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「いとはん物語」 [映画]

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〔1957年/日本〕


大阪・長堀にある老舗の扇屋に3人の娘がいた。
次女・お咲(矢島ひろ子)と三女・お菊(市川和子)は
大変に美しいのだが、
長女・お嘉津(京マチ子)は親が不憫に思うほどの不器量で、
本人もそれを自覚していた。


祭りの日、ここでは、
扇屋の3姉妹がお稲荷さんに参詣するのが習わしとなっており、
彼女たちは供物を持って出かけるが、
お嘉津のあまりの醜さに、
近所の若い衆は、替え歌で囃し立て、
お嘉津の後を追いかけ回す。


そこへ、扇屋の番頭・友七(鶴田浩二)がやって来た。
男気のある友七は、
若い衆に殴り込み、自分も殴られながらも、
なんとか彼らを蹴散らしてくれる。


実はお嘉津は、密かに友七に思いを寄せているのだ。
その恋心は誰にも内緒であったが、
母・おわさ(東山千栄子)は、
あるきっかけから、娘の気持ちを知る。


なんとかお嘉津に幸せになってほしい。
おわさは、友七とお嘉津の縁談を進めようとする。
天にも昇るような嬉しさで、
喜びを隠せないお嘉津。


しかし、実は友七は、
お嘉津の身の回りの世話をするお八重(小野道子)と
将来を誓い合っており・・・。





あの、妖艶で美しい京マチ子さんが、
あえて醜女メイクで挑んだという、この映画。


一体、京さんはどんな顔で出てくるのだろうと思っていたら、
想像以上にご本人とは別人で驚いた。
けれど、それは逆に言えば顔の造作なんて、
ほんのちょっとお化粧を工夫すれば、
変えられるという事だと思うんだけれど。


それにしても、昔はずいぶん酷い人たちがいたものだ。
子供じゃあるまいし、
公衆の面前で、女の容姿を囃し立てる輩がいるなんて。
モラルは、実は昔より今の方がずっと向上しているっていうのも、
こういった場面を見ると、よく分かる。


お嘉津は美しくはないけれど、
心清らかな、可愛い女だ。
友七と接する時の様子も、
恋する乙女といった風情で、一所懸命。
母が彼女の恋を叶えてやりたいと思うのも、
当然の事と言える。


ただ、やっぱり、お嘉津と友七の結婚は無理があると
思わざるを得ない。
だって、友七とお八重が深く愛し合っているのを、
こちら側は知っているのだもの。
友七は、見た目で女を判断するような男じゃないし、
お八重がいなかったら、
その縁談を承知していたかもしれないけれど、
もうこれは、運命としか言いようがない。


お八重はお嘉津と同じくらい、心の優しい女で、
お嘉津の為に自分は身を引くとまで言う。
なんだか途中から、お八重の方に感情移入しちゃって、
彼女の方が主役のような気持ちで観ていた。


「いとはん」とは、
大阪の方言で、
「いいとこのお嬢さん」という意味だと、
映画の最初に説明が出る。
たしかにお嘉津は本物のお嬢さまだと思う。
おっとりしていて、
人を憎んだり、陥れようとしたりなんて気持ちはまるでない。
辛い時でも、相手の立場を慮れるだけの余裕がある。
続編があったらいいのにな、と思った。


評価 ★★★★☆

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