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「本日休診」 [映画]

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〔1952年/日本〕


医師・柳永太郎が、この地に開業してから12年、
そしてその医院を甥に引き継いでから1年が経った。


1周年記念日の今日、
甥や看護婦たちを温泉旅行に送り出し、
一日ゆっくり休診を決め込んだ柳だったが、
なぜか引っ切り無しに人が訪れ、
そう簡単には休ませてはもらえない。


まず、戦争で頭のおかしくなった近所の男・三國連太郎が
いつもの妄想発作をおこし、
軍隊形式の号令を、大声でかけ始めたのだ。
これには慣れている先生は、
三國の気を鎮める為に、彼の妄想に付き合ってやる。


それが治まると、今度は警官が若い女・角梨枝子を連れてきた。
昨日大阪から出てきたという女は、
愚連隊に手荷物を奪われた挙句、乱暴されたという。


次に来たのは、
18年前、開業して一番最初に診た患者だという中年女性。
その時、帝王切開で生まれた息子・佐田啓二は、
現在は立派な青年となっており、
その時未払いだった診察料を払うと言う。


次は若いカップル、鶴田浩二と淡島千景。
ヤクザ者の鶴田は、
指を詰める為の麻酔を打ってくれと、先生に迫り、
淡島はそれを止めようと付いてきたのだ。


その後も先生を訪ねてくる人、
また、回診に来てほしいと言う人が引きも切らず・・・。





一人の町医者をめぐる、
人情喜劇。


戦争が終わって7年後の映画なので、
またまだ、戦争の影が色濃く残っている。
柳永太郎は、戦争で一人息子を失っており、
忙しそうにはしているが、
その事が常に頭の中にあるようだ。


なので、戦争で頭のおかしくなった三國連太郎にも、
とても優しい。
三國の母で、柳の家の家政婦が息子の事を嘆くと、
「生きているだけマシなんだ」と諭す。


当時の人々の生活や考え方もよく分かる。
まず、みんなお金がない。
医者にかかるのにも、まずは費用の心配があって、
そのせいで、入院してもゆっくり養生もできず気を使ったり、
夜逃げまでする患者がいる。


喜劇なのに、
不良に乱暴される女の子が出てくるというのも、
今の映画ではちょっと考えられない気がする。
そんな場面があったら、
今なら笑えないし、シャレにならない。


もちろん被害者の角梨枝子は、深く傷ついてはいるけれど、
周囲の人々はみんな角を慰めるし、
角も立ち直って、会社勤めを始める。
戦後の、食べる物にも事欠く生活を経験した人々にとっては、
どんな災難も、生きているだけマシという受け止め方なのかもと、
私なりに解釈した。


人々がノスタルジーを感じる昭和は、
実は今よりモラルもなく、
みんな自分勝手だったとも言われているけれど、
この映画は暖かい。
ラストも印象深い。


評価 ★★★☆☆

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