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「憂愁平野」 [映画]

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〔1963年/日本〕


山本富士子は、夫・森繁久彌の行状が
気になって仕方なかった。
「女がいるのでは」
そう思うと、矢も楯もたまらず、
森繁がゴルフに行っている軽井沢のホテルに、
早朝押しかけ、
一人で寝ている彼を見て、胸を撫で下ろす。


しかし、山本が帰ったあと、
森繁は、親友の妹・新珠三千代を再会する。
新珠は、森繁を密かに愛しているのだ。


山本が森繁と待ち合わせしていた
都内のホテルのロビーに新珠がやってきた。
山本は新珠に良くない感情を抱き、
笑顔で話すも、その言葉は棘だらけ。
二人の間は、
なんともギスギスした空気が漂う。


その後、山本は、
彫刻家・仲代達矢と知り合い、
心惹かれるようになる。
すると、仲代が新珠の従兄妹である事を知り驚く。


森繁と新珠の関係は
いよいよ危うくなってくる。
2人は軽井沢のホテルに向かい・・・。





申し訳ないけれど、
くだらなくて、イライラした。


特に新珠三千代さん。
彼女は亡くなった兄の親友・森繁さんに
恋をしているのだけれど、
ちょっと変わった考え方のようで、
「処女受胎」願望があるそうな。


それでいて、
妙に積極的で、
森繁さんが経営する会社に訪ねていったり、
夜の暗がりで、
「わたくし、あなたの子供がほしいんです」などと囁いてみたり、
意味わからん。


相手が森繁さんでなかったら、
もうすこしロマンティックな気分で観られたのかなぁ(笑)。
だって、森繁さんよ。
彼が大真面目な顔で、
ムード出して、
キスしたり、
ホテルに泊まったりって、
うーん、どうにも違和感。
(森繁さん、ごめんなさい(笑))


ただ、山本富士子さんと一緒にいる時の彼は、
まるで子供。


山本さんと喧嘩して、
怒った森繁さんは、
ノコギリを持ち出して、
家の柱を切ろうとする。
「この家は俺の親が残した家だ。どうしようと俺の勝手だ」って。
止められると分かっているから、
そんな事するんだろうけど、
「家が傷むから、冗談でもやめてー」と
私の方が止めたくなった場面(笑)。


山本さんと新珠さんのバトルは、
スクリーンにバチバチバチバチ火花が飛んでたわ(笑)。
この映画の山本さんはとっても意地悪。
夫を取られまいとする本能から、
新珠さんい敵対心を剥きだしにしながら、
上品ぶった態度は崩さない。
こわー(笑)。


黒柳徹子さんの著書によると、
森繁さんは、
芸能人が多数集まるパーティに行くと、
黒柳さんに向かって、
「あの人でしょ、あの人でしょ、あの人でしょ・・・」と、
会場に来ている女優さんの殆どを密かに指差したのだそうだ。
(ベッドを共にした事がある人、という意味)


森繁さんはきっとモテる人で、
実際に会ったら、すんごく色っぽい人なんだろうと思う。
本来なら顰蹙ものの話かもしれないけど、
なぜか許せてしまう。
キャラって大事だわ(笑)。


そんな事を知っていると、
森繁さんの出演作を観ていても、
「まさかこの女優さんも? この人は?」などと、
考えてしまう(笑)。


評価 ★★☆☆☆

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「東京の恋人」 [映画]

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〔1952年/日本〕


原節子は、似顔絵描きの女の子。
靴みがきの少年3人と、
同じ場所で、お客さんを待っている。


原が仕事をする場所には
宝石店があり、
ウィンドウには、50万円のダイヤの指輪が飾られている。
しかし、宝石店の主人は、
本物を飾っておくのは不用心だからと、
ウィンドウ用の偽物を、
職人の三船敏郎に作らせる。


宝石店の上の階にある、
パチンコ玉製造販売の会社社長・森繁久彌は、
愛人に、
ウィンドウのダイヤの指輪をねだられ、
偽物の方を本物と偽り、
買ってやる。


それを知った、森繁の妻・清川虹子は怒り狂い、
本物の指輪を森繁に買わせる。
そして愛人から取り上げた偽物の方を、
会社の事務員にやってしまう。


ところが、実は事務員の手に渡った方が本物であり、
しかも彼女は、
勝鬨橋の真ん中に
指輪を落としてしまう・・・。





笑った笑った。
劇場内も笑い声が絶えなかった。


何が可笑しいって、
森繁久彌さんと清川虹子さんのやり取りが、
まるでコントか漫才。


焼きもち焼きの清川さんは、
森繁さんの愛人が来ている会社に乗り込んで、
大暴れ。
パチンコ玉を投げつけて、
そこらにある物から、ガラス窓まで
全て壊してしまう。


森繁さんは慌てるし、
社員たちは呆然。
今では見飽きたようなコントだけど、
映画で観ると本当に可笑しい。


主役は原節子さんと三船敏郎さんなんだけど、
森繁・清川コンビが強烈すぎて、
食われてしまってる感じ(笑)。


最初から最後まで、
物語は指輪を巡るエピソードに終始しているけれど、
今の私が、
「指輪」と聞くだけで、
悲しい気持ちになるのは、
先日、ここのレビューで書いた通り。
http://aomikamica.blog.so-net.ne.jp/2015-11-28


この映画の指輪は、
勝鬨橋の真ん中に落ちて、
橋が上がった時、
隅田川にポトリと落ちてしまう。
あぁ、なんて悲しいんだろう。


映画では、
欲深い森繁さんと清川さんが、
ダイバーを雇って、
川底をさらう。
それがまた可笑しくて、劇場内は大受け。
私も、悲しいながらも、
思わず笑ってしまった。


私の指輪はまだ見つかっていない。


評価 ★★★★☆

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「夜の片鱗」 [映画]

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〔1964年/日本〕


街角に立ち、男に声を掛けては体を売る芳江(桑野みゆき)は、
ある日、彼女を買ったサラリーマン・藤井(園井啓介)と何度も会うようになる。
藤井は芳江を街娼としてでなく、
一人の女性として愛するようになり、
足を洗うようにと説得する。
そんな芳江の頭の中に、
ここまでに落ちてしまった4年間が蘇る・・・。


4年前、19歳の芳江(桑野みゆき)は、
工場で働く傍ら、夜、スナックでバイトを始め、
客として来ていた英次(平幹次朗)と親しくなり、
いつしか英次のアパートで暮らすようになる。


サラリーマンだとばかり思っていた英次が、
実は、そこら辺りの縄張りとするヤクザの組の構成員だと分かるが、
その頃には、もう英次と離れられない関係になっていた芳江。
英次は次第に正体を現し、
芳江に金の無心をするようになる。


芳江の金が底をついてくると、
英次は客を取れと言い出した。
激しく拒否する芳江だったが、
結局は彼の言いなりになり、
英次の連れてきた客と関係する。


そんな生活に嫌気が差し、
実家に帰った芳江だが、
逃げた女をヤクザの組が許すはずはなく、
連れ戻された彼女を待っていたのは
男たちからの容赦のない仕打ち・・・。





これはもう、壮絶。
壮絶すぎて言葉も出ない。
映画を観る時、
自分がどれだけその映画に入り込めたか、
我を忘れて見入る事ができたかを、
評価の判断基準の一つにしているのだけれど、
完全に入り込んでしまった106分。


当たり前の事だけれど、
裏社会とは、絶対に関わってはいけないと、
強く思う。
主人公の芳江は、
どこで間違ってしまったのか。


そう、引き返すとしたら、
英次がヤクザと知った時しかなかったと思うけれど、
彼女は、
その時は、ヤクザの本当の怖さを知らなかった。
甘く見ていたのだと思う。


実家に帰った彼女を、
英次の組のチンピラが迎えに来た時、
「もうひどい事言わないなら、帰ってあ・げ・る」みたいな
呑気な事を言って、
のこのこ戻っていった彼女を待っていた、
壮絶な出来事。
おそらくヤクザって本当にそうなんだろうなと思わされる、
リアルで恐ろしい場面。


その後はもう、
転落一直線。
それまでも、英次に言われて客を取った事もあったけれど、
何というか、心の持ちようが全然違う。
街娼としてベテランの顔になり、
何も考えず、何も感じず、
神経はすっかり麻痺してしまった。


英次と芳江の関係って何なんだ。
愛情なのか、腐れ縁なのか、
それとも共依存か。
観ている私まで、心がすっかり麻痺してしまって、
何も考えられない。


途中、英次は、
抗争に巻き込まれ、
男としての機能を失う。
すると、その事で芳江に見限られるのを恐れるように、
彼女に献身的に尽くすようになるんだな。
それがまた、哀れっぽいとでもいうのか、
芳江が彼を捨てきれない理由にもなる。
人間の感情って、
単純なような、複雑なような、
そうなると、どうする事もできないではないか。


そんな芳江と出会い、
本気でプロポーズしてきた、サラリーマンの藤井。
藤井は、建築技師で、
北海道のダム建設現場で一緒に暮らそうと言う。


芳江がこの生活から完全に抜け出したいと願うなら、
彼の存在は、おそらく最後のチャンスになるだろう。
芳江はどうするのか、
結末はここには書かないけれども。


評価 ★★★★★

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「青ベか物語」 [映画]

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〔1962年/日本〕


東京と川一つ隔てた向こうにある街・浦粕。
この集落に、
ある日、東京から小説家(森繁久彌)がやって来て、
住みつく。


「先生」と呼ばれる、その小説家は、
集落の老人から、
“青べか”と呼ばれる小舟を買わされる。


集落には実に様々な人間が暮らしている。
雑貨屋の息子(フランキー堺)は、
やっと来た嫁(中村メイコ)に指一本触れられないまま、
逃げられてしまう。


廃船をねぐらにしている船長は
遠い過去の恋愛話をいつまでも胸に温め、
「先生」に語って聞かせる。
足の悪い女房(乙羽信子)に献身的に尽くす夫は、
その理由を「先生」に打ち明ける。


そんなある日、小料理屋のおせい(左幸子)が、
先生に惚れてしまう。
しかし、「先生」にその気はなく、
おせいは腹いせに、他の男と心中未遂を・・・。





この映画の舞台、「浦粕」とは、
架空の町らしいけれど、
場所やその他の事から考えて、
現在の浦安市である事は、
なんとなく想像がつく。


原作者である山本周五郎が、
1928年頃、
ぶらりと出かけたこの街が、
とても気に入って、一年ほど住みつき、
その結果、この小説が生まれたのだそうだ。


浦安と言えば、
現在は、アメリカ資本の巨大テーマパークがある事は、
誰でも知っているけれど、
90年ほど前は、
この映画のように、
まるで世間から取り残されたような人々が、
賑やかに暮らしていたのかと思うと、
不思議な気持ち。


まるで治外法権のように、
この街独自のルールで暮らしているかに見える
住人たちだけれど、
決して嫌な感じはせず、
明るく、楽しそうだ。
そこは、同じ治外法権でも、
今年の夏に観た、
「気違い部落」とは全然違う。
http://aomikamica.blog.so-net.ne.jp/2015-07-19


治外法権といえば、
集落に配属された、
若いお巡りさんなど、
住人には全く歯が立たない。
例えば博打を取り締まろうとしても、
なんやかんやと誤魔化されてしまう。
あんな若者がこの町に来るのは、
100年早いのよ(笑)。


そんな住人達の日常を、
温かく、時に冷めた目で見つめる、
森繁さん演じる、「先生」。


彼は人間関係に疲れると、
売りつけられた「青べか」に乗って、
一日ぼんやりしている。


潮が引くと、
「青べか」は、干潟にはまり動けなくなる。
潮が満ちると、また浮かぶ。
潮の満ち引きに身を任せ、
一日を過ごすなど、
なんとも贅沢に思えるのは、
私だけか。


私が書くと、ありきたりで陳腐な表現になってしまうけれど、
それは、失われてしまった日本の光景のように思える。


評価 ★★★☆☆



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「如何なる星の下に」 [映画]

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〔1962年/日本〕


東京の下町でおでん屋を営む山本富士子。
彼女の父・加東大介は働こうとはせず、
山本の金で麻雀ばかり。
母・三益愛子は何も言えず、ただオロオロしている。


山本は、近所の雑誌社に勤める池部良に、
密かに片思いをしている。
池部の方も、
山本を憎からず思ってくれていると確信している。


そんな中、山本の元夫・森繁久彌が、
大阪から出てくる。
森繁は生活力のない男だったが、
今度こそきちんとやり直すから、
一時的に金を貸してほしいと言ってきたのだ。


ある日、山本は、
実は池部が山本の妹・大空真弓に惚れているという噂を聞き、
大変なショックを受ける。


あまりのショックに、山本は、
森繁と再会し、一線を越えてしまう。
ところが森繁は、山本と関係したですっかり口が軽くなり、
山本から借りた金を、
詐欺の穴埋めに使い果たしたと告白する・・・。





山本富士子さんの、
どうしようもない不幸な女の物語。


山本さんの薄幸ものといえば、
芸者だったり、
商家の娘だったりといった作品は
観た事があったけれど、
このような現代劇はちょっと思い出せない。


彼女を取り巻く人々、
特に男たちはどうしようもない奴ばかり。


父は傷痍軍人を言い訳に、
ギャンブルと酒ばかりだし、
山本さんが密かに恋する池部良は、
ロリコンみたいに、
若い大空真弓に夢中で、
ワンピースを買ってやったりする。


そして極め付けが森繁さん。
こやつはもうどうしようもない。
口が達者で、
彼が話す事はなんとなくもっともらしく聞こえるのよ。
さらにちょっと哀れっぽいものだから、
何だか言う事を聞かないと、
可哀相な気分になってくるんだな。


それを演じる森繁さんの上手いこと上手いこと。
本物の詐欺師にでもなったら、
相当儲けられたよ、この人は(笑)。


もし本当に山本さんが
森繁さんのような男と二度と関わり合いたくないと思ったら、
会っては駄目だと思う。


会えば、必ず上手い言葉で
言いくるめられてしまう。
無視よ、完全無視。
それ以外に、彼から逃れられる道はない。


ビックリなのは植木等さん。
彼は、山本さんのすぐ下の妹に手を出して、
飽きるとポイ捨て。
植木さんって、
こんな嫌な男の役も演じていたのね。


「スーダラ節」を口ずさむ場面は
笑ったけど。


評価 ★★★★☆

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