「雁」 [映画]
〔1966年/日本〕
新文芸坐で観た。
飴の行商をする、貧しい父と暮らす娘・お玉(若尾文子)は、
人の紹介で、末造(小沢栄太郎)の世話になる事を決める。
末造は、大きな呉服屋の主人で、
妻に死なれているので、
実質、本妻の立場と同じだと説得されたのだが、
実は、高利貸しを生業としており、妻(山岡久乃)も子もあった。
騙されたと知った時は、もう遅く、
父の生活まで面倒をみてくれる末造と別れ、
元の貧しい生活に戻る事はできない。
お玉は諦め、妾の生活を受け入れるが、
世間の、彼女を見る目は冷たかった。
お玉が囲われている家の前を、
毎日散歩する学生・岡田がいた。
ある日、お玉が飼っている鳥が蛇に狙われ、
助けを求めた所、
岡田は蛇を退治してくれ、
以来、彼女は岡田に惹かれてゆく。
末造が留守の晩、
お玉は岡田の為に食事を作り、
彼が散歩にくるのを待っていたが、
なぜかその日に限って、彼は現れない。
岡田は、難しい試験にパスして、
明日からドイツに留学する事に決まったのだ。
それを、岡田の友人から知らされたお玉は・・・。
文豪・森鴎外の同名小説の映画化。
貧乏ゆえ、高利貸しの妾になるしかなかった、
明治時代の女のやり切れなさが辛い。
最初は、娘のそんな境遇を不憫がっていた父親までが、
時が経つにつれ、
「もう、元の飴屋に戻るのは嫌だ」と言い出す。
父娘で面倒を見てもらっているのだから、
文句は言えないけれど、
なんとかならないのかと思う。
でも、何とかならないから、そうなってるんだよね。
若尾さんが美しく、
お玉の役がピッタリ合っていたのは当然として、
末造が妾を囲った事を知った、妻役の山岡久乃の演技が、
鬼気迫るようで怖かった。
末造の言い訳もすごい。
怒り狂う妻に対して、
「妾を作ったといっても、
お前の生活は、今までと何ら変わりはないじゃないか。
いや、俺はかえって、お前に優しくなっているはずだ」と言う。
そりゃあ、そうなんだろうけど、
人の気持ちはそんな簡単に割り切れるものではないだろう。
ただ、小沢栄太郎の演技は、
小憎らしいというほどではなく、
なぜか、それほど怒りは湧いてこない。
「妻は告白する」なんかの、
観ているこちらが殺意を抱くくらい嫌な男の役に慣れてしまうと、
こちらの方がマシと思ってしまうのか(笑)。
私は原作は未読なので、
以下に書く事は、
物凄くトンチンカンで、
解釈が間違っているのかもしれないけど、
これって、すんごく自惚れた物語だと感じる。
だって、
ドイツ留学云々の内容からいって、
どうしても岡田を森鴎外自身だと思って観てしまう。
美しい高利貸しの愛人が自分に惚れて、
でも自分は将来を嘱望されてる身だから、
ドイツに行かねばならんのよ、ごめんね、みたいな(笑)。
名作をこんな風に解釈したら罰が当たるね(笑)。
原作はきっと美しい物語なのだろう。
今度読んでみます。
評価 ★★★☆☆