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「婦系図」 [映画]

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〔1934年/日本〕


早瀬主税(岡譲二)と、元芸者のお蔦(田中絹代)は、
深く愛し合う、仲の良い夫婦だったが、
チンピラだった早瀬を育ててくれた、
帝大教授・酒井俊蔵(志賀靖郎)に報告する事ができず、
2人が夫婦だと知る人は少なかった。


けれど、お蔦は、
心から愛する早瀬と毎日一緒にいられるだけで幸せであり、
日陰の身を憂う事なく、明るく振る舞っていた。


ある日、酒井教授の一人娘・妙子を嫁にほしいと、
静岡の資産家・河野が早瀬に相談にやって来た。
しかし、相手の家柄ばかり気にし、
自分の自慢話しかしない河野の、そのいけ好かない様子に
呆れ果てた早瀬は、妙子の幸せを思い、
その縁談をきっぱりと断る。


ところが、それをきっかけに、
酒井教授に、お蔦との事が知られてしまい、
教授は激怒、
早瀬は、教授を取るか、お蔦を取るかの厳しい選択を迫られてしまう。


苦しみ抜いた早瀬だが、
教授の大恩を忘れるわけにはいかない。
彼は苦渋の決断をし、
お蔦と湯島天神の境内を散歩しながら、
別れを切り出す・・・。





なんというメロドラマ。
そしてよく出来たお話し。
何度も映画化されたのも分かる。


以前に、市川雷蔵版の「婦系図」の感想を書いたけれど、
こちらは、それより28年も前の作品。
雷蔵版は100分だったが、
こちらは135分と長い。
でも、長い分、早瀬とお蔦の気持ちの描き方が細やかで、
飽きる事はない。


ただ、雷蔵版が、
早瀬の子供時代から始まるのに対して、
こちらはいきなり早瀬とお蔦の新婚生活から始まるので、
こちらを先に観ていたら、
理解するのに時間がかかったような気がする。
雷蔵の方を先に観ておいて良かった。


登場してくる女たちが、
誰も彼も、全て素晴らしい。
心清らかで、優しく、
自分を犠牲にしても、
相手を思う事を止めない。
私もそうありたいと思う人物ばかり。


それに引き替え、男が駄目で(笑)。
早瀬は酒井教授に頭が上がらず、
その酒井は、相手を恫喝してでも、
自分の言う事を聞かせるという、
嫌な奴だし、
妙子にプロポーズする河野に至っては、
自分の母親を、
「ママ~♪ ママ~♪」と連呼するような、最低野郎だ(笑)。


しかし、嫌な奴にも必ずオチがつく。
最後は必ず反省と後悔の言葉を口にするから、
観ていてスッキリする。
ただ、後悔しても、取り返しのつかない事もあるんだけど。


ラストの描き方が、
丁寧すぎるくらい丁寧で、
時間の経過が大変に気になる作り。
ハラハラして、
何度もリモコンを手に取りかけて、
早送りしたくなる気持ちを抑えていたよ、
「あーー、どうなるのーーー」、と(笑)。


これは、原作者・泉鏡花の体験に近い物語なのだそうだ。
酒井教授に当たるのが、
泉鏡花の大恩人・尾崎紅葉。
泉鏡花は、生涯、尾崎紅葉を師として、
慕っていたそうだ。
この「婦系図」も、
紅葉の「金色夜叉」も、
どちらもよく練られた内容だと思ったけれど、
作者同士が、そんな風に結びついていたのね。


評価 ★★★★☆

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