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「苦役列車」 [映画]

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〔2012年/日本〕


19歳の北町貫多(森山未來)は、
中学卒業後、高校へは進学せず、
日雇い労働者として、
港の物流倉庫で働いている。
風俗通いと読書だけが楽しみな若者だ。


彼の父は、彼が小学校5年生の時に性犯罪を犯し、
そのせいで、一家離散。
以来、家族も友人もなく、
頼れるのは自分の肉体だけだった。


ある日、貫多は、仕事場に向かうマイクロバスの中で、
自分と同じくらいの年恰好の男に話し掛けられる。
男は日下部正二(高良健吾)という専門学校生。
見た目も爽やかな好青年だ。


学年が同じだと分かった二人は、
急速に親しくなってゆく。
貫多は、古本屋のアルバイト・桜井康子(前田敦子)に
片思いしている事を正二に打ち明ける。
正二は、2人の間を取り持ち、
貫太は康子と友達になる約束を取り付ける。


しかし、普通に青春を謳歌する正二と、
卑屈で僻みっぽい貫多の間には、
次第にズレが生じ、
正二の恋人に会った際、
とんでもない暴言を吐いた貫多に、
正二は呆れ果て、
2人の仲は決定的に決裂してしまう・・・。





ずっとハマっている、
西村賢太氏の同名小説の映画化。
所用があり、公開初日の朝一に観に行ったら、
お客さんは数人だった(笑)。
そりゃあそうだよね、
この内容の映画を朝の9時から観ようって人は、
あまりいないだろう(笑)。


映画は、原作に沿ったストーリーになってはいるけれど、
元々、それほど長くない中編小説なので、
付け加えられたエピソードも多い。
そんな事をしないで、
30分短くしたら、とも思うが、
それだと、話が平坦すぎてしまうのだろうか。


一番の不安要素だったのが、前田敦子。
原作に全く無い役柄な上に、
もしも演技がアイドルアイドルしていたら嫌だなぁと、
ずっと思ってきた。


けれど、思っていたより悪くはなかった。
特に甘え口調ではなかったし、
古本屋のバイトという、地味な役柄が、
彼女の雰囲気に合っていたように思う。
それに、彼女がアパートの隣の寝たきりのお爺さんにする、
ある行為は、ちょっと驚き。
どんな思い付きで、あのような場面ができたのか。
アイドルがする行為ではないし、
アイドルでなくても、あまり観た事のない場面だと思う(笑)。


そして、一番肝心な森山未來。
とても良かったと思う。
卑屈で、同世代の若者から取り残されたような、
強烈なコンプレックスを持つ男・貫多の役が、
上手くハマっていた。
普通だったら、おそらく口にしないであろう、
数々のセリフ(卑屈であるが故に、つい出てしまう言葉)を、
彼は今、どんな気持ちで言っているんだろうと、
そんな思いで観ていた。


高良健吾も好演していた。
原作もそうだけれど、
正二のキャラは、どこまでも真っ当で常識的、
そして、育ちの良さを感じる。
おそらく、正二は、貫多のような人間に会ったは初めてだろうし、
内心では、色々思う所あるだろうが、
それを表には出さない。
見下される事には非常に敏感な貫多も、
正二には心を開く。


だからこそ、貫多は正二をもっと大事にすればいいのに、
何ですぐ暴言を吐いてしまうかなぁと思うけれど、
中学卒業以来、
人間関係を学ぶ機会のなかった貫多にしてみたら、
それも仕方のない事なのかもしれないと、
たった一人で生きる貫多の孤独感が胸を打つ。


西村氏は、この映画をどう思っているのだろう。
私小説なだけに、
「ちょっと違う」と思っていやしないかと、
関係者でもないのに、私が心配してしまう(笑)。


評価 ★★★☆☆

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