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「赤い殺意」 [映画]

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〔1964年/日本〕


春川ますみは東北の街で暮らす女。
いつも彼女を、「馬鹿だ、愚鈍だ」と蔑む夫、西村晃と、
5歳の息子マサルと三人家族だが、
西村の実家は、春川を見下し、
彼女を籍に入れる事さえせず、
マサルは戸籍上、舅と姑の間に生まれた子になっていた。


春川の祖母は、祖父の妾で、
母は父親の分からない春川を生んだという経緯もあり、
彼女は子供の頃から、自分に責任のない事で、
周囲から責められ続ける事には慣れているのだ。


ある日、彼女が家に一人でいた所に、
強盗犯、露口茂が押し入ってくる。
揉み合っているうちに、露口に手篭めにされてしまう春川。
死のうと思ったが、死に切れずにいた所、
数日経った後、また露口がやってくる。
露口は、春川に何らかの情が湧き、
彼女を忘れられなくなったのだ。


しかし、西村との生活を壊される事を恐れる春川は、
度々彼女の前に現れる露口に困り果てる。
さらに、デパートで買い物中に現れた露口と話している所を、
西村の長年の愛人、楠侑子に見られ、
西村に告げ口されてしまう。


半信半疑の西村は楠に、確たる証拠がなければ信じないとは言ったものの、
やはり不安で、春川を殴り、問い詰める。
春川は頑として口を割らなかったが、
これはもう、露口を殺すしかないと判断、
露口と駆け落ちするフリをしながら、
殺す機会を窺っていた。


春川は露口を殺せるのか、
そして彼女の運命は・・・。





とても力強い映画。
150分という長い作品だが、あっと言う間に見せてしまう。
題名に「殺意」とあるが、
サスペンスの要素はなく、
一人の女の成長物語と言っていい。
監督は今村昌平。


文春文庫ビジュアル版の、
「大アンケートによる日本映画150」で、
49位となっているこの映画の存在を知った日から、
どうしても観たいと思い続けてきた。
昨日やっと願いが叶って、本当に嬉しかった。


この映画の成功は、主人公を春川ますみにした事が大きい。
太り気味の、どこにでもいる田舎の、
夫の言いなりにしかなれない女という役も、
彼女が演じると、本当に説得力がある。


彼女は、自分の意思のない、
駄目な女のように見えるが、
本当はとても強く、しなやかで、したたかで、
そして、なんだか変な色気もある。
可愛い女だといっていい。


春川は、露口に、ストーカーのように付き纏われても、
彼を心底憎んでいるわけではない事が、
画面から伝わってくる。
彼女だって揺れている。
東京から来た流れ者の露口と、性格悪い夫との間で。


そう、その夫役の西村晃も
観ているこちらの気分が悪くなるような男を、
とても上手く演じていた。


なにせ、この男、
小心で、春川にしか威張る事ができず、
しかも、春川のつける家計簿を毎日チェックするような、
吝嗇で、みみっちさ全開。


そんなに、春川を見下し、馬鹿にしているなら
触るのも嫌だろうにと、女の感覚なら思ってしまうが、
そこは男と女の違いなのか、別物らしく、しつこい。
あー、やだやだ。


ラストは、落ち着く所に落ち着いたと言っていい。
やっぱり女は強いのよ(笑)。


評価 ★★★★★