◆わたしを離さないで◆ [本]
繊細で哀しい内容。
映画も美しかったが、
この原作を読んで、さらに主人公の心の葛藤を知った。
描き方によっては、
大変にセンセーショナルになりそうなストーリーだが、
そうならないのは、
物語が、あくまでも主人公であるキャシーの
一人称で語られているからではないかと思った。
この本の中の世の中は、
“キャシーたちの側”の人間と、
“それ以外”の人間で構成されている。
キャシーたちは、生まれた時から、
ある運命が定められており、
それに逆らう事はできない。
キャシーたちは集団で暮らしており、
“それ以外”の人間たちと交流する事は殆どない。
だから、“それ以外”の人たちが、
キャシーたちの存在をどう思っているのか、
本からは全く伝わってこない。
(教師など、一部の人間を除いて)
これは仮定であり、想像でしかないけれど、
この本で、“それ以外の”人々の描写があったら、
もっと俗っぽい、
綺麗事では済まされない内容になっていたのではないかと、
そんな気がする。
もしできるなら、
同じ世界を、今度は“それ以外”の人々の側から、
描いた内容のものを読んでみたい。
“それ以外”の人々とは、
つまりは私たちの事であり、
この本のような事がまかり通る世の中になったとしたら、
その時、私たちはどう感じるのか、
それを知りたい。
「ジュリエットからの手紙」 [映画]
〔2010年/アメリカ〕
ニューヨークの雑誌記者、アマンダ・セイフライドは、
婚約者、ガエル・ガルシア・ベルナルと、
プレ新婚旅行にイタリアに出掛ける。
しかし、レストラン開店直前のベルナルは、食材の買い付けに夢中で、
心ここにあらずといった様子だ。
仕方なく一人で観光に出かけたセイフライドは、
ヴェローナの街で、「ロミオとジュリエット」のジュリエットの生家に行く。
そこでは、恋に悩む多数の女性たちが、
ジュリエットに向けて手紙を書き、石垣に貼り付けていた。
そして、貼り付けられた手紙は、
“ジュリエットの秘書”と名乗る四人の女性が回収し、
全てに返事を書いているという事だった。
興味を持ったセイフライドが取材を兼ねて、手紙の回収を手伝った所、
石垣の奥から、気付かれずに残っていた50年前の手紙を発見する。
そこには、15歳のイギリス人少女が、
恋に落ちたイタリア人男性を残してイギリスに帰る苦しい気持ちが綴られており、
セイフライドは、50年前の少女に向けて返事を書いた。
すると数日後、返事を読んだヴァネッサ・レッドグレーヴが、
孫の青年、クリストファー・イーガンを伴ってヴェローナにやって来る。
ヴァネッサは、15歳の時に別れたきりの恋人を探しに来たと言う。
セイフライドは、ぜひ取材をさせてほしいと、
二人の旅に同行する事になった。
しかし、昔の恋人探しは、簡単ではなかった。
探す範囲の場所には同姓同名が74人もおり、
一人一人当たってゆくのだが、全て別人。
レッドグレーヴの50年前の恋のお相手は見つかるのか。
そして、旅を続けている間に、互いが気になり出した、
アマンダとイーガンの恋の行方は・・・。
いい話だった。
イタリアの地方を、昔の恋人を探して巡る旅。
「どうなるのだろう」という、期待と不安で胸が一杯で、
観ているこちらまでワクワクする。
ヴァネッサ・レッドグレーヴが大変に美しく、
品格のあるおばあさんになっている事に驚いた。
若い頃よりずっとずっと綺麗。
あんな風に素敵になれるのなら、
年を取るのも悪くない。
ジュリエットの生家と言われる場所が
イタリアにある事も知らなかったし、
ジュリエットに恋の悩みを相談する女性からの手紙が、
年間5,000通も来る事も知らなかった。
しっかし、その家の前で、必死に手紙を書く女たちの姿、
同じ場所に、同じ目的を持った女が多数集う、その様子に、
なんだか目眩がしたよ(笑)。
女が、たった一人の男に振り回される恋とは、一体なんぞやと。
“ジュリエットの秘書”たちが、全ての手紙に返事を書いているというのは、
本当なのだろうか。
日本語の手紙にも返事をくれるのかしら。
満足感でいっぱいの映画だが、
たった一つ、悲しい設定。
ガエル・ガルシア・ベルナルの扱いがショックでショックで。
これじゃ彼は、ピエロじゃないか・・・。
ガエルは私が長い間、ハリウッドで一番好きな俳優で、
この映画を観たのだって、
彼が出ているからなのに・・・。
主役じゃなくてもいいけど、
この役は淋しすぎる・・・。
評価 ★★★★☆