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「妻への家路」 [映画]

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〔2015年/中国〕


思想犯として強制労働送りになっていたルー・イエンシー(チェン・ダオミン)は、
妻・フォン・ワンイー(コン・リー)と娘・タンタン(チャン・ホエウェン)会いたさに脱走し、
彼女たちが住むアパートにやって来る。


しかし、イエンシーのせいで、才能はあるのにバレエの主役になれないタンタンは、
当局に密告、
イエンシーはワンイーに会えないまま、再び拘束され、連行される。


数年後、文化大革命が終結し、解放されたイエンシーは、
やっと家に戻るが、
ワンイーの様子がおかしい。
彼女はイエンシーの顔を見ても、
初めて会った人のような振る舞いを見せるのだ。


タンタンに会い、事情を聞いたイエンシーは驚く。
ワンイーは2年ほど前から、
原因不明の病気で、
イエンシーの記憶がすっかり無くなってしまったと言う。


なんとか妻の記憶を取り戻させたい。
イエンシーは、ワンイーのアパートの向かいに部屋を借り、
様々な方法を試す日々が始まるが・・・。





8年ほど前、年下の友人が大学生の授業で、
「コン・リーの映画を何でもいいから3本観て、感想を提出する」という
課題が出たとの事で、
何を観たらいいか、聞かれた事があった。


私もコン・リー姐さんの映画を全部観ているわけではないけれど、
とりあえず、一番の大作で、姐さんの代表作とも思われる、
「さらば、わが愛 覇王別姫」は当然選ぶとして、
たしか他に、
「菊豆〈チュイトウ〉」
「きれいなおかあさん」
「上海ルージュ」など、
上映時間がそう長くなく、
他の学生が選ばなさそうな作品を勧めたような記憶がある。


私が今まで観た、映画の中の姐さんは、
いつでもカッコいい。
特別美人とは思わないけれど、
どんな役をしても、
内に秘めた強さが滲み出てしまう、
そんな女。
「姐さん」と呼んでしまうのも、そんな理由。


この「妻への家路」で、
久し振りに姐さんを観たけれども、
やっぱり良かった。


心の底から愛する夫を待ちわびる妻。
でも、やっと帰ってきた夫を目の前にしても、
なぜか夫を夫と認識できない妻の役を、
素晴らしい演技力で魅せてくれる。


姐さんは、自分に夫がいる事自体を忘れたわけではなく、
夫を待つ強い気持ちは、ずっとそのまま。
だから、彼女は毎日駅に行く。
「今日こそ、今日こそ、彼は帰ってくる」と。


「姐さん、夫はもうとっくにあなたの目の前にいるのよ、
そこにいる人がそうなのよ」、と、
観ているこちらは言いたくなるけれど、
イエンシーはまるで、透明人間のように、
彼女の眼中には入ってこない。


そう、姐さんは、
イエンシーの事だけでなく、
もう正常な日常生活を営めないくらいに、
病んでしまっているのが分かる。
認知症に近い症状なのかと思わされる場面もある。


目の前にいる自分を認識はできないけれど、
彼女の行動から、
いかに自分が深く愛されているかを知るイエンシーの気持ちが切ない。
私だったら、
「一生、この人の傍に寄り添おう、病気を治してあげよう」と思うだろうし、
実際、彼は献身的に姐さんに尽くす。


辛いけれど、あたたかい映画だった。
結末については、色々なご意見がありそうだけれど、
私は、あれが一番自然で納得のいく帰結だと思う。
他の終わりは考えられない。


評価 ★★★★☆

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