものが、
欠片も無いようで、
その場のノリで生きるだけ。


船越英二と初めて関係したのも、
なんと、淡島さんが寝ているお布団の隣で。
AVじゃあるまいし、
姉の夫をそんなシチュエーションで横取りするなんて、
最近、大騒ぎになったタレントの不倫騒動なんて
まだまだ可愛いもんだわ(笑)。


しかも彼女は、
振付師の田中春男とも関係している。
どこまでユルい女なんだ。
妊娠したって言っても、
どちらの子だか分かりゃしない。


で、船越さんと京さんの関係を知った時の、
淡島さんの嘆き悲しみと言ったら、
観ているこちらまで辛くなったくらい。


ただ、ここから失速。


その後、登場人物たちは、
そう修羅場になる事もなく、
京さんは子供を産み、
淡島さんも、彼女と何事もなかったかのように接する。


そんな事ってあるかしら。
自分の夫を寝取った妹と平気で付き合えるなんて。
他人でなく、
むしろ肉親だからこそ、
余計に許せない、気持ち悪い、と思うものだと思うんだけど。


しかも、そんな間にも、
船越さんと京さんはホテルに行ったりしてるのよ。
とにかく船越さんが優柔不断で、
いつでも覇気がない。
覇気がないくせに、やる事だけはやる。
京さんもだらしがないけど、
実は、こやつが一番の問題児(笑)。


オチも、私には物足りなかった。
ただ、京マチ子さんと淡島千景さんの
姉妹役での共演というのが珍しい気がして、
それを観られただけで満足。


評価 ★★★☆☆

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「ディーパンの闘い」 [映画]

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〔2015年/フランス〕


スリランカの兵士・ディーパン(アントニーターサン・ジェスターサン)は、
内戦で家族を失い、
難民としてパリに行こうと決意する。


そのためには、
単身より、家族がいた方が、
より審査が通りやすいため、
見知らぬ女・ヤリニ(カレアスワリ・スリニバサン)を妻に、
8歳の少女・イラヤル(カラウタヤニ・ヴィナシタンビ)を娘という事にして、
3人でフランスに向かう。


なんとか難民として受け入れられた彼らは、
パリ郊外の団地で、
管理人として採用される。


疑似家族として、
なんとかこの地で落ち着こうと思った彼らだが、
しかし、そこも、
安住の地ではなかった。


たむろする若者たちは薬物の売買に関わるなど、
団地内は荒れ果てていたのだ・・・。





こういう映画って、
褒めないと駄目なような気がして、困る。
ポスターには、
「カンヌ映画祭 パルムドール受賞」などと
書かれちゃってるし。


ディーパン、ヤリニ、イラヤルの立場になって考えたら、
偽物の家族になってでも、
難民審査を通って、
フランスで暮らせるようになったことを
喜ぶべきなんだろうけれど、


日本人として考えると、
どうなのよ、と思ってしまう気持ちは否めない。


もし、日本に、
こんな形で外国の人たちが住みついたら、
家族でもないのに、
家族のフリして入り込む事がこれほど簡単なら、
一体どうなってしまうの、と、
不安の方が大きい。


こういった問題は、
本音が言いにくい。
もっと深く描きたい事があるんだろうけど、
深読みできない私に、
この映画を観る能力はない。
まずは自分だったら、と、
自分の事しか考えられない人間だから。


それにしても、
難民もそうだけれど、
パリの郊外ってのも、
本当にあんなに酷いものなのか。


ディーパンが管理人として働く団地の荒れ果ててる事ったら。
まるで普通に、
薬物の売買とかしちゃってるし。


しかも、若者が集ったあとの集会所(?)などは、
ゴミの山。
日本って、なんて清潔な国なんだと、
あらためて、自分の国の素晴らしさを振り返るきっかけになったくらい。


評価 ★★★☆☆

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「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」 [映画]

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〔2015年/アメリカ〕


モーガン・フリーマンと、ダイアン・キートンは、
仲のいい夫婦。
ブルックリンの
眺めのいいアパートメントに40年暮らしている。


この部屋は、2人にとって最高の住まいだったが、
一つだけ難点が。
最上階の5階の部屋まで行くのに、
エレベーターが無く、
年齢を重ねた今、
昇り降りが辛くなってきたのだ。


今後の事を考え、
エレベーターのある部屋に引っ越した方がいい、
そう考えたキートンは、
フリーマンを説得し、
姪で不動産業をするシンシア・ニクソンの力を借りながら、
部屋の売り出し広告を出す。


内覧会の日がやって来た。
しかし、こんな日に限って、
ブルックリン橋でタンクローリーが事故を起こし、
道路は大渋滞な上に、
逃走した運転手にはテロリストの疑いがあるという。


さらに、愛犬ドロシーの様子がおかしい。
獣医に診せなければ・・・。





とても意外だったけれど、
モーガン・フリーマンとダイアン・キートンは
初めての共演なのだそうだ。


けれど、とてもそうは思えないくらい、
素敵な夫婦を演じていて、
本当に長年連れ添った2人みたい。


時々、若い頃の2人のエピソードが織り込まれて、
それがまたいい。
画家の卵だったフリーマンと、
モデルのキートン。
黒人と白人というカップルの結婚に、
親も、周囲も、諸手を挙げて大賛成という風ではなかったけれど、
それでも、深く愛し合う2人に迷いがなかった事が
上手く描かれている。


そんな2人が、
長年住んでいたお家を売りに出そうとするわけだけど、
そこに、
今風の話題である、
テロの問題が絡んでくる。


こんなハートウォーミングっぽい物語にまで、
テロの脅威が盛り込まれるとは、
やっぱり世界はそこまで、
切羽詰まった所に来ているのだろうか。


それにしても、
愛着のある家を、
何らかの理由で手放さざるを得ない辛さって、
分かるなぁ。
99の条件を満たしているのに、
たった1つの条件が合わないばかりに、
引っ越すしかないという、その辛さ。


しかも、内覧会では、
知らない人がどんどん入って来て、
値踏みするように、家中を見られて、
思い出の詰まった家を
穢されるような、あの感じ。


大好きな家なのに、
数ヶ月後には、見知らぬ人が住むのかと思うと・・・。
辛くて辛くて、
家も泣いているような気がする。


・・・って、映画ではそこまで大げさに描かれてはいないけれど、
これは、私個人の気持ち。


評価 ★★★☆☆

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