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「にごりえ」 [映画]

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〔1953年/日本〕


<第1話・十三夜>
ぜひにと請われ、
奏任官・原田勇の許に嫁いだおせき(丹阿弥谷津子)だったが、
子供を産んだ頃から原田の態度が豹変。
おせきに暴言を吐くようになった。


辛抱しきれなくなったおせきが、
泣く泣く実家に帰ると、
母は憤慨してくれたが、
父に諌められる。


婚家に帰る為に乗った人力車の車夫を見て、
おせきは驚く。
男は彼女の幼馴染で、
互いに淡い恋心を抱いていた録之助だったのだ・・・。


<第2話・大つごもり>
金持ちの山村嘉兵衛の家で女中奉公している、
気立てのいい娘・みね(久我美子)は、
自分を育ててくれた叔父が病気になり、
お金を都合してくれないかと頼まれる。


山村の妻・あや(長岡輝子)にそれを頼むが、
業突く張りのあやは、とぼけた顔をして、
みねの窮状を相手にしない。


思い余ったみねは、
引き出しに入った金を盗んでしまう。
あやに呼ばれたみねは、
最早これまでと観念するが・・・。



<第3話・にごりえ>
小料理屋“菊之井”の遊女・おりき(淡島千景)は、
その界隈では知らぬ者のいない、
若くて美しい女。
今日も、金払いのいい客・結城(山村聡)を捕まえ、
彼との付き合いは今後も続きそうな予感。


おりきの色香に夢中になり、
身持ちを崩した源七(宮口精二)は、
未だに店の周囲をうろつくが、おりきは知らぬ顔。
実はおりきも源七を忘れられずにいるのだが、
もう会ってはいけないと、心に決めたのだ。


おりきを思い、仕事もできない源七を、
妻・お初(杉村春子) は激しく罵倒し、
ついには離縁騒ぎにまでなってしまう・・・。





樋口一葉の、3つの小説を、
1本の映画にした、オムニバス作品。
原作が素晴らしいのは当然として、
演出も上手いのだろう。
大変に面白い。


「十三夜」は、夫の暴言に耐えかねた女が、
実家に戻る話だが、
私も最初は、
「そんな男、別れてしまえ」と、
女の母と同意見だった。


しかし、父親の意見を聞くうちに、
「なるほど、そういう考え方もあるのか」と、
婚家に帰った方がいいと思い直した。
悩んでいる時って、
自分に都合のいい意見を言ってくれる人に
頼りがちだけれども、
全く別の角度からの意見を聞く事も、
とても大切だと思わされる内容。


「大つごもり」は、緊張する。
金を盗んだ女中奉公の娘・みねだけれど、
彼女が悪いとは思えず、
「神さま、どうか助けてあげて」と思ってしまう。


みねのピンチを救ってくれるとしたら、
あの人しかいないと思わせる人物がいて、
オチもその通りになるのだけれど、
その流れが素晴らしい。


その人物が、わざとそうしたのか、
偶然にそうなったのかは、
セリフでは1つも表されていないのだけれど、
おそらくわざとであろう事は、
途中のカメラのアングルから伝わってくる。
粋でいなせな、いい話だった。


「にごりえ」は、
遊女と、彼女に入れ揚げた挙句、
落ちぶれた男と、
そんな男の妻との関係を描いた内容であるけれども、


そもそも私、好きなのよね、
遊郭の話が。
だから、とても面白くて。
なんでこんなに心惹かれるのかは分からないのだけれど。


妻の気持ちも分かるなぁ。
夫が遊女を忘れられず、放心状態で、
仕事も手につかないなんて、
そりゃあ、情けなくて怒りたくもなるだろう。


淡島千景さんって、
今までそれほど美しいとは思わなかったけれど、
それは間違いだった。
なんて雰囲気のある、素敵な人なんだろう。


ウィキペディアによると、
手塚治虫さんの、「リボンの騎士」のサファイア姫は、
淡島さんがモデルだとか。
1人の女優の存在が、
天才漫画家に、後世に残る作品を描かせただなんて、
なんて凄い繋がりなんだろうと、
感慨にひたってしまう。


評価 ★★★★☆

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