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「肉体の門」 [映画]

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〔1964年/日本〕


第二次大戦直後、
社会は混乱し、
人々は食べてゆく為に必死だった時代。


出征した兄はボルネオで死に、
自身は米兵に凌辱された17歳のマヤ(野川由美子)は、
焼けただれたビルの地下を根城に売春をする
女たちのグループに入る。


マヤが彼女たちから最初に言い渡された掟、
それは、
「男から金を受け取らずに関係してはいけない」という事であった。


マヤが“仕事”にも慣れてきた頃、
彼女たちの根城に、
屈強な復員兵・伊吹(宍戸錠)が迷い込んでくる。
彼は米兵に乱暴したせいで、
追われているのだ。


伊吹と娼婦たちの同居生活が始まって間もなく、
仲間の1人・町子が、
客の男と懇意になり、
金を受け取らずに関係した事が発覚。
町子は全員から激しいリンチを受ける。


一方マヤは、
たくましい伊吹に、
ある感情が湧いてくるのを抑えるのに、
苦悩していたが、
ある夜、ついに伊吹を求め、
伊吹もそれに応える。
そして、2人で一緒に逃げる約束を交わし、
喜ぶマヤ。


しかし、その現場を他の娼婦に見られたマヤは・・・。





何度も映画化されている「肉体の門」は、
文字通り、女たちが体一つで、
たくましく生きてゆくさまを描いた物語。
これは鈴木清順監督版で、
この時代を知らなくても、
雰囲気が十分に伝わってくるお話でもある。


戦後の混乱期に体を売る女たちを、
ことさらセンセーショナルに描いているようではあるが、
戦争さえなかったら、
そんな事にはならなかったであろう、
彼女たちの悲しみも、ちゃんと伝わってくる。


出征する時、日の丸に書かれた寄せ書きや、
戦友の写真や遺品など、
そういった品々に、戦争の影が映る。


野川由美子が大変にいい。
その表情は、
一見ふてぶてしくて、いつも醒めていて、
薄笑いを浮かべているようだけれど、
本当は愛に飢えていて、
孤独なのが分かる。


「金を受け取らずに男と関係してはいけない」という掟は、
商売の為もあるけど、
つまりは、男を愛してはいけないという事なんだよね。
それは裏返せば、嫉妬という事なのだろう。
自分より先に、仲間の誰かが、
本気で愛せる男を見つけるなんて許さないという、
牽制の意味を込めた掟。


伊吹が、
盗んだ牛を丸々一頭解体する場面があるのだけれど、
牛を殺す所から、
血を抜き、内臓を取り出すまで、
本物を使っているようで、
うわっ、と思いながらも、
見入ってしまった。
戦地で地獄を見た男には、
そんな事はお手の物のようだ。
宍戸錠が、この役に見事にハマっている。


評価 ★★★★☆

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