「色ごと師春団治」 [映画]
〔1965年/日本〕
桂春団治(藤山寛美)は、法善寺横町わきの寄席、花月で、前座を勤める落語家。
今日も彼は、先輩落語家のネタを先にやってしまい、
寄席は大騒ぎ。
借金も多く、女出入りも激しい春団治。
そんな破天荒な彼だが、
可愛い所があり、友人の人力車夫、力松(長門裕之)や、
料理屋のおたま(南田洋子)は彼を放っておけない。
また、寄席の客もそんな彼を愛し、少しずつ人気も上がってきていた。
春団治とおたまは一緒に暮らし始めるが、
春団治の女遊びは相変わらずで、
特に、ひいき筋の呉服屋の後家、お千代(丘さとみ)との関係は深く、
おたまを悩ませる。
そんなある日の深夜、
春団治とおたまが休んでいると、
扉を叩く者がいる。
おたまが応対に出てみると、
おとき(富司純子)と名乗る若い女が玄関先に立っている。
おたまが春団治の妻だと名乗ると、おときは驚き、号泣する。
家に上げて事情を聞くと、彼女は5ヶ月前ほどから春団治と懇意になり、
しかも妊娠していると言うのだ。
おたまは、身重のおときをそのままに出来ず、
自分が身を引き、家を出てゆく。
今度はおときと所帯を持った春団治だが、
娘、春子が生まれても、お千代との関係は相変わらずで、
お千代と別れてほしいと言うおときの願いは聞き入れられず、
愛想を尽かしたおときは、春子を連れて家を出てゆく。
今度こそ、お千代と所帯を持った春団治だが、
レコード会社から契約違反で訴えられ、
多額の違約金が発生、
その金を工面したのは、おたまであった。
そんな時、力松が危篤との連絡が入る。
駆けつけた春団治に、
力松は、おときと春子は京都で立派にやっている事を告げ、
さらに自分は、おたまが好きだったと打ち明けるのであった。
娘に会いに京都に行った春団治だが、
おときに冷たくあしらわれ、
一人淋しく大阪に戻る。
数年後、そんな彼にも病の影が忍び寄ってきていた・・・。
お笑い芸人と女性タレントの離婚のニュースを聞く度に、
都はるみと岡千秋のデュエット曲、
「浪花恋しぐれ」を口ずさんでしまう。
♪芸の為なら女房も泣かす それがどうした文句があるか♪
という、あれである。
あの歌の主人公“桂春団治”って、
一体どんな人だったんだろうと、
ずっと興味を持っており、
春団治の生き様を描いたこの映画を、
いつか見たいと思ってきた。
本作は、藤山寛美が主役なので、
コメディ映画のような印象だが、
実際は結構シリアスで、特に笑えるような場面はない。
春団治がいくら放蕩の限りを尽くしても、
そこには一抹の空しさが漂うような気がするし、
脇を固めるのが、
長門裕之、南田洋子、富司純子、丘さとみらというのが、
コメディ映画にならなかった大きな理由であろう。
南田洋子が実にいいんだな。
結局、春団治を一番愛していたのは彼女だと思わせる
説得力のある演技で、
観ていて、とてもいい女だと思った。
先日亡くなった長門さんと南田さんが、
こんな所で共演した事にも驚く。
古い映画は、このような発見があって楽しい。
調べてみると、二人が結婚したのは1961年。
この時、既に夫婦だったという事か。
長門さんが南田さんの痴呆を世間に知らしめた事については、
賛否あるようだが、
こんなにずっと前から一緒だった二人には、
当たり前の事だけれど、
他人には分からない、深い夫婦の歴史があるのだろう。
評価 ★★★☆☆